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このページの項目
1 擁壁のコンクリート診断の目的
2 具体的な診断内容、調査方法とコンクリートの劣化について
2-②調査によって解明できるコンクリートの劣化種類とその原因と写真
3 劣化対策、補修、補強方法の実施方法の提案
4 診断の限界ついて
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ダイヤ設計の既存擁壁・建築物のコンクリート診断 調査写真
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1 擁壁のコンクリート診断の目的
通例として、コンクリート製擁壁の躯体部分であるコンクリートについて診断をする必要性としては、下記の事例が考えられます。
① 新規の建築計画に当たり、その確認申請時において 特定行政庁側から確認申請交付の前 提条件として、その敷地に存在する擁壁の安全性の担保として「擁壁調査報告書」を要求される場合。
② 中古不動産の購入の意思決定にあたり、その既設の擁壁を含む土地と建物の一体としてのライフサイクルコスト(LCC)の算出計算の根拠資料とする為のもの。
③ 現時点において、既存の擁壁が現実に変調を起こし、その安全性が問題となっている場合。
そして、その変調が比較的大であり第三者に対する影響が安全性等の問題から無視できない状況にある場合。
よくある事例として、自分の土地の擁壁の下側の住民からその擁壁の危険性を指摘され、改修や建て直しの請求をされている場合。
その既存擁壁の安全性等を第三者機関により客観的に判断をしてもらう必要性がある場合。
④ 現在の既存擁壁自体に問題はないが、現状の擁壁の用途変更をなす場合に、荷重条件の変更による積載荷重の変更が、構造上において可能であるかどうかの耐荷力の調査。
⑤ 既存の擁壁の耐用年数が到来してきたため、その現状残存性能を確認し 解体か再築かの時期の判断資料とする為。
等々が考えられます
従って、その診断目的や必要情報量が異なるために、診断自体にかけられるコストが自ずから異なることになります。
例えば事例②の場合と事例③の場合では、調査コストに大きな差があると思われます。
2 具体的な診断内容、調査方法とコンクリートの劣化について
2-① 調査概要
前記1の『擁壁のコンクリート診断の目的』に述べた診断の目的と診断の費用対効果をもとに、具体的な診断方法を決定することになります。
診断の手順としては、大きく分けて下記のように三つの段階を踏むことになります。
書類調査→予備調査(一次調査)→本調査(二次調査) と調査概要も多様になります。
次に具体的にその項目を説明します。
1-1 書類調査
○工作物の確認申請書
○建築年月日、施工主体
○仕様書
○構造計算書類
○コンクリートの配合表
○支持地盤状況(地盤調査データー)
○打設コンクリートの設計強度、水セメント比
○鉄筋の仕様書
等の上記書類が現存していれば、そのコンクリートの診断について有力な情報が得られます。
又、当然に調査費用の低減にも繋がることになります。
1-2 予備調査(一次調査)
書類調査の情報をもとに、主に目視による外見上の変状の状況の把握やトランシット等の計測器による変状量の把握することにより、本調査で採用する調査、各種試験方法の資料とします。
物件によっては、書類、図面や関係文書が亡失してしまい存在しない場合があります。
また、そのような関係文書が存在したとしても、擁壁が存在する土地を第三者に売却する場合などに、前の土地所有者がこれ等の関係文書を転得者に交付することは、その擁壁の設計と施工業者がよほど高グレードでないと交付しない現実があります。
このような場合は、当然に関係文書がある場合より調査項目も多くならざるをえません。
1-3 本調査(二次調査)
予備調査から収集した情報をもとに、個別的に費用対効果を勘案し、必要とする具体的な調査を実施することになります。
本調査の具体的な項目を次項に列記して、その調査の概要の説明をします。
2-② 調査によって解明できるコンクリートの劣化種類とその原因と写真
既存コンクリート構造物の診断項目としては、おおむね下記の劣化体系(劣化の種類)の10項目が診断の対象となりますが、コンクリート擁壁にとって特に重要な診断項目は、№1・№2・№3・№4・№7・№9・№10 となります。
注) №8は、火災による変調劣化は集合住宅等の火災をうけた建物が対象となり、№6は、疲労による変調劣化が問題となる構造物として、繰り返し荷重を受ける道路構造物が対象となり、№5は科学的腐食の影響を受けやすい施設が対象となります。
◎劣化体系(劣化の種類)
№1 中性化診断(ツララ、白華現象含む)
コンクリート中の水酸化カルシウムが空気中の二酸化炭素と反応して、コンクリート内部のpH が低下していくこと。通常のコンクリートはph12程度の強アルカリで構成されております。
phが低下することにより、鉄筋表面の不動態皮膜(ph12以上というコンクリートの高いアルカリ性によって、鉄筋の表面に形成される薄い酸化被膜。鉄筋の腐食を防ぐ)が消失し、水と酸素の供給により内部鉄筋の腐食の可能性が大きくなる。
鉄筋の腐食は鉄筋断面の膨張(体積2.5倍になる)をともない、その膨張力によりコンクリートにクラックを発生させ、構造体の耐久力に大きな影響を及ぼす結果となる。
ダイヤ設計の検査方法
○中性化試験の実施(ドリル法)
○ハツリ法による鉄筋の発錆状態の確認
○鉄筋探査機による鉄筋位置及び被り厚さの計測
○中性化試験
○必要によりコア抜き取り |
ダイヤ設計の鉄筋探査機による擁壁の鉄筋位置及び被り厚さの計測
ダイヤ設計のコンクリート中性化試験
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№2 塩害診断
コンクリート内部の塩化物イオン(Cl-)によって鉄筋表面に不動態被膜が破壊され、鉄筋が腐蝕すること。腐蝕した鉄筋の膨張圧力でコンクリートがヒビ割れ、さらに鉄筋が腐蝕しやすくなります。
塩害が問題となるコンクリートは、コンクリートの『塩化物イオンの総量規制』が実施された1986年(昭和61年)以前に施工された構造物等は注意が必要となります。
前記コンクリートの中性化の箇所で述べたとおり、鉄筋の腐食は構造体の耐久力に大きな影響を及ぼす結果となるが、問題となるのは、塩害による鉄筋の腐食は中性化よりもその腐食速度と進行が、中性化よりも著しいということです。
コンクリート塩害
擁壁の建設場所が海岸ちかくの造成分譲地の場合などは、海岸からの塩分(塩化イオン)を含んだこの塩害の可能性があります。
ダイヤ設計の検査方法
○ドリル掘削粉を採取し、試料(カンタブ)にて塩素イオン量を測定します。
下記写真はダイヤ設計が行った、カンタブによる生コンクリート中の塩化物測定の写真です。
№3 アルカリシリカ反応
コンクリートの骨材の主成分である珪酸(SiO2)質が、セメント中のアルカリ成分と反応してゲル(吸水膨張性のある物質)ができること。またゲルが吸水・膨張してコンクリートに著しいひび割れを生じさせること。アルカリ分と反応してゲルを生成する骨材を反応性骨材と呼びます。
№4 凍 害
コンクリート中の水分が凍結・融解・膨張と融解を繰り返す(凍結融解現象)ことによって、コンクリート表面のはく離やひび割れが生じる劣化現象。
凍害でコンクリート表面が薄片状にはく離することをスケーリング、表面があばた状にはく落することをポップアウトと呼ぶびます。
ダイヤ設計の検査方法
○目視
○スケーリング部位の表面ハツリにより、凍害深度の計測。
○初期凍害(コンクリート打設時の凍害であり、ここで問題としている建設後の凍害と異なる)と
本来的凍害の区別。
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凍 害 凍 害
独立行政法人 土木研究所 編 より
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№5 科学的腐食(薬品等)
コンクリートが外部から酸類やアルカリ類、塩類、油類、腐食性ガスなどの化学的作用を受けて劣化すること。酸性雨が多く発生する地域や温泉地域、下水処理関連施設や化学工場などで問題となるが、擁壁の場合は建築場所がある程度外部に限定されている為、擁壁の科学的腐食が問題となることはそれほど多くない。
コンクリート化学的劣化の調査事例
(水セメン比の高いコンクリートが主要原因と考えられます)本件の劣化事例は大変珍しい事例といえます。
対象コンクリート 木造2階建コンクリート基礎
劣化原因
除草剤散布による劣化、分解。コンクリートは酸に侵されます。弱酸(酢酸、炭酸)から、強酸(硝酸、塩酸)コンクリートを侵すものは100種類近くもあります。身近なものでは、酸性雨や、気の抜けたビールなども同様です。
劣化現象
コンクリート、モルタル成分の表面の剥落。粗骨材(砂利)については、かなり健全で薬品に侵されていない。
劣化推定の結論
○直接原因
酸性除草剤(硫酸塩)の成分によるコンクリートの分解。
○間接原因
水セメント比が高いコンクリートの可能性があること。このようなコンクリートの場合は、耐久力が相対的に弱いコンクリートになる可能性がある。
(コンクリート密度が大きいため、中性化、アルカリ骨材反応、凍害、塩害等のコンクリート劣化に対する耐久性が弱くなる、といわれています。)
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調査写真-1 調査写真-2 調査写真-3
調査写真-4 調査写真-5 調査写真-6
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№6 疲 労
繰り返し荷重の影響によって、コンクリートや鉄筋などの鋼材にひび割れが発生し、それが進展してコンクリートのはく落や鋼材の破断へとつながる劣化現象をコンクリートの疲労といいます。
このコンクリートの劣化現象は通常、道路・橋梁等の自動車等の繰り返し荷重を受ける土木工作物に発生しやすく、擁壁等に発生する場合は、擁壁上に繰り返し荷重を受けるファクターが存在する場合に限られます。
事例としては少ないとおもわれます。
ダイヤ設計の検査方法
○目視
○ひび割れ計測 その幅や長さにより、内部鉄筋の腐食による膨張によるものかの判定。
○ひび割れの形状判定 その形と方向等により、以下の事がが判ります。
1 不同沈下によるもの
2 構造体自体の温度収縮によるもの
3 部分拘束によるもの
4 繰り返し荷重によるもの
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コンクリートの疲労
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№7 風化、老化
建設後の経年により、コンクリートも人間と同じく変質・劣化することになります。劣化要因の項目として<磨耗>や<成分溶出>があります。
擁壁や建物で問題となる劣化としては<成分溶出>です。
成分溶出
コンクリート中のセメント水和物が外部環境の水(H2O)が溶け出す現象で あり、その組織が疎となる変質、劣化現象です。
人間も加齢により骨内のカルシウム分が対外に排出され、骨組織が疎となりその強度が劣化減少する傾向にあります。コンクリートの骨粗鬆症の現象といえます。
人間の症状がカルシウムの溶出にあるのに対して、コンクリートの場合はCA(OH)2やカルシウムシリケイト水和生成物が溶出する現象です。
劣化現象として
○コンクリート強度低下
○コンクリートの中性化(PH低下)
ダイヤ設計の検査方法
○中性化試験
○コンクリート強度試験
○コア抜き取り(強度試験用)
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ダイヤ設計のシュミットハンマーによるコンクリート強度試験
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№8 火 災
コンクリートそれ自体は本来的に火災には強い部材であるが、しかし火害の程度により、建物全体が使用不能や大規模の修繕を必要となる場合があります。
その程度が小さい場合は、簡単な補修で再使用ができる場合もあります。
通常擁壁が火災の被害を受けることは少ない。建物に隣接して擁壁が構築されその建物が炎上した場合に間接的に火災によるコンクリートの劣化が発現します。
ダイヤ設計の検査方法
○中性化試験
○コンクリート強度試験
○火害部位の色による受熱温度の判定
○コア抜き取り(強度試験用)
№9 不同沈下(擁壁、建物)
擁壁の不同沈下は、比較的容易にその原因究明と沈下量の把握は可能です。しかし建物の場合は、擁壁よりもその原因究明は複雑であります。
建物の外壁に発生したクラックの部位、長さ、形、クリープ部位と変形量の把握等々から、判定診断することになります。
ダイヤ設計の検査方法
○精密トランシット(20秒読み取り)にて、倒れ及び水平方向の沈下量を定量的に計測し、その
沈下原因を究明する。
○必要に応じて、対象擁壁の支持地盤の地盤調査(ボーリング調査等)をおこなう。
○設計図書によりその基礎構造の工法選定の是非のチェック。
補強対策の一例 (比較的小規模の建物や擁壁の場合)
○鋼管短杭圧入工法(擁壁、建物に適用可能)
○ラップルコンクリート基礎工法
○地盤改良(薬剤注入工法) 等の工法が提案できます。
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ダイヤ設計のトランシットによる沈下量の測定
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№10 第三者影響度
擁壁診断の中で第三者影響度が問題となる場合とは、前記の「1擁壁のコンクリート診断の目的」③で述べた事由による場合等があります。
最近問題となる事例として、建物の新築や再築にあたり、その敷地に接して隣地所有者の既存擁壁が存在している土地の場合、敷地に余裕のある場合は問題がないのですが、既存擁壁の応力作用線内で基礎根切工事を実施し、その擁壁と建物に沈下等の影響を与引き起こし、隣地土地の所有者より多大の損害賠償の請求を受ける場合等です。
多少コストはかかりますが、事前に既存擁壁の診断をすることをお勧めいたします。
3 劣化対策、補修、補強方法の実施方法の提案
通常は前記の「2具体的な診断内容、調査方法とコンクリートの劣化について」の10項目のうち、劣化や変状箇所の特定及び劣化予測やその評価を判定し、依頼目的に応じて報告書を依頼者に提出します。
A 調査報告書の作成 → 依頼者に提出
B 変状が比較的小さな場合 → 補修方法の提案
C 変状が比較的大きな場合 → 補 強方法の提案
等の提案をすることになります。
また、依頼人の必要に応じて、その工事費の積算額の算出もいたします。
最後に、当社の実施しているコンクリート診断(擁壁・建物)は、比較的小規模の民間の工作物の診断であり、その費用も比較的廉価である程度で診断可能な調査を、その対象と考えております。
補修や補強工事に何千万円もかかる公共の工作物を対象とは、想定しておりません。
それらの大規模な診断は、大学の研究室やコンサルタントに依頼すべきであると考えます。
◎業務料金表の 既存擁壁、建物のコンクリート調査、診断関係の項目をご参照ください。
◎業務料金表の 既存擁壁調査診断関係(欠陥擁壁、耐久性、健全度の判定、補修計画)
の項目をご参照ください。
4 診断の限界ついて
擁壁の調査、診断には限界があります
無限に時間とコストを計上できない制約がある為、その診断内容は完全ではあり得ません。
例えば、既存の擁壁の断面形状とその鉄筋の断面積や配筋位置が判れば、簡単に構造計算によりその擁壁の耐力を計算できますが、現実には建築当初の図面が存在しない場合には、擁壁の正確な断面積や配筋位置を構造物を破壊せずに把握するには、かなりのコストがかかることになります。
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