建築おたすけ人・ダイヤ設計は、建築物訴訟関係、欠陥擁壁・欠陥建物及び地盤の調査・診断等の業務を行っております。

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技術屋の中辛コラム


その7 『既成プレキャスト擁壁に変状事例の理由は?』


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                その2 『地震では擁壁は崩れない?』のページへ

                その3 『コンクリートの水セメント比についての素朴な疑問』のページへ

                その4 『不同沈下事故が多発する原因について』のページへ

                その5 『ここが間違う。建築構造材と土木構造材(地盤)の本質的な相違点について』

                その6 『これからのコンクリート性能の目指すもののページへ


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その7 既成プレキャスト擁壁に変状事例の理由は?


最初に

通常JISの認定工場で、規格化された設備で施工精度も高い技術で作られるプレキャスト擁壁に以外と事故例が発生する問題について、この 稿ではその理由について考えてみたいと思います。
と言いますのは当方の扱った擁壁調査の業務においても、変状が発生した擁壁に以外にも(?)プレキャスト擁壁が散見されたのです。

コンクリート躯体自体のひび割れやコンクリート強度不足、水抜き穴の未施工、鉄筋の被り不足等についての事例は全くないのですが、擁壁自体の倒れや沈下等の変状が確認されることがありました。

このことは、市町村の<公共工事>として発注されるプレキャスト擁壁においても、その例外ではありませんでした。


      プレキャスト擁壁の写真

      



プレキャスト擁壁の長所。

現場施工による擁壁と比較して、プレキャスト擁壁の優れていると思われる点。

◎表面仕上げに割石模様・鉄平石貼付を施す事により、景観的に優れた擁壁が構築できます。
◎工期が短縮できる。
 (当然ながら現場での型枠組立とコンクリート養生期間が有りませんから。)
◎施工精度が高い。
◎工場生産の為、内部鉄筋量の不足等の手抜き施工が発生しない。
◎工場生産の<水セメント比>の小さなコンクリート製品の為、耐久性の高い躯体となる。
◎型枠工事や鉄筋工事、コンクリート打設工事等の施行技術が無くとも、単位ブロックの設置のみで擁壁の施行が出来る。


以上のように一見すると良いことずくめの様なプレコン擁壁ですが、しかし、長所は必ず短所に繋がる遠因になる「落とし穴・問題点」があります。

プレコン擁壁の問題点。

その1


ある意味、単位ブロックを地盤に設置するだけという工法で簡単に施工できるため為、現場打ち擁壁を施工する能力不足の業者が参入する可能性も否定できません。

又、工期短縮をアッピールし利益を優先する結果、プレコン擁壁の性能を担保する<支持地盤の確認>・<埋戻し施工の適否>等についての確認をせず、又その知見もない設計者や施工者が関係する可能性があり得ます。

擁壁それ自体は既製品である為に問題はないとしても、上記の二つの事項が疎かになると、築造後において問題となる変状が発生することになります。


その2 設計上の問題点について。

そもそもプレコン擁壁を採用する前提は、本来的には<圧密沈下>を起こしやすい軟弱地盤を想定した製品ではありません。
製品の仕様書の内容も、普通の良好とされる地盤を想定して作成されております。

従って、地盤の<物性値><内部摩擦角><埋戻土の重量><地盤支持力>等の適用数値については、標準値をもとに作成されております。
そしてその数値をもとに、計算上の最小断面で決定しているのです

それらの結果問題となるのは、擁壁裏側の<基礎ベース>の長さが現実に施工された埋戻土により計算した必要長さよりも短い、という問題が発生してしまいます。

この為プレコン擁壁の場合、抵抗モーメントが不足して前面側に倒れが発生したり、基礎底板の摩擦力が不足して同じく前面に<スベリ出し>の変状が発生します。


例えば擁壁にかかる土圧の計算式は、

Pt/m(土圧)=1/2×γ×K×H(擁壁の高さ)^2(2乗)
で計算ができます。

この式は擁壁幅1mに対してnt/mの土圧が掛かるかの計算式ですが、この式から判ることは、土圧は擁壁高さの2乗に比例して大きくなる事を表現しています。

擁壁の高さが2mの時の土圧が2t/mの場合、その高さを4mとした場合には土圧が2倍の4t/mになるのではなく16t/mと急激に増加します
。(ちなみに擁壁を転倒させようとする<転倒モーメント>は3乗に比例します)

従って必要な擁壁の高さの既製品が無いとか、特注品で施工することがコスト面で困難である等の理由で擁壁完成後に50㎝程度の盛土をした場合でも、大変危険であることが判ると思います。


その3

擁壁の土圧はその高さが同じとしても、擁壁裏側の土圧は地盤の<密度>や<含水比>及び擁壁上部の<載荷重>の大小により一律ではありません。

この点、現場施工の擁壁の長さは、通常10m~20mの長さで1ブロックとして計画されます。
一方プレコン擁壁の長さは現場への搬入の都合上、規定によりその長さ(横幅)は2mで造られています。

擁壁の裏側の土圧は、一定ではあり得ません。
当然に土圧の強弱の箇所が築造前後において発生します。

現場施工の擁壁の場合は、擁壁の一部の土圧がその部分の擁壁の耐力をオーバーしたとしても、その部分と一体化している他の部分が全体としてそのオーバーした土圧に抵抗する為、前側に倒れたりズレが発生することが少ない。

しかしプレコン擁壁の場合には抵抗幅は2mしかないので、他の部分と一体となってその過剰土圧に抵抗することが出来ない為、変状し易くなります。
このことは、プレコン擁壁の天端部分や目地部分にズレが発生する事が多いことからもわかりますが、この辺の事が原因です。

プレキャストL型擁壁は、背面盛土が水平の場合で安定する設計をしているのが普通です。
背面が水平より大なる傾斜のある形状となる場合や、盛土施工をした場合は<載荷重>の増加となり、安定条件の安全率が確保できない事になります。


その4

プレコン擁壁は工場生産の既製品である為、1ブロックの外形寸法の精度は現場擁壁と比較して格段に高いものです。この精度の高さが、逆に施工上においてマイナスに作用する場合があります。

例えば完成後の擁壁に、天端部位やジョイント部位に3mm程度の少しの誤差があれば、素人でも目につく事になります。
5mm以上であれば<クレーム対象>の可能性があります。
施行者もこの点についてシビアーに対応せざるを得ません。

しかし現実には擁壁ベース下の<捨コンクリート>の上には、高さ3mの擁壁では3t前後の重さがあります。
重機を使用しても捨コンの上に、垂直方向と水平方向をmm単位で『物理的』に確実に設置することは、かなりの施行技術を必要とします。

この為に最後の天端揃えの調整は、低い部分に<カイもの>をして擁壁天端のレベル調整で茶を濁すことになります。

このレベル調整周辺の箇所は、わずかですが隙間が発生します。従って、地盤と擁壁本体との<摩擦力>は期待できない事になります。
見た目には完全ですが、『物理的』には不完全な施工になります。
結果として、土圧により発生する水平力を負担する基礎ベース下の摩擦力が不足し、擁壁の部分的な<スベリ出し>現象としての原因となります。

代表的な<L型>擁壁は、力学的には擁壁の重さと擁壁裏側の<埋戻土>の重さで土圧に抵抗する形式です。


結論

施主側は表面の仕上がりやその模様に魅せられて選択してしまい、一番重要な擁壁自体の性能についてはチェックが甘くなりその専門的な知見もない為か、必要な擁壁の高さのみの検討で底板(ベース)盤の短いものを選択する場合があります。

擁壁ブロックそれ自体に問題は無くても又築造後に発生しなくても、擁壁を支える地盤と擁壁の<据え付け方>が適正でなければ、現場施工の擁壁よりも変状が発生する可能性があります。

対象の土地に現場造成擁壁を作るつもりで、その構造計画(構造計算)と施工管理をすれば、プレキャスト擁壁も十分にその機能を発揮するはずです。


                                                以上




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