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マンション管理関係判例


44  建築基準法違反と瑕疵


平成13年 5月23日 判例集未掲載 東京地判

判決要旨
本件は、マンションの区分所有者である原告が、マンションの建物部分の上水道から赤錆による赤水が出る瑕疵は、マンション分譲業者である被告の不法行為によるものであり、また本件紛争発生以後の被告の対応が損害を拡大させたとして、被告に対し、不法行為あるいは瑕疵担保責任に基づき、損害賠償を求めた事案であり、マンションの設計施工を担当した業者も訴訟に補助参加した。判決は、本件マンションは配管工事の際の施工技術に問題があり、その結果配管が腐食、赤水が出ることになったのであるから、売買目的物に隠れた瑕疵があったということができ、これが補修されたとしても、売主である被告は瑕疵担保に基づく損害賠償責任を負うと判示し、瑕疵担保に基づく損害賠償責任の限度で被告の責任を認めた事例。


判決日・当事者
〔平成13年5月23日判決言渡・同日原本領収 裁判所書記官 柳橋 さくら 平成6年(ワ)第14188号 損害賠償請求事件 口頭弁論終結日 平成13年2月9日〕

《当事者》
東京都
  原     告      X
  同訴訟代理人弁護士    米 川 長 平
東京都○区○○×丁目×番××号
  被     告      Y1
  同代表者代表取締役    Y2
  同訴訟代理人弁護士    坂 東 司 朗
  同            坂 東 規 子
  同            池 田   紳
  同            石 田 香 苗
  同            松 山 憲 秀
東京都○区○×丁目××番×号
  被告補助参加人      Z1
  同代表者代表取締役    Z2
  同訴訟代理人弁護士    高 山 泰 正
  同            中 島   皓
  同            成 瀬 眞 康


【主 文】
 1 被告は原告に対し、245万2,204円及びこれに対する平成5年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求を棄却する。
 3 訴訟費用はこれを10分し、その7を原告の負担とし、その余については被告の負担とする。
 4 本判決は主文第2項を除き、仮に執行することができる。


【事実及び理由】
第1 請求
 1 被告は原告に対し、4,589万5,114円及びこれに対する平成5年6月21日から支払済みに至るまで、年5分の割合による金員を支払え。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
 3 仮執行宣言
第2 事案の概要及び争点
 1 本件は、別紙物件目録記載の建物部分(マンションの一室、以下、本件建物部分という。)の所有者、居住者である原告が、本件建物部分の上水道から赤錆が出る(以下、赤水という。)瑕疵は被告の不法行為によるものであり、また本件における被告の対応がさらに損害を拡大させたとして、被告に対し、不法行為あるいは瑕疵担保責任に基づき、損害の賠償を求めた事案であり、マンションの設計施工を担当した補助参加人が被告に補助参加している。
 なお、本件においては訴訟中に和解による解決への一環としてマンション全体についての補修工事がなされており、通常の訴訟とはいささか異なった経過を辿っている。
 2 当事者間に争いのない事実及び証拠上あるいは弁論の全趣旨から容易に認められる事実。
  (1) 被告はマンション建設販売等を目的とする会社であり、補助参加人は本件建物部分の存在するマンション(以下、本件マンションという。)の設計、施工を担当した会社である。
 独身の会社員である原告は、本件建物部分を、平成3年4月25日付で被告から購入し、同年7月7日から居住している。
 原告は、マンションの開発あるいは販売を行う会社に勤務しており、一級建築士と宅地建物取引主任者の資格を有している。
  (2) 平成3年11月9日の3カ月点検の際、原告は、本件建物部分の上水道から赤水が出ていることを被告に告げた。
  (3) 平成6年4月16日に株式会社Jリフォームによりなされた赤水についての調査(以下、Jリフォームによる調査という。)によれば、本件マンションの給水管は硬質塩化ビニールライニング鋼管で、管端に管端コアを挿入して配管されていた。
 内視鏡検査では、専用部分の小口径の配管に腐食によるねじ部の錆の発生が見られ、水栓金具接合部、バルブ接合部等に錆の発生が見られた。一部に管端コア未挿入の箇所もあった。
 小口径の配管の破壊調査では、ねじ部における錆によるライニングの膨らみ(ブリスター)や剥離はないものの、錆の発生が見られた。バルブ等の接合部ではねじ山の減退や欠落箇所が見られた。また水道メーター廻りでは、青銅製のメーター継手、仕切弁、減圧弁と鋼管の接合部分に使用されているニップル継手に管端コアが挿入されていなかった。
  (4) 原告は、平成5年6月10日、被告に対し、10日以内に抜本的な上水道管及び給湯設備の交換工事に着手することを求め、誠意ある対応がなされないときには本件建物部分についての売買契約を解除する旨告げた。
  (5) 平成11年8月から9月にかけて、被告あるいは補助参加人の費用で、本件建物部分を含む本件マンション全体の上下水道管及び給湯管の交換工事が行われた。この工事については、本件の和解による解決の一環とするべく、本件の訴訟手続中に当事者により打ち合わせが重ねられ、実現したものである。
 2 本件訴訟の経緯(当裁判所に顕著な事実)
  (1) 原告は、当初請求原因として、上水道管から赤水が出ている隠れた瑕疵のために本件建物部分を購入した目的は達成しえないため売買契約を解除したとして、解除に基づく損害賠償及び原状回復として、あるいは被告が購入目的を達成しえないような本件建物部分を売却したことは不法行為に当たるとして、
   ア 本件建物部分の代金額相当額として3,534万8,000円
   イ 売買の際の諸経費、購入後の管理費、修繕積立金、税金、ローン利息等の合計額相当額として557万7,226円
   ウ 赤水による精神的苦痛及びこの原因除去のために原告が、筆舌に尽くしがたい努力をしてきたのに被告がこれに応じなかったことによる精神的苦痛の慰謝料として400万円
   エ 原告が話し合いによる解決に向けて努力して来たのに被告が誠意ある対応をせず、やむなく代理人弁護士に依頼せざるを得なくなったとして、弁護士費用として損害額の約10パーセント相当額である400万円
の合計4,892万5,226円及びこれに対する売買契約解除後である平成5年6月21日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた。
  (2) 被告は、赤水の原因除去は修繕により可能であるから、これにより原告がその購入目的を達成しえないということはできないとして売買契約の解除の効力を争い、また赤水発生の主原因は水道水の高い塩素濃度にあり、本件マンションの給水設備は通常の性能を有しているから不法行為責任を負うものではないとしてこの点についても争い、これらの点、殊に瑕疵の原因や、原告が赤水を指摘してからの交渉経過等を争点として審理が進行した。
  (3) その後給水設備の仕様や本件建物部分における上水道水の水質、補修方法等についての鑑定がなされ、これを受けて補助参加人から更生管工法による補修の提案があったが、補修方法について原告がこれを受け入れず、鑑定人に対する証人尋問、原告本人尋問が行われた。
 その間に原告の請求原因が不完全履行に基づく売買契約の解除、瑕疵担保責任に基づく売買契約の解除、不法行為責任と再構成された。
  (4) 平成9年12月になり、被告及び被告補助参加人から本件マンション全体での配管替えによる補修による解決への提案がなされ、弁論準備手続のなかで、約1年半にわたり協議がなされた。
 この協議においては、当初原告の損害賠償金の確定を先にして欲しい、他の住人への損害賠償を保証して欲しい、といった原告の要請についての調整、給湯管の交換を行うか否かを含む具体的な施工の内容、また施工先について、補助参加人によって行われることを原告側が拒否したことから、その選定や、代替案としての設計事務所による監理の下補助参加人による施工を行うことについての検討や、その対案として原告からなされた設計事務所にも責任をもってもらうための連名の保証についての検討、工事についての将来の保証等が問題となり、また本件マンションの管理組合理事長を務めていた原告及びその代理人弁護士による他の住人への連絡調整もなされた。
 その結果、給湯管の交換も行うことになり、工事はO組が担当することになった。また原告に対する損害賠償額の確定は工事後ということになった。そして本件マンションの管理組合理事長であった原告及びその代理人によって他の住人から工事への同意を得ることができ、平成11年8月から9月にかけて、本件建物部分を含むマンション全体の上下水道管及び給湯管の交換工事が行われた。
  (5) 最後に原告の損害の賠償についての問題が残った。原告と被告との間の訴訟のなかで本件マンション全体の補修がなされたという特殊な経過に鑑み、このことについての原告及び原告代理人の努力を考慮した形での当裁判所の和解勧告に対し、被告からも具体的な和解金支払いの提案やその金額について当裁判所の調整に応じる旨の回答もなされたが、原告が損害賠償額について譲歩しなかったため、和解が調わず、最終的に本件の請求の趣旨及び請求原因について3記載のような内容に変更がなされ、本判決に至った。
 3 争点
  (1) 原告は、
   ア 本件建物件部分の給水設備について、被告は、補助参加人の設計施工のもとで、設計図書及び見積書において管端コアを挿入できない樹脂コーティングニップル継手を使用することを明記しており、それによって赤水を発生させる構造の工事をおこなわせたもので、このような仕様により赤水が発生することを認識していた。しかも、本件マンションの建築工事着工後の平成元年10月ころ、塩化ビニールライニング鋼管ニップル継手が発売されていても、慣行上これを使用できず、あえて樹脂コーティングニップル継手を使用したものである(なお、被告は竣工図においては塩化ビニールライニング鋼管ニップル継手を使用したとしている。)。したがって、被告には赤水の発生について認識あるいは少なくとも認識可能性があったから、このような工事は不法行為を構成する。
   イ 被告はマンション業者であり、その親会社はマンション等の販売雑誌を発行しており、マンションについての技術的知識は十分に有している。にもかかわらず、Jリフォームによる調査の結果によれば、被告はマンションの給水設備の補修をすべきであったにもかかわらず、本件訴訟において徹底的に争い、訴訟の最終段階であった平成9年12月に至って初めて補修を提案し、その後多数の期日を経て、補修工事を完了したもので、その間、自らの工事の問題を解決するというよりは故意に補修工事の範囲を少なくしようとして工事業者の選定に時間を費やし、実施を遅延させてきた。被告の専門的知識、技術的知識を考慮すれば、早期に補修をせず本件訴訟を争ったこと、補修に際しても実施を遅延させたことは不法行為を構成する。
   ウ 被告は本件建物部分の給水設備についてアで述べたように不適切な材料を使用していたものであり、その結果赤水が発生したものであるから、瑕疵担保責任を負う。
と主張、
   エ これらの不法行為あるいは瑕疵によって原告は本件訴訟提起を余儀なくされ、被告が徹底的に争ったことから、
    (ア)訴訟提起前の実費として、フィルム、現像プリント代、水質検査費用、ビデオテープ費用、内容証明郵便代、レンタルビデオカメラ及びビデオデッキ費用、メーターボックス原寸模型及びその撤去費用、交通費等41万5,534円、訴訟提起後の実費として調査等費用139万3,000円、合計180万8,534円
    (イ) 訴訟についての実費として、印紙、切手代、鑑定費用60万9,200円、弁護士費用として2,007万円(着手金669万円、成功報酬1,338万円)、合計2,067万9,200円
 本件においては、本件マンション全体の給水管について補修が行われており、これにかかった費用は1億5,000万円であるとみられ、この金額が本件訴訟により実現された損害賠償金額であるから、この金額に対応した弁護士報酬規定による着手金、成功報酬の合計額が損害として認められるべきである。
    (ウ) 平成5年12月ころに本件建物部分を2,890万円で売却できず、現在の価値1,440万円との差額1,450万円、その際一時居住用に手当した賃借物件の賃料額90万円、合計1,540万円
    (エ) 上水道管からの赤水という瑕疵による精神的苦痛及びこの原因除去のために原告が、筆舌に尽くしがたい努力をしてきたのに被告がこれに応じなかったうえ、訴訟においても徹底的に争い、最終段階で補修を提案して以後も実施を遅延させたことによる精神的苦痛の慰謝料として800万円
の合計4,588万7,734円の損害賠償及び遅延損害金の支払いを求める。
  (2) これに対し被告は、
   ア 設計図書等で樹脂コーティングニップル継手を使用することを明記していない。被告は、Jリフォームによる調査が行われるまで、この事実を知らなかった。
 樹脂コーティングニップル継手は給排水設備基準であるHASS206に規準化されている一般的部材であるから、その使用はJIS規格及びHASS206に違反するものではなく、したがってこれを使用し、管端コア未挿入の工事がなされたとしても、被告において赤水の発生についての認識あるいはその可能性があったとはいえない。
   イ 被告は、本件訴訟提起前に原告からのクレームに対し、事実確認、調査を実施し、Jリフォームの調査結果に基づき適切と考えられる修繕方法を提示している。本件訴訟において鑑定結果が出た後も、適切と考えられる補修の提案を行い、原告がこれに応じなかったことから、原告の主張する配管替えによる方法での補修を行ったもので、被告の対応が故意に補修工事の範囲を少なくしようとして工事業者の選定に時間を費やし、実施を遅延させてきたものではない。
と主張、不法行為の成立を争い、また瑕疵担保責任についても、
   ウ 樹脂コーティングニップル継手は一般的部材であり、その使用をもって隠れた瑕疵と捕らえることはできない。仮に被告に瑕疵担保責任があるとしても、その際の損害賠償の範囲は信頼利益に止まる。
として争い、原告が主張する損害額についても、
   エ 訴訟提起前の実費のうちレンタルビデオカメラ及びビデオデッキ費用、メーターボックス原寸模型及びその撤去費用、交通費については相当因果関係を欠くものである。
 鑑定費用については鑑定に当たり原告と被告で折半する合意がなされていた。
 弁護士費用の算定について補修工事費を基準とするのは相当ではない。
 原告が平成5年12月ころに本件建物部分を売却できなかったことによる差額相当額等は相当因果関係を欠く損害である。
 給水管の補修がなされていることを考慮すると慰謝料として800万円は高額に過ぎる。
としてこれを争う。
  (3) したがって本件の争点は、
   ア 本件マンションの建築工事において被告が樹脂コーティングニップル継手を使用したことが不法行為と評価しうるか。
   イ 被告がJリフォームによる調査の後早期に補修を行わず、本件訴訟において敢えて争い、長期化させ、その後の補修工事についても遅延させたといえるか。その場合、不法行為と評価しうるか。
   ウ 被告において瑕疵担保責任が認められるか。
   エ 被告において、アないしウの責任が認められる場合、被告が賠償すべき損害額はいくらが相当か。
ということになるものと思われる。
第3 証拠
 証拠関係は、本件訴訟記録中の証拠関係目録記載のとおりである。
第4 当裁判所の判断
 1 争点アについて
  (1) 甲1号証、2号証、3号証(乙2号証と同じ)、4号証、5号証(36号証と同じ)、6号証(乙1号証と同じ)、7号証、23号証ないし26号証、40号証、41号証、乙5号証、6号証、8号証ないし13号証、丙1号証ないし3号証、13号証(書証中枝番号のあるものはそれを含む。)、鑑定の結果、鑑定人門井守夫の証言、原告本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。
   ア 水道管の腐食の原因と考えられる大きなものは、水道水には消毒等のためその浄化処理段階で塩素等の薬品が投入されており、これに金属が触れると腐食が生じること、またこのような電解質である水道水の中で異なる金属が接触していると、腐食電流が流れ、腐食することの二つである。
   イ 従来は、水道配管の材料として亜鉛メッキした鋼管と同じく亜鉛メッキした鋳鉄製の継手が用いられていたが、昭和40年代に入ってその腐食が問題となり、40年代後半から内面に樹脂コーティングをした継手(ニップル継手もこれに含まれる。)が使用されるようになった。
 しかし、樹脂ライニング鋼管と樹脂コーティング継手をねじ込みにより接合したとき、管の切口や継手の雌ねじの奥の余った部分に鉄地の露出部分が生じ、そこが腐食する問題が生じた。
 この問題への対処としては、鋼管の切口及び継手の雌ねじ部分の奥に防食剤を塗布する方法、鋼管の切口部分に塩化ビニール性のカバー(管端コア)を付けて接合する方法等があるが、前者についてはその後の環境の変化に伴う水質の悪化やねじ切り、ねじ込みの施工の技術により十分に対応できない問題があり、後者については樹脂と塩化ビニールとの接着ができないため、樹脂コーティングニップル継手に使用できる管端コアは製品化されなかった。
 そのため、N株式会社において平成元年10月から塩化ビニールライニング鋼管ニップル継手が製品化されたが、当初は関西地方を中心としたモニター的販売であり、全国的に発売されたのは平成2年4月からであった。
 他方、S株式会社からは昭和59年から管端コアを内蔵した継手も発売されていた。同社の継手は異種金属管の接合にも対応している。
   ウ 塩化ビニールライニング鋼管ニップル継手のシェア95パーセントを占めるN株式会社によれば、平成2年9月ころの同ニップル継手のシェアは全パイプニップル継手に対して0.9パーセントであり、平成3年5月ころのそれは1.5パーセントであった。
 ちなみに樹脂コーティングニップル継手の平成2年9月ころのシェアは12パーセントであり(うち43パーセントが同社のもの)、平成3年5月ころのそれは16パーセント(うち49パーセントが同社のもの)であった。
 また、C株式会社によれば、樹脂コーティングニップル継手の平成2年9月ころのシェアは25パーセントであり(うち5パーセントが同社のもの)、平成3年5月ころのそれは23パーセント(うち4パーセントが同社のもの)であった。
 なお、両者においても、昭和61年に日本水道協会規格:JWWAを得て平成元年4月に建設省仕様として新たに型式登録されたコア組込型の継手を発売している。
   エ 1982年に改訂された空気調和・衛生工学会の規格である給排水設備基準(HASS206)によれば、水道用の金属管として、亜鉛めっき鋼管(規格はJIS G3442)、硬質塩化ビニールライニング鋼管(規格はJWWA K116)等が挙げられ、継手としてねじ込み式可鍛鋳鉄製管継手(規格はJIS B2301)、ねじ込み式鋼管製管継手(規格はJIS B2302)、樹脂コーティング管継手(規格はJWWA K117)等が挙げられている。
   オ 本件マンションの衛生設備特記仕様書には、給水管のうち共用部埋設管、共用部露出管、専用部配管、洗濯機用水栓、便所用水栓、立上り部配管について、塩化ビニールライニング鋼管(VLP管)を使用する旨が記載され、これを使用する場合には樹脂製管端コアを使用するよう指示されている。また本件マンションの給排水衛生設備工事竣工図においても給水管については専用部分、共用部分ともに塩化ビニールライニング鋼管仕様とされている。
 継手類についてはいずれの書面においても格別の仕様は定められていない。
   カ 本件マンションの工事が始められたのは平成元年12月であり、配管工事は平成2年7月から始められ、平成3年5月に終了した。
   キ 本件マンションの給水管においては、切断面あるいは継手ねじ部の腐食による錆が部分的に発生していた。
 屋上に設置された高置水槽廻りの各階への給水本管の切断面にも腐食が見られた。この給水本管は大口径の管であり、このような大口径の管においては管端コアは使用しない。
 腐食が激しいのは、水道メーター廻りのニップル継手を用いた接続部であった。
  (2) 前記争いのない事実及び以上の認定事実によれば、本件マンションにおいては、竣工後6ヵ月を経過しない段階で上水道管の継手部分の切断面やねじ部の腐食により赤水が出たものということができる。
 原告は、管端コアが使用されていなかったためであるとし、設計図書及び見積書において樹脂コーティングニップル継手を使用することを明記しており、この場合管端コアを挿入できないことになるから、その結果構造上当然に継手部分の切断面やねじ部に腐食が生じたものであり、そもそも赤水を発生させる構造の工事をおこなわせたものであるとする。先に認定したとおり、本件マンションの衛生設備特記仕様書には継手類について格別の仕様は定められていないものの、配管について塩化ビニールライニング鋼管(VLP管)を使用する旨が記載され、これを使用する場合には樹脂製管端コアを使用するよう指示していること、本件において被告が、樹脂コーティングニップル継手は給排水設備基準であるHASS206に規準化されている一般的部材であり、その使用に問題はない、また樹脂コーティングニップル継手に使用できる管端コアは接着上の問題から製品化されていない(したがって使用できない。)と主張していることから、このような主張となったものと理解される。
 しかしながら、水道管の腐食の原因として考えられる2つの現像はいずれも管の金属部分が水道水に触れていることから生じるものであること、その対策は、要は金属部分が水道水に触れないようにすることに尽きるもので、管の切口や継手の雌ねじの奥の余った部分に金属の露出部分が生じることの無いように、管の切断やねじ切りの階段、ねじ込みの段階で留意することが第一であり、管端コアを使用したり、塩化ビニールライニング鋼管との接着が可能な塩化ビニールライニング鋼管継手や、管端コアを内蔵した継手が製品化されているのは、まさにこのためであること、これらの対策部材を使用したとしても、管の切断方法による管の内径の変化や管のライニング部分への影響、ねじ切り加工時の管の絞りの問題やねじの偏心の問題、管内径のばらつき、締付時のトルクやねじ込み過ぎといった問題に留意することが必要であることに加え、本件マンションにおいては、管端コアを使用しない大口径の給水本管においても切断部に腐食がみられること、さらに、これらの対策部材を使用しない場合であっても、本件マンションのように竣工後もまもなく赤水が発生するケースは稀であることを考慮すると、このような対策部材の使用以前の問題というべき、管の切断やねじ切りの段階、ねじ込みの段階における施工技術に問題があったためであるというべきである。
 確かに、原告が指摘するとおり、接着の問題から管端コアを使用できないのであれば、市販の継手を用いず塩化ビニールライニング鋼管継手や、管端コアを内蔵した継手といった対策部材を使用するか、原告が甲31号証で作成したように市販の継手を使用せず、塩化ビニールライニング鋼管を加工して継手を作成することが望ましいことはいうまでもないことであるうえ、被告が当初主張していたように水道水の水質に問題があったというのであればより望ましいことであることはいうまでもないが、水道水の水質の問題があったとまで証拠上認められず、また被告がその点について認識していたかどうかについても同様であること、対策部材についても、前記認定事実によれば、本件マンションの建築当時はまだまだ一般化した部材とは言えず、平成4年3月号の雑誌「設備と管理」の特集記事(甲24号証)となるようなものであったこと、後述するように被告もまた管端コアが使用されているものと考えていたことを考慮すれば、本件マンションにおける被告の要求仕様をもって被告において赤水が早期に出る可能性を認識しあるいはその可能性があったということはできないから、この点を理由とする原告の不法行為の主張を容れることはできない。
 3 争点イについて
  (1) 甲3号証(乙2号証と同じ)、11号証ないし18号証、29号証、30号証、40号証、41号証、53号証、乙5号証、6号証、14号証(書証中枝番号のあるものはそれを含む。)、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件訴訟までの経緯について以下の事実が認められる。
   ア 平成3年11月9日の3カ月点検の際に赤水のことを修繕カードに記載した原告は、翌平成4年2月2日、管理会社である株式会社Z2のAに修繕カード記載の指摘について連絡がない旨を伝え、その後も何度か赤水の件について連絡がない旨を伝えた。
   イ 平成4年3月26日、原告は被告の営業三課のBに連絡し、株式会社Z2が適切な対応を行うよう要請した。その後株式会社Z2からは業者に連絡させる旨連絡があったが、業者からは連絡はなかった。そこで原告は同年4月8日に被告の営業三課のC課長に経過を説明、被告が今後対応することを要請したところ、同月25日、C課長やZ3の担当者及び補助参加人の設備関係の下請業者らが赤水について確認をした。
   ウ 同年5月25日、本件マンションの専有部分の給水管について高圧洗浄がなされた。
 同年6月13日、補助参加人及び被告担当者、設備関係の業者らによる調査がなされ、受水槽、高架水槽、給水管等を確認したうえ、本件建物部分の各水栓の給水管立ち上がり部分について確認した。この結果について補助参加人から被告に宛てて報告書(乙5号証)が提出された。
 同年7月18日、さらに赤水が出たということで受水槽、高架水槽の確認、水栓接続継手等の確認がなされた。
 水質検査もなされ、残留塩素が高いという評価とともに補助参加人から被告に宛てて報告書(乙6号証)が提出された。この報告書では、原告の使用量が少ないことも指摘されている。
   エ 同年7月31日、原告は、赤水が止まらないとして被告に対し連絡した。
 原告は、同年10月17日付で、被告に対し、それまでの経緯に加え、未だ赤水が止まらないこと、抜本的な修繕がなされていないこと、被告担当者に5年間の保証書の差入れを要求したが断られたこと等を内容証明郵便で通知し、併せて、都の住宅局から訴訟にすることを助言されたが、訴訟に持ち込むしか対応できないのか経営トップの意見を聞きたいと伝えた。
 その後被告の担当者から数度電話連絡があり、改善を行う旨が述べられたが、同年12月9日、被告の担当者であるD及び補助参加人の担当者が原告を訪問、乙5号証、6号証に則ってこの程度であれば生活に支障はないとしたうえ、他に赤水のクレームをつけている住人はいない、原告のみである等と述べた。これに対し、原告は、それが回答であるなら社長名で文書で回答するよう述べたうえ、給水管の施工図と受水槽内の写真の提出を求めたが、既に無いと回答された。
 同年12月25日、被告のE課長から、事態の重大さを改めて認識したこと、年明け早々に再度調査したいこと、12月9日に問題がないとしたのは従前の調査で異常がなかった、水質検査で残留塩素が高かったこと、通常の生活では支障を来すとは考えられなかったと思ったためであることを理由としていたこと、社長名での回答はできないが、責任をもって対処することを記載した書面が原告に送られた。
   オ 原告は、平成5年1月6日付で、被告の最初の対応が悪く、何度となく見解を翻して徒に時間を費やしているに過ぎないとし、精神的にも受忍限度を超えたとして、売買契約を解除するとともに、2週間以内に回答がない場合には訴訟を提起する旨内容証明郵便で通知し、併せて被告の担当者とはこれ以上話をする気がないことを伝えた。
 被告は、同月21日付の内容証明郵便で、前年の12月25日のE課長の書面とほぼ同じ内容の回答を行い、再度調査のうえ原因究明ができない場合には床下の配管の調査を行い、原因究明のうえ補修工事を行いたいと伝えた。
 その後E課長から数度会いたいとする電話連絡があり、平成4年2月28日、原告はE課長らの訪問を受け、ビデオ撮影の下、いままでの対応の悪さを認めて社長名で詫び状を出すこと、補助参加人による調査で改善されなかったことから、補助参加人には改善能力が無く、今後は他の業者が調査及び手直しを行うこと、1年以上にわたり、何度も調査、手直しをしても改善がなく、前年12月9日には迷惑であるとまで被告の担当者に言われたのであるから、この間の精神的、物理的損害の賠償を求めることを伝えた。
 この要求に対し、被告は、平成4年3月12日付の内容証明郵便で、本件建物部分の水道管の内側を内視鏡で目視する等の再調査を行いたいこと、謝罪文については再調査により事実を確認した後に、損害賠償については補修が完了した後に検討させて欲しいこと、施工会社は補助参加人にしたいことを伝えた。この通知は管理組合宛にもなされた。
 原告は、これを受け、被告がその要求を拒否したものと考えた。
   カ 同年5月9日、原告は、被告のC課長を呼び、被告の考えを再度確認したいこと、社長と直接面談したいことを告げた。C課長は、同月26日、被告の考えは3月12月付の内容証明郵便のとおりであることを伝えた。
 また、同月22日には被告担当者が管理組合理事長、副理事長にも同様の内容を伝えた。
 同年6月6日、本件マンションの管理組合の理事会が開催され、原告が理事に追加されるとともに、原告が給水管改善に係わる訴訟を提起することを提案した。
 同月10日、原告、管理組合のH理事長、M副理事長の3名から依頼を受けた形で、原告代理人が、被告に対し、本件建物部分の赤水の問題は本件建物部分のみならず本件マンション全体の問題であること、10日以内に抜本的な上水道管及び給湯設備の交換工事に着手することを求め、誠意ある対応がなされないときには、原告ら3名は本件建物部分についての売買契約を解除する旨通知し、その場合には原状回復とともに全ての損害について賠償を請求する旨内容証明郵便で通知した。
 被告は、同月17日付で、先に再調査をしたい意向は従前どおり変わらないと回答した。
 原告らは、これを受けて、再調査の必要があるかどうか判断するために従前の調査資料を5日以内に開示すること、再調査が必要であるなら、原告らの指定する第三者による調査を要求し、被告の不誠実な対応に対し生命、身体に対する悪影響に苦慮し断固たる決意をしている旨通知した。
   キ その後原告は、2年目点検に向け、赤水が出ること、排水口の鋺トラップが鋳鉄製のため赤水による貰い錆が出ていることを記載した修繕カード(2枚)を提出した。
 また、管理組合の臨時総会が開催され、訴訟の提起を決議、理事会及び本件マンション建築の際の共同事業主であるZ4を加えたメンバーで構成される赤水対策委員会が発足した。同年8月1日に行われた第1回委員会では、全戸を対象に内視鏡による調査と給水管のサンプルを取ることを原告が提案、Z4が被告と調整し、1カ月で纏めることになった。
 しかし、原告、理事長、副理事長が不在のまま8月7日に行われた第2回委員会において、この3室のみ内視鏡による調査を行い、他は水質検査のみとすることになった。
   ク 補助参加人は、同年8月18日付で、被告に対し、従前の2回の調査では、接合部に管端コアが使用され設計図書どおりに施工されていたこと、水質検査にも問題が無く、受水槽等には2回目の調査で少量の錆が沈殿していたこと、本管から直接引き込んだ水栓の水の鉄分含有率と受水槽等を経た給水竪管末端の水のそれとが同数字であり、建物内の配管部分での鉄分の増加はしていないこと、水道粋の残留塩素が多いことが認められ、施工上の問題はないとの書面を送った。
 この書面は、乙5号証、6号証の報告書に基づくものである。
   ケ 同年9月25日、被告東京支社のF支社長が原告宅を訪問、原告は第2回委員会での調査内容を不服として、修繕カードを出した全戸を調査し、併せて共用部分の配管も調査するよう告げた。会談には副理事長が同席した。原告は、被告、補助参加人、配管業者の3名連名による謝罪文も要求した。
 同年10月30日、被告東京支社のF支社長らが原告宅を再度訪問、ビデオ撮影の下、被告側が、被告役員による原告宛の謝罪文と補助参加人から被告宛の謝罪文(内容は判然としないが、竣工図が無いこと及びこれまでの経緯に関するものと思われる。)を示したが、原告は配管業者を含む三者のものでないと納得しない旨回答したうえ、存在しないとする被告側に対し、配管業者であるZ5住設に竣工図があると聞いている確認するよう告げた。さらに、竣工図が出せないのは出せない理由があると考えているとも告げた。原告は従来の被告の対応に不満を述べ、被告側は再度調査したい意向を変えなかったが、原告は従前の調査方法への不満や前年12月9日のDらの言動に対する不満を縷々述べ、被告側は原告がいきなり都庁へいったと反論したこともあったが、原告代理人の適切な調整もあり、最終的には、被告側において管端コアが使用されなかったり、外れたり切れたりしている可能性があることを認めたうえで、調査のうえ問題があったら、不具合な部分を交換することになった(以下、平成5年10月30日の協議という。)。
   コ 翌平成6年2月11日から27日にかけて、Jリフォームによる調査が行われ、3月に報告書が提出された。
 これを受けた被告は、問題部分の交換及び管洗浄工法による補修を提案したが、原告は共用部分を含む全ての水道管の交換を主張、本件提訴に至った。
  (2)以上の認定事実によれば、原告は当初から配管の問題であると考えていたのに対し、被告は当初補助参加人による乙5号証、6号証の報告書に則り、問題は無いと考えていたことが認められ、さらに、平成5年6月10日に被告に到着した原告代理人の内容証明郵便から、少なくともこの時点までは赤水の問題を指摘していたのは原告のみであったことが認められ、被告の当初の対応についてはこのことも影響していたものということができる。また、平成5年10月30日の被告側の言動から、被告はこの時点においては管端コアが使用されているものと考えていたことが伺われる。
  (3) 原告は、Jリフォームによる調査により事実が判明した以上、主要なマンション開発業者であり専門的、技術的知識を有する被告は本件訴訟によらず補修を行うべきであったのにこれをせず、本件訴訟において敢えて争い、鑑定による調査をするまでもないのに、これを行い、更生管工法による施工を主張する等して訴訟を長期化させ、その後の補修工事についても協議を長引かせ故意に遅延させたとして、本件訴訟における被告の行為について不法行為が成立するとする。
 ところで、訴訟における主張やその他の行為が相手方に対する違法な行為として不法行為が成立するのは、当該訴訟において、自らの主張が事実的、法律的根拠のないことを知りながら、あるいは容易にそのことを知り得たのにあえて訴訟を提起したり、主張をした等、その行為が裁判制度の趣旨、目的に照らして著しく相当性を欠く不当なものと認められる場合に限られると解される。なぜなら、その主張する権利等の事実的、法律的根拠について訴訟の判断と同様の高度の調査、検討が要請されるものと解するならば、裁判制度の自由な利用が著しく阻害されてしまうからである。
  (4) 前記認定事実によれば、Jリフォームによる調査により事実が判明したのち、交換すべき配管の範囲について原告側の認識と被告側のそれとに争いがあったことが認められ、このことは、平成5年10月30日の協議の際の被告側の発言の解釈の問題にも絡むものであったということができるから、被告が直ちに工事に着手しなかったことをもってあながち不当な対応であるということはできない。また、原告が当初本件訴訟において赤水が出ている瑕疵のために本件建物部分を購入した目的が達成しえないから売買契約を解除したとして解除に基づく損害賠償及び原状回復、あるいは被告が購入目的を達成しえないような本件建物部分を売却したことは不法行為に当たると主張していたこと、この原因除去のために原告が筆舌に尽くしがたい努力をしてきたのに被告がこれに応じなかったとして慰謝料を請求していたことを考慮すれば、被告がこれを争ったことをもって不当な対応ということはできないし、本件訴訟において鑑定を求めることが不当な対応であるということもできない。
 被告の対応は、本件訴訟前のものも含め、その営業政策やリスクマネジメントのあり方といった問題として捕らえるのであれば別であろうが、原告の請求がかようなものであった場合の対応としては不当なものとまでいうことはできない。
  (5) 原告はまた、被告が補修の方法として更生管工法の一種であるダブルライニング工法を主張、固執し、鑑定で更生管工法は不適とされていたにもかかわらず鑑定人の証人尋問においてもこれに固執したことが訴訟遅延行為であるとするが、鑑定の結果においても更生管工法は完全な施工によれば有効な補修方法とされており、鑑定人に対する尋問において鑑定人がねじ部の腐食が激しいものについて疑問を呈しているものであるから、不当な対応ということはできない。
  (6) さらに原告は、補修工事についても協議を長引かせ故意に遅延させたとする。
 確かに、平成9年12月に補修工事の提案がなされ、平成11年7月に工事に着工するまでの時間は決して短いものとはいえない。しかしながら、前述したような内容の原告の請求を巡る訴訟において、当事者双方に争いがある中での補修工事であることから、組織体である被告内部での調整に時間がかかることはある程度やむを得ない部分があること、当初原告の損害賠償金の確定を先にして欲しい、他の住人への損害賠償を保証して欲しい、といった原告の要請についての調整や、具体的な施工の内容についての調整が必要であったこと、施工先についても、大手業者である補助参加人が手掛けた物件について、補助参加人以外の業者が、しかも工事についての保証をする条件で引き受けることを考慮すると、補助参加人に対する信頼がない本件マンションの住人らを顧客としうる業者を選定することになり、そのような場合受注を考えてしまう業者もあると思われることから、代替業者を選定する際に困難が伴ったものと考えられること、その代替案として考えられた設計事務所による監理の下補助参加人による施工を行うことについても、原告が、設計事務所にも責任をもってもらうべく、業界の常識から考えられない連名の保証を求め、実現できなかったことといった協議での調整事項を考慮すると、この期間が被告らが不当に訴訟を長引かせるためのものであったということはできない。結局、訴訟提起前に配管の交換をする以外にないとの結論を出しており、これを譲らない原告と、これを争いつつも補修をすることにした被告との調整に時間が掛かったにすぎないというべきである。
  (7) 以上によれば、被告の対応は、本件訴訟前のものも含め、その営業政策あるいは企業としての姿勢といった問題として捕らえるのであれば別の評価をなしうる余地があるとは思われるものの、前述のような原告の請求の請求を前提とする本件訴訟における対応としては、不法行為を構成するものということはできない。
 4 争点ウ、エについて
  (1) 本件マンションは配管工事の際の施工技術に問題があり、その結果配管が腐食、赤水が出ることになったのであるから、売買の目的物に隠れた瑕疵があったということができ、これが補修されたとしても、売主である被告は瑕疵担保に基づく損害賠償責任を負う。
  (2) 一般に、瑕疵担保責任に基づく損害賠償は信頼利益に限られるとされる。
 ところで、信頼利益は、「当該瑕疵がないと信じたことによって被った損害」と定義され、これに対する概念である履行利益は、「当該瑕疵がなかったとしたら得られたであろう利益」と定義されるが、本件のように原告が最終的には契約解除を念頭におかず損害賠償のみを求めるような主張がなされた場合には、たとえば瑕疵修補費用相当の損害は「当該瑕疵がないと信じたことによって被った損害」に該当するばかりでなく、「当該瑕疵がなかったとしたら得られたであろう利益」にも該当すると思われ、このような抽象的な区別では理解しえない概念となってしまう。これは先の信頼利益の定義が、買主が契約の目的を達成し得ず売買契約を解除したような場合を想定しているためであると考えられ、本件のような契約解除を念頭におかず損害賠償のみを求めるような場合には当てはまらないためであると考えられる。結局、本件のような場合における信頼利益とは、転売益といった「得べかりし利益」を排除するにすぎないものと考えるのが相当である。
  (3)そうすると、まず原告が拡大損害として主張する転売利益との差額は前記した「得べかりし利益」であり、認められない。
  (4) 実費についてはどうか(このうち弁護士費用については後述する。)。
 原告は、訴訟提起前の実費として、フィルム、現像プリント代、水道検査費用、ビデオテープ費用、内容証明郵便代、レンタルビデオカメラ及びビデオデッキ費用、メーターボックス原寸模型及びその撤去費用、交通費等が損害であるとする。しかしながら、ビデオテープ費用、レンタルビデオカメラ、ビデオデッキ費用、メーターボックス原寸模型及びその撤去費用については、本件における瑕疵担保との因果関係が認められない。交通費については、本件訴訟前の経緯や本件訴訟の経過及び甲52号証から、その約4割、2万円が本件における瑕疵担保と因果関係のある損害というべきである。水質検査費用についても、甲47号証から、平成5年1月5日に行われたもののみ本件における瑕疵担保と因果関係のある損害というべきである。その他のフィルム、現像プリント代、内容証明郵便代も本件における瑕疵担保と因果関係のある損害というべきであり、弁論の全趣旨からこの出費がなされたといえるから、訴訟提起前の実費については、これらの合計額5万2,204円が損害となる。
 次に、原告は訴訟提起後の実費として調査等費用139万3,000円が損害であるとするが、これは原告が一級建築士として本件の調査に役立ったとする限度で有資格者として活動した調査日当の請求であって、本件訴訟の経緯を考慮すると、瑕疵担保と因果関係のある損害ということはできない(原告が本件において負担した労力等は相当なものであったことは想像に難くないが、これについては慰謝料の算定の際に考慮すべき事情と考える。)。
 本件訴訟における印紙、切手代、鑑定費用60万9,200円については、訴訟費用に含まれるから、これについての判断をもってするのが相当である。
  (5) 慰謝料はどうか。水道からの赤水という毎日接する問題が長期間続いて来たという事実を考慮すると、瑕疵担保に基づく損害賠償とはいえ、この点についての精神的苦痛を慰謝することが必要であると考える。先に述べたとおり、本件においては、補修がなされるまで長時間が経過しており、このことについては先に述べた本件の経緯に鑑み専ら被告側だけの問題に帰するとはいえないものの、原告が本件において負担した労力等は相当なものであったことは想像に難くないことを考慮し、本件における慰謝料としては200万円の支払いをもってするのが相当であると考える。
  (6) 実費のうち、弁護士費用についてはどうか。原告は本件マンション全体の補修工事が本件訴訟により実現された損害賠償金額であるとし、この金額に対応した弁護士報酬もまた損害と因果関係があるとする。確かに本件では双方の代理人の尽力により本件マンション全体の補修が完了するという、原告と被告間の訴訟としては望外の結果が得られており、殊に住人らの調整を図った原告代理人の労力が多大であったということができるものの、これが原告の損害といえるものではなく、本件が原告と被告の間の訴訟に過ぎず、訴訟物が限定されていることを考慮すると、別途提訴された場合の二重払の問題に対処できないから、本件訴訟の判断としてこれを反映することはできないというべきである。
 しかしながら、本件の経緯、殊に平成5年10月30日の協議や、本件訴訟における補修工事についての協議において、配管の交換をする以外にないとの結論を出している原告と、これを争いつつも補修を考える被告との間の調整において原告代理人の存在が不可欠であったことを考慮し、認定した原告の損害額の約20パーセント、40万円を本件における瑕疵担保と相当因果関係のある損害とするのが相当である。
 5 以上によれば、原告の請求は瑕疵担保責任に基づく245万2,204円の損害賠償を求める限度で理由があるに止まるからこの限度で認容し、その余については理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法61条、64条を適用してその10分の7を原告の負担とし、その余については被告の負担とし、仮執行の宣言については同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第26部
  裁判官  野 口 忠 彦





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