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マンション管理関係判例


bR9
  欠陥マンションの修補請求と損害賠償請求


平成 8年 7月15日 判時1599-79 東京地判

判決要旨
マンションの外壁のヒビ割れが、構造的欠陥によって発生したものであるとして、管理組合が原告となってなした建設会社、販売会社に対する不法行為に基づく損害賠償請求は、区分所有法26条4項に基づく原告適格は管理者に限られおり、権利能力なき社団たる管理組合が管理者の権能を行使することは許されないとして訴えを却下した事例/法26条4項は、管理者に対し訴訟担当を特別に許容したものであるから、訴訟の目的物は管理者の職務に関するものでなければならないが、共用部分の構造的欠陥による損害賠償請求は、各区分所有者に共有持分割合に従って分割帰属し、「共用部分の保存に関するものでないことは明らかである」から、管理者においても行使することはできない。


判決日・当事者
損害賠償請求控訴事件、東京高裁平8(ネ)3595号、平8.12.26民14部判決、取消・請求棄却(上告)1審東京地裁平6(ワ)22281号、年8.7.15判決
 《当事者》 
控 訴 人     X1マンション管理組合
上代表者理事長   X2
上訴訟代理人弁護士 堀 廣 士
同         清 水 紀代志
被控訴人      Y1建設株式会社
上代表者代表取締役 Y2
上訴訟代理人弁護士 宮 島 康 弘
同         富 田 純 司
同         布 施 謙 吉
被控訴人      Y3不動産株式会社
上代表者代表取締役 Y4
上訴訟代理人弁護士 渡 邊 昭
同         片 柳 昂 二


 【主文】 一 原判決を取り消す。
 二 控訴人の請求をいずれも棄却する。
 三 訴訟費用は、第1、2審とも控訴人の負担とする。


 【事実及び理由】 第一 当事者の求める裁判
 一 控訴人
 1 原判決を取り消す。
 2 本件を原審に差し戻す。
 二 被控訴人ら
 控訴棄却
第二 事案の概要
 本件事案の概要は、原判決の事実及び理由中の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
第三 当裁判所の判断
 一 本件訴えは、マンションの区分所有者全員によって構成された管理組合である控訴人を原告とし、本件建物を建築した被控訴人Y1及び本件建物の区分所有部分を販売した被控訴人Y3を被告として、控訴人が被控訴人らに対し、被控訴人らの行為によって本件建物の共用部分に瑕疵が生じ、その補修に要する費用相当額の損害を受けたとして不法行為による損害賠償を請求するものである。
 原判決は、建物の区分所有等に関する法律26条4項により本件について当事者適格を有する旨の控訴人の主張を斥けて、本件訴えを却下しているので検討するに、同法26条4項の規定により訴訟担当が許されるのは、同法の規定する管理者に限られるから、管理組合である控訴人がその名において同法26条4項の管理者の権限を行使することが許されないことは、原判決第三、二に説示のとおりである(なお、本件損害賠償請求権を行使することが管理者の権限に属しないことも、上説示のとおりである。)。
 しかし、控訴人は、本件損害賠償請求権は控訴人の組合員である区分所有者全員に総有的に帰属するとも主張しているところ、本件訴訟において権利能力なき社団である控訴人(控訴人が権利能力なき社団として当事者能力を有することは、原判決第三、一に説示のとおりである。ただし、原判決書5枚目表7行目の、「現に、平成6年4月に」を削る。)が自ら原告となるのが相当かどうかは、控訴人の主張する本件損害賠償請求権が控訴人の組合員である区分所有者全員に総有的に帰属するかどうかという本件訴訟における本案の問題にほかならず、本件訴訟において、控訴人は本件損害賠償請求権は控訴人の組合員である区分所有者全員に総有的に帰属すると主張しているのであるから、その主張に理由があるか否かにかかわらず、控訴人には本件訴訟の当事者適格はあるというべきであり、ただ控訴人の上主張が理由のない場合には、控訴人の請求は棄却すべきものということになるというべきである。
 控訴人の主張は、被控訴人らの行為により、本件建物の共用部分にひび割れ等の瑕疵が生じたことによる損害の賠償を求めるというにあるから、本件損害賠償請求権は、本件建物の共用部分の共有者である各区分所有者に帰属するのであり、しかも、上損害賠償請求権は可分債権であるから、各区分所有者にその共有持分割合に従って分割して帰属するものと解するのが相当であって、本件損害賠償請求権が控訴人の組合員である区分所有者全員に総有的に帰属する旨の控訴人の前記主張は採用し難い。したがって、控訴人の請求は理由がなく、棄却すべきものである。
 原判決は、本件損害賠償請求権が控訴人の組合員である区分所有者全員に総有的に帰属する旨の控訴人の前記主張は理由がない旨をその理由中で説示しているところ、本件のように第1審裁判所が、その判決理由中において説示した理由からすると請求棄却の判決をすべきであったにもかかわらず、訴えを却下する判決をした場合には、第1審裁判所において控訴人の請求について実質的な審理判断をしているものというべきであって、事件を第1審裁判所に差し戻さなくても当事者の審級の利益を失わせることはないから、控訴審裁判所において自ら直接請求の当否について判断をすることができると解するのが相当である(最高裁判所昭和57年(オ)第1394号昭和58年3月31日第一小法廷判決参照)。
 二 よって、本件訴えを却下した原判決は失当であるからこれを取り消すこととするが、控訴人の本訴請求は理由のないことが明らかであるからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法96条、89条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 小川英明 裁判官 太田幸夫 下田文男)

 参考 原審判決
 【主文】 一 本件訴えを却下する。
 二 訴訟費用は原告の負担とする。
 【事実及び理由】 第一 当事者の求める裁判
 一 原告
 1 被告らは、原告に対し、連帯して金1億3,558万5,534円及びこれに対する平成7年1月25日から支払済みまで年5分の割合の金員を支払え。
 2 訴訟費用は被告らの負担とする。
 二 被告Y1建設株式会社
 1 本案前の答弁
 主文同旨
 2 本案の答弁
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
 三 被告Y3不動産株式会社
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
 第二 事案の概要
 一 原告は、区分所有の対象となる1棟の建物であるX1(以下「本件建物」という。)の区分所有者全員によって構成された管理組合であるが、本件は、原告が、本件建物を建築した被告Y1建設株式会社(以下「被告Y1建設」という。)及び本件建物の区分所有部分を販売した被告Y3不動産株式会社(以下「被告Y3不動産」という。)に対し、被告らの行為によって本件建物の共用部分に瑕疵が生じ、その補修に要する費用相当額の損害を受けたとして、民法709条、719条に基づき損害賠償の請求をした事案である。
 二 当事者の主張
 1 原告
 (一) 原告は、本件建物の区分所有者全員(42名)を組合員として構成され、共用部分の管理を目的とする管理組合である。
 (二) 本件建物の共用部分とは「共用の玄関、廊下、階段、機械室、その他の専有部分に属しない建物の部分」をいうものとされている。
 (三) 被告Y1建設は、本件建物について、3階建として設計し、構造計算した建物に鉄骨コンクりトの4階部分と軽量鉄骨の5階部分を漫然と乗せた建築をした。
 また、被告Y3不動産は、本件建物は居室の半分の上部に上の階のテラスを設置する雛壇構造になっているところ、5階部分を除く全戸にカイズカイブキを植えた重さ300キロ近くもあるプランターをテラスの広さに応じて8個から10個、漫然とテラスの手すり近くに置いた。
 そして、上被告両名の行為が競合した結果、本件建物の外壁、バルコニー等にひび割れ等の瑕疵が生じた。
 (四) 上瑕疵の修補代金相当額は、合計1億3,558万5,534円であり、上金額は被告らの上行為と相当因果関係のある損害である。
 (五) 本件建物に生じた上瑕疵は、共用部分について生じた瑕疵であり、本件損害賠償請求は、上瑕疵の修補等を目的とするから、原告の全組合員に総有的に帰属すると解すべきであるし、本件不法行為による損害賠償請求は、共用部分の管理行為に該当するというべきであるから、原告は、区分所有法26条4項によって、原告たりうる。
 2 被告ら
 (一) 被告ら
 原告主張のごとく、仮に本件建物の共用部分に対する不法行為による損害賠償請求権が認められるとしても、上権利は各区分所有者に帰属するから、区分所有者がそれぞれ行使すべきものである。区分所有法26条4項は、本来区分所有者に帰属する権利を権利者に代わって行使することまで定めたものではない。
 (二) 被告Y1建設
 区分所有法26条4項は、管理者が訴訟当事者となるためには、規約または集会の決議によることを必要としているが、原告の規約にはそのような定めはないし、集会の決議の存在を示す証拠もない。
 (三) 被告Y3不動産
 原告においては、理事長が区分所有法の管理者とされているから、区分所有法26条4項を根拠とするのであれば、理事長が原告とならねばならず、同条を根拠に原告が訴訟当事者となることはできない。
 三 争点
 原告は、本件損害賠償請求訴訟における当事者適格を有するか。
 第三 争点に対する判断
 一 まず、当事者適格を判断する前提として、原告が、法人に非ざる社団として、民事訴訟法46条による当事者能力を有するかどうか検討する。
 《証拠略》によると、次の事実が認められる。
 1 原告は、建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)30条に基づく規約(以下「本件規約」という。)の10条3項に基づいて、本件建物の敷地及び本件建物の共用部分を維持管理することを目的として組織され、本件建物の区分所有者全員がこれに加入している。
 2 原告には、X1管理組合規定(以下「本件規定」という。)があり、それによると、組合員の資格は、区分所有建物の所有又は占有によりこれを取得し、所有又は占有を失うことにより喪失する旨を定めているから、構成員の変更に拘らず原告は存続し、組合員による集会で役員たる理事及び監事を選任し、理事は代表権を有する理事長を互選するほか理事会を構成して業務執行について決定し、監事は原告の財産状況及び業務執行を監査することとされており、現に、平成6年4月に原告代表者が理事長に選任されている。
 以上によれば、原告は、社団としての実質を有し、代表者の定めもあるから、いわゆる権利能力なき社団に当たり、民事訴訟法46条の要件を具備するものというべきである。
 二 次に、原告は、法26条4項により、本件について原告適格を有する旨主張する。しかし、同条同項は、同法による管理者に対して、供用部分等の管理に関し、区分所有者及び相手方の便宜のために、通常なら許されない第三者による訴訟担当を特別に許容したものであるから、同条同項が適用されるためには、第1に、訴訟の目的物が管理者の職務に関するものでなければならず、第2に、訴訟担当者は、同法の管理者に限られるものといわなければならない。
 これを本件についてみるに、原告の主張は、被告らの行為により、本件建物の共用部分にひび割れ等の瑕疵が生じたことによる損害の賠償を求めるというにあるから、その請求権は本件建物の共用部分の共有者である各区分所有者(法11条1項本文、本件規約3条)に帰属するのであり、しかも、可分債権であるから、各区分所有者にその共有持分割合(法14条、本件規約3条)に従って分割して帰属しているのである。してみると、本件請求が、管理者の職務である共用部分の保存に関するものでないことは明らかである(仮に、各区分所有者間で、取得した損害賠償金を共用部分の補修費用に充てる合意がなされたとしても、上結論を左右することにはならない。)。
 また、法26条4項の管理者の権能を、原告が行使することは許されない。すなわち、本件訴訟について仮に本案判決がされた場合の既判力は、原告に対して生ずるのであって、個々の区分所有者に及ぶものではないところ、法26条4項により管理者が訴訟担当した場合の既判力は、個々の区分所有者に直接及ぶものであるから、本件訴訟を法26条4項に基づく訴訟と同視することはできない(本件規約4条は、原告の代表者である理事長は法で定める管理者となる旨規定するが、この規定があっても、上の理は異ならない。)。
 そうすると、上のいずれの観点からしても、原告が本件訴訟について当事者適格を有するものと解することはできない(なお、原告は本件損害賠償請求権は、原告の全組合員に総有的に帰属する旨主張するが、その失当であることは、前説示のとおりである。)。
 第四 よって、本件訴えは訴訟要件を欠いているから、これを却下することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。





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