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埼玉県の自然的条件
1 位置と面積
本県は関東平野の中央部から西部および関東山地にまたがり、南北52km・東西103kmで南東から北西方向に延びる長方形状を呈する。その周囲は東京、千葉、茨城、栃木、群馬、長野、山梨の1都6県に囲まれており、山梨及び長野の両県とは山地部を、それ以外の都県とは主に河川をもって県境としている。県境長約332kmのどこも海と接さない内陸県である。
県土面積は約3,800平方kmで、国土面積の1.027%を占め、全都道府県中で第39位に位置する。埼玉県の県庁所在地点は東経139 ゜40 ′、北緯35
゜352 ′である。
2 地形と河川
(1)地 形
本県の地形は、八王子構造線によって県土面積の3分の1を占める西部山岳地帯と3分の2を占める東部平野部とに大別される。この八王子構造線は、児玉、寄居、小川、越生及び飯能を結んでほぼ北西から南東に走る。
この県西部の山岳地帯は、関東山地の東部に位置し、秩父山地とも呼ばれる。秩父山地は、関東山地の一部をなしており、長野・埼玉の県境に位置する標高2,483mの三宝山を最高点とし、東に移行するに従って高度を下げ400〜500mとなる。その中央を荒川が東京湾に向かって県内を西南西方向に貫流している。
山地地形は河川侵食によって急峻な山稜を形成し、壮年期から晩年期の地形を呈している。秩父山地の北部は、神流川をへだてて群馬県に接し、高さ1,500m内外の三国山脈に連なっている。この方面では、両神山が、鋸歯状をなして、ひときわそびえるほか、石灰岩の分布する叶山、双子山などがある。
秩父山地はそのほぼ中央に秩父盆地と呼ばれる盆地を持つ。この秩父盆地の東縁には、南北に走る釜伏峠、二本木峠及び大霧山などの山稜があり、それと並んで奥武蔵高原といわれる正丸峠付近の伊豆ヶ岳など比較的低い峰が連なっている。なお、秩父山地には、火山性の高原性平坦地がないことが特徴である。秩父山地山間部には沖積低地がみられ、その多くが壮年期から晩年期の急峻な地形であるためにV字谷状を呈する。
秩父山地と台地および県東部の低地との間には、いくつかの丘陵が分布している。
比企丘陵は秩父山地の東端に接し、槻川及び市野川によって南北に二分されている。比企丘陵の北部は松久丘陵、南部は毛呂、高麗及び阿須山などの丘陵が半島状に突きだしている。その他、狭山丘陵をはじめ、荒川扇状地上の観音山、浅間山、諏訪山、山崎山、生野山及び浅見山など高さ200m以下の丘陵が島状に孤立している。これら丘陵はなだらかで平坦に近いものの、開析がすすみ谷底低地が複雑に発達している。
一方、本県の東部から南部にかけて広がる平野は、関東平野の北部に位置し、ロームを載せた洪積台地とそれを刻んで侵食流下する利根川、荒川およびその支流によって堆積された沖積低地が並列状に拡がっている。
台地は、かつて主要河川が形成した旧扇状地であり、北部から南部までは平坦な地形を維持し、顕著な開析を受けていない。丘陵に続いて南から武蔵野台地、入間台地及び北足立台地などが分布する。
これらの台地を中心として、荒川及び中川低地、南は川口低地となり、県北では利根川によって形成された低地がある。これら沖積低地のうち、妻沼・熊谷・川越をつなぐ線から上流地域は扇状地、これから下流幸手・浦和付近までは自然堤防帯で、より下流が三角州地域となっている。
各河川によって形成された広い沖積低地の地表には、砂礫質微高地の自然堤防が発達し、その外側には腐植質堆積物からなる後背湿地が分布している。自然堤防は、利根川低地上流では幅広く利根川に沿って分布し、下流では数条の直線上に、中川や荒川では、屈曲しているなど、自然堤防や旧河道の分布パターンが示すように多くの流路変更を重ねた痕跡が低地の微地形に極めて顕著に現れている。
(2)河 川
本県を水系別に見ると、利根川水系及び荒川水系の2水系に区分される。往時は、この荒川もまた利根川の支流であったが、寛永六年、熊谷市久下地内に堤防を築き人工的に流路を変えて現在の荒川となった。その後、荒川放水路の完成、荒川支流の市野川、入間川、新河岸川及び芝川などは、荒川本流からの逆流を防ぎ、併せて本流への排水をよくするために、荒川本流への合流点をいずれも下流に移す工事が行われ、同時に荒川本流並びに支流の蛇行部の除去が行われ、新河道は著しく直線的になっている。
ア)利根川水系
利根川は群馬県を源流とし、神流川、烏川と合流したのち県北端の群馬県境を流れ、渡良瀬川と合流してから茨城、千葉の県境を流れ、最終的には銚子において太平洋に注ぐ。利根川水系には、江戸川、神流川などの大河川をはじめとして、中小河川の小山川、福川、中川、綾瀬川などが含まれる。また、本県の東側を流れる江戸川は利根川の派川であり、本県と千葉県境より関宿町付近で分かれ東京湾に流下する。本県内における利根川水系の流域面積は約1,486平方kmである。中川は県東部平坦地流域約950平方kmの低地排水河川として大落古利根川、元荒川等を集流し、東京湾に注ぐ。
イ)荒川水系
荒川は秩父山地を源流とし、県のほぼ中央部を貫流する。秩父盆地を経て熊谷地先に扇状地を形成し吉野川、和田吉野川と合流する。この荒川上流域の面積は約1,150平方kmであり、平坦地に入るとともに右岸に市野川及び入間川と合流する。入間川は、外秩父山地より発する荒川の一大支川で越辺川、都幾川、槻川、高麗川、小畔川等の多数の支川を集め、それらの集水面積は約740平方kmである。
荒川水系の下流部の右岸側に流域面積約400平方kmをもつ新河岸川があり、岩淵水門下流で隅田川に合流する。左岸側では、大宮台地から発し、県南地方200平方kmを集水する鴨川、芝川、笹目川等があり、荒川合流部には逆止水門が設置されている。
本県の治水事業の特性としては、首都圏に位置し交通も至便であるため、人口が急増し、急激な都市化現象に起因して、低平地や湛水常襲地域の水田地帯までも宅地化が進んでいることから、遊水保水機能が減少し、洪水時の流出の増加が顕著となっている。
河川の地形的特性としては、中小河川は比較的緩勾配であり、河川流下能力も小さいため、河川計画では河川断面を大きく拡げなければならず、広い範囲の河川用地を必要とし、投資される経費も膨大となる。
また、利根川、江戸川、荒川等の大河川に囲まれている本県は、洪水時には大河川の水位が中小河川の水位より高くなり、自然排水ができず強制排水に頼らざるを得ない。
また県北東部では、特に地盤沈下が顕著であり、浸水被害や内水、湛水現象が社会生活に著しく影響を及ぼしているなど、本県は治水上大変厳しい状況におかれている。都市化のスピードに河川改修が追いつかず、少ない降雨でも被害が発生し得る状態である。このような現況に対処して、治水安全度の向上を図り、県土保全のため河川区域を指定して、改修を実施している。
3 地質と地盤
秩父山地の地質は、大きく分けて三つに分類される。すなわち、跡倉と金沢を結ぶいわゆる御荷鉾線から、北は長瀞系の岩石で形成され、その南には古生界の秩父系、中生界のジュラ系白亜系、新生界の第三系が発達している。また、出牛−国神線西側の御荷鉾線、すなわち横瀬町刈込と越生町黒山を結ぶ線は南方6qずれている。したがって刈込−黒山線以北には長瀞系、秩父系が分布し、北面では秩父系が分布している。
(1)中・古生界(5.7億〜6,400万年前)
本県で見られる中・古生界の岩石は秩父山地において露出する。これらは構成岩石・地質年代および地質構造のことなる北西-南東方向の帯状配列をなしており、北より三波川(変成)帯、秩父帯、四万十帯と呼ばれる。三波川帯と秩父帯とは御荷鉾構造線をもって、秩父帯と四万十帯とは仏像構造線をもって境としており、これらの地層は南部に行くほど新しくなる。
三波川帯はおもに結晶片岩からなる。これらの岩石は南部に接する秩父帯の変成相であり、その変成作用のため、化石などは認められない。
秩父帯は砂岩、粘板岩、礫岩、輝緑凝灰岩、石灰岩、チャートなどの堆積岩からなる。石炭紀からジュラ紀にかけて(3.6億〜1.44億年前)堆積したものと見られている。本県内ではその中央部に山中地溝帯と呼ばれる白亜系(1.44億〜6,400万年前)の岩石が分布し、これを境に北部を秩父帯北帯、南部を秩父帯南帯と呼ぶ。
四万十帯は堆積岩からなり、本県では秩父山地南部に分布する。中生代から古第三紀(2.48億〜2460万年前)にかけて堆積した物質で構成されており、本県に分布するものはこのうち北帯と呼ばれる部分に相当するものと思われる。
(2)新生界(6,400万年前〜現在)
新生界は、第三系(約6,400万年〜180万年前)と第四系(約180万年〜現在)からなっている。
新第三系(約2,500万年〜180万年前)は、秩父盆地をはじめ、埼玉県西部の山地と東部の台地および低地の間の丘陵地域に分布する。北から順に松久・比企・毛呂山・高麗・阿須山等の主に新第三系からなる丘陵地が半島状に突出している。これら丘陵地域の基盤は、中新世(約2,500万年〜520万年前)の堆積層で、その上に鮮新世(約520万年〜180万年前)の礫層やローム層(第四系)が覆っている。第三系は新しいためにまだ十分固結していない。
第四系は、洪積層(約180万年〜1万年前)と沖積層(約1万年前〜現在)に分けられる。洪積層は丘陵や台地上の段丘礫及びローム層からなる。平野の台地を被覆している関東ローム層の層厚は、立川面(本庄、深谷、東松山、坂戸の各台地)で2
〜3m 、武蔵野面(江南、武蔵野の大部分、北足立・下総台地)で4 〜5m 、下末吉面(武蔵野台地内の金子・所沢台地)で10m内外の層厚を示している。
沖積層は低地を埋めている砂やゆるい泥からなっており、秩父山地山間部の沖積低地、本県の北から東にかけての利根川低地、中川低地、中央部の熊谷・荒川低地に分布する。利根川低地は、吹上〜羽生より北では砂礫堆積物であるが、それより下流では、層厚1m
内外の粘土質堆積物からなる。中川低地では、春日部付近で粘土層8m 、県南部の東京都との境界付近では、4 〜5mになるが、部分的に30m以上の粘土が堆積しているところがある。
熊谷低地では、主に砂礫堆積物であるが、荒川低地にはいると粘土が厚くなり、川口付近で40mにもおよぶ。これが地盤沈下の要因となり、かつて標高4
〜5m であった地盤高が、現在では0m以下となっている地域が出現している。
4 気 候
(1)気象の概況
埼玉県の気候は典型的な太平洋側気候で次のような特徴を持つ。冬は著しく乾燥し、朝晩の冷えこみが強く、晴天が多い。また北西の風が強く吹く。一方、夏はむし暑く、雷雨が多い。また南東の季節風は弱くなる。四季の変化は規則正しく明瞭で、1年間の平均気温は14
℃、降水量は1,300mmぐらいで生活にはおおむね好適であるが、台風、雷雨などによる気象災害が毎年起こっている。6 月から7 月初めにかけての梅雨と、9月から10月初めにかけての秋雨の時期には特に雨が多い。また9月には台風が来襲しやすく1日に300mmの大雨をもたらすこともある。
埼玉県全体の気温分布を見ると、地形の影響のため一年を通じて東部が高く、西部に行くにしたがって低くなる。これに対し降水量の分布様式は、冬と夏でかなり異なる。すなわち冬期は北西部に少なく南東部に向かうほど多くなるのに対して、夏期は東部が少なく西部へ行くほど増加の傾向が見られる。
また、平野部と内陸部で大きく異なる。平野部の冬は、晴天が続き雨が少ない。特に、北部は群馬・栃木県の南部とともに、1月の降水量が我が国で最も少ない地域のひとつである。しかも、強い季節風が空っ風となって吹くため、空気は乾燥し、風塵が著しい。
一方、内陸部では海風の影響を受けないので、気温の日較差は四季を通じて、かなり大きい。特に、冬と春の日較差は、秩父盆地や関東山地の山麓では15
℃以上に達する。冬は早朝の冷え込みが強く、土質とも関連して霜柱が良く発達する。春には時々早朝の気温が著しく下がり、霜害が起こることもある。盛夏は太平洋高気圧に覆われて晴天が続き、昼間の気温が上昇して、関東地方ばかりでなく全国的に見ても指折りの高温地域になる。
降水量に関しては、秩父地方が特徴的である。秩父地方における雨は夏から秋にかけて多い。特に太平洋側を台風が通過する場合には非常に多量の雨が降る。また、夏は雷雨の発生数が関東地方では群馬県の北・西部についで多く、全国でも屈指の雷雨発生地域である。特に、初夏には雹(ひょう)害を伴うことが珍しくない。この地域の降水量のかなりの部分は、雷雨によってもたらされる。
(2)地方別の気象特性
ア)北足立地方
冬の北西風は比較的弱いが、日本海に発達した低気圧が通るとき南の風が強まる。朝の冷え込みは比較的弱いため、気温は県内では高い地域に入り、霜の降りる期間も短い。南部では海の影響を受けやすく、台風時には塩害を受けることがある。
イ)入間地方
飯能付近では強風が吹きやすいが、名栗や川越付近では風が強くなりにくい。所沢付近では南からの強風が入りやすい。山沿いの洪積台地では夜間の冷え込みが強く、冬は最低気温が-1
0 ℃ぐらいに下がることもまれではなく、霜柱が10cmにも成長する。本地域は県内では雨の多い地域で、特に名栗付近は数時間程度の短時間降雨が強いところである。
ウ)比企地方
強い風が吹きやすく、東部は冬の北西風が強い。雨量は暖候期の5 〜10月に多く、山沿いでは強い短時間降雨が起こりやすい。夜間の冷え込みは強く晩霜の害を受けやすい。
エ)秩父地方
気温は県内では低い地域で、霜や氷の被害の期間が比較的長い。盆地では冬期夜間の冷え込みが強く、1月の平均最低気温は−6 ℃ぐらいとなり、最低記録としては−16
℃がある。気温の日較差が大きく1月では14 ℃に達する。風は一般に弱いが、、台風時には瞬間的に強い風が吹く。盆地の風は冬に南からの風、夏に北からの風が吹き、平野とは正反対となるのは注意すべき点である。
雨量は8月に最も多く、雷雨が多い。県内では雨の多い地域となっており、東部・南部が特に多い。北西部では雨がやや少ない。降雹(ひょう)も多い。朝の濃霧が多く、年平均49日の霧日数を数え、10月と11月に最も多い。冬の湿度は平野より5
%程大きいが、秩父における最小湿度は6%であり、時には異常に乾燥することを示す。
オ)児玉地方
冬の気温は、日中の気温が割合高くなるため県内では高い地域になっている。降水量は夏期(6 〜8月)を除き県内では少ない地域となる。冬の北西風はやや強いが、南風が強まることは台風時以外はあまり見られない。雷雨が多く突風が吹きやすい。短時間降雨が強いものは出にくく、日雨量50mm以上となる様な雨は降りにくい地域となっている。
晩霜が生じ易く、県内では霜害を受けやすい地域であることが大きな特徴である。
カ)大里地方
夏と冬の気温は県内では高い地域にあり、冬の日中最高気温は割合高くなる。冬の季節風が県内では吹きやすい地域で、平均風速は大きくなる。雷雨のとき強い突風が起こりやすく、降雹(ひょう)は県内でも起こりやすい地域である。霜害もやや多い。
キ)北埼玉地方
気温は県内でも高い地域にある。9月の雨量は県内では少ない地域であり、台風時にも雨の降りにくい地域である。
ク)埼葛地方
風は一般に弱い地域であるが、北西風が強まるとき、北部では県内でも強い風が吹く。また、発達した低気圧が日本海を通るとき南部では南の風が吹く。南部では海の影響を受けやすく、台風時には塩害を起こすこともある。
降水量は11月・12月に県内では多い地域となるが、夏(6月〜8月)は少ない地域である。霜や氷の期間は県内で短く、霜害も少ない。南埼玉地域では降雹(ひょう)がやや多い。
出典 埼玉県環境防災部 埼玉県地域防災計画 より抜粋
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