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マンション管理関係判例


bR5
  管理者・管理委託/管理費の合有的帰属


平成 8年 5月10日 判時1596-70(平田健治・判時1609-191) 東京地判

判決要旨
平成4年11月30日破産宣告したマンション管理会社が、徴収した管理費を「渇h光○○マンション口」、「○○マンション管理組合管理代行渇h光」名義で銀行に預託していた場合について、その預金者は管理会社であるものと認定し、かつ銀行が管理会社に対して有する債権の担保に供し、相殺をなした行為が有効とされた、管理会社の破産管財人の銀行に対する返還請求が棄却された事例


判決日・当事者
預金返還請求、当事者参加事件、東京地裁平5(ワ)20929号(甲事件)・同6(ワ)5530号(乙事件)・5685号(丙事件)・9436号(丁事件)・9438号(戊事件)・13437号(己事件)・20398号(庚事件)、平8・5・10民4部判決、甲事件一部認容・一部棄却、乙〜庚事件棄却(控訴)
《当事者》
甲事件原告兼乙、丙、丁、戊、己及び庚事件参加被告(以下「原告」という)
           破産者株式会社X
破産管財人      X1
上訴訟代理人弁護士  野 村 茂 樹
同          滝   久 男
同          山 中 尚 邦
同          井 上 由 理
同          藤 田 浩 司
同          大 西 正一郎
甲事件被告兼乙、丙、丁、戊、己及び庚事件参加被告(以下「被告」という)
           株式会社Y銀行
上代表者代表取締役  Y1
上訴訟代理人弁護士  小 川 信 明
同          友 野 喜 一
同          鯉 沼   聡
同          渡 邊 彰 敏
乙事件参加原告(以下「乙事件参加人」という)
           S管理組合法人
上代表者理事     S1
上訴訟代理人弁護士  安 福 謙 二
同          古 瀬 明 徳
丙事件参加原告(以下「丙事件参加人」という)
           S2管理組合法人
上代表者理事     S3
上訴訟代理人弁護士  荻 津 貞 則
丁事件参加原告(以下「丁事件参加人」という)
           S4管理組合
上管理者理事長    S5
戊事件参加原告(以下「戊事件参加人」という)
           S6管理組合法人
上代表者理事     S7
丁及び戊事件参加人訴訟代理人弁護士
           安 福 謙 二
同          古 瀬 明 徳
己事件参加原告(以下「己事件参加人」という)
           S8管理組合法人
上代表者理事     S9
上訴訟代理人弁護士  高 橋 秀 忠
上訴訟復代理人弁護士 松 田 浩 明
庚事件参加原告(以下「庚事件参加人」という)
           S10管理組合
上代表者理事長    S11
上訴訟代理人弁護士  恵 古 和 伯
------------------------------主文------------------------------
【主文】 一 被告は原告に対し、金3,192万8,304円及び上金員の内、別紙預金目録記載20ないし23のそれぞれにつき各元本額欄記載の金員に対する預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで利率欄記載の割合による金員を、金70万9,934円に対する平成5年3月1日から同年10月17日まで年0.26パーセント、同月18日から支払済みまで年0.22パーセントの各割合による金員を、金516万948円に対する平成5年1月29日から支払済みまで年3.85パーセントの割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 乙、丙、丁、戊、己及び庚事件各参加人の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用のうち、乙、丙、丁、戊、己及び庚事件に生じた費用は各参加人の、甲事件に生じた費用はこれを4分し、その1を被告の、その余を原告の各負担とする。
五 この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。


【事実及び理由】 第一 請求の趣旨
 一 甲事件
 1 被告は原告に対し、1億3,799万185円及び上金員の内、別紙預金目録(以下「目録」という)記載1ないし23(以下「目録1」、「目録2」等という)のそれぞれにつき各元本額欄記載の金員に対する預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで利率欄記載の割合による金員を、70万9,934円に対する平成5年3月1日から支払済みまで年0.26パーセントの割合による金員を支払え。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
 3 仮執行宣言
 二 乙事件
 1 目録6及び7の各定期預金債権(元本額合計1,650万2,520円)が乙事件参加人に属することを確認する。
 2 被告は乙事件参加人に対し、1,650万2,520円及び上金員の内、目録6及び7のそれぞれにつき各元本額欄記載の金員に対する預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで利率欄記載の割合による金員を支払え。
 3 参加費用は原告及び被告の負担とする。
 4 仮執行宣言
 三 丙事件
 1 目録20ないし23の各定期預金債権及び目録24の普通預金債権(元本額合計2,676万7,356円)が丙事件参加人に属することを確認する。
 2 被告は丙事件参加人に対し、2,676万7,356円及び上金員の内、目録20ないし23のそれぞれにつき各元本額欄記載の金員に対する満期日欄記載の日から支払済みまで利率欄記載の割合による金員を、目録24の元本額欄記載の金員に対する平成5年3月1日から支払済みまで利率欄記載の割合による金員をそれぞれ支払え。
 3 参加費用は原告及び被告の負担とする。
 4 仮執行宣言
 四 丁事件
 1 目録15ないし17の各定期預金債権(元本額合計1,591万1,522円)が丁事件参加人に属することを確認する。
 2 被告は丁事件参加人に対し、1,591万1,522円及び上金員の内、目録15ないし17のそれぞれにつき各元本額欄記載の金員に対する預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで利率欄記載の割合による金員を支払え。
 3 参加費用は原告及び被告の負担とする。
 4 仮執行宣言
 五 戊事件
 1 目録8ないし10の各定期預金債権(元本額合計2,058万9,932円)が戊事件参加人に属することを確認する。
 2 被告は戊事件参加人に対し、2,058万9,932円及び上金員の内、目録8ないし10のそれぞれにつき各元本額欄記載の金員に対する預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで利率欄記載の割合による金員を支払え。
 3 参加費用は原告及び被告の負担とする。
 4 仮執行宣言
 六 己事件
 1 目録1ないし5の各定期預金債権(元本額合計2,156万5,456円)が己事件参加人に属することを確認する。
 2 被告は己事件参加人に対し、2,156万5,456円及び上金員の内、目録1ないし5のそれぞれにつき各元本額欄記載の金員に対する預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで利率欄記載の割合による金員を支払え。
 3 参加費用は原告及び被告の負担とする。
 4 仮執行宣言
 七 庚事件
 1 目録11及び12の各定期預金債権(元本額合計2,524万8,277円)が庚事件参加人に属することを確認する。
 2 被告は庚事件参加人に対し、2,524万8,277円及び上金員の内、目録11及び12のそれぞれにつき各元本額欄記載の金員に対する預入日欄記載の日の翌日から支払済みまで利率欄記載の割合による金員を支払え。
 3 参加費用は原告及び被告の負担とする。
 4 二項につき仮執行宣言
第二 当事者の主張
(甲事件)
 一 請求原因
 1 当事者の地位及び基本取引関係
 (一) 破産者株式会社X(昭和52年7月1日付けで旧商号A株式会社から株式会社Xに商号変更した。以下商号変更の前後を問わず便宜「X」という)は、株式会社B(以下「B」という)が建築、分譲するマンションの管理業務を目的として昭和50年9月9日に設立された同会社の子会社であり、乙、丙、丁、戊、己及び庚事件参加人(以下併せて「参加人ら」という。なお、参加人らの管理組合設立はいずれも後記Xの破産宣告後である)のマンションの管理業務を行ってきた。
 Xは平成4年11月30日東京地方裁判所において破産宣告を受け(同裁判所平成4年(フ)第3644号事件)、原告は同日破産管財人に選任された。
 なお、上に先立ち、Bは、同月20日東京地方裁判所において破産宣告を受けている(同裁判所平成4年(フ)第3422号事件)。
 (二) 被告は株式会社C銀行(以下「C銀行」という)と株式会社D銀行の合併後、名称変更した資本金約4200億円の大手都市銀行である。
 (三) XはC銀行との間で昭和54年3月31日銀行取引約定契約(以下「本件銀行取引約定」という)を締結し、事業資金の借入れその他各種の銀行取引を行っていた。
 2 定期預金契約及び普通預金契約の締結
 (一)(1) Xは被告(○○支店(現在の○○支店)取扱い。以下便宜「○○支店」という)との間で、次のとおり定期預金契約を締結した。
 すなわち、Xは自らが管理する各マンションの区分所有者らから管理費及び修繕積立金(以下「管理費等」という)を徴収して金銭出納業務を行うため、被告においてX名義若しくはXにマンション名を付記した名義(「株式会社X○○マンション口」又は「○○マンション管理組合管理代行株式会社X」名義)のいずれかを用いて普通預金口座を開設し、上銀行通帳及び届出印鑑を保管し、上管理費等を徴収して一定の裁量の下に金銭出納業務等を行うとともに、各マンションの区分所有者らから各普通預金に徴収された管理費等の剰余金を被告(○○支店取扱い)に送金し、同支店において「株式会社X○○マンション口」名義で各マンションごとに目録1ないし23のとおり定期預金契約を締結した(口座開設日は目録1ないし23の各口座開設日欄記載のとおりである)。上各定期預金口座は、利息元加方式で自動書替継続され、最終的には目録1ないし23の各預入日欄記載の日に各該当元本額(合計1億3,728万251円)が各該当満期日及び利率の約定の下に預け入れられた(以下目録1および23の各定期預金をそれぞれ「目録1の定期預金」「目録2の定期預金」等といい、上各定期預金を併せて「本件各定期預金」という)。
 上各定期預金口座の預金通帳及び銀行届出印鑑はいずれも各定期預金契約締結以来Xが保管している。
  (2) 原告及び被告には、上各定期預金がその口座名義にマンション名が付記されていることからして、該当マンションの区分所有者ら又は同マンションの管理組合(管理組合の実体がなく、機能していないマンションの場合も含め、以下「管理組合」という)からの預り金であることが一目瞭然であった。
 (二) 前記(一)の要領でS2マンションの管理委託業務を行う目的の下、Xは被告(○○支店取扱い)との間で、昭和54年3月ころ目録24のとおりX名義で普通預金口座を開設して普通預金契約を締結したが、平成5年3月1日時点における上口座残高は70万9,934円であり、同日以降の利率は年0.26パーセントである(以下「本件普通預金」という。上普通預金の銀行通帳及び届出印鑑はXが保管している。
 3 原告による返還請求
 原告はXの破産管財人として、平成5年1月21日被告に対し、本件各定期預金及び本件普通預金の返還を請求した。
 4 よって、Xの破産管財人である原告は被告に対し、本件各定期預金契約又は本件普通預金契約に基づき請求の趣旨一1記載の金員の支払を求める。
 二 請求原因に対する認否
 1 請求原因1(当事者)及び3(原告による返還請求)の事実は認める。
 2(一) 同2(一)(本件各定期預金契約の締結)の事実中、Xが被告の各支店との間で原告主張のX名義若しくは同会社名義にマンション名を付記したもののいずれかを用いて普通預金口座を開設していたこと、Xが被告との間で「株式会社X○○マンション口」名義の本件各定期預金契約を締結したこと並びにXが上各定期預金通帳及び銀行届出印鑑を保管していることは認め、本件各定期預金のうち目録1ないし9、11、13、15、16、18ないし21の各定期預金の自動書替継続が利息元加方式であるとの点は否認し、その余は知らない。
 被告はXから、本件各定期預金のうち目録1ないし9、11、13、15、16、18ないし21の各定期預金については、元本のみを継続し、利息はX名義の普通預金口座(口座番号○○○)に入金するよう指定され、上指定に従った処理を行っていた。
  (二) 同(二)(本件各普通預金契約の締結)の事実中、Xが被告(○○支店取扱い)との間で本件普通預金契約を締結したこと、平成5年3月1日時点の上普通預金口座の残高が70万9934円であること及びXが上各定期預金通帳及び銀行届出印鑑を保管していることは認め、その余は知らない。
 なお、本件普通預金口座の開設日は昭和54年2月28日であり、上預金の利率は平成5年3月1日から同年10月17日まで年0.26パーセント、同月18日から年0.22パーセントである。
 三 被告の主張
 1 目録1ないし19の各定期預金について一部相殺の抗弁
 (一) Xの借入れ及び預金担保の設定
  (1) Xは、昭和54年3月31日被告(○○支店取扱い)から1億円を借り入れるとともに、上借入れに際し、被告の同支店に対して別紙預金担保設定一覧表記載No1ないし13の定期預金債権及び次の4口の定期預金債権(合計17口の定期預金債権)につき、預金担保を設定した。
 口座番号 預入日 金額    口座名義
 4061004  54.3.8 \7,000,000 (株)X○○○ハイツ
 4061053  54.3.8 \1,500,000 (株)X○○マンション
 4061053  54.3.8  \500,000 (株)X○○マンション
 4061087  54.3.8 \2,800,000 (株)X○○○ハイツ
  (2) Xの被告(○○支店取扱い)からの借入金は、最終的には平成2年12月28日付金銭消費貸借契約に係る合計1億1,280万円(以下「本件貸金債権」という)となった。
 また、Xの被告(○○支店取扱い)に対する各定期預金担保設定状況は別紙預金担保設定一覧表記載のとおりに推移した(上預金担保は、担保である定期預金の解除、併合又は新規設定に伴い推移し、各定期預金の満期到来に伴う自動書替手続により継続的に担保が設定されている。上の内、別紙預金担保設定一覧表記載No41ないし44は各満期到来に伴い、No46ないし49として利息元加方式で書替継続されたものである。以下上預金担保すべてを併せて「本件預金担保」という)。
 (二) 被告の相殺の意思表示若しくは本件預金担保権実行
 被告(○○支店取扱い)は平成5年2月1日Xに対し、本件銀行取引約定に基づき、本件貸金債権1億1,280万円及びこれに対する平成4年12月1日から同5年1月28日まで年5.55パーセントの割合による遅延損害金49万7,401円の合計1億1,329万7,401円を自働債権として、平成5年1月29日起算で目録1ないし19の各定期預金返還請求債権及び目録25ないし27の各定期預金返還請求債権(ただし、上3口の定期預金はX名義の定期預金である。また、上返還請求債権の金額は元本額並びに源泉所得税15パーセント及び地方税5パーセント控除後の利息の合計金額である)とその対当額で相殺する旨の意思表示(以下「本件相殺」という)をした。
 (三) 被告による残金の保管
 原告及び参加人らが、それぞれ本件各定期預金債権の帰属主体性を主張し、被告に対して上各定期預金の返還を請求しているため、被告による上相殺後の残金516万948円(ただし目録10の定期預金債権(約定利率年3.85パーセント)の一部)の帰属主体は不確定である。したがって、被告は上残金の帰属主体が確定するまで原告への支払を拒絶する(以下「本件残金保管」という)。
 (四) 以上のとおりであり、被告のXに対する目録1ないし19の各定期預金返還債務は本件相殺により本件残金保管に係る債務のほかは消滅した。
 2 目録20ないし23の各定期預金及び本件普通預金について
 被告は前記1(三)のとおり上各預金の帰属主体につき争いがあるので、上が確定するまで原告への支払を拒絶する。
 四 抗弁に対する認否
 1 目録1ないし19の各定期預金について
 抗弁1の(一)ないし(三)のうち、本件預金担保設定、本件相殺の意思表示及び本件残金保管の各事実はいずれも認めるが、(四)は争う。
 2 目録20ないし23の各定期預金及び本件普通預金について
 上各定期預金債権及び上普通預金債権はいずれもXに帰属するものである。
 五 原告の主張
 1 本件預金担保設定及び本件相殺の違法、無効
 (一) 公序良俗違反(民法90条)による本件預金担保設定の無効
  (1) 本件預金担保設定の業務上横領行為又は背任行為該当性
  ア 本件各定期預金は、参加人らのマンションの管理費等に用いられるべく使途が限定された上各マンションの区分所有者らの団体ないし管理組合(以下管理組合の実体のないものも併せて便宜「管理組合」という)からの預り金を原資とする以上、委託者である管理組合若しくは区分所有者らの承諾なくして本件各定期預金に担保を設定することは違法行為である(この点は、本件各定期預金債権が原告に帰属することと抵触するものではない)。ところがXの担当者は、昭和54年3月31日以降、被告(○○支店取扱い)からの借入れ及びそれに伴う本件預金担保設定当時、本件各定期預金は管理組合との委託契約上使途が限定されており、これに対する担保設定行為が違法行為であることを認識していたにもかかわらず、上委託の趣旨に反して管理組合若しくは区分所有者らの承諾を得ることなく恣に、本件各定期預金にXの被告に対する借入金の担保を設定し、もって上預り金を領得した。
 したがって、本件預金担保設定行為は業務上横領行為(刑法253条)に該当するというべきである。
  イ 仮に、上各定期預金債権者がXであることから「他人性」の欠如を理由に本件預金担保設定行為が業務上横領行為といえないとしても、背任行為というべきである。
 すなわち、Xは、管理組合のために管理業務として預金保管・出納事務を処理する者であるところ、Bの利益を図る目的で、管理委託契約及び管理規約等に規定された管理会社としての任務に背いた担保設定行為を行い、B及びXが破産したことにより被告から担保権実行を受け、もって、区分所有者らに上担保設定額と同額の損害を与えた。
 したがって、本件預金担保設定行為は背任行為(刑法247条)に該当するというべきである。
  (2) 本件預金担保設定への被告の関与ないし悪意
  ア また、Xは被告との間で、次の@ないしFの事情の下、随時本件各定期預金口座を開設して上各定期預金契約を締結し、また、本件預金担保設定をした。
  @ Xは被告(当時はC銀行であった)との本件銀行取引約定開始の際、Xの商業登記簿謄本を提出し、同会社がマンション管理業務を内容としていることを告げた。
  A 被告はBとの間で、同会社の分譲マンションに関する提携ローン契約を締結し、また、同会社の分譲マンション数棟につき、その購入者に対して融資を行った。
  B 被告は、上提携ローン契約締結に際し、その都度、当該マンションの管理規約、管理委託契約書を入手していた。上管理規約及び管理委託契約書には、Xが管理者の地位にあること、区分所有者らは、管理者であるXに対し、毎月管理費等を支払う義務があること、上管理費等の保管はXが行うこと等が記載されていた。
  C Xは、他の銀行に開設したマンションごとの管理委託費を管理する普通預金口座(口座名義には、X名義の下にマンション名を付記していたものもあった)から、直接被告(○○支店取扱い)の本件各定期預金口座に送金し、又は、いったん同支店の普通預金口座に送金した後、上口座に入金された金員を本件各定期預金に振り替えていた。
  D Xは被告(○○支店取扱い)に対し、昭和54年3月31日の借入れの際、決算報告書及び各マンションの管理規約、管理委託契約書を提出した。上決算報告書には、各マンションごとの預金名目で、本件各定期預金が記載されていた。
  E Xは同会社において管理するマンションの大修繕等の必要性が生じた都度、被告に対し、その旨告げ承諾を得て、該当定期預金の解約を行っていた。
  F 本件各定期預金は「株式会社X○○マンション口」と該当マンション名が口座名義に付記されていた。
  イ したがって、被告は本件各定期預金の原資がXの管理する各マンションの区分所有者らから徴収された管理費等であること、上各定期預金は当該マンションの管理、修繕、補修等に充てられることを目的とし、使途が限定されていること、Xの行う本件預金担保設定行為が上委託の趣旨及び上使途に反すること、Xは本件預金担保設定行為につき、各該当マンション管理組合の承諾を得ていないことをそれぞれ認識していたというべきである。
  (3) 上のとおり、本件預金担保設定は刑罰法規に抵触するのであり、公序良俗(民法90条)に違反し(上担保預金の原資は区分所有者らの日常生活を支えるために徴収された管理費等であり、非常に公共性の強いものであることから、上違反の程度は著しく高い)、違法、無効というべきである。
 (二) 本件相殺の無効
 また、本件相殺の意思表示は、上のとおり被告の知情の下にされた違法、無効な担保設定に基づく、実質的な担保権の実行であるから、同じく民法90条に違反する意思表示として無効というべきである。
 2 民法505条1項ただし書による本件相殺の無効(本件各定期預金返還請求債権が受働債権として性質上相殺に適さないこと)
 民法505条1項ただし書の趣旨は、形式上相殺適状関係にある対立債権(債務)があっても、相殺による両債権の権利行使の制限が債務成立の本旨に反する場合には、両債権の権利行使を肯定した方が債権(債務)を成立せしめた本来の趣旨に沿うという点にある。
 ところで、Xは参加人ら若しくはそのマンションの区分所有者らの管理受託者であり、本件各定期預金の原資は区分所有者らから管理費、修繕積立金として出捐されたものであるから、Xは上管理受託者の立場で上金銭の徴収、保管等会計出納業務を履行するにすぎない。したがって、本件相殺の受働債権とされる上各定期預金債権はXに固有の資産として帰属する債権ではなく、上管理受託者としての立場からXが取得した実質上第三者(参加人ら若しくは区分所有者ら)に帰属する債権である。
 このように、本件各定期預金債権は性質上被相殺者であるXに帰属する固有の債権ではないため、上各定期預金返還債権を受働債権として相殺の用に供することを肯定すると、相殺者である被告に上定期預金返還債務を成立せしめた本旨に反することは明らかである。
 以上により、本件相殺は民法505条1項ただし書の趣旨に抵触し、許されないというべきである。
 3 権利濫用による本件相殺の違法、無効
 被告は前記のとおり、本件各定期預金返還請求債権が、実質上Xではなく、参加人らを含む管理組合に帰属するものであることを認識していたものであるところ、Xが破産した時点において被告による本件相殺を認めることは、Xの参加人らを含む管理組合に対する受託物返還債務の履行が不可能になること、本件各定期預金は参加人らを含む管理組合から徴収した管理費等を積み立てた極めて公共性の高い金銭を原資としており、参加人らを含む管理組合へ返還することが公益上不可欠であること等に照らし、本件相殺は民法の根本原理たる信義・公平の原則に違背し、権利濫用に当たる違法なものであり許されず、無効であるというべきである。
 六 原告の主張に対する被告の認否
 すべて争う。
 なお、上1(一)(2)ア記載の@ないしFの事情は、@、A及びFの各事実は認めるが、B及びDの各事実は否認する。C及びEは知らない。
(乙事件)
 一 請求原因
 1 当事者
 (一) 甲事件請求原因1に同じ。
 (二)(1) 乙事件参加人は平成4年12月5日Sマンションの区分所有者集会の決議(上マンション管理規約31条ないし36条)により設立された同マンションの管理組合法人である。
  (2) 乙事件参加人は、マンション分譲以来管理組合法人として設立される以前から管理組合若しくは管理組合法人と称すると否とにかかわらず建物区分所有等に関する法律(昭和58年法律51号による改正。昭和59年1月1日施行。以下「区分所有法」という)3条により法律上存在するとされる団体であったが、上団体がその同一性を維持しつつ、前記のとおり同法47条1項に規定する所定の設立手続を経て法人格を取得した。
 2 乙事件参加人と目録6及び7の各定期預金との関係
 (一) Xのマンション管理業務
  (1) Xの管理者性
  ア Bはその建設したマンションの分譲に際し、区分所有権の買主(区分所有者)に対して自ら作成したマンション管理規約及び使用細則を提示してその承認を求めるとともに、上区分所有者とXの間で事務管理業務(会計業務、金銭出納業務、管理運営業務)、清掃業務及び管理員派遣業務を内容とする管理委託契約を締結させた。上管理委託契約には、竣工時の管理者をXとすること及び区分所有者はXに対し管理費等及び保証預り金(以下併せて「管理委託費」という)として毎月一定額を支払うことが規定されている。
 Xは前記のとおり、平成4年11月に破産するまで、参加人らの委託を受けた管理者としての地位にあり、参加人らを構成する区分所有者らとXの間で締結した管理委託契約は、上管理者たるXが行う管理事務権限と義務の範囲を区分所有者ら全員との間で書面により確認したものであり、いわゆる管理組合が外部の管理会社にその管理業務を委託したものではなく、建物の区分所有等に関する法律(昭和58年法律51号による改正前のもの)24条1項の「区分所有者全員の書面による合意」に当たるから、上管理委託契約は管理規約及び使用細則とともに三者で一体となって、区分所有法に規定する「規約」というべきである。
 したがって、管理者たるXは参加人らに対し、管理規約、使用細則及び管理委託契約上の権利及び義務を負うとともに、区分所有法上の権利及び義務を負う(区分所有法26条1項)。
  イ 乙事件参加人の管理規約であるS管理規約には、いずれもXが区分所有法上の管理者と規定され(同規約11条2項)、Xは上管理に係るマンションの分譲以降平成4年11月に自己破産申立てを行うまで上管理者の地位にあった。
  (2) Xへの管理委託費の委託及び事務管理業務等
 区分所有者らはXに対し、管理委託契約に基づき管理委託費として毎月一定額を同会社の開設した同会社名義の被告各支店等金融機関における普通預金口座に振り込んで支払っていた。
 他方、Xは、金銭出納業務として上管理委託費から管理員人件費、清掃費、エレベータ・消防及び電気設備保守メインテナンス料並びに定期検査等の諸経費を支出するとともに、上管理委託費から管理報酬を引き出して取得していた。
 (二) 目録6及び7の各定期預金に対する乙事件参加人の債権者性
  (1) 目録6及び7の各定期預金が乙事件参加人の合有財産であること
  ア Xは、参加人らの管理者として、前記(一)(1)アのとおり区分所有法上の管理者が区分所有法上の団体(管理組合)である参加人ら共有財産の管理を行う権利及び義務に基づき参加人らを構成する区分所有者らから管理委託費として普通預金口座に振り込まれた金員を原資として本件各定期預金契約を締結したものである。
 したがって、上各定期預金は、X固有の財産ではなく、管理組合法人設立前の管理組合にあっては区分所有者らから管理者たるXに徴収され、同会社が管理者の職務として上を管理運用して預金したものであって、管理組合の合有的財産である。
 そして、参加人らがそれぞれ設立前の団体との同一性を維持しつつ法人格を取得した場合、管理者が保持・管理していたすべての財産は何らの手続を経ることなく、当然に法人化した参加人らに帰属するというべきである。
  イ したがって、目録6及び7の各定期預金については、Xが乙事件参加人の管理者として上各定期預金契約を締結したものであって、X名義で徴収・管理していた上各定期預金は乙事件参加人の法人格の取得に伴い、同参加人に帰属すると解すべきである。
  (2) 乙事件参加人の代理人としての目録6及び7の各定期預金契約の締結
  ア 管理者は「その職務に関」して区分所有者らを代理するものであり(区分所有法26条2項)、上「区分所有者の代理」とは個別的代理ではなく、全区分所有者すなわち管理組合を代理することを意味するところ、本件各定期預金契約の締結行為は管理者たるXの「その職務に関」するものにほかならない。
 そして、被告は、甲事件五(原告の主張)1(一)(2)ア及びイのとおりの認識を有していたのであるから、被告はXが代理人として本人である管理組合のために本件各定期預金契約を締結したものであることにつき悪意であるというべきである。
 したがって、本人である管理組合は被告に対し本件各定期預金契約に基づき上各定期預金払戻請求をすることができる(民法100条ただし書)。
  イ したがって、仮に、目録6及び7の各定期預金債権者が乙事件参加人ではなく、Xであるとしても、Xが乙事件参加人の代理人として上各定期預金契約を締結したというべきであり、被告は上につき悪意であるから、本人である乙事件参加人は被告に対し、上各定期預金契約に基づき上各定期預金払戻請求をすることができるというべきである。
 3 不当利得
 目録6及び7の各定期預金は、乙事件参加人の管理委託費を原資とするものであり、Xが毎年行う同参加人の会計報告においては、管理組合の財産として資産科目に記載されていたものであるが、被告は上報告書を入手しその旨認識し、実質的に同参加人の合有財産であると認識していたにもかかわらず、Xの借入債務の弁済として相殺して上各定期預金を受領した。
 これは、被告が、乙事件参加人の損失において債権回収を図り利益を享受したものというべきである。そして、被告の上認識にその因果関係を認めることができ、また、被告は上利益を享受する法律上の原因を欠くというべきである。
 4 よって、乙事件参加人は、目録6及び7の各定期預金が同参加人に属することの確認及び被告に対し、上各定期預金契約の預金返還請求権又は不当利得返還請求権に基づき請求の趣旨二2記載の金員の支払を求める。
 二 原告及び被告の主張
 1 原告
 (一) 請求原因1(当事者)は認める。
 同2(乙事件参加人と目録6及び7の各定期預金との関係)の事実中(一)の(2)は認め、その余及び(二)は否認する。
 同3(不当利得)は争う。
 (二) 目録6及び7の各定期預金債権はXに帰属するものである。
 2 被告
 (一) 請求原因1(当事者)の事実中(一)は認め、(二)は知らない。
 同2(乙事件参加人と目録6及び7の各定期預金との関係)は否認する。
 同3(不当利得)は争う。
 (二) 目録6及び7の各定期預金を含む本件各定期預金債権者はXであり、被告のXに対する本件各定期預金返還債務は本件相殺により一部消滅し、上残金は被告(○○支店取扱い)において上債権者が確定するまで保管している。
 三 乙事件参加人の主張
 1 目録6及び7の各定期預金返還請求債権は乙事件参加人に帰属するのであるから、上預金返還請求権と被告の原告に対する貸金返還請求権とは相殺適状になく、相殺の抗弁は失当である。
 2 甲事件五(原告の主張)1に同じ。
(丙事件)
 一 請求原因
 1 当事者
 (一) 乙事件請求原因1(一)に同じ。
 (二)(1) 丙事件参加人は平成5年6月20日S2マンションの区分所有者集会の決議(上マンション管理規約27ないし32条)により設立された同マンションの管理組合法人である。
  (2) 乙事件請求原因1(二)(2)に同じ(ただし、「乙事件参加人」を「丙事件参加人」に読み替える)。
 2(一) 乙事件請求原因2及び3に同じ(ただし、「乙事件参加人」を「丙事件参加人」に、「S管理規約11条2項」を「S2管理規約10条2項」に、「目録6及び7」を「目録20ないし23」にそれぞれ読み替える)。
 (二) 甲事件請求原因2(二)に同じ。本件普通預金債権は丙事件参加人に帰属するものである。
 3 よって、丙事件参加人は、目録20ないし23の各定期預金債権及び本件普通預金債権が同参加人に属することの確認並びに被告に対し、上各定期預金契約及び上普通預金契約の預金返還請求権又は不当利得返還請求権に基づき請求の趣旨三2の金員の支払を求める。
 二 原告及び被告の主張
 1 原告
 (一) 乙事件二(原告及び被告の主張)の1(原告)に同じ(ただし、「目録6及び7」を「目録20ないし23」に読み替える)。
 (二) 本件普通預金債権はXに帰属するものである。
 2 被告
 原告と丙事件参加人の間において、目録20ないし23の各定期預金及び本件普通預金の帰属主体につき争いがあるので、被告は上帰属主体が確定するまで支払を拒絶する。
(丁事件)
 一 請求原因
 1 当事者
 (一) 乙事件請求原因1(一)に同じ。
 (二)(1) 丁事件参加人は昭和54年6月ころ分譲されたS4マンションの管理組合であるが、管理組合法人ではない。
  (2) 乙事件請求原因1(二)(2)に同じ(ただし、「乙事件参加人」を「丁事件参加人」に読み替え、参加人が法人格を有することを前提とする主張部分は除く)。
 2 乙事件請求原因2及び3に同じ(ただし、「乙事件参加人」を「丁事件参加人」に、「S管理規約11条2項」を「S4管理規約10条2項」に、「目録6及び7」を「目録15ないし17」にそれぞれ読み替える)。
 3 よって、丁事件参加人は、目録15ないし17の各定期預金が同参加人に属することの確認及び被告に対し、上各定期預金契約の預金返還請求権又は不当利得返還請求権に基づき請求の趣旨四2記載の金員の支払を求める。
 二 原告及び被告の主張
 乙事件二(原告及び被告の主張)に同じ(ただし、「目録6及び7」を「目録15ないし17」に読み替える)。
 三 丁事件参加人の主張
 乙事件三(乙事件参加人の主張)に同じ(ただし、「目録6及び7」を「目録15ないし17」に読み替える)。
(戊事件)
 一 請求原因
 1 当事者
 (一) 乙事件請求原因1(一)に同じ。
 (二)(1) 戊事件参加人は昭和55年9月に分譲され、平成5年5月18日設立登記を経由したS6マンションの管理組合法人である。
  (2) 乙事件請求原因1(二)(2)に同じ(ただし、「乙事件参加人」を「戊事件参加人」に読み替える)。
 2 乙事件請求原因2及び3に同じ(ただし、「乙事件参加人」を「戊事件参加人」に、「S管理規約11条2項」を「S6管理規約10条2項」に、「目録6及び7」を「目録8ないし10」にそれぞれ読み替える)。
 3 よって、戊事件参加人は、目録8ないし10の各定期預金が同参加人に属することの確認及び被告に対し、上各定期預金契約の預金返還請求権又は不当利得返還請求権に基づき請求の趣旨五2記載の金員の支払を求める。
 二 原告及び被告の主張
 乙事件二(原告及び被告の主張)に同じ(ただし、「目録6及び7」を「目録8ないし10」に読み替える)。
 三 戊事件参加人の主張
 乙事件三(乙事件参加人の主張)に同じ(ただし、「目録6及び7」を「目録8ないし10」に読み替える)。
(己事件)
 一 請求原因
 1 当事者
 (一) 乙事件請求原因1(一)に同じ。
 (二)(1) 己事件参加人は平成4年12月18日S8マンションの区分所有者集会の決議(上マンション管理規約24ないし31条)により設立され、平成5年1月18日設立登記を経由した同マンションの管理組合法人である。
  (2) 乙事件請求原因1(二)(2)に同じ(ただし「乙事件参加人」を「己事件参加人」に読み替える)。
 2 乙事件請求原因2及び3に同じ(ただし、「乙事件参加人」を「己事件参加人」に、「S管理規約11条2項」を「S8管理規約10条3項」に、「目録6及び7」を「目録1ないし5」にそれぞれ読み替える)。
 3 よって、己事件参加人は、目録1ないし5の各定期預金が同参加人に属することの確認及び被告に対し、上各定期預金契約の預金返還請求権又は不当利得返還請求権に基づき請求の趣旨六2記載の金員の支払を求める。
 二 原告及び被告の主張
 乙事件二(原告及び被告の主張)に同じ(ただし、「目録6及び7」を「目録1ないし5」に読み替える)。
 三 己事件参加人の主張
 乙事件三(乙事件参加人の主張)に同じ(ただし、「目録6及び7」を「目録1ないし5」に読み替える)。
(庚事件)
 一 請求原因
 1 当事者
 (一) 乙事件請求原因1(一)に同じ。
 (二)(1) 庚事件参加人は昭和52年ころにS10マンション(地下1階地上10階建て)の3階以上を区分所有権として分譲されたマンションの管理組合であるが、管理法人ではない。
  (2) 乙事件請求原因1(二)(2)に同じ(ただし、「乙事件参加人」を「庚事件参加人」に読み替え、参加人が法人格を有することを前提とする主張部分は除く)。
 2 乙事件請求原因2及び3に同じ。(ただし2(一)(2)につき「S10マンションの区分所有者らはX(昭和52年7月1日以前は旧商号A株式会社)に対し、管理費等のほか、上マンション敷地一部が借地であるため借地料を付加して、当初被告(○○支店取扱い)、後にC銀行(○○支店取扱い)のX名義の普通預金口座に振り込んで支払っていた」旨を付加するほか、「乙事件参加人」を「庚事件参加人」に、「S管理規約11条2項」を「S10管理規約17条3項」に、「目録6及び7」を「目録11及び12」にそれぞれ読み替える)。
 3 よって、庚事件参加人は、目録11及び12の各定期預金が同参加入に属することの確認及び被告に対し、上各定期預金契約の預金返還請求権に基づき請求の趣旨七2記載の金員の支払を求める。
 二 原告及び被告の主張
 乙事件二(原告及び被告の主張)に同じ(ただし、「目録6及び7」を「目録11及び12」に読み替える)。
 三 庚事件参加人の主張
 乙事件三(乙事件参加人の主張)に同じ(ただし、「目録6及び7」を「目録11及び12」に読み替える)。
第三 当裁判所の判断
 一 本件全事件を通じ基本的争点である本件各定期預金の債権者が何人であるかについてまず検討する。
 1 甲事件請求原因1の事実は全当事者間に争いがなく、上争いのない事実に《証拠略》によれば、本件各定期預金債権及び本件普通預金債権の成立経緯等につき、次の事実が認められる。
 (一) Xのマンション管理業務について
 Xは、Bの分譲マンション管理委託業を担当する管理会社であり、Bは同会社が建設したマンション分譲の際、各区分所有者に対し、同会社作成のマンション管理規約(上各管理規約では、竣工時から1年ないし3年間の管理者をXとし、その後、別段の定めをしなければXが管理者として管理業務を行う旨規定されている)及び使用細則を提示してその承認を求めるとともに、上各区分所有者らとXの間で管理委託契約を締結させた。
 参加人らのマンションの区分所有者らは個別に、上管理委託契約に基づき管理者であるXに対し、管理費等及び保証預り金を一括して管理委託費として毎月一定額(ただし、S10マンションの区分所有者らの支払ていた管理委託費は、上管理費等のほかマンション敷地一部の借地料を含む)を、同会社が指定する同会社名義の被告等金融機関における普通預金口座宛に振り込んで支払っており、上普通預金口座には、本件普通預金が含まれていた。
 そして、Xは上管理委託費から管理員人件費、清掃費、エレベータ・消防及び電気設備保守メインテナンス料並びに定期検査等の諸経費を支出し、金銭出納業務を行うとともに、同会社の管理報酬として相当額を引き出して取得していた。
 また、Xは年1回管理組合の決算期ごとにそれぞれの決算書(上報告書には各定期預金の利息も収入に計上されている)を作成し、その都度各管理組合の総会で収支決算報告をするなど各管理組合の会計業務も行っていた。
 (二) Xの本件各定期預金契約の締結及び本件預金担保設定について
 Xは、上のとおりマンションの区分所有者らから各銀行の普通預金口座に振り込まれた管理委託費をその都度各種業務に支出するほか、その剰余金を原資として各マンションごとに契約の形式をX名義としマンション名を上名義に付記して本件各定期預金契約を被告(○○支店取扱い)との間で締結した。
 また、Xは被告(○○支店取扱い)との間で本件預金担保を別紙預金担保設定一覧表記載のとおり随時設定した(争いがない)。
 2 そこで、検討を進めるのに、《証拠略》によれば、本件各定期預金は参加人らの各マンションの管理委託費の一部を原資とするものであり、Xの上各マンションごとの会計報告内容である決算書には本件各定期預金及びその利息が各マンションの収入に計上されていることが認められるものの、他方において、本件各定期預金の成立経緯は前記認定のとおりであり(本件各定期預金の預入行為者がXであることは全当事者間に争いがない)、また、Xは本件各定期預金を同会社の貸借対照表の流動資産の部に計上するなどして、自社の資産として多年にわたり本件各定期預金を取り扱ってきたこと、管理委託契約及び管理規約上、Xから各管理組合又は区分所有者らへの管理委託費の払戻しは認められておらず、ただ、各管理組合又は区分所有者らは管理規約及び管理委託契約に規定された内容の債務の履行をXに求めることができるにすぎず、管理委託費については、Xが一貫して出納業務を行っており、区分所有者ら又は管理組合は上管理委託費につき何らの処分権限を有しないこと、また、《証拠略》によれば、本件預金担保差し入れに伴う書替処理上、各定期預金の満期の経過で自動書替手続が取られ、利息は、一部の元加方式を採る定期預金を除きいずれの定期預金もすべて、X名義の当座預金口座(番号《略》)へ入金するようになっていたこと等が認められるのであり、前記認定(特にXが本件各定期預金通帳及び銀行届出印鑑を所持して上預金を管理し、被告(○○支店取扱い)との間でその都度必要に応じて本件各定期預金に担保を設定していること及び原告自身、X名義の同会社固有の財産と主張する定期預金を本件各定期預金と共に混在して預金担保に供していることを自認していること)によれば、Xが管理者として区分所有者らから必要経費を一括して管理委託費として同会社名義の普通預金口座に徴収して取得した上、その剰余金の管理方法として、更に、被告(○○支店取扱い)との間で、X名義で本件各定期預金契約を締結し、上預金証書と共に銀行届出印鑑を管理していたというのであるから、これらの事実を併せ考察すると(上管理委託費の使途の限定の問題については後に触れる)、前記原資の拠出者や決算書上の処理方法を考慮に入れても、預金原資となる管理委託費の管理方法いかんはXにゆだねられたものであり、Xが自ら預金の出捐者として本件各定期預金契約及び本件普通預金契約を締結したものということができるのであり、したがって、本件各定期預金及び本件普通預金債権者はXであると解するのが相当というべきである。
 なお、各預金の口座名義に各マンション名を付記したことは、Xのマンション管理会社としての業務上の便宜のため、とりわけ各マンションに向けての決算報告書において負債の部の預り金と、資産の部の預金とを対応させる便宜のためにほかならず、口座名義に各マンション名を付記していることをもって、各預金債権者がXであることを覆す根拠とはならないというべきである。
 3(一) この点につき、参加人らは、Xは通常の管理会社とは異なり、いわば、管理組合と同一視すべき区分所有法上の管理者であるから、それまで管理組合を結成していなかった各マンションの区分所有者らが、法人格を有するか否かを問わず管理組合を結成すれば、Xが管理している財産のうちX固有の財産以外の財産は当然上管理組合の財産となるのであり、したがって本件各定期預金又は普通預金はいずれもXにではなく参加人らに帰属すると解すべきであるかのような主張をするが、次のとおり、論旨自体としても、また、前記認定事実に照らしても合理性を欠き、採用できない。
 すなわち、XはBが各マンション分譲の際、そのマンションの管理業務を遂行する管理会社として設立し、それ以降独立の法人として各マンション管理業務を行ってきた管理会社であり区分所有者ら(管理組合がある場合にはその管理組合)は、マンション管理専門業者であるXとの間で、各マンションの管理業務、特に管理費等の出納だけでなくその保管をも併せて一括して委託する契約を締結している等の経緯に照らすと、当初からXは、あくまでも、各マンションの管理組合自体とは別個独立の権利義務主体であるから、本件各定期預金が、管理組合の業務を代行する管理会社により管理される財産であるとしても、また、管理組合が設立されたとしても(管理組合の顕在化)、それを即管理組合の財産と評価することはできないことは明らかであり、参加人らの前記主張は理由がない。
 (二) また、Xが参加人ら各管理組合の代理人として本件各定期預金契約を締結した旨の参加人らの主張も、Xが各管理組合を代理する権限を有することから、直ちにXの行為をすべて当然に各管理組合のための代理行為と評価することができないことは明らかなところであり、また、殊更、Xが被告(○○支店取扱い)との間で、参加人らの代理人として本件各定期預金契約及び本件普通預金契約を締結したと認めることも困難であるから、参加人らの上主張も理由がなく、失当というべきである。
 (三) さらに、参加人らの不当利得の主張も以上に検討したところから理由がなく、失当であることが明らかである。
 二 そこで、抗弁について判断する。
 1 本件預金担保設定、実質的に上担保権の実行と解される本件相殺及び本件残金保管の各事実は全当事者間に争いがない。
 そして、弁論の全趣旨から、上残金の約定利率は平成5年3月1日から同年10月17日まで年0.26パーセント、同月18日から年0.22パーセントであることが認められる。
 2 これに対し、原告及び参加人らは、本件預金担保設定行為は業務上横領行為又は背任行為に該当する公序良俗違反の行為であるなどとして、上担保設定行為を無効とし、その担保権実行に当たる本件相殺も無効であると主張するので、以下に検討する。
 (一) 定期預金債権者が、上定期預金を同人の借入金の担保に供することができることはいうまでもないところ、前記のとおり、本件各定期預金債権者はXであると認められるのであるから、同会社が本件各定期預金をその借入金の担保に供することには原則として支障はないというべきである。
 (二) ところで、前記認定のとおり、本件各定期預金は、Xがマンション管理業務の一貫として区分所有者らが管理委託費を振り込む普通預金口座を設けて各種業務の支出等管理を行った後の剰余金を原資とするものであり、各管理規約及び管理委託契約に基づき、Xは上管理委託費につき、受託に係る管理業務を行うに当たり必要な管理要員費、清掃費、物品購入費、保守費、水道光熱費、管理報酬その他の経費にのみ充当できる権利を有するものであり、修繕積立金を取り崩して修繕費に充て、なお不足する場合には区分所有者らに対して追加徴収することができる権利を有するものであるにすぎず、各区分所有者との間の管理委託の趣旨から上各定期預金は各マンションの修繕・補修等の費用に支出するたびに取り崩す取扱いがされており、したがって、Xが管理する管理費等は多くの区分所有者らに利害関係を有するいわば公共性の強い性質のものであるとの原告及び参加人らの指摘には一応の合理性がみられないわけではない。
 しかし、金銭は本来、価値を表象するもので個性がなく特定性を持たないとの特性を有し、占有者が即所有者である。そして、Xは本件各定期預金の原資となった各マンションの管理委託費につき、それぞれの管理委託契約及び管理規約に基づいて委任事務を処理する費用等として委託されているもの(区分所有法28条参照)であり、受託者として前記の管理義務を負っているのであるが、預り金としての金銭自体はXに帰属するものであり、前記認定のとおり、Xが区分所有者らとの間の管理委託契約に基づき従うべき管理委託費の支払方法及び保管方法については特にこれを規定するものはなく、Xに一切ゆだねられているものと解されるのである。
 さらに、Xと被告(○○支店取扱い)との間の本件預金担保設定においては別紙預金担保設定一覧表のとおりXの管理する各マンションの管理委託費を原資とする本件各定期預金のほか、X固有の定期預金も含まれていること等の事実を併せ考察すると、Xは、本件のように破産に至った場合には参加人らの各マンションに対し、委託契約上の受託者としての未支出分の事務処理費用としての預り金残高の返還債務を負うにすぎないのであり、結局、本件各定期預金自体につき各マンションの管理委託費に使途が限定されていたと認めることは困難というべきである。
 (三) したがって、本件預金担保設定行為がXの担当者による業務上横領行為に該当するものとは解し難く、また、同会社が自己の資産を担保に供した行為はその担当者の背任行為にも当たらないし、同会社の破産により、管理組合若しくは区分所有者らに担保設定相当額の損害が生じたとしても、それはXの破産自体に起因する損害であり、本件担保設定行為自体により生じた損害ではないというべきであって、原告及び参加人らの前記主張はいずれも理由がなく、失当である。
 3 上のとおりであるから、原告及び参加人らのその余の主張(民法505条1項ただし書適用の主張及び権利濫用の主張)も理由がないことは明らかであり、失当である。
 なお、上の主張における原告の論旨は、本件各定期預金債権ないしその返還請求債権のXへの帰属性を否定するものであり、実質上という表現を付加しているものの、先の預金債権者性の主張との間に論旨の一貫性を欠くのではないかとの疑問が残る。
 4 以上のとおり、被告の抗弁(一部相殺)は理由があり、これに対する原告及び参加人らの主張はいずれも理由がなく、失当である。
 三 よって、原告の本訴請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し、原告のその余及び参加人らの各請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条、92条、93条1項を、仮執行の宣言につき同法196条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤村 啓 裁判官 堀内靖子)
 裁判官白石哲は、転補のため署名押印することができない。
 (裁判長裁判官 藤村 啓)


別紙
預金目録〈別添画像〉





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