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このページの項目

1 地盤訴訟の背景

2 地盤訴訟の特徴について
  2-1 高層建築物や重量工作物等においてはこの種の問題は少ない
  2-2 裁判所の姿勢と問題点
  2-3 裁判の長期化や立証費用の増大化と技術的問題点

 
3 地盤訴訟の瑕疵や被害の立証方法について  
  3-1 専門委員を選任してもらうこと  
  3-2 計測数値で示すこと。主観的な状況説明は不可


4 地盤訴訟の許容限度の問題(被害評価問題)
      ・被害額等の瑕疵担保責任等の金額算定の場合。




  
その1 地盤訴訟の背景


一般の人々が地盤を原因とする紛争が顕在化し『欠陥地盤』について意識し始めたのは、平成23年の「東日本大震災」以降とおもわれます。マスコミ等にこの種の問題が大きく取り沙汰された結果によるものとおもわれます。

具体的な事例としては下記のものがあります。

『地盤の沈下』
『工作物不同沈下』
『地崩』
『建物の不同沈下』
『擁壁崩壊、変状』
『建物のひび割れ、コンクリートのひび割れの発生』
『液状化』
『外壁仕上材の崩落』 等々

地盤訴訟にまで至るケースはいろいろです。

しかしこの種の問題はそれ以前から存在しており、別段最近の情勢ではありません。特に<軟弱地盤>の問題などは、埼玉県(特に県南地域)などの特定の地域においては深刻でありました。

この傾向は既存住宅の場合でも、特定市域においては現在進行形の問題でもあります。
当方がさいたま市中央区(旧与野市)で設計業務を主としていた時代には、当事務所付近の住宅で不同沈下をしていない住宅は少なかった時代でもありました。
従って、訴訟事件にまでは発展することは稀であったのです。

当時に付き合いのあった<ハウスメーカー>の分譲住宅で、約40棟に1棟の割合で不同沈下が発生したことがありました。相談を受け、その会社の基礎工事の設計や監理の<コンサル契約>を契機としてその方面の勉強をし始めたのが今の仕事に繋がり、当方が現在このような仕事を専門とするようになったバックグラウンドでもあります。

軟弱地盤との付き合いは35年以上になることになります。


  
その2  地盤訴訟の特徴について


2-1 高層建築物や重量工作物等においてはこの種の問題は少ない


(横浜市の高層住宅の杭長不足による建物の不同沈下問題は、試験データーの偽造や施工管理ミスの問題であり、地盤その物を原因とする問題ではありません)

問題となるのは、小規模建築物の場合です。
中高層の建物は1uあたりの建物荷重が大きい為に構造計算上は普通は杭で設計され、軽量の3階程度の鉄骨建物を除き「支持杭」として設計されます。
又専門の構造設計が関与することが法令上の要件となります。
軟弱層が極端に厚い場合を除き、トラブル発生の可能性は少ない建物といえます。

一方、木造2階建程度の住宅は建築士でなくても設計が可能であり、厳密な構造計算をしなくても確認申請は可能となります。
別段、洪積層であるローム層に建築するのであれば何も問題はありませんが、地盤に問題のある場合は建築後において種々のトラブルの発生の原因となります。

従ってこの種の問題がおきるのは、普通の2階建程度の小住宅建築が主となります。当方が過去に関与した訴訟事件もその多くはこのクラスの建物でした。

このことは擁壁関係のトラブルが、その高さが2m以下の「行政」が関与しない擁壁であることと同様に、その建築構造に対して技術的な部分に「行政」の関与の少ない2階建以下の建物に多いという事実には、共通点があるように思われます。


2-2 裁判所の姿勢と問題点

○裁判官の問題点

裁判官は通常の「一般法」であるいわゆる六法関係の法令全般については職能上、理解が深く当事者が自己の主張内容についてはそれほど苦労はありません。
しかし、建築基準法関係の法令である「特別法」「手続法」等については当然に理解はしておりません。
ここで当然と表現したことは、法律は『人文科学』の概念であり土質工学や建築工学は『自然科学』にたいする概念であり、いわば別個の概念です。

又問題となることは、理解する努力も放棄していることです。
約4000の法律と政令を理解することなど人間の限界を超えておりますから。

このような問題の解決策として、平成16年4月から導入された「専門委員制度」があります。
その趣旨は、裁判官や当事者に対して、公平、中立なアドバイザーの立場から、その事件において争点となっている専門的技術について説明等を行う、とされております。

地盤訴訟の場合には、その発生原因の解明には建築工学的と土質工学の双方が統合された知見が要求されます。
従って、一般の事象よりもかなり複雑になりがちです。
当方が関係した地盤関係の訴訟において裁判所が選任した専門委員が建築士であった為、こちら側の主張内容を理解してもらう為にえらく苦労をした経験があります。

地盤工学会、建築学会等からの地盤判定能力のある、本当の意味の専門家であるスペシャリストの裁判所への関与が不可欠と考えます。
最近は地盤工学会等の学会においてこのような動きがあるようですが、実現の待たれるところです。

当方の結論ではありますが、『地盤訴訟』という物はなかなか厄介な訴訟の一つであることには間違いありません。
良心的な弁護士さんが、金にはならず時間のかかるこのような事件の依頼を敬遠しないよう祈るばかりです。


2-3 裁判の長期化や立証費用の増大化と技術的問題点

地盤は「自然物」である物質を対象としての係争となる為、人工物である建築物のように直接的に計測やチェックしたり目視による観察が、困難な場合が多い。
建物の瑕疵担保責任の立証のように、<現場記録写真>で簡単に訴訟資料とすることもできません。
ボーリング等の地盤調査、土質サンプルによる各種の土質試験を必要とすることが多いのです。

又、裁判官への地盤の変形、沈下の証拠資料・訴訟資料としての信頼性を高める為には、土地家屋調査士や測量士等の資格者による計測も必要になります。
証拠資料・訴訟資料・訴訟資料の作成にはある程度のコスト高になる傾向があり、技術者同士の論戦であれば簡単に決着する問題も、訴訟というテーブルでは<コスト><エネルギー><時間>をあまりにも必要とします。

本来、力学的な問題の解明はシンプルであるはずです。
人間の心理状態や心的な動機等のような計算になじまない事象を対象としていません。

裁判が『厳密な審理』を建前としているとはいえ、当事者双方の経済的な負担が軽視されており、もう少し経済性に配慮した審理は出来ないものか。
現行の裁判制度その物にたいするジレンマがあります。
有能且つ中立な公的<第三者機関>が関与するのであれば、これほどには時間と費用のロスはなくなるのではないかと、思いをはせます。


  
その3 地盤訴訟の瑕疵や被害の立証方法について


3-1 専門委員を選任してもらうこと


前記その2で述べたように地盤訴訟においては、裁判官自身が事案の内容によっては訴訟内容の『争点』が技術的、工学的なものについては判断がしにくい為、なるべく早い時期に専門委員を選任をしてもらうように働きかけをしたほうが裁判の期間が短くてすみます。
口頭弁論の途中から専門委員を入れるよりも効率があがります。

裁判官によっては、専門委員に判断内容を丸投げで誰が裁判官なのか疑問視せざるを得ない裁判官もいないではありません。
又、大学教授の専門委員によく見られるのですが、その意見内容の方向性が裁判所側に発信され「自己PR」に終始している人も見られます。
裁判という特殊な場は、当方も含めて人間の<あざとさ>を自覚する場でもあるかもしれません。


3-2 計測数値で示すこと。主観的な状況説明は不可

例えば、建物に不同沈下が発生し訴訟事件に至った場合。
被害の発生状況の図面や書類は当事者が作成したものよりも、第三である有資格者作成によるものを添付したほうが判断材料としては有利である。

このことは、刑事事件において裁判官はおそらく被告人自らの主張については懐疑的であり、客観的な物的証拠のみを判断の根拠とすると考えられます。
そうであれば、民事事件であればなおさら当事者の主張には懐疑的であることは推察できます。
「弁論主義」に基づく事案解明に裁判の『あるべき姿』ではあります。
しかし『現実の裁判』の姿は少し異なります。

コストはかかりますが、有資格者に依頼することは証拠としての能力が高いと判段されるのが現実です。
現実の裁判はくだけた言葉で表現すると、「ああ言えばこういう」という「知的ゲーム」的な一面は否定できません。


  
その4 地盤訴訟の許容限度の問題(被害評価問題)


○被害額等の瑕疵担保責任等の金額算定の場合。  

建築訴訟の場合には、ある程度、慣習化と類型化されている「積算」の形式に沿って算出する必要がある為、手間がかかる場合があります。
例えば、公共工事の復旧の場合の見積もり算出方法の場合、民間工事の算出方法や大規模建築工事と小規模建築物の算出方法とではその根拠となる工事の「歩掛り」等が厳密には異なる為に、専門的な知識が要求されることになります。

それと比較して「地盤訴訟」における被害の積算工法の場合には、復旧工事の種類が限定される為に比較的に容易であると言えるとおもいます。

最後に、算出にあたっては、『受忍限度理論』や『許容限度理論』に基づいて算出すべきであり、社会通念から乖離した被害等評価金額は当方の経験からも「百害あって一利無し」であり、十分留意する必要があります。


以上です。



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