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マンション管理関係判例


bR6
  管理者・管理委託/管理費の合有的帰属


平成11年 8月31日 判時1684-39 東京高判

関連条文 民法666条、建物区分所有法3条


判決要旨
マンションの管理会社がマンションの管理組合から管理費等の管理の委託を受け、マンションの管理会社の名義で銀行に定期預金をした場合、右定期預金の原資である管理費等は、マンション管理会社の資産ではなく、管理規約及び管理委託契約に基づいて区分所有者から徴収し、保管しているものであるから、右定期預金の預金者は管理組合であるとした事例。


判決日・当事者
預金返還請求・各当事者参加控訴事件、東京高裁平8(ネ)2630号・2632号・2688号・2698号、平11・8・31民4部判決、一部控訴棄却、一部取消(確定)
1審東京地裁平6(ワ)10840号ほか、8・5・10判決
《住所略》
第2630号事件控訴人
第2632号、第2688号、第2698号事件被控訴人
            破産者株式会社
            X1
破産管財人       X2
上訴訟代理人弁護士   野 村 茂 樹
同           滝   久 男
同           山 中 尚 邦
同           井 上 由 理
同           藤 田 浩 司
同           佐 藤 り か
同           大 西 正一郎
同           向   美奈子
同           山 ア 雄一郎
同           荒 井 俊 行
《住所略》
全事件被控訴人     株式会社Y1銀行
上代表者代表取締役   Y2
上訴訟代理人弁護士   小 沢 征 行
同           宮 本 正 行
同           香 月 裕 爾
同           露 木 琢 磨
同           秋 山 泰 夫
同           吉 岡 浩 一
同           北 村 康 央
《住所略》
第2630号事件被控訴人
第2632号事件控訴人   Y3管理組合法人
上代表者理事      Y4
            〈ほか13名〉
上4名訴訟代理人弁護士 安 福 謙 二
同           田 中 民 之
同           江 藤 洋 一
上訴訟復代理人弁護士  西 島 良 尚
《住所略》
第2630号事件被控訴人
第2688号事件控訴人   Y5管理組合
上代表者理事長     Y6
上訴訟代理人弁護士   恵 古 和 伯
同           佃   克 彦
同           恵 古 シ ヨ
《住所略》
第2630号事件被控訴人
第2698号事件控訴人   Y7管理組合法人
上代表者理事      Y8
上訴訟代理人弁護士   高 橋 秀 忠
同           松 田 浩 明
------------------------------主文------------------------------
【主  文】
 一 破産者株式会社X1破産管財人X2の本件控訴を棄却する。
 二 原判決の主文第二項を取り消す。
 三1 破産者株式会社X1破産管財人X2とY3管理組合法人との間において、別紙預金目録1、7及び14の各定期預金債権がY3管理組合法人に属することを確認する。
  2 株式会社Y1銀行は、Y3管理組合法人に対し、金1,821万2,960円及び上金員のうち、別紙預金目録1、7及び14のそれぞれにつき、各元本額欄記載の金員に対する各預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで各利率欄記載の割合による金員を支払え。
 四1 破産者株式会社X1破産管財人X2とY9管理組合法人との間において、別紙預金目録8ないし11の各定期預金債権がY9管理組合法人に属することを確認する。
  2 株式会社Y1銀行は、Y9管理組合法人に対し、金1,000万円及び上金員のうち、別紙預金目録8ないし11のそれぞれにつき、各元本額欄記載の金員に対する各預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで各利率欄記載の割合による金員を支払え。
 五1 破産者株式会社X1破産管財人X2とY10管理組合との間において、別紙預金目録6の定期預金債権がY10管理組合に属することを確認する。
 2 株式会社Y1銀行は、Y10管理組合に対し、金418万4,000円及びこれに対する別紙預金目録6の預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで利率欄記載の割合による金員を支払え。
 六1 破産者株式会社X1破産管財人X2とY11管理組合法人との間において、別紙預金目録5及び15の各定期預金債権がY11管理組合法人に属することを確認する。
  2 株式会社Y1銀行は、Y11管理組合法人に対し、金488万6,307円及び上金員のうち、別紙預金目録5及び15のそれぞれにつき、各元本額欄記載の金員に対する各預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで各利率欄記載の割合による金員を支払え。
 七1 破産者株式会社X1破産管財人X2とY5管理組合との間において、別紙預金目録13の定期預金債権がY5管理組合に属することを確認する。
  2 株式会社Y1銀行は、Y5管理組合に対し、金315万2,268円及びこれに対する別紙預金目録13の預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで利率欄記載の割合による金員を支払え。
 八1 破産者株式会社X1破産管財人X2とY7管理組合法人との間において、別紙預金目録12の定期預金債権がY7管理組合法人に属することを確認する。
  2 株式会社Y1銀行は、Y7管理組合法人に対し、金693万4,991円及びこれに対する別紙預金目録12の預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで利率欄記載の割合による金員を支払え。
 九 控訴費用は、破産者株式会社X1破産管財人X2と株式会社Y1銀行との間においては控訴費用を破産者株式会社X1破産管財人X2の負担とし、Y3管理組合法人、Y9管理組合法人、Y10管理組合、Y11管理組合法人、Y5管理組合及びY7管理組合法人と破産者株式会社X1破産管財人X2及び株式会社Y1銀行との間においては第1、2審を通じて破産者株式会社X1破産管財人X2及び株式会社Y1銀行の負担とする。
 一〇 この判決の第三項ないし第八項の各2は、仮に執行することができる。


【事  実】
第一 当事者の求めた裁判
(原審甲事件)
 一 破産者株式会社X1破産管財人X2(以下「1審原告」という。)の控訴の趣旨
 1 原判決の主文第一項を取り消す。
 2 株式会社Y1銀行(以下「1審被告」という。)は、1審原告に対し、金5,721万5,526円及び上金員のうち別紙預金目録記載1ないし15のそれぞれにつき各元本額欄記載の金員に対する各預入日欄記載の日の翌日から平成6年5月25日まで各利率欄記載の金員を、同年5月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(1審原告は、当審において、遅延損害金の請求を拡張した。)
 3 1審原告の1審被告に対する請求について生じた費用は、第1、2審とも、1審被告の負担とする。
 4 仮執行の宣言
 二 控訴の趣旨に対する1審被告の答弁
 1 1審原告の控訴を棄却する。
 2 控訴費用は1審原告の負担とする。
(原審乙、丙、丁、戊、己及び庚事件)
 一 Y3管理組合法人、Y9管理組合法人、Y10管理組合、Y11管理組合法人、Y5管理組合及びY7管理組合法人(以下「参加人ら」と総称する。)の控訴の趣旨
 1 主文第二項ないし第八項同旨
 2 参加人らの1審原告及び1審被告に対する請求について生じた訴訟費用は、第1、2審とも、1審原告及び1審被告の負担とする。
 3 仮執行の宣言
 二 控訴の趣旨に対する1審原告の答弁参加人らの本件控訴を棄却する。
 三 控訴の趣旨に対する1審被告の答弁
 1 参加人らの本件控訴を棄却する。
 2 控訴費用は参加人らの負担とする。
第二 本件事案の概要
 本件は、参加人らのマンションの管理者であった株式会社X1(以下「X1」という。)が区分所有者から徴収した管理費等を原資とする別紙預金目録番号1ないし15記載の定期預金(以下「本件各定期預金」という。)の帰属を巡る訴訟である。
 本件各定期預金は、X1が1審被告に預け入れたものであるが、1審被告は、1審原告に対する貸金債権と本件各定期預金返還債務とを相殺し、残高をX1に弁済した。
 1審原告は、本件各定期預金はX1に帰属するが、区分所有者から徴収した管理費等は区分所有者から受託した信託財産であるから、1審被告がした相殺は無効であると主張し、1審被告に対して本件各定期預金の支払いを求めている(原審甲事件)。
 参加人らは、原審甲事件に独立当事者参加して(原審乙、丙、丁、戊、己及び庚事件)、本件各定期預金の一部のものについて、参加人らに帰属すると主張して、1審原告に対してはその旨の確認を求め、1審被告に対してはそれぞれの支払いを求めている。
 原判決は、本件各定期預金はX1に帰属するから、その返還債務は相殺及び弁済によって消滅したと判断して、1審原告及び参加人らの各請求を棄却したので、1審原告及び参加人らが控訴した。
第三 当事者の主張
(原審甲事件)
 一 請求原因(1審原告)
 1 X1は、株式会社G土地開発(以下「G土地開発」という。)が建築、分譲するマンション管理業務を目的として昭和50年9月9日に設立された同会社の子会社であり、参加人らのマンションの管理業務を行っていた。
 X1は、平成4年11月30日、東京地方裁判所において破産宣告を受け(同裁判所平成4年(フ)第3644号事件)、同日1審原告が破産管財人に選任された。
 2 X1は、一審被告(○○支店取扱い)との間で、次のとおり定期預金契約を締結した。
 すなわち、X1は、一審被告(○○支店取扱い)において、参加人らのマンション及びその他のマンションの管理費等を原資とするX1名義の普通預金口座をそれぞれ開設して、管理費等を徴収して管理を行っていたが、さらに、上各普通預金の管理費等の剰余金を一審被告(○○支店取扱い)に送金し、同支店において各マンションごとに、別紙預金目録の1ないし15の各口座開設日欄記載の日に上目録1ないし15のとおり定期預金契約を締結した。このうち、別紙預金目録1ないし11の定期預金については、原資の出捐者とされる管理組合のマンション名が預金名義に付記されている。また、目録12の定期預金はX1名義であり、目録13ないし15の定期預金の名義は不明であるが、いずれも、過去において原資の出捐者とされる管理組合のマンション名の付記された預金が書替継続された預金である。
 本件各定期預金は、利息元加方式で自動書替継続され、最終的には上目録1ないし15の各預入日欄記載の日に各該当元本額(合計5,721万5,526円)が各該当満期日及び利率の約定のもとに預け入れられた(以下、上目録1ないし15の各定期預金を「目録1の定期預金」のようにいう。)。
 本件各定期預金の預金通帳及び銀行届出印鑑はいずれも各定期預金契約締結以来X1が保管している。
 3 本件各定期預金は法的、形式的にはX1に帰属しているが、実質的には参加人らに帰属するものであり、X1に信託された信託財産である。
 すなわち、本件各定期預金は、各区分所有者(委託者)が、X1(受託者)に、マンションの管理・修繕等の目的(信託目的)に従って、参加人ら(受益者)のために管理(銀行預金とする等の運用その他)・処分(マンションの管理費用、修繕費用等のための支出)をさせるべく、使途を限定して預託した(信託行為)信託財産であり、X1の固有財産とは独立した財産として把握されるべきである。
 4 1審原告は1審被告に対し、平成6年5月18日到達の書面によって、本件各定期預金を上書面到達の日から1週間以内に解約・払い戻すよう催告した。
 5 よって、X1の破産管財人である1審原告は、1審被告に対し、本件各定期預金契約に基づき、本件各定期預金の元本合計額5,721万5,526円及び上金員のうち、目録1ないし15のそれぞれにつき各元本額欄記載の金員に対する各預入日欄記載の日の翌日から平成6年5月25日まで各利率欄記載の割合の利息の、同年5月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
 二 請求原因に対する認否(1審被告)
 1 請求原因1の事実は認める。
 2 同2の事実のうち、X1が1審被告との間で本件各定期預金契約を締結したこと及びX1が上各定期預金通帳及び銀行届出印鑑を保管していることは認め、その余の事実(本件定期預金の名義に関する事実は除く。)は知らない。
 X1の預金名義に付加されたマンション名の記載は、X1自身のための備忘的「メモ書き」であって、1審被告は、X1のみの名義の預金とマンション名がメモ書きされたX1の預金とを区別することなく、同一の顧客番号で管理していたのであり、マンション名のメモ書きには法的な意味は認められない。
 3 同3の主張は争う。
 本件各定期預金は、X1が区分所有者から支払いを受けた管理委託費の剰余金を原資としてX1名義で預金したものであるから、X1の預金である。X1は区分所有者から委託を受けて、マンションの清掃、設備の保守管理、定期検査等の業務を行っていたのであるから、当該委託業務の一部にすぎない金銭の出納業務のみに着目して、他に法的根拠がないにもかかわらず、X1と区分所有者との関係を信託契約関係と解することは認められない。X1と区分所有者との間には業務委託契約関係があるにすぎない。
 三 抗弁(1審被告)
 1 1審被告(○○支店取扱い)は、X1に対し、平成3年12月12日、手形貸付の形態で5,000万円及び2,000万円を貸し付けた。
 2 1審被告は、1審原告に対し、平成4年12月15日到達の書面で、上貸金債権7,000万円を自働債権として、破産宣告前営業日である同年11月27日起算で、目録1ないし19の各定期預金返還請求債権合計7,196万3,893円(元金及び税引後利息の合計金額である。ただし、目録1の定期預金については603万6,107円を相殺の対象とした。)とその対当額で相殺する旨の意思表示をした(以下「本件相殺」という。)。
 また、1審被告は、X1に対し、X1の普通預金口座に残金196万3,893円を振り込んで支払った(以下「本件弁済」という。)。
 3 したがって、1審被告のX1に対する本件各定期預金返還債務は、本件相殺及び本件弁済によってすべて消滅した。
 四 抗弁に対する認否(1審原告)
 1 抗弁1については、X1が1審被告から昭和58年4月13日に2,000万円を、同年11月24日に5,000万円を、それぞれ借り入れ、その後のX1の1審被告に対する借入金銭高が7,000万円のまま推移していることは認める。
 2 同2の事実は認める。
 五 再抗弁(1審原告)
 1 本件各定期預金は信託財産であるから、本件相殺は信託法17条の適用ないし準用により無効である。
 2 また、本件相殺は、本件各定期預金等を対象として過去に設定された担保権(債権質)の実行行為としてされたものであるが、上のように信託財産である本件各定期預金を対象として、受益者である管理組合の承認なく、信託目的に沿わない目的で担保設定を行うことは横領行為であり、民法90条の公序良俗違反であって、無効である。
 したがって、上担保権の実行行為としてされた本件相殺も無効である。
 六 再抗弁に対する認否(1審被告)
 再抗弁は争う。
(原審乙、丙、丁、戊、己及び庚事件)
 一 請求原因(参加人ら)
 1 各当事者の地位は甲事件の請求原因1のとおりである。
 2 参加人らの地位は以下のとおりである。
 (一) 原審乙事件参加Y3管理組合法人(以下「原審乙事件参加人」という。)は、平成5年6月20日に設立されたY3マンションの管理組合法人である。
 (二) 原審丙事件参加人Y7管理組合法人(以下「原審丙事件参加人」という。)は、平成5年1月18日に設立されたY7マンションの管理組合法人である。
 (三) 原審丁事件参加人Y9管理組合法人(以下「原審丁事件参加人」という。)は、平成5年1月19日に設立されたY9マンションの管理組合法人である。
 (四) 原審戊事件参加人Y10管理組合(以下「原審戊事件参加人」という。)は、昭和54年6月ころ分譲されたY10マンションの管理組合であるが、管理組合法人ではない。
 (五) 原審己事件参加人Y11管理組合法人(以下「原審己事件参加人」という。)は、平成5年5月18日に設立されたGY11マンションの管理組合法人である。
 (六) 原審庚事件参加人Y5管理組合(以下「原審庚事件参加人」という。)は、昭和52年ころにY5Gマンション(地下1階地上10階建て)の3階以上を区分所有権の対象として分譲されたマンションの管理組合であるが、管理組合法人ではない。
 3 X1は、平成4年11月まで、参加人らのマンションの建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)上の管理者かつ管理会社としての地位にあった。
 この時期において、参加人らの組合員である区分所有者は、管理規約の定めるところに基づきX1と管理委託契約を締結し、これらの規約及び契約に従ってX1名義の各マンションごとの普通預金口座に、毎月、管理規約に定められた管理費、修繕積立金及びその他の費用を振り込んで支払っており、また、管理費3か月分の保証預かり金を上口座に振り込んで預け入れた(なお、Y5Gマンションについては、管理費等のほか、上マンションの敷地の一部が借地であるため、借地料を付加して支払っていた。)。
 X1は、この預金口座から管理に必要な費用を払い、またX1としての管理報酬を受領し、管理費の剰余金、修繕積立金及び預り保証金を定期預金にした。本件各定期預金の原資も上のようなものである。
 4 以下のような理由により、本件各定期預金は参加人らに帰属すると考えるべきである。
 (一) 区分所有法上の管理者であるX1は、区分所有法における区分所有者の規約自治に基づく委託の趣旨から、管理費等は他人の財産として管理することを義務づけられており、現にX1は、各マンションの管理費等については、計算書類上他人の資産として扱い、各マンションの区分所有者の共有財産として個々に区分けした専用の銀行口座で管理し、担当責任者の意識も他人の財産として扱っているというものであった。
 (二) 1審被告も、本件各定期預金が上のような性格の預金であることを、預金名義人に付された肩書き(X1の名義のほかにマンション名が付されている。)、X1の管理会社としての業務の内容、取引に当たって収得し、確認していたX1の財務諸表や計算書類から、熟知していた。
 (三) 預金者の認定基準として最高裁判所が採用する「客観説」の立場は、「自ら出捐し、自己の預金とする意思で銀行に対して銀行に対して本人自ら又は使者・代理人など預金をすることを依頼した者を通じて預金契約をした者を預金者とする。」というものである。
 本件においては、出捐者である区分所有者らに「自己の預金とする意思」があったかが問題となるが、管理費等が普通預金口座に入金された後に、管理会社であるX1が定期預金にする場合にも(この時点で管理会社の不法領得の意思の実現行為があれば別段)、管理会社は、そのマンションの管理委託者としての地位からして、その職務に基づきマンションの住民達のために管理保管するべく定期預金への預入行為を行っているのであって、この預入行為は、マンションの住民達の管理費等を銀行預金の形で管理する総意に基づくものであるといえるから、出捐者である区分所有者団に本件各定期預金に関する「自己の預金とする意思」が存在することには問題がない。
 (四) 区分所有法上の管理者は、マンションの管理に関する限りは、対内的にも対外的にも区分所有者のためにだけ権限を行使する者でしかありえない存在である。
 すなわち、管理者は、その職務に関し対外的行為を行う代理権限を有するが、同時に、その職務に関し対外的行為を行う場合には、区分所有者を代理する行為でしかありえない。
 そして、マンションの管理費等の保管のための預金行為は、管理者としての職務行為以外のなにものでもないのであるから、それは区分所有者のための行為であり(またそれでしかなく)、したがってその法的効果は本人である区分所有者の団体に及ぶのであり、預金債権は当然に区分所有者の団体に帰属するのである。
 より端的にいえば、管理者の職務に関する行為は、あたかも団体の代表機関のごとく「区分所有者の団体」(区分所有法3条)の行為そのものということができる。そして、管理者がその職務上保管している管理費等は、「区分所有者の団体」自体が保管しているのであり、これについて管理者の独立した占有管理ということさえ認められない。
 5 本件各定期預金(目録2ないし4の定期預金を除く。)は、以下の各参加人に帰属する。
 (一) 目録1、7及び14の各定期預金    乙事件参加人
 (二) 目録12の定期預金          丙事件参加人
 (三) 目録8ないし11の定期預金      丁事件参加人
 (四) 目録6の定期預金          戊事件参加人
 (五) 目録5及び15の定期預金       己事件参加人
 (六) 目録13の定期預金          庚事件参加人
 6 参加人らは、1審被告に対し、本件各定期預金の元本相当額の不当利得返還請求権を有している。
 すなわち、1審被告は、本件各定期預金が実質的に参加人らの財産(区分所有者らの合有ないし総有財産)であることを認識していたにもかかわらず、本件相殺をして本件各定期預金を受領したものであって、これは、参加人らの損失において債権回収を図り利益を享受したというべきであり、また、1審被告には上受領につき悪意又は重大な過失があるから、上の利得は法律上の原因がなく、不当利得となるものというべきである。
 7 よって、参加人らは、1審原告に対し、主文第三項ないし第八項の各1のとおり本件各定期預金債権が各参加人に属することの確認を求め、1審被告に対し、本件各定期預金契約に基づく預金返還請求権又は不当利得返還請求権に基づき、主文第三項ないし第八項の金員の支払いを求める。
 二 請求原因に対する認否(1審原告)
 1 請求原因1ないし3は認める。
 2 同4、5について
 本件各定期預金は、甲事件において主張したとおり、X1がマンションの区分所有者から委託され、受益者を参加人らとする信託財産である。
 3 同6は争う。
 三 請求原因に対する認否(1審被告)
 1 請求原因1は認める。
 2 同2、3は知らない。
 3 同4、5は争う。
 本件各定期預金は、X1が自らの預金として預け入れたものであって、その預金者はX1である。
(一) X1は、分譲マンションの管理業務を行う会社であり、分譲マンションの各区分所有者との間で管理委託契約を締結し、管理業務を行っていた。
 参加人らのマンションの各区分所有者も、管理規約を承認の上、上管理委託契約に基づき管理費、修繕積立金等をX1に対して継続的に支払っていた。そして、X1は、管理委託契約に基づき各区分所有者から受領した金銭の処理、収納、保管という経理業務を委託されるとともに、受領した金銭をマンションの修理、設備の保守点検、清掃等の費用に充当して委託されたマンションの管理業務を行い、さらにそれらの業務を行う報酬として管理費総額の15パーセントの管理報酬を各区分所有者から受領していた。
 区分所有者は、管理費等をマンション所在地付近の金融機関に開設されたX1名義の普通預金口座に振り込んで支払っていたが、その残高がある程度多額になっていると、X1は、X1名義で、上普通預金口座が開設された金融機関の支店とは全く別の場所にある1審被告○○支店等に定期預金として預け入れていたのであり、昭和60年ころまで上定期預金を自社の資産として決算書にも計上していた。
 上のような事情からすれば、区分所有者からX1に支払われる管理費は、X1が管理委託契約に基づき業務の処理を行うのに必要とされる費用及び管理報酬に充当されるもので、X1は、管理委託契約に基づく事務処理に要する費用の前払いとして区分所有者から管理費を受領していたということができる。したがって、X1が管理委託契約に基づき委任された管理業務を継続している限りは、そもそも管理費の清算やその結果として剰余金がある場合の残金の返還は認められず、具体的に金額の確定していない清算後の残金返還請求権も発生していないといえる。
 そうすると、区分所有者が支払った管理費は、X1がその支払いを受けるために自社名義で開設した普通預金口座に振込送金された段階でX1に帰属するということができる。
 また、区分所有者は、管理費以外の積立金等についても、管理費と区別することなく一括してX1名義の上普通預金口座に振込送金していたのであるから、これらを管理費と区別して取り扱う理由はない。
 本件各定期預金は、X1が、区分所有者から自社名義の普通預金口座に振り込まれた管理費等を自社が受け入れるべき管理報酬とも区別することなく、その裁量により自社の取引金融機関である1審被告らに定期預金として預け入れたものであり、既に自社に帰属していた金銭を定期預金という商品で運用したにすぎない。
 (二) 預金者の認定について、純粋な客観説が判例となっているわけではないが、仮に客観説に従って本件各定期預金の預金者を認定してとしても、預金者はX1であると考えられる。
 区分所有者らは、居住マンション修繕積立金等を自動引き落とし等の方法でX1名義の銀行口座に振り込む場合に、その口座からさらにX1がどのような資金運用をするかについてまで具体的には把握していないのであり、またそのような資金がいかなる金融機関においてどのような方法で管理されているかまで関心をよせていないのが通常であるから、そのような区分所有者らが、本件各定期預金について「自らの預金とする意思」で預金契約をしたものと考えるのは困難である。
 区分所有者らは、X1が、具体的に、いつ、いかなる金額について定期預金を設定するかについての情報を事前に知らされているわけではなく、またそれらの預金がどのように解約され使用されるかの詳細を逐次知らされているわけでもないから、単に預金の原資の「出捐者」であるとの一事をもって、区分所有者らを預金者と認定することはできないはずである。
 4 同6は争う。
第四 証拠《略》
------------------------------理由------------------------------
【理  由】
 一 甲事件並びに乙、丙、丁、戊、己及び庚事件の各請求原因の1の事実、別紙預金目録記載の各定期預金がされていることは当事者間に争いがない。
 また、弁論の全趣旨によれば、乙、丙、丁、戊、己及び庚事件の請求原因2の事実が認められる。
 二 本件各定期預金の原資、預金者の名義、管理状況等については、以下の事実が認められる。
 1 参加人らのマンション、コートY12、Y13ハイツ及びY14ハイツの管理規約及び各区分所有者とX1との間の管理委託契約書において、管理費等について、次のとおり定められていた。
 (一) 各区分所有者は、建物共用部分及び土地の通常の管理費を負担する。この負担は、管理員人件費、損害保険料、エレベーター設備その他機械の定期保守費及び動力費、廊下灯等の電力料金及び電球の取替費、共用部分の水道・光熱費、管理委託報酬、その他共用部分の維持管理に要する一切の費用である。
 管理費は、毎月、管理者に支払う。
 管理費の剰余金は管理預り金として積み立てる。不足した場合はそれを取り崩して充当できる。
 (二) 各区分所有者は、毎月、修繕積立金を管理者に支払う。
 修繕積立金は、一定の方法で積立て、管理者がこの管理に当たり、理由の如何を問わず払い戻さない。修繕積立金を取り崩して修繕費に充て、なお不足する場合は管理者は追加徴収することができる。
 (三) 各区分所有者は、保証預り金として、管理費及び修繕積立金月額の3か月分に相当する額を建物引渡しを受けたときに管理者に預け入れる。
 保証預り金は、建物引渡し日から5年後又は各区分所有者がその資格を失った場合に無利息にて返還する。区分所有者が管理委託契約に基づき管理者に債務を負担している場合は、管理者は任意に保証預り金をもって区分所有者の債務の弁済に充当できる。
 (四) 庚事件参加人のマンション(Y5G)は、敷地の一部が借地であったため、同マンションについては、区分所有者は、以上の費用のほか借地料を毎月管理者に支払う旨定められていた。
 (五) 給湯設備のあるマンションでは、各区分所有者は、毎月、給湯基本料金を管理者に支払う。
 (六) 竣工から一定期間はX1が管理者になるものとする。任期満了に際して特に集会の決議によって解任されない場合は、任期はそのまま更新継続するものとする。
 管理者(X1)の行う業務の範囲は、建物、その敷地及び付属施設の管理並びに環境の維持に必要な一切の業務であるが、その中には、経理事務として、管理費、修繕積立金、保証預り金、借地料及び給湯基本料金(以下、これらを併せて「管理費等」という。)の金銭の処理、収納保管が含まれている。
 2 X1では、各マンションの所在する場所の近くの金融機関にX1名義の普通預金口座を開設し(参加人らの平成9年1月28日付け準備書面によれば、Y3はH銀行○○○支店、Y7はI銀行○○支店、Y9はJ銀行○○○支店、Y10はH銀行○○○○支店、Y11はH銀行○○○駅前支店、Y5はH銀行○○支店である。)、区分所有者は管理費等をこの口座に振り込んで支払った。
 上普通預金口座には、他のマンションの管理費等やX1固有の資金等は一切入金されなかった。
 X1は、この普通預金口座から管理に要する諸費用とX1が受領すべき管理報酬を支出し、管理費の残余金(剰余金)や修繕積立金が一定金額に達したときにこれを定期預金にしていた。本件各定期預金はこのような管理費の剰余金や修繕積立金等を原資として、各マンションごとに別個の預金として、開設されたものである。
 なお、通常の修繕の費用は前記の「共用部分の維持管理に要する一切の費用」として管理費から支出されるが、大規模な修繕を要する場合には、管理組合の総会の決議(管理組合がいない場合には全区分所有者の賛否を問い、3分の2程度以上の賛成による。)を経て修繕積立金を取り崩して修繕費用に充てることとしていた。
 また、大規模な工事を実施する場合には、区分所有者の負担を少なくするために、管理預り金(管理費積立金ともいう。)を修繕積立金に振り替えることも行われていた。修繕積立金に振り替えられると、その使途が大規模な修繕の費用のためだけに限定されることになる。
 3 目録1ないし11の定期預金及び目録15の定期預金については、以下のとおり、その書替前の預入時等に作成された書類の預金者の名義の欄にマンション名が付記されていたことが認められる。
 (一) 目録1の定期預金
 当初昭和57年8月30日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが、上同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、「株式会社X1 代表取締役K」との記載のほかに、「Y3」とゴム印を押捺したと思われる方法によって付記されており、昭和58年4月14日付けの定期預金担保差入証(兼記入帳)の「おなまえ」欄にも「株式会社X1 代表取締役L」との記載のほかに「Y3」と手書きで付記されている。
 (二) 目録2の定期預金
 当初昭和57年8月30日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが、上同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、「株式会社X1 代表取締役K」との記載のほかに、ゴム印を押捺したと思われる方法によって「コートY12」と付記されており、昭和58年4月14日付けの定期預金担保差入証(兼記入帳)の「おなまえ」欄にも「株式会社X1 代表取締役L」との記載のほかに手書きで「コートY12」と付記されている。
 (三) 目録3の定期預金
 当初昭和57年8月30日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが、上同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、「株式会社X1 代表取締役K」との記載のほかに、ゴム印を押捺したと思われる方法によって「Y13ハイツ」と付記されている。
 (四) 目録4の定期預金
 当初昭和57年8月30日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが、上同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、「株式会社X1 代表取締役K」との記載のほかに、ゴム印を押捺したと思われる方法によって「Y14ハイツ」と付記されている。
 (五) 目録5定期預金
 当初昭和57年8月30日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが、上同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、「株式会社X1 代表取締役K」との記載のほかに、ゴム印を押捺したと思われる方法によって「Y11」と付記されている。
 (六) 目録6定期預金
 当初昭和57年8月30日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが、上同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、「株式会社X1 代表取締役K」との記載のほかに、ゴム印を押捺したと思われる方法によって「Y10」と付記されている。
 (七) 目録7定期預金
 当初昭和57年8月31日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが、上同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、全部手書きで「株式会社X1 Y3」との記載されている。
 (八) 目録8ないし11の各定期預金
 当初昭和57年8月30日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが、上同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、「株式会社X1 代表取締役K」との記載のほかに、ゴム印を押捺したと思われる方法によって「Y9」と付記されており、昭和58年4月14日付けの定期預金担保差入証(兼記入帳)の「おなまえ」欄にも「株式会社X1 代表取締役L」との記載のほかに手書きで「Y9」と付記されている。
 (九) 目録15の定期預金
 当初昭和58年8月31日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが、上同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、全部が手書きで「株式会社X1 Y11」との記載されている。
 (一〇) なお、目録12ないし14の各定期預金は、昭和56年12月4日(目録12及び13の各定期預金)又は昭和54年11月12日(目録14の定期預金)に預け入れられたものが一旦解約されているが、解約前の「預金担保付借入申込書」のX1の控えには、「おなまえ」欄に「株式会社X1 代表取締役L」との記載のほかに、手書きで「Y7」(目録12の定期預金の解約前のもの)、「Y5」(目録13の定期預金の解約前のもの)、「Y3」(目録14の定期預金の解約前のもの)とそれぞれ付記されている。
 また、当審証人M及び同Nは、X1がマンションの管理費等を原資とする定期預金をする際には、必ず預金名義にマンション名を付記していたと証言しており、甲第48号証(G土地開発の財務部社員であったPの陳述書)には、X1が1審被告○○支店で開設した各マンションごとの定期預金については、他のマンション又はX1の固有資産との混同を避けるために、「(株)X1○○マンション(口)」というようなマンション名を入れた預金名義にした、との記載がある。これらの証拠と上(一)ないし(一〇)に認定した事実を併せ考えると、少なくとも書き替えられる前の当初の時点では、本件各定期預金を含め上のようなX1の定期預金の預金者の名義には各マンション名が付記されていた可能性が大きいということができる(もっとも、1審原告作成の調停申立書である丙A第2号証の1には、管理費の剰余金及び修繕積立金は適宜定期預金に振り替えられていたが、上定期預金については、「株式会社X1」、「株式会社X1○○マンション口」、「○○管理組合管理代行株式会社X1」、「○○管理組合理事長○○○○」といった四種の名義が併用されていた、とあり、必ずマンション名が付記されていたとは限らないと思われる。)。
 4 さらに、マンションの管理費の剰余金等を原資としてX1がした定期預金の名義については、以下の事実も認められ、多くの定期預金についてマンション名が付記されていたことが裏付けられる。
 (一) 平成4年8月31日に1審被告(○○支店取扱い)に預け入れられた定期預金の定期預金通帳の名義は「株式会社X1 Y3 代表取締役L」となっており、その定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には「株式会社X1 代表取締役L」との記載のほかに、手書きで「Y3」と付記されている。
 (二) 平成4年8月28日に1審被告(○○支店取扱い)に預け入れられた定期預金の定期預金通帳の名義は「株式会社X1 Y5 代表取締役L」となっており、その定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には「株式会社X1 代表取締役L」との記載のほかに、手書きで「Y5」と付記されている。
 (三) 平成4年8月28日に1審被告(○○支店取扱い)に預け入れられた定期預金の定期預金通帳の名義は「株式会社X1 Y15マンション 代表取締役L」となっており、その定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には「株式会社X1 代表取締役L」との記載のほかに、手書きで「Y15マンション」と付記されている。
 (四) 甲第30号証の一の「預金担保付借入申込書」には、目録12ないし14の各定期預金の解約前の預金のほかに、「Q」と付記された預金も記載されている。
 (五) 甲第30号証の2の1審被告宛ての「預金担保付借入申込書」の「おなまえ」欄には、「Y17マンション」、「Y16マンション」、「Y11」、「Y18ハイツ」との付記がある。
 ただし、これらの預金についての昭和58年11月24日付け「定期預金担保差入証(兼記入帳)」には、これらの付記はない。
 なお、上の「Y17マンション」と付記された定期預金の定期預金証書には、「株式X1Y17マンション」と記載されている。
 (六) 甲第30号証の三の「預金担保付借入申込書」の目録3の定期預金には「Y13ハイツ」と、目録4の定期預金には「Y14ハイツ」と、目録6の定期預金には「Y10」といずれも手書きで付記されている。また、このほかに、「Y19マンション」と付記された定期預金が記載されている。
 ただし、これらの預金についての昭和58年11月24日付け「定期預金担保差入証(兼記入帳)」には、これらの付記はない。
 (七) 乙第17号証の平成4年8月28日付け「定期預金印鑑届」には、「株式会社X1 代表取締役L」との記載のほかに、ゴム印を押捺する方法によったものと思われる「Y20」との付記がされている。
 (八) 丙C第1号証の1審被告(○○支店取扱い)に定期預金通帳(平成4年8月28日預け入れ)には「株式会社X1Y21 代表取締役L」と記載されている。
 この定期預金の「定期預金印鑑届」にも、「おなまえ」欄に手書きで「Y21」と付記されている。
 (九) 平成4年8月31日付け「定期預金印鑑届」には、「おなまえ」欄に手書きで「コートY12」と付記されている。
 (一〇) 丙F第2号証の1審被告(○○支店取扱い)の定期預金通帳(平成4年8月28日預け入れ)には「株式会社X1Y5 代表取締役L」と記載されている。
 (二) 調査嘱託の結果によれば、X1の破産前に管理組合が結成されていたため、破産前にX1から定期預金等の返還を受けたマンションの定期預金の名義は、次のようなものであったことが認められる(ただし、これらは、いずれも、1審被告への預金ではない。)。
 (1) Y22ハイツ
 「Y22ハイツ管理組合」(H銀行積立預金及びR銀行積立預金)
 「Y22ハイツ管理組合管理代行(株)X1」(W○○銀行定期預金)
 (2) Y23
 「Y23管理組合代表 N」
 (3) Y24マンション
 「Y24マンション管理代行(株)X1」(S信用金庫)
 (4) Y25
 「GY25管理組合理事長T」(U銀行積立式定期預金及び定期預金)
 (5) Y26台
 「株式会社X1Y26台」(H銀行定期預金)
 「株式会社X1○○台口」(V銀行定期預金)
 (6)Y27○○町
 「Y27○○町管理組合管理代行(株)X1」(W銀行定期預金)
 (7)Y28マンション
 「カ)X1 Y28マンション」(Z銀行定期預金)
 5 X1では、第10期(昭和59年9月1日から昭和60年8月31日)までの決算報告書においては、各マンションの管理費の剰余金を原資とする定期預金を貸借対照表の資産の部に計上し(ただし、各マンション名を付記していた。)、各マンションの保証預り金、積立金、駐車場積立金、管理金預り金を「マンション管理預り金」として貸借対照表の負債の部に計上していたが、顧問の公認会計士からそのような経理処理は適切ではないとの指摘を受けて、第11期(昭和60年9月1日から昭和61年8月31日)からの決算報告書では、上定期預金を資産として計上せず、「マンション管理預り金」も負債として計上しないこととした。
 6 管理委託契約においては、X1は毎年1回8月末日に過去1年間の管理事務の決算をするものとし、その会計報告並びにその他の主たる管理事務に関する報告を11月末日までに行うものとする、と定められており、X1は、毎年、各マンションごとに「管理費収支決算書」等を作成して、全区分所有者に配布するとともに、管理組合のあるマンションについては、各マンションの管理組合の決算期ごとに各管理組合の総会において報告を行い決議を得ていた。
 上書面には、管理費収支決算書、修繕積立金収支決算書及び貸借対照表が含まれており、そのほかに、マンションによっては、水道料金決算書、給湯料金決算書が含まれている。
 貸借対照表の資産の部には管理費の余剰金を原資とする定期預金も記載されている。
 また、管理費収支決算書の収入の部には前記繰越金、管理費、駐車場使用料等が記載され、支出の部には管理員業務費、事務管理費、清掃業務費、エレベーター保守費等の種々の費用が記載されている。
 修繕費積立金の収入の部には前記繰越金、修繕積立金のほかに定期預金利息が計上されており、支出の部には修繕工事の費用が計上されている。
 なお、甲第7号証の1ないし9の中の貸借対照表は、本件相殺及び本件弁済後の平成4年11月30日現在で作成されているために、本件各定期預金のうちこれらの貸借対照表には記載されていないものがあるが、本件各定期預金が記載されているものは以下のとおりである。すなわち、甲第7号証の3には目録3の定期預金が、第7号証の4には目録4の定期預金が、丙D第1号証の2には目録5及び15の定期預金の合計額である488万6,307円が、丙D第1号証の3には目録15の定期預金が、甲第47号証の1、2には目録12の定期預金が、それぞれ記載されている。
 7 《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。
 (一) X1は、マンションに管理組合が結成され、あるいは管理組合法人が設立されて、管理組合又は管理組合法人から管理費等を原資とするX1名義変更を求められたときは、これらの預金は管理組合等に帰属する預金であるとの考えのもとに、これに応じて、管理組合等の理事長名義に変更し、印鑑を変更していた。このようなマンションはかなりの数にのぼった。
 管理委託契約を解除されたことに伴い、管理組合に預金を返還した例もある。
 (二) 平成4年11月6日、新聞等でX1の親会社であるG土地開発の自己破産の申立の事実が報道されたところ、同日以降、X1が管理していた34のマンションのうち、管理組合が結成されていた18のマンションの管理組合の代表者等がX1の本社事務所を訪れるなどして、管理委託契約の解除を通告し、管理費等の交付を要求した。
 X1は、管理費等が入金されていた定期預金及び普通預金の通帳とX1の届出印を押捺した預金払戻票又は口座解約届を交付したり、あるいは上預金口座から払い戻して保管していた現金をそれぞれ交付した。X1としては、これらの預金は各マンションの資産であり、返還の要求があれば当然これに応じなければならないと認識していたものである(なお、丙A第2号証の1の調停申立書には、X1は管理組合代表者等の要求に抗することはできないまま預金等を交付したとの記載があり、上申立書において1審原告は、上交付は破産法72条4号に該当する、と主張しており、丙F第5号証のX1の代表者の破産裁判所宛ての陳述書にも、X1の社員は預金通帳の返還要求に抗しきれず、一時パニック状態になってしまった、との記載があるが、上丙F第5号証には、返還した預金通帳は管理組合や区分所有者に実質上帰属すると思われるとの記載があり、X1がこれら預金は管理組合ないし区分所有者に帰属するものであると考えていたことは明らかである。)。
 (三) また、X1総務及び経理担当の取締役であったNは、G土地開発の破産申立によってX1の預金が銀行等によって差し押さえられ、マンションの管理業務に支障が生ずることを回避するために、管理組合のあるマンションの大部分について、平成4年11月5日、「○○管理組合代理人N」という名義の普通預金口座を開設した。
 三 以上認定の事実に基づいて本件各定期預金の預金者が誰であるかを検討する。
 1 預金者の認定については、自らの出捐によって、自己の預金とする意思で、銀行に対して、自ら又は使者・代理人を通じて預金契約をした者が、預入行為者は出捐者から交付を受けた金銭を横領し自己の預金とする意図で預金をしたなどの特段の事情がない限り、当該預金の預金者であると解するのが相当である。
 2 本件各定期預金の原資である管理費等は、もとよりX1固有の資産ではなく、管理規約及び管理委託契約に基づいて区分所有者から徴収し、保管しているものであって、X1が受領すべき管理報酬も含まれてはいるが、大部分は各マンションの保守管理、修繕等の費用に充てられるべき金銭である。
 区分所有法によれば、区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体(以下「管理組合」という。)を構成するものとされ(3条)、各共有者は、その持分に応じて,共用部分の負担に任ずるとされている(19条)。すなわち、区分所有建物並びにその敷地及び附属施設の管理は、管理者が行うのであって、その管理の費用は区分所有者が負担すべきものである。したがって、区分所有者から徴収した管理の費用は、管理を行うべき管理組合に帰属するものである。管理組合法人が設立される以前の管理組合は、権利能力なき社団又は組合の性質を有するから、正確には総有的又は合有的に区分所有者全員に帰属することになる。
 したがって、本件各定期預金の出捐者は、それぞれの間マンションの区分所有者全員であるというべきである。
 3 管理費の剰余金等を原資とする定期預金は、X1おいて、自己の預金、資産であるとは考えておらず、X1はこれを各マンションの区分所有者ないし管理組合に属するものとして取り扱っていたものである。このことは、多くの定期預金の名義に各マンション名が付記されていること、X1の決算報告書及び各マンションの管理費収支決算書等の記載内容、X1の破産の前及び破産の直前に管理組合に返還した定期預金もあること等の事実が明らかである。
 4 本件各定期預金は、X1が、管理費の剰余金等が一定の金額に達したときに、その独自の判断と裁量でこれを定期預金に振り替えていたものである。区分所有者は、管理費等をX1名義の普通預金口座に振り込むだけであって、その管理費の剰余金等がいつの時点で、そのような金融機関の定期預金に振り替えられるか等の具体的な事実は認識していない。
 しかし、普通預金としてよりも定期預金として保管することの方が区分所有者にとって有利であることは明らかであり、普通預金から定期預金への振替は区分所有者の意向に沿うものである。また、区分所有者は、管理費の剰余金等が一定の金額に達すれば、これが定期預金に振り替えられることになっているという仕組み自体は知っていたものと推認される。そして、区分所有者は、定期預金の預入から遅くとも1年以内の決算報告において、本件各定期預金がされていることを具体的に知ったのであり、区分所有者がこれに異議を述べたことを認めるに足りる証拠はないから、区分所有者は、この時点に至って、本件各定期預金をしたことを是認し、引き続き定期預金とすることを了承したものということができる。
 すなわち、この時点以降、区分所有者が本件各定期預金の預入をする意思を有することが具体的に明確になったものである。
 5 本件各定期預金の預入行為者はX1であるが、X1が管理費の剰余金等を横領し自己の預金とする意図で本件各定期預金をしたことを認めるに足りる証拠はない。本件各定期預金は、X1の1審被告に対する借入金債務の担保として差し入れられていることは当事者間に争いがないが、この事実から直ちにX1の上横領の意図があったと推認することはできない。
 そして、区分所有者とX1との関係(X1は、管理委託契約に基づく受託者であると同時に、区分所有法第4節に定める管理者であり、区分所有者を代理する立場にある。)と、上に見たとおり区分所有者に預入の意思があると認められることを併せ考えると、X1は区分所有者の使者として本件各定期預金をしたものと見るのが相当である。
 6 本件各定期預金の一部の少なくとも書替前の預入関係等の書類には預入人の名義としてX1のほかにマンション名が付記されているが、書替に伴ってこの名義がどのように推移したのかは明らかではない。しかし、少なくとも、区分所有者の支払った管理費の剰余金等を原資とする定期預金の名義は必ずしもX1名義とはされていなかったことは前記認定のとおりであり、本件各定期預金の名義はX1であると断定することはできない。
 ところで、預金者の認定については前記1の基準により判断するのが相当であり、預金の名義がどのようになっているか、銀行側が預金者についてどのような認識を有していたかは上判断を左右するものではない。
 もっとも、1審被告が民法478条の適用ないし類推適用により本件相殺及び本件弁済が有効である旨の主張をする場合には、預金の名義等も問題になると考えられるが、本件においては1審被告はこの主張をしていない。
 7 以上のとおり、本件各定期預金の預金者は、各マンションの区分所有者の団体である管理組合であり、区分所有者全員に総有的ないし合有的に帰属すると認めることができる。
 そして、管理組合法人と管理組合とは、法人格を取得する前後において、団体としての同一性が維持されるから(区分所有法47条5項参照)、参加人らのうち管理組合法人が設立されている参加人は、本件各定期預金の預金者となる。
 管理組合法人が設立されていない参加人は、権利能力なき社団であると認められるから、本件各定期預金について、その名において訴訟の追行ができる。
 8 1審原告は、本件各定期預金は信託財産であると主張する。
 しかし、区分所有者はX1との間で管理委託契約を締結し、X1は管理費等の金銭の処理、収納保管という経理業務を受託しているが、信託法1条にいう財産権(管理費の剰余金等)の移転その他の処分をする契約がされているということはできない。すなわち、信託法1条において明らかにされているように、信託契約には財産権変動の側面(「財産権の移転其の他の処分を為し」)とともに委任的側面(「他人をして一定の目的に従い財産の管理又は処分を為しむる」)を含むものであるが、前記認定のとおりX1は本件各定期預金をX1の財産であると考えておらず、そのように取り扱ってもいないのであるから、区分所有者とX1との間の契約については、この財産権移転の契機を見だすことができないといわざるをえない。
 したがって、1審原告の主張は採用することができない。
 四 本件各定期預金のうち、目録2ないし4の定期預金を除く定期預金については、参加人らに帰属することになるから、参加人らの1審原告及び1審被告に対する各請求はいずれも理由があり、1審原告の1審被告に対する請求は理由がない。
 目録2ないし4の定期預金(独立当事者参加がされていない定期預金)については、1審原告は信託財産であると主張し、1審被告はX1に属する預金であると主張するところ、信託財産であるとする1審原告の主張は採用できない。そして、1審被告の主張するとおり、X1に属する預金であるとすれば、本件相殺及び本件弁済によりその返還債務は消滅していることになる。いずれにしても、1審原告の目録2ないし4の定期預金についての請求は理由がない。
 五 よって、以上の趣旨に従って原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。
 東京高等裁判所第4民事部
              裁判長裁判官 矢崎秀一
                 裁判官 西田美昭
 裁判官筏津順子は転補のため署名押印できない。
              裁判長裁判官 矢崎秀一


別紙
預金目録(別添画像)





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