|
№8・ブロック塀事故の本質について ・原因と安全性
参考写真1
最初に
大阪府北部地震でブロック塀の倒壊による学童の痛ましい事故が発生して社会問題となり、学校のブロック塀の点検指示がなされております。
この様な事故の発性の背景にあるものについて、常日頃からこのような工作物の設計や点検に携わる技術屋として、その本質的な発生原因について考察してみます。
この問題では、事故原因の本質が技術的な要因によるものだけではなく、むしろ<経済的要因>や施主側のブロック塀工作物に対する<工事発注>における、基本的な理解不足等に起因しているのではないかと考えます
。
通常、ブロック塀の設計基準については<建築基準法>や<建築学会の基準>において、細かく構造規定がなされております。
しかし「塀」そのものだけの工事の場合は、建物や擁壁とは異なり現実的には確認申請が不要の為、建築基準法・施工令・学会基準等でいくら規定されていても施工の現場では無視されており、これらの規定は有名無実化
され絵に描いた餅となっております。
法律でいくら定めても、その実質的にチェックをする機関やシステムが機能しておりませんので当然です。
ブロック塀の事故は40年以上前から取り沙汰されている問題です。
何らかの行政上の処置を新たに構築しなければ、今後も起きるはずです。
今回の事故現場が公共建物の小学校であり、且つ定期点検が行われている工作物であるにも係わらずこのような杜撰な工事内容であってみれば、普通の民間の工事においてはその施行内容は推して知るべしです。
ブロック塀崩壊原因の90%以上は、次の2点に帰着します。
その1 既存コンクリートの増積み(二段積み等による応力集中によるもの)と、内部鉄筋の定着不足(飲み込み不足)。
参考写真2
このような物理的な現象を、イメージしやすい釣竿の事例で説明します。
現実的な釣竿事例として、例えばここに9mの釣竿(アユ釣竿)があります。
最近の日本製釣竿は細くて長くその曲げ強度は格段に大きく、大きな負荷(魚)がかかり竿が円弧状にまで曲がったとしても、折れるようなことはまずありません。
(ちなみに ダイワ製 銀影競技 スペシャル A 9mは 385,000円もします。)
そしてある時にこの竿で釣りに行った時、強度には影響しない程度の小さな小さな傷が付いてしまったとします。その傷を補修する為にその部分にお金をかけて、目立たないように同一材料でカバーリング加工をしたとします。
その部分は部材断面が少し大きくなり強度も増加し、補強されて外力に対して強くなったように当然思われますが、しかし現実には、仮に補修前と同じ外力がこの竿に付加された場合、この補強された箇所で100%破壊します。
その理由は応力集中が原因ですが、このことはそのまま今回のブロック塀の倒壊事故と力学的には同一原因となる為、、少し詳しく説明します。
その原因は応力集中と鉄筋の定着不足
応力集中は断面の形状等が変化する箇所に生じます。断面の形状が変わらず断面積が一様な材料に、応力集中は発生しません。
切欠きや貫通孔などがあると、その箇所で断面の形状が変化するので応力集中が発生します。
材料の弾性率やヤング係数が異なる物質が介在する場合も同じです。
要するに「物性値」が釣竿のようにナダラカではなく、大きく変化する箇所には応力が集中する為、その部位が破壊することになります。
(破壊工学の分野ではこのような事象を数学的に解析し、数値化されております。)
従って1段目のブロック壁に、壁の高さを高くする為に簡単に差筋施工で増積された塀などは、この部分で破壊するのが普通です。
又、通常、かなり不適切な施工であっても鉄筋は挿入されているのが普通ですが、倒壊の現場写真等を照査すると、鉄筋自体は破断せずに、ブロック内の充填モルタルや基礎コンクリートから抜け出ているのがわかります。
構造的には、塀が倒壊に至る前にブロックが圧縮破壊をするか、鉄筋が破断するのが正しい破壊の順位です。
現実には内部鉄筋がその性能を有効に発揮する前に、定着不足から抜け出ている現象は不適切な施工によるものであり、設計の瑕疵であり手抜き工事ともいえるものです。
ほとんどの全的な倒壊事故の原因については、縦筋の定着不足が原因とみてよいと思われます。
ページの先頭へ
その2 基礎の底板の長さの不足
通常のブロック塀のみ建築の場合は、確認申請が不要の為に野放し状態であり、施工図面も作成せずに施工する場合が多い為、規定のコンクリートの基礎施工をせずに施工されるのが通常です。
従ってフーチン部の底板が未施工の基礎が多く、地震や土圧による水平力が作用すると、道路側に傾いたり倒壊する可能性のある欠陥ブロック塀となります。
従って、下記に列記した不都合施工は2次的な要因であり、全体的な崩壊事故の直接的な原因とはなりにくいとかえ考えます。
下記7項目は当然に遵守されるべき事項ですが、現実にはなかなか守ってもらってはおりません。
①ブロック自体の劣化や強度不足
②内部鉄筋の強度不足(腐食と断面不足等)
③控え壁の未施工
法令では最後の参考写真3にあるような、3.4m事に<控え壁>を施工するように規定されておりますが、現実には<開 発行為>に伴う工事や、特殊建築物の工事完成後に行政の竣工検査が行われない工事の場合、こ
の控え壁の施行はまずなされないのが残念ながら一般的です。
しかしこの控え壁は、構造的にはブロック壁の地震時の水平力に抵抗する為、倒壊には大きく貢献するものです。
④使用充填モルタルの強度不足
⑤内部鉄筋の<かぶり不足>
擁壁全体の耐久性には影響するはずですが、崩壊それ自体にはそれほど直接的には影響しないと考えられます。
⑥不適切な鉄筋の施行工法によるもの
縦筋の未施工は致命的な欠陥となりますが、細かい鉄筋の配筋要領違反は変状原因になっても前記同様崩壊原因にはなりずらいと考えます。
⑦基礎コンクリートの強度不足
ブロック塀自体は、高さも2m程度でその厚さも15㎝程度であり、建物や擁壁とは異なり強いコンクリート強度は必要としませんので、耐久性は落ちますが直接的には影響は少ない。
今回の事故の考え方
地方都市の公立の学校においては、例外なく施設費の予算不足は常習化している現実があります。
計画時において塀に対する要求性能について、今少し考えてみる必要があってもよかったのではないか。
◎塀の内部はプールでありプライバシー保護の観点で積んだと推察されます。そうであれば、より軽量な板材やアルミ材等で検討すべき典型的な事例と考えます。ブロック塀よりも安価で且つ安全です。
◎コストの比較
コンクリートブロック塀と鉄筋コンクリート塀とを、物価版から施工費を比較してみましたが、下記の通りです。
仕様 化粧クリートブロック塀
高さ1.65m
施工費 20,971円/m
仕様 鉄筋コンクリート塀(モルタル仕上げ・吹付カラー)
高さ1.5m
施工費 26,238円/m
この施工費を比較してみても、鉄筋コンクリートで施工したとしても大きな差はありません。
費用と安全性からいえば、明らかに鉄筋コンクリート塀に軍配があがります。
今回のブロック塀が、学校という公共工事として税金により計画発注されたものであり、前記項目で縷々述べたように工学的には常識の範疇を超えた工事がなされ、且つ定期検査がなされていました。
にも係わらずこのような事 故になったのは、基本計画がずさんであり、その施行自体が法令に明らかに違反(ブロック塀の高さは2.2m以下で施工する)しており、又定期検査自体も検査能力のある技術者により適正になされていないという、起こるべきにして起こ
った事故であったと結論できます。
定期検査時において、点検者がハンマーでブロック塀をたたいて点検をしたとのマスコミ報道がありましたが、もし本当だとしたら、この事実だけでも全く点検の体をなしていないことになります。
お話になりません。
何の目的でこのようなことをしたのでしようか、理解不可能です。当然に行政側の責任は免れない事例であると考えます。
少なくても、構造的にはシンプルなブロック塀工事であっても、発注時には図面1枚でもいいから、フリーハンドの手書きの図面でも<断面図>と<立面図>を作成させ施工すれば、今回のような事故は防げたはずです。
公的な付属建築物である危険なブロック塀であってもこの程度の施行や管理体制であってみれば、民間の現状は<推して知るべし>の状況です。
いくら、基準法や施工令・学会基準等で厳しく立派な法令を公布、周知しても、罰則がないものには実行性は期待できません。
ブロック塀の人的事故が取り沙汰されてからすでに40年になります。
そろそろ実効性のある対策を行政は講じる必要があります。
参考写真3
上の写真は、当方が定期的に通っている近所の比較的小さな病院のブロック塀でその高さは1.5m程度ですが、法令どおり3.4m間隔(高さの1/5以上の長さ)に控え壁が施工されております。
病院等の<特殊建築物>は、基準法上厳しく規定され当然竣工検査がある為、法律どうり建築されるのですが、住宅等の建物の場合、建物完成後に塀を作る場合や再施工の場合は、法的には野放し状態になるのが現実
です。
以上です。
|