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マンション管理関係判例


bX 居住ルール・管理規約/給排水管等の設備 


平成 8年 6月25日 札幌地判


判決要旨
地域熱供給システムによって高温水の供給を受ける設備の設置されたマンション内において、一区分所有者だけがその室内設備を取り外し、単独で電気暖房工事を行ったことが、規約及び法6条に違反するとして管理組合のなした機器の撤去および不法行為(不当抗争)としての弁護士費用の請求が、工事によって他の区分所有者は具体的な不利益を被っておらず、かつ地域熱供給システムは管理共有物とは言えず、また工事は共同の利益に反する行為とも言えないとして棄却された事例

判決日・当事者
平成8年6月25日判決言渡
平成5年(ワ)第941号 共有壁面復旧工事等請求事件
札幌市○○区○○町3丁目4番4-904号
原    告     X1町団地住宅管理組合管理者
           X2
上訴訟代理人弁護士  西 川 哲 也
札幌市○○区○○30丁目1番8-604号
被    告     Y1
上訴訟代理人弁護士  五十嵐 義 三

【主 文】
 一 原告の請求をいずれも棄却する。
 二 訴訟費用は原告の負担とする。

【事実及び理由】
第一 請求
 一 被告は、原告に対し、金25万7,500円及びこれに対する平成5年11月6日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
 二 被告は、別紙物件目録記載の建物内の電気温水器1基、蓄熱型電気暖房器1基をそれぞれ取り外せ。
第二 事案の概要
 本件は、原告が被告に対し、不法行為(不当抗争)を理由に25万7,500円の損害賠償を求めるとともに、管理組合の組合規約の違反等を理由に、建物内の電気温水器1基及び蓄熱型電気暖房器1基の各取り外しを求める事案である。
一 当事者間に争いのない事実
 1 札幌市○○区○○町3丁目所在のX1町団地内には別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を含む鉄筋コンクリート造共同住宅が5棟存在する。
 2 昭和53年にX1町団地内の区分所有者によって、「X1町団地1・2号棟住宅管理組合」、「X1町団地3・4号棟住宅管理組合」及び「X1町団地5号棟住宅管理組合」の各管理組合が組織されたが、現在は5棟の区分所有者全員を組合員とするX1町団地住宅管理組合(以下「本件管理組合」という。)が組織されている(ただし、本件管理組合の設立の経緯については争いがある。)。
 3 本件管理組合は、「X1町団地住宅管理組合規約」(以下「本件組合規約」という。)、「住宅等の改造、模様替えおよび修繕等に関する協定」(以下「本件修繕等に関する協定」という。)及び「共同生活の秩序維持に関する協定」(以下「本件秩序維持に関する協定」という。)をそれぞれ定めている。(ただし、これらの規約及び協定が適法に成立しているかどうかについては、争いがある。)。
 4 本件組合規約によれば、本件管理組合の理事は組合の総会によって選任され、理事長は理事によって構成される理事会において選任されるとされているところ、承継前原告X3(以下「承継前原告X3」という。)が平成4年6月29日開催の理事会において理事長に選出され、さらに平成8年5月19日開催の理事会において原告が理事長に選任された。
 5 被告は、本件建物の所有者である。
 6 X1町団地においては、各住戸は、A株式会社(以下「A」という。)から熱供給を受けてきた。
 7 しかるに、被告はAとの地域熱供給契約を否定し、本件建物内に電気温水器及び蓄熱型電気暖房器各1器を設置し、電気をエネルギー源とする暖房システムを採用した。
二 原告の主張
 1 原告の当事者適格
  (一) 包括授権
 本件組合規約41条によれば、本件管理組合の理事長は建物の区分所有に関する法律(以下単に「法」という。)に定める管理者とされており、理事長は組合を代表し、規約、協定等並びに総会及び理事会の議決に基づき、組合の業務を執行するものとされている。
 また、本件組合規約73条によれば、規約、協定等に違反した組合員に対しては、法57条から60条までの規定による必要な措置をとることができるとされており、同規約74条3号によれば、理事会の決議を経て、違反行為の差止め又は排除のために必要な措置をとることができるとされている。
 上各条項によれば、本件管理組合は、理事長に対して、規約、協定等に違反した組合員に対する訴訟の当事者となる包括的な授権をしていると解される。
  (二) 個別授権
 X1町団地内の区分所有者は、平成4年7月26日に開催された本件管理組合の総会において、理事長である承継前原告X3に対して、被告に対する訴訟追行権を付与し、理事長の交代に伴い、原告が訴訟追行権を承継した。
 2 本件組合規約が適法に成立したものかどうかについて
 「X1町団地1・2号棟住宅管理組合」、「X1町団地3・4号棟住宅管理組合」及び「X1町団地5号棟住宅管理組合」のいずれの設立総会も、昭和53年6月12日に同時開催され、その際、当時の区分所有者の総意により、組合規約、修繕等に関する協定及び秩序維持に関する協定がそれぞれ定められた。
 前記三管理組合は、それぞれ理事長ほか役員を選任したが、その組合規約及び各種協定はいずれも同一内容であり、各管理組合の総会は成立以来一貫して、同一日時、同一場所で開催されてきた。
 昭和62年5月10日、各管理組合の組合員は、合同して総会を開催し、3つの管理組合を統合し、改めて5棟の区分所有者全員によって構成される本件管理組合を組織するとともに、本件組合規約、本件修繕等に関する協定及び本件秩序維持に関する協定を定めた。
 3 不法行為関係(被告の不当抗争)
  (一) 被告の行った電気暖房工事は、本件修繕等に関する協定4条1号に該当するので、被告は工事実施前に工事内容を予め理事長に届け出て、書面による承認を得なければならないし、上工事に関する理由書、設計書、仕様書などの書類を作成して提出しなければならかった。にもかかわらず、被告は所定の手続を経ずに、かつ、本件管理組合が工事に反対していることを承知の上で、電気暖房工事を実施した。
  (二) 本件管理組合は総会において、被告に対し、違反工事の結果を除去するように求め、これが容れられないときには訴訟を提起することを決議し、その後も理事会において被告に対し原状を回復するように求めたが、被告はこれに応じなかった。また、被告は工事前後にわたり、本件管理組合の立ち入り検査を拒否し、工事内容を明らかにしなかった。
  (三) このため、本件管理組合は弁護士に訴訟を依頼して本件訴訟を提起せざるを得なくなったものであり、被告の行為は、本件管理組合に対する不当抗争であり、不法行為に該る。
 (四) 本件管理組合は、本件訴訟を提起するための弁護士費用として、原告訴訟代理人に25万7,500円を支払った。
 4 電気温水器及び蓄熱型電気暖房器の除去請求関連
  (一) 被告と電気幹線を共通にする住戸は、被告の電気温水器及び蓄熱型電気暖房器の利用により、それぞれの電気の利用について制約を受け、B電力株式会社(以下「b」という。)との供給契約どおりの内容の電気の利用を阻害される。
 したがって、被告の行為は、本件修繕等に関する協定4条3号の「住宅、共有部分または共有物にアンテナ、小禽舎、その他近隣に影響をおよぼすおそれのある物を設置するとき」に該当する。
  (二) X1町団地は、Aから熱供給を受けることを前提に設計、建築され、○○○住宅供給公社によって分譲されたものである。
 上団地においては、建物全体を暖房するシステムが採用され、熱消費量の計量、利用料金の精算も建物全体をまとめて処理する方式となっており、そのことが利便性、快適性及び公平に叶うものとして、区分所有者の総意によって運営されてきた。即ち、暖房による熱は住戸間を移動し、縦管が住戸内部を走っていて放熱しているため、全ての住戸が供給されている熱による暖房効果を受けているのであって、それゆえに、入居者がそれぞれの床面積に応じて料金を負担する定額制が採用されているのである。そして、入居者が熱使用を節約した場合には、料金の還付という形で区分所有者全体の負担が軽減される仕組みになっている。
 上のようなAの地域熱供給システムは、全体として本件組合規約に定める管理共有物に該当するから、被告が独自の見解に基づいてAとの地域熱供給契約を否定し、放熱器を撤去し、電気暖房給湯工事を実施した行為は、本件組合規約15条に違反するものであり、かつ、区分所有者の総意によって運営される団地内の共同生活の秩序を無視するものであるから、法6条に定める共同の利益に反する行為にも該る。
三 被告の反論
 1 原告の主張1(一)及び同2に対して
 「X1町団地1・2号棟住宅管理組合」、「X1町団地3・4号棟住宅管理組合」及び「X1町団地5号棟住宅管理組合」の3管理組合を1つの管理組合に統合する手続が履践された事実はない。
 したがって、原告の当事者適格の基礎となる本件管理組合及び本件組合規約成立の事実が認められないから、本件訴えは不適法である。
 2 原告の主張1(二)に対して
 被告に対する本件訴訟提起を決めたとされる、平成4年7月26日開催の本件管理組合の総会は、被告提出の弁明書が各組合員に配付されなかったなど、公正に開催されたとは言い難い。また、上総会決議で決められた内容は、本件管理組合が今後も被告と解決のための話合いを続け、その都度組合員に交渉経過を説明し、最終的に話合いが決裂した場合には訴訟提起も止むを得ないというものであったにもかかわらず、本件管理組合はその後被告と1回しか話合いの機会を持たず、かつ交渉経過を各組合員に報告しないまま、本件訴訟を提起している。さらに、本件管理組合は、被告に対し本訴を提起した旨を各組合員に報告していない。
 3 原告の主張3に対して
 被告の行った電気暖房工事は、住戸内にエアコン、暖房機及び温水器を設置し、バルコニーにエアコン室外機を設置するという程度のことであって、近隣に影響を及ぼすものではないから、本件修繕等に関する協定4条1号に該るものではない。
 4 原告の主張4(一)に対して
 本件管理組合の各組合員が、直ちに皆、被告と同様の電化システムを採用するとは考えられないので、Bの給電が直ちに不足するという事態は考えにくい。仮に、給電が不足して給電設備の拡張が必要になったとしても、少なくともB所有部分の設備の取替及び改修については、Bがその費用を負担するものであって、本件管理組合の組合員の負担にはならない。
 5 原告の主張4(二)に対して
 X1町団地の各住戸とAとの地域熱供給契約には、本件管理組合自体は何ら関与していない。また、Aの地域熱供給を受けることは、住宅の分譲又は入居の条件にもなっていない。したがって、上供給を受けないことは、本件管理組合とは何らかかわりのないことである。
 本件組合規約中に、Aの地域熱供給システムに触れた規定はないのであって、上熱供給システムは管理共有物に該るものではない。
第三 争点に対する判断
 一 本件管理規約の成立について(原告の主張2及び被告の反論1関係)
 原告の当事者適格(原告の主張1(一)及び被告の反論1関係)については、本件管理組合及び本件管理規約の成立が基礎になるから、まず本件管理組合及び本件管理規約が適法に成立したものかどうかについて(そして併せて本件修繕等に関する協定及び本件秩序維持に関する協定が適法に成立したものかどうかについても)、以下に検討することとする。
  1 証拠(甲10、11、23、29、30、証人C、承継前原告X3本人)及び弁論の全趣旨によれば以下の各事実が認められる。
   (一) ○○○住宅供給公社は、昭和53年6月12日、X1町団地の1ないし5号棟所在の各住居の入居予定者のために、入居説明会を開催した。上入居説明会において、上団地の1・2号棟入居予定者からなるX1町団地1・2号棟住宅管理組合、3・4号棟入居予定者からなるX1町団地3・4号棟住宅管理組合、5号棟入居予定者からなるX1町団地5号棟住宅管理組合が、それぞれ設立された。
   (二) その際に、前記三管理組合は、各組合毎に組合規約、修繕等に関する協定及び秩序維持に関する協定をそれぞれ定めたが、その内容は、各組合とも共通のものであった。
   (三) 前記三管理組合は、それぞれ役員を選任し、予算も別個に作成していたが、その後も各管理組合の総会は一貫して同一日時、同一場所で開催されてきた。
   (四) 昭和62年5月10日、前記三管理組合は合同して総会を開催し、区分所有者総数309名中委任状によって代理人を選任したものを含め246名の出席のもと、本件管理組合に統合する旨の総会決議を行った。本件管理組合の組合規約及び各種協定は、前記三管理組合のそれと同じものが、一部修正の上、転用されることになった。
  2 上認定事実によれば、本件管理組合並びに本件組合規約、本件修繕等に関する協定及び本件秩序維持に関する協定は、いずれも適法に成立したものということができる。
 二 原告の当事者適格について
  1 証拠(甲2、3の2、19、20、乙22の1、2、23、140、承継前原告X3本人)によれば、以下の各事実が認められる。
   (一) 本件管理組合は、平成4年7月14日ころ、被告の本件組合規約違反について協議するための臨時総会を同月26日に招集すべく、開催通知を各組合員に配付し、併せて議案事項及び経過説明書並びに総会に出席できない組合員のための委任状を配付した。
   (二) 上臨時総会に先立ち、被告から弁明書が本件管理組合に提出されたが、本件管理組合は、これを事実に反するものとして各組合員に配付することを拒否した上、平成4年7月26日開催の臨時総会の場で、被告に対し口頭で弁明の機会を与えた。
   (三) しかしながら、被告は弁明書の配付が拒否されたことを理由に、上臨時総会の場で口頭での弁明をすることを拒絶した。
   (四) 本件管理組合は、上臨時総会において、今後も被告と協議を続けるが、最終的に決裂した場合には訴訟をも辞さない旨決議した。
   (五) 本件管理組合の理事らは、平成4年9月6日に被告と協議を行ったが、折り合いはつかなかった。
   (六) これを受けて、本件管理組合の理事会は、平成4年10月5日、被告に対し、訴訟を提起する旨決議した。
   (七) 本件管理組合は、平成6年3月24日、各組合員に対し、被告を相手として、本件訴えを提起したこと及び訴訟の経過について書面で報告した。
  2 上認定事実よれば、承継前原告X3は、平成4年7月26日の本件管理組合の総会の議決に基づいて、本件訴えを提起しているものといえるから、法26条4項により、訴え提起時において、原告適格が肯定される。
 確かに、上総会において、訴えを提起するにあたっては、誰を原告とするか明確に議決したような事情は窺えない。しかしながら、このような場合、特段の事情のない限り、訴え提起に賛成した者の意思としては、本件管理組合の理事長(これは本件組合規約41条により、法に定めるところの管理者とされている。)を原告とする意思(つまり当時は承継前原告X3を原告とする意思)であったというべきであるところ、本件において上特段の事情は認められない。
  3 なお、この点につき、被告は種々異論を展開するので、以下に検討することとする。
   (一) まず、被告は、臨時総会の開催に際しては、被告から事前に提出のあった弁明書が、各組合員に配付されなかった等手続が公正に行われなかった旨主張する。
 確かに、臨時総会開催に関する事実経過は前示のとおりであり、本件管理組合の措置は妥当性を欠くうらみがあると言わざるを得ない。しかしながら、被告は臨時総会において、少なくとも口頭で弁明を行う機会を与えられていたにもかかわらず、自らこれを拒否したものであって、被告にも一応弁明の機会は保障されていたのであるから、結局、本件において臨時総会の議決の効力に影響を及ぼすような手続的な瑕疵は認められない。
   (二) また、被告は、本件管理組合が、被告と1回の協議を行ったのみで、かつ、交渉の経過を各組合員に説明しないまま訴えを提起したことを非難するが、臨時総会で訴訟の提起を容認する旨の議決がされた時点で、既に承継前原告X3に原告適格は付与されたというべきであって、その後に、本件管理組合又は理事会が被告との協議を何度重ねるか、また、協議の結果を各組合員に報告するかどうかは、承継前原告X3の原告適格に影響を及ぼすものではない。
   (三) さらに、被告は、本件管理組合が、訴訟を提起したことを各組合員に速やかに報告しなかったことも論難するが、前示のように、本件管理組合は、遅ればせながらも訴訟の提起を各組合員に報告しているのであるし、報告の遅滞が直ちに当事者適格に関し、法律上影響を及ぼすものでもない。
  4 したがって、訴え提起時には、本件管理組合の当時の理事長であった承継前原告X3に、原告適格が存したものである。そして、平成8年5月19日開催の理事会において、理事長が同人から原告に交代したことに伴い、現理事長である原告が、本件に関する訴訟追行権を適法に承継したものである。
 三 電気温水器及び蓄熱型電気暖房器の除去請求関係その1(原告の主張4(一)及び被告の反論4関連−他の住戸が電気利用を阻害されることを根拠とする点について)
  1 原告は、被告と電気幹線を共通にする住戸は、被告の電気温水器及び蓄熱型電気暖房器の利用により、それぞれの電気の利用について制約を受け、Bとの供給契約どおりの内容の電気の利用を阻害されるから、被告が電気温水器及び蓄熱型電気暖房器を設置した行為は、本件修繕等に関する協定4条3号に該る旨主張する。
  2 しかしながら、被告の電気温水器及び蓄熱型電気暖房器の利用により、被告と電気幹線を共通にする住戸が現に何らかの具体的な不利益を被っていることを認めるに足りる証拠はない。
  3 かえって、証拠(乙32、41、167の1ないし6、証人D)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実を認めることができる。
   (一) 被告の深夜電力利用(午後11時から翌朝7時までの電力利用。)を考えても、他の住戸の電力需要からすれば、現在の給電設備はなお十分な余裕があり、被告がオール電化システムを採用したことにより、給電不足という事態に陥るものではない。
   (二) 被告の行った電化システムは難しく、費用もかさむことから、本件管理組合の他の組合員が被告に追随して、同様の電化システムを採用するという可能性は少ない。
   (三) それゆえ、将来的にも、現在のBの給電設備で不都合が生じるという具体的な危険性は乏しい。
  4 したがって、被告の行為によって、他の住戸が電気利用を阻害されることを根拠とする原告の主張は、理由がない。被告が単に他の住戸より多くの電力を使用するので、今後の電力の利用状況如何によっては、将来、給電不足が起こる可能性もないわけではないという程度の、蓋然性の乏しい、潜在的かつ抽象的な危険では、不十分である。
 四 電気温水器及び蓄熱型電気暖房器の除去請求関係その2(原告の主張4(二)及び被告の反論5関連−被告がAの地域熱供給システムを採用しないことを根拠とする点について)
  1 証拠(甲9、12、13、20、22ないし24、31、35、乙182、185、186、証人E、同F)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。
   (一) X1町団地が分譲された際に配付されたパンフレットには、同団地にはAの地域熱供給システムによる高温水の供給を受ける設備が整っている旨の記載がされており、現に団地入居者は、昭和53年6月30日の入居開始以来、上システムにしたがい、Aから高温水の供給を受けてきた。
   (二) X1町団地敷地内にはAが圧送する高温水を暖房用温水及び給湯温水に熱交換するサブステーションが設置され、ここで熱交換された暖房用温水はポンプで圧送され、地下埋設ピット内配管、横走り主管、堅管、枝管、立上げ管、放熱器等を循環貫流し、各住戸をまんべんなく温めることになっている。
   (三) Aの地域熱供給システムでは、定額制暖房料金制度が採用されている。即ち、X1町団地内の契約住戸は、その使用料の多寡にかかわらず、毎月暖房床面積に応じた一定額を支払うものとされている。これは、X1町団地のような集合住宅においては各住戸の隔壁、天井、床等から各住戸間相互に熱移動があるため、中間の住戸と外壁の多い住戸(妻側及び最上、下階の住戸)では、暖房の所要熱量に大きな差があり、従量制度にすると居住箇所によって大きな不公平が生ずるために採用されたものである。
   (四) しかしながら、定額制では利用者が熱使用を節約しても料金に反映されないので、これを補完するため、棟全体で使用される暖房熱量(実績熱量)が、定額制暖房の基準熱量に比して、小さい場合には、その分を還付するという棟毎従量制が設けられている。
   (五) Aとの熱供給契約を締結しているのは、入居者個人であって、本件管理組合ではないが、昭和58年12月28日、X1町団地1・2・5号棟の代表者及び同3・4号棟の代表者は、それぞれ熱使用代表者として署名押印の上、Aと熱供給契約に関する覚書を取り交わした。
 以来、入居者を代表するものとして指定された熱使用者代表者がAとの棟毎従量契約による還付金受領の手続を担当することになった。そして昭和62年5月25日には、熱使用者代表者の名義が本件管理組合の専務理事Gに変更された。現在の熱使用代表者は承継前原告X3である。
   (六) 被告が行ったようにAが各住戸内に設置した放熱器を取り外した場合、放熱器に至る暖房用温水は循環しなくなり、枝管から立上げ管までの部分に滞留するという問題が生じるおそれなしとしないところである。そして、滞留により、暖房用の温水の質が悪化すると、ひどい場合には管に穴が開き、階下に温水が漏れるという事態すら生じかねない危険をもはらんでいる。
 しかしながら、この点については、暖房用温水の中に、防錆材を含有させることによって、配管からの漏水という事態が生じないような措置が採られているものである。
 また、滞留という問題は、長期不在で暖房器具を使用しない住戸が出た場合にも生じうるもので、ひとり、被告の行った工事によってのみ生ずる問題ではない。長期不在の住戸がある場合に、Aが年に1、2回程度、立ち入り検査を行い、放熱器のバルブを開くことで対処できるのと同様、本件のように放熱器が除去されてしまった場合でも年に1、2回程度Aの保守点検を受けることで対処は可能である。
  2 原告は、Aの地域熱供給システムが、全体として本件管理組合の管理共有物に該当するとして、本件組合規約15条を援用する。
 確かに前示認定事実によれば、Aの地域熱供給システムはX1町団地の建物全体を温める仕組みとなっており、団地の居住者は、本来この地域熱供給システムを利用することが予定されていたということができる。
 しかしながら、本件管理組合自体は、Aとの熱供給契約の当事者ではないのであるし、また、Aの地域熱供給システムを採用することが、住宅の分譲条件又は入居条件として定められていたり、本件組合規約その他の協定で組合員に義務づけられていたことを認めるに足りる証拠はないのであるから、原告主張のように、Aの地域熱供給システム自体を本件組合規約15条にいう「管理共有物」と解するのは、いささか無理のある解釈と言わざを得ない。
  3(一) また、原告は、被告がAとの熱供給契約を否定していること自体が、法6条にいう「共同の利益に反する」行為であるとも主張する。
   (二) しかしながら、Aの地域熱供給システムを採用することが、住宅の分譲条件又は入居条件として定められていたり、本件組合規約その他の協定で、組合員に義務づけられていたことを認めるに足る証拠はないことは前記のとおりであって、Aとの熱供給契約を否定することが直ちに共同の利益に反するものではない。
   (三) 被告が、周囲の住戸からの熱移動により暖房料金相当額の利得を幾ぼくか受けていたり、他の住戸が、被告の行為により、棟毎従量制にしたがって還付されるべき金額等に関して、いささかの損失を被ることが真実あったとしても、上の利得又は損失は、そもそも各住戸ごとの暖房ではなく建物全体を暖房するというAの地域熱供給システムを採用する以上は、不可避の結果なのであって(還付損の問題は、不在住戸がある場合にも必然的に生じる問題である。)、当初から当然に予期された問題と言わざるを得ない。したがって、上の利得又は損失は、なお受忍限度内に留まるものであって、これをもって被告の行為が共同の利益に反するとは言えない。
   (四) さらに、前示のように滞留の点についても、少なくとも漏水防止の措置は採られているのであるし、その他、年に1、2回程度の保守点検を実施することによって、各種問題についても対処が可能と認められるのであるから、滞留の危険という点を考慮しても、被告の行為が法6条にいう「共同の利益に反する」行為に該るとまでは言うことはできない。
   (五) したがって、この点に関する原告の主張も理由がない。
  4 以上のとおり、被告がAの地域熱供給システムを採用しないことを根拠とする原告の除去請求もまた理由がない。
 五 不法行為を理由とする損害賠償請求(不当抗争)について
 前示認定によれば、原告の被告に対する電気温水器及び蓄熱型電気暖房器の除去請求はいずれも理由がない。
 してみれば、この点を巡る本件管理組合と被告との一連の交渉において被告の取ってきた態度をもって不当抗争ということはできない。
 したがって、原告の被告に対する損害賠償請求は、その余の点について判断を加えるまでもなく、理由がない。
第四 結論
 よって、原告の請求はいずれも理由がない。
札幌地方裁判所民事第2部
裁判官 田 代 雅 彦

別紙

目録
(一棟の建物の表示)
所   在 札幌市○○区○○町3丁目1番地34
建物の番号 ○町団地4号棟
構   造 鉄筋コンクリート造 陸屋根11階建
床 面 積 1階  26.93平方メートル
      2階 588.67平方メートル
      3階 588.67平方メートル
      4階 588.67平方メートル
      5階 588.67平方メートル
      6階 588.67平方メートル
      7階 588.67平方メートル
      8階 588.67平方メートル
      9階 588.67平方メートル
      10階 588.67平方メートル
      11階 588.67平方メートル
(敷地権の目的たる土地の表示)
土地の符号 一
所在及び地番 札幌市○○区○○町3丁目1番34
地   目 宅地
地   積 1万8519.35平方メートル
(専有部分の建物の表示)
家屋番号 ○○町3丁目1番34の284
建物の番号 4-905号
種   類 居宅
構   造 鉄筋コンクリート造 1階建
床 面 積 81.72平方メートル(9階部分)





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