ダイヤ設計のホームページへようこそ 
   戻るアイコントップページへ戻る   マンション等建替・長期修繕計画のページへ戻る    管理関係判例リスト一覧へ戻る
  


マンション管理関係判例



bR2 
 専有部分性/管理人室



昭和54年 4月23日 判時938-68 東京地判

関連条文  区分所有法1条3条17条18条、民事訴訟法203条


判決要旨
@マンション管理組合の代表者について、マンションの法定共用部分に関する訴訟の当事者(原告)適格を否定した事例 Aマンション1・2階駐車場及びマンション全体の火災報知器、エレベーターの緊急連絡装置が設置されている一室が専有部分と認められた事例/B マンション管理組合(権利能力なき社団)の代表者個人を当事者として成立した和解の効力が右管理組合に及ぶとされた事例


判決日・当事者
建物所有権移転登記抹消登記等請求(甲)・建物所有権確認請求(乙)・建物明渡等請求(丙)事件、東京地裁昭47(ワ)9515号(甲)・同49(ワ)1639号(乙)・1851号(丙)、昭54・4・23民32部判決、甲事件却下、乙事件認容、丙事件一部認容(控訴)
 《当事者》
甲事件原告       X
上訴訟代理人弁護士   米 津 稜威雄
同            田 井 純
同           増 田 修
同           小 沢 彰
同           長 嶋 憲 一
同           麦 田 浩一郎
甲事件被告・乙事件原告 Y電鉄株式会社
上代表者代表取締役   Y1
甲事件被告       Y2レンタカー株式会社
上代表者代表取締役   Y1
上両名訴訟代理人弁護士 高 橋 清 一
同           門 井 節 夫
甲事件被告・丙事件原告 Y3レンタカー株式会杜
上代表者代表取締役   Y4
上訴訟代理人弁護士   今 泉 政 信
甲事件被告ら補助参加人 S株式会社
上代表者代表取締役   S1
上訴訟代理人弁護士   青 木 武 男
同           千 葉 容 一
己事件被告・丙事件被告 Z管理組合
上代表者会長      X
上訴訟代理人弁護士   米 津 稜威雄
同           田 井 純
同           増 田 修
同           小 沢 彰
同           長 嶋 憲 一
同            麦 田 浩一郎


 【主文】 一 甲事件
原告の被告らに対する訴をいずれも却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二 乙事件
別紙物件目録(二)、(四)及び(八)記載の各建物につき原告が所有権を有することを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
三 丙事件
被告は原告に対し別紙物件目録(三)記載の建物のうち別紙図面(二)の青斜線部分及び別紙物件目録(四)記載の建物のうち別紙図面(三)の赤斜線部分を明渡せ。
被告は原告に対し金19万4,000円及び昭和47年9月から本判決言渡の日まで1か月金6万円の割合による金員並びに上各金員に対する本判決言渡の日の翌日から各支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。


 【事実】 第一 当事者の求めた裁判
一 甲事件
(原告X)
1 被告Y電鉄株式会社(以下「被告Y電鉄」という。)は原告に対し、別紙物件目録(一)記載の建物のうち別紙物件目録(二)及び(三)記載の各建物につき○○法務局○○出張所昭和46年10月14日受付第○○○号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
2 被告Y2レンタカー株式会社(以下「被告Y2レンタカー」という。)は原告に対し、別紙物件目録(二)記載の建物につき○○法務局○○出張所昭和46年1月21日受付第○○○号所有権保存登記及び別紙物件目録(三)記載の建物につき同出張所昭和46年1月21日受付第○○○号所有権保存登記の各抹消登記手続をせよ。
3 被告Y電鉄及び被告Y3レンタカー様式会社(以下「被告Y3レンタカー」という。)は原告に対し、別紙物件目録(二)記載の建物を明渡し、かつ、昭和45年11月20日以降明渡ずみに至るまで1か月金35万2,000円の割合による金員を連帯して支払え。
4 被告Y電鉄及び同Y3レンタカーは原告に対し、別紙物件目録(三)記載の建物のうち別紙図面(二)の赤斜線部分を明渡し、かつ、昭和47年6月27日以降上明渡ずみに至るまで1か月金2万2,000円の割合による金員を連帯して支払え。
5 被告Y電鉄及びY3レンタカーは原告に対し、別紙物件目録(四)記載の建物のうち別紙図面(三)の青斜線部分を明渡し、かつ、昭和47年6月27日以降明渡ずみに至るまで1か月金5万5,000円の割合による金員を連帯して支払え。
6 被告Y電鉄及び同Y3レンタカーは原告に対し、別紙物件目録(五)記載の物件を撤去して別紙物件目録(六)記載の建物を明渡し、かつ、昭和47年6月27日以降上明渡ずみに至るまで1か月金15万円の割合による金員を連帯して支払え。
7 被告Y3レンタカーは原告に対し、金302万8,000円及びこれに対する昭和47年6月27日以降完済に至るまで年5分の割合による金員並びに昭和47年9月1日以降本件訴訟の第一審判決言渡の日まで1か月3万7,000円の割合による金員を支払え。
8 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言。
(被告Y電鉄、同Y2レンタカー、同Y3レンタカー)
1 本案前の申立
主文同旨の判決。
2 本案の請求の趣旨に対する答弁
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
二 乙事件
(原告Y電鉄)
主文同旨の判決。
(被告管理組合)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
三 丙事件
(原告Y3レンタカー)
1 主文一項同旨
2 被告は原告に対し、金26万円及びこれに対する昭和47年10月1日から完済に至るまで年5分の割合による金員並びに同年9月1日から上1の建物明渡ずみに至るまで毎月末日限り金8万5,000円及び上各金員に対する別表遅延損害金起算日欄記載の日から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言。
(被告管理組合)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
第二 甲事件についての当事者の主張
一 請求の原因
1 別紙物件目録(一)記載の建物(以下「本件建物」という。)は、通称「Zマンション」というビルディングで、その中に区分所有権の対象となる71戸を包含するものである。
 原告は、上71戸の区分所有者70名中69名の合意に基づき設立された権利能力なき社団である「Z管理組合」(乙、丙事件被告)の会長で、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)17条に定める本件建物の管理者であり、後記二の理由により本件訴訟について当事者適格を有する。
2 被告Y電鉄は、本件建物の敷地である別紙物件目録(七)記載の土地(以下「本件土地」という。)の所有者であって、被告Y3レンタカーは、本件土地を被告Y電鉄から賃借し、同被告の承諾を得て、本件建物の全区分所有者に対し、本件土地を転貸しているものである。
3 別紙物件目録(二)記載の建物部分(以下「本件1階駐車場」という。)、同目録(三)記載の建物部分(以下「201号室」という。)、同目録(四)記載の建物部分(以下「本件2階駐車場」という。)及び同目録(六)記載の建物部分(以下「本件屋上」という。)は、いずれも本件建物の一部であって区分所有法3条1項の区分所有権の目的とならない、いわゆる法定共用部分である。すなわち、区分所有法上1棟の建物の部分が専有部分とされるためには、その部分が「構造上区分された」もので(構造上の独立性)、かつ、「独立して建物としての用途に供することができるもの」であること(利用上の独立性)を要するとともに、「構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき」もの(法定共用部分)でないことを要するのであるが(同法1条、2条、3条1項)、
(一) 本件1階駐車場は、その北側がマンション本体部分と接し、南側及び西側の各一部(全長の5分の1ないし6分の1)がコンクリート壁、便所、事務所によって外部と遮断されているほかは、直接道路に面する東側にシャッターの設備があるだけで、物理的に他の部分と完全に遮断されておらず、物権的物的支配の明確性の要請から要件とされるところの「構造上の独立性」を充足していない。上のように、本件1階駐車場は現状でも「構造上の独立性」を有しないが、法定共用部分か否かの判断は、本件建物全体について表示登記のなされた昭和45年12月3日か遅くとも区分所有権が複数成立した時点を基準としてなされるべきところ、上の東側シャッター及び西側コンクリート壁はその後に設置されたものであるから、それらは「構造上の独立性」の有無を判断するにあたっての遮閉物としては考慮されるべきでなく、したがって、上基準時において遮閉されていたのは上下及び北側と南側の5分の1のみであり、東側と西側については全く遮閉物がなかったのであるから、本件1階駐車場が「構造上の独立性」を有しないことは明白である。
のみならず、本件1階駐車場には本件建物全体を支える支柱14本が存するほか、本件建物内の全住宅の汚水等を処理するための汚水処理施設、電話地下ケーブルピット、電気地中ケーブルダクトがそれぞれ埋め込まれており、これらの設備はいずれも区分所有者全員の汚水処理、電話装置、電気配給に欠くことのできない重要な設備であることはいうまでもなく、しかも、これらの設備については点検、修理を恒常的に行う必要があり、そのためには本件1階駐車場に自由に立ち入る必要があるから、上駐車場全体が区分所有者全員の共用に供されるべき建物部分つまり法定共用部分に該当し、「利用上の独立性」も認められないというべきである。
(二) 201号室は、隔壁、扉、天井、床によって他の部分と物理的に完全に遮断されているから、「構造上の独立性」を充足することは問題ないが、別紙図面(二)黒斜線部分の壁面には本件建物全体の火災報知機、エレベーターの緊急連絡装置が固定的に設置されており、これらの装置は、区分所有者たる本件マンション住民の生命・身体・財産の危険防止のため必要不可欠の装置であって、区分所有者全員のために使用されるべきものであり、その操作・点検のためこれと不可分の一体をなしている201号室全体を使用する必要があるのである。したがって、201号室は、構造上区分されてはいるものの、独立して住居等として使用することはできず、区分所有法3条にいう「区分所有者全員の共用に供されるべき建物部分」に該当し、法定共用部分であることが明らかである。
(三) 本件2階駐車場は、人工台地上に設けられたもので、天井及びこれに接着した隔壁は全くなく、東側は全長9メートルのうち5.5メートルの部分に若干のコンクリート台とその上に鉄柵が設けられているが、その余の部分は出入口としての扉もなく、スロ−プによって直接前面道路に通じ、北側は若干のコンクリート台、ガラス塀があるが、本件建物の本体である住宅部分のバルコニーに接し、その余の両側、西側はコンクリート台及び鉄柵が設けられているのみで、しかも上建物部分は本件建物の分譲に際しては被分譲者の専用駐車場であると明示され、その後も各区分所有者の専用駐車場として使用されていたものであるから、「構造上の独立性」を欠き、かつ、独立した経済的効用をも有しないことは明らかである。
 (四) 本件屋上は、外壁とともに本件建物の基本的構成部分であるから、「構造上の独立性」を欠くばかりでなく、塔屋内には区分所有者全員の共用に供されるべきエレベーター機械室、ルーフベンダー、給水装置機械室が設置されており、これらについても恒常的に点検、修理、整備を行う必要があり、そのためには当然屋上の使用を必要とする。したがって、本件屋上は全体として、区分所有者全員の共用に供されるべき建物部分として、「利用上の独立性」がなく、区分所有法3条にいう「法定共用部分」にあたるというべきである。
 4 ところが、本件1階駐車場、2階駐車場及び201号室については、本件建物を建築してその所有者となった補助参加人から被告Y2レンタカー(同被告の当初の商号は「A株式会社」であったが、その後前商号「B株式会社」を経て現商号となった。以下、上商号変更の経過を省略して、すべて「被告Y2レンタカー」という。)へ、同被告から被告Y電鉄へ順次所有権を譲渡する契約がなされ、本件1階駐車場については、○○法務局○○出張所昭和46年1月21日受付第○○○号をもって被告Y2レンタカーのための所有権保存登記が、次いで同出張所同年10月14日受付第○○○号をもって被告Y電鉄のための所有権移転登記が、また、201号室については、同出張所同年1月21日受付第○○○号をもって被告Y2レンタカーのための所有権保存登記が、次いで同出張所同年10日14日受付第○○○号をもって被告Y電鉄のための所有権移転登記がそれぞれなされている。
 5(一) そして、被告Y3レンタカーは、本件1階駐車場を本件建物が完成した昭和45年11月20日から自己所有の自動車等を駐車させるなどして占有している。
 (二)(1) また、同被告は、昭和45年ころ本件建物の71戸の区分所有者と順次「Z管理契約」を締結し、区分所有法所定の管理者が選任されるまで本件建物の維持管理にあたることになり、上区分所有者からその管理の対価の一部として本件屋上及び本件2階駐車場の使用権を与えられてこれを占有し、また、上管理のために201号室を占有していた。
 (2) しかしその後、後記のとおり、原告が昭和47年5月25日の区分所有者集会の決議により本件建物の管理者に選任されたので、それと同時に、約旨に基づき被告Y3レンタカーは上区分所有者の受任者としての管理人たる地位を失った。
 (3) また同被告は、約旨に反して本件建物の維持管理をなんら行わず、かつ管理費用を着服横領するなど、上管理契約上の債務を履行しなかったので、上71戸の区分所有者は、昭和47年6月19日付をもって、同被告に対し債務不履行を理由に上管理契約を解除する旨の意思表示をなしたが、同被告は、同月26日異議なくこれを承認し、ここに上管理人たる地位を失った。
 (4) しかるに、同被告は、上管理人の地位を失った昭和47年6月26日以降も、本件2階駐車場を自己所有のマイクロバス3台及び普通乗用車1台を駐車させ、更に本件建物の区分所有者の普通乗用自動車8台を、駐車料金を徴収して駐車させて、これを占有使用し、また、本件屋上に「Y3レンタカー」と表示したスポット付看板を設置して、本件屋上を占有し、更に201号室についてもその占有を継続している。
 (5) なお、債権者原告、債務者被告Y3レンタカー間の当庁昭和47年(ヨ)第○○○号不動産仮処分申請事件において、昭和47年9月21日、(イ)201号室については、同年10月6日以降別紙図面(二)の青斜線部分を原告が、同赤斜線部分を被告Y3レンタカーが、その余の部分を両者が、それぞれ占有使用すること、(ロ)本件2階駐車場については、同被告はマイクロバス3台及び普通乗用自動車1台を別紙図面(三)の青斜線部分に駐車させて占有すること、(ハ)区分所有者から徴収する駐車料金月額合計9万7,000円のうち、金3万7,000円を原告が受領すること、(ニ)本和解は暫定的なもので、第一審の本案判決言渡と同時に効力を失い、本件2階駐車場が法定共用部分であるとして同被告の占有権原が否定されたときは、同被告は、それまでに受領した駐車料金を原告に返還する旨の和解が成立した。
(三) 被告Y電鉄は、本件1階駐車場、2階駐車場及び201号室を被告Y3レンタカーに賃貸してこれを間接占有し、本件屋上についても、補助参加人が被告Y2レンタカーのために設定した無償使用権を同被告から譲り受けたとして、本件屋上を被告Y3レンタカーに賃貸し、これを間接占有している。
 6(一) しかしながら、前記のとおり、本件1階駐車場、2階駐車場及び201号室は、本来いずれも本件建物の法定共用部分であって、独立して所有権(区分所有権)の客体となり得ないものであるから、補助参加人が本件建物全体の所有権を有していた当時においても、同人が上の各建物部分につき独立の所有権を有していたわけではなく、したがって、補助参加人と被告Y2レンタカー間及び同被告と被告Y電鉄間においてなされた前記4の所有権譲渡契約によっても、被告Y2レンタカー及びその後者である被告Y電鉄が上各部分の所有権を取得するに由ないものというべきであり、ひいては被告Y3レンタカーが賃借権を取得することも不能であるといわざるを得ない。
 また上契約は、補助参加人と被告Y2レンタカーにおいて、本件建物がいわゆる分譲マンションとして建設されたもので、本件建物を各区分所有者に分譲したときには、201号室、1階駐車場、2階駐車場が法律上当然に共用部分として各区分所有者の共有となることを知りながら、区分所有法3条1項を潜脱する目的をもって、締結したものであるから、動機において不法であり、上契約は無効というべきである。
 (二) また、前記のとおり、本件屋上は本件建物の法定共用部分であるところ、補助参加人が被告Y2レンタカーに無償使用権を与えた当時、補助参加人は本件建物全体の各専有部分について区分所有権を有しており、したがって法定共用部分についてもすべての持分を有していたから、上使用権設定は有効であるというほかはない。しかし、その後補助参加人は前記のとおり各専有部分を各区分所有者に分譲し、所有権移転登記を了したから、被告Y2レンタカー及び同被告から上使用権を譲り受けた被告Y電鉄は、上使用権をもって各区分所有者に対抗することができず、したがって、同被告から賃借権の設定を受けた被告Y3レンタカーも本件屋上について占有権原を有しないというべきである。
 7 被告Y3レンタカー及び同Y電鉄は、前記5のとおり、本件1階駐車場及び201号室を区分所有者と同じ態様において占有使用しており、それに伴い本件建物内の廊下、階段、エレベーター等の共用部分を使用し、電気、ガス、下水処理施設等を利用することにより法律上の原因なくして利得を得ており、他方各区分所有者らは被告らの利用によって出費を余儀なくされ、損失を被っている。
 したがって、被告Y3レンタカー及び同Y電鉄は、連帯して、各区分所有者に対し不当利得返還義務を負っており、上返還義務の範囲は、管理による利益・共用施設利用による利益の対価として各区分所有者が支払う管理費相当額とするのが相当であるところ、その額は、本件1階駐車場部分が1か月金5万2,000円、201号室部分が1か月金2,000円である。
 8 被告Y3レンタカーは、本件建物の各区分所有者が本件建物に入居するに際して、上各区分所有者との間に同被告を本件建物の管理人と定める旨の管理契約を締結させ、遅くとも昭和45年12月1日から昭和47年6月30日まで1か月金29万2,000円の割合による管理費を徴収しており、その総額は金554万8,000円になる。
 しかしながら同被告が本件建物の共用部分の管理のために支出した金額は金252万円にすぎないから、上管理費のうち金302万8,000円が残存している。
 同被告は、前記のとおり昭和47年6月26日をもって本件建物の管理行為をやめ、かつ、各区分所有者との上管理契約も解除されて委任事務が終了したのであるから、同被告は上残金302万8,000円を各区分所有者に返還すべき義務があるところ、上金員は本件建物の共用部分の管理のための費用であるから新たに管理者に選任された原告が返還請求できるものである。
 よって、原告は
 (一) 被告Y電鉄に対し、本件建物のうち本件1階駐車場及び201号室につきなされた○○法務局○○出張所昭和46年10月14日受付第○○○号所有権移転登記の抹消登記手続を、
 (二) 被告Y2レンタカーに対し、本件建物のうち本件1階駐車場につきなされた同出張所昭和46年1月21日受付第○○○号所有権保存登記及び201号室につきなされた同出張所同日受付第○○○号所有権保存登記の各抹消登記手続を、
 (三) 被告Y電鉄及び同Y3レンタカーに対し、
 (1) 本件1階駐車場の明渡と昭和45年11月20日以降上明渡ずみに至るまで1か月金30万円の割合による賃料相当損害金及び不当利得金として1か月金5万2,000円の割合による金員の連帯支払、
 (2) 201号室のうち別紙図面(二)の赤斜線部分の明渡と昭和47年6月27日以降上明渡ずみに至るまで1か月金2万円の割合による賃料相当損害金及び不当利得金として1か月金2,000円の割合による金員の連帯支払、
 (3) 本件2階駐車場の明渡と昭和47年6月27日以降上明渡ずみに至るまで1か月金5万5,000円の割合による賃料相当損害金の連帯支払
 (4) 別紙物件目録記載の物件を撤去して本件屋上部分を明渡すことと昭和47年6月27日以降上明渡ずみに至るまで1か月金15万円の割合による賃料相当損害金の連帯支払を、
 (四) 被告Y3レンタカーに対し、委任事務終了に伴う受取物引渡義務の履行として、金302万8,000円及びこれに対する昭和47年6月27日以降完済に至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに前記仮処分事件における原告と被告Y3レンタカー間に成立した暫定的和解の失効に基づき、被告Y3レンタカーが昭和47年9月1日以降本判決言渡の日まで1か月金3万7,000円の割合によって取得した不当利得金の返還としての金員支私を
それぞれ求める。
 二 当事者適格について
 原告は、以下の理由により、本件訴訟について原告適格を有する。
 1 法定訴訟担当(法定訴訟信託)
 (一) 本件建物の区分所有権の対象となる71戸の所有者である別紙区分所有者目録記載の合計70名(1戸を共有しているものは全員で1戸とする。以下同じ)中その4分の3以上にあたる69名は、昭和47年5月25日その合意に基づき、本件建物の維持管理を目的として、権利能力なき社団である前記「Z管理組合」を設立し、原告は、同日、上区分所有者中61名の出席した区分所有者集会において、その決議により、同管理組合の会長に選任され、同時に、同集会の決議により承認可決された管理組合規約5条の規定により、区分所有法17条に定める「管理者」となった。
 なお、前記201号室及び本件1階駐車場が区分所有権の対象となる専有部分ではなく、区分所有権者全員の共有に属すべき法定共用部分であることは前述したとおりであるから、上各建物部分の区分所有権を取得したと主張する被告Y電鉄は本件建物の区分所有者ではなく、したがって同被告に対し上集会の招集通知がなされないのは当然であり、上選任決議が同被告を除外してなされたものであっても、同決議に何らの無効ないし取消事由はない。
 その後、同管理組合の管理者は、毎年5月1日から翌年4月30日までの1年を任期として、昭和48年度はZ1、昭和49年度はZ2、昭和50年度はZ3がそれぞれ選任されたが、昭和51年度以降は再び原告が管理者に選任され、現在もその地位にある。
 (二) ところで、区分所有法18条1項には「管理者は、共用部分を保存し、第12条1項著しくは第13条第1項の規定による共有者の合意若しくは決定又は集会の決議を実行し、及び規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。」と、同条2項には「管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。」とそれぞれ規定されており、上18条2項の代理権の内容としては、裁判外の行為はもちろん、裁判上の行為をも含むものと解するのが相当である。ただし、区分所有法18条2項は、商法38条、同法78条、同法811条等のように「裁判上の行為」と「裁判外の行為」とを明確に区別する立法形式をとらず、単に「その職務に関し、区分所有者を代理する」というのみで、特に「裁判上の行為」についていうところがないけれども、民法1015条の遺言執行者の場合単に「代理する」と規定され、あるいは同法423条の債権者代位の場合「権利を行使する」と規定されているが、それらの場合にも、自己の名をもって裁判上の行為をなすことが認められているのであって、区分所有法18条2項についてもこれらの場合と特に区別する理由はなく、したがって形式的に見る限り、むしろ区分所有法の管理者にはその名をもって裁判上の行為をなす権限があるものと解すべきである。また、実質的に考えても、管理者に裁判上の行為をなす権限がないとしたら、管理者の職務に関し訴訟の必要が生じた場合には、必ず区分所有者全員の共同訴訟をなす必要があることになり(もっとも、選定当事者の方法によることはできるが)、管理者がその職務を行ううえで不便このうえもないというほかなく、さきの遺言執行者や債権者代位の場合と同様区分所有法の管理者に裁判上の行為をなす権限を認めて然るべきである。
 (三) 上のとおり、区分所有法17条の「管理者」は、その職務上、区分所有権者全員のため、自己の名をもって裁判外の行為のみならず裁判上の行為をもなす権限を有するものであり、原告は、本件建物の管理者として本件訴訟を提起したものであるから、原告適格を有することは明らかである。
 2 任意的訴訟担当(任意的訴訟信託)
 仮に、上1の主張が認められないとしても、原告は、いわゆる任意的訴訟担当として、本件訴訟につき原告適格を有する。
 (一) 法が明らかに許容する任意的訴訟担当
 (1) 任意的訴訟担当とは、本来の利益帰属主体が、その意思に基づき、その権利についての訴訟追行権を第三者に授与することをいうが、これには民事訴訟法その他の法律によって法が明らかに許容する場合と、それ以外の場合があり、前者の例としては、民事訴訟法47条の選定当事者の制度のほか、手形法18条の取立委任裏書の場合がある。そして、区分所有法の管理者も、取立委任裏書の場合と同様に、法が明らかに許容する任意的訴訟担当と考えられる。すなわち、手形法上の取立委任裏書の被裏書人は、「手形より生ずる一切の権利を行使することを得」るものとされており(手形法18条)、裁判外で手形上の権利を行使することは勿論、裁判上も自己の名をもって手形上の権利を行使することができるものと解されている。この関係は、裏書という権利者の行為により訴訟追行権が被裏書人に授権され、これが手形法18条1項によって許容される関係とみることができるが、上と同様のことが管理者について区分所有法によって認められている。すなわち区分所有者集会においてある特定の民事訴訟を提起することを決議した場合には、管理者は、区分所有法18条1、2項により、その職務として当該民事訴訟を提起する権利を有し、義務を負担することになるのである。
 (2) しかして、昭和47年9月25日の本件建物の区分所有者集会において、本件民事訴訟を提起することが議決されたので、原告は訴訟堤起の権利と義務を負うことになったものである。
 (3) なお、区分所有法の管理者の場合、取立委任裏書の被裏書人の場合と異なり、権利者が多数であることが特色であり、本件の場合必ずしも区分所有者全員が訴訟の提起に賛成しているわけではないが、前記管理組合規約29条1、2項によれば、会長(すなわち管理者)は、総会及び役員会の議決により、自己の名をもって組合の業務を行うこととなっており、ここにいう「業務」には訴訟上の業務をも含むものと解されるから、各区分所有者は、管理組合規約に同意した時に、将来組合財産に関して訴訟をすることを含めて何らかの決議がなされた場合には、決議の実行について管理者に委任する旨あらかじめ授権したものとみるべきであり、また、管理者は、区分所有法18条2項に基づき、その職務として決議の実行につき全ての区分所有者を代理する権限を有しており、各区分所有者は、決議に賛成したと否とを問わず、決議の実行については管理者に委任したものとして法律上取扱われるものというべきであるから、いずれにしても、区分所有者集会において訴訟提起の決議が有効に成立した以上、管理者は、法律上当然に任意的訴訟担当者となるものというべきである。
 (二) 法が明らかに許容する以外の任意的訴訟担当
 仮に、上(一)の主張が認められないとしても、本件については、法が明らかに許容する以外の任意的訴訟担当として、原告の訴訟担当が許容されるべきである。
 すなわち、任意的訴訟担当は、民事訴訟法が訴訟代理人を原則として弁護士に限り、また、信託法11条が訴訟行為をなさしめることを主たる目的とする信託を禁止している趣旨に照らして、一般に無制限にこれを許容することはできないが、当該訴訟信託がこのような制限を回避、又は潜脱するおそれがなく、これを認めるべき合理的必要性があれば、これを許容すべきであるところ、区分所有法の管理者は実体上の管理権、対外的業務執行権を与られているのであるから、これに訴訟追行権を与えたとしても、上の弁護士代理の原則を回避し、又は信託法11条の制限を潜脱するものとはいえず、かつ、特段の事情がない限り合理的必要を欠くものともいえないから、これを許容して妨げがないというべきである。
(被告Y電鉄・同Y2レンタカー)
 一 本案前の申立の理由
 本件訴訟における原告は、権利能力なき社団「Z管理組合」ではなく、X個人であり、また同人は他の区分所有者らの選定当事者でもないことは明らかであるから、同人は本件訴訟につき当事者適格を有せず、したがって本件訴訟は不適法として却下されるべきである。
 1 原告は、第一に法定訴訟担当(法定訴訟信託)として、第二に法が明らかに許容する任意的訴訟担当(任意的訴訟信託)として、第三に通常の任意的訴訟担当として、当事者適格を有する旨主張するが、上主張はいずれも誤りである。
 (一) 法定訴訟担当の主張について
 民事訴訟法が弁護士以外の者の訴訟代理の禁止を原則とし、信託法11条が訴訟を目的とする信託を禁止していること、また、訴訟信託の一種である選定当事者の場合にも一定の厳格な要件を必要としていることを考えれば、法定訴訟担当が認められるのは、法律が明文で認めている場合と、特にその職務上訴訟上の行為をなすことを認める必要性のある場合に限られると解すべきである。
 原告が法定訴訟担当の例としてあげる民法1015条の遺言執行者の場合は、たしかに明文上は相続人の代理人とされているが、実質的当事者ともいうべき遺言者が死亡し、また相続人の処分権が喪失する(同法1013条)ため、遺言執行者に訴訟上及び訴訟外の行為をなすことを認める必要があるところから、相続財産に関する訴訟につき当事者適格が認められるのである。しかも、遺言執行者は、遺書者の指定又は家庭裁判所の選任によるものとされ、その選任方法が厳格に定められている。また、債権者代位の場合も、民法423条1項、2項を通じてみれば、当然に訴訟上の行為をも含むことが明白である。これに対し区分所有法上の管理者は、集会で区分所有者の過半数の決議によって選任され(区分所有法17条1項、31条1項)、区分所有者自身、管理者を選任した後も何ら訴訟上の権利の行使を制限されることはない。
 これらのことから考えると、区分所有法に基づく管理者には、遺言執行者や債権者代位権を行使する債権者と同様に訴訟追行権を認める必要性はなく、またこれを認めることはむしろ不当というべきであり、区分所有法18条2項の代理権の範囲には訴訟上の代理権を含まないと解すべきであるから、原告の主張するような法定訴訟担当は成立しないというべきである。
 (二) 任意的訴訟担当の主張について
 被告も選定当事者の方法による以外には任意的訴訟担当が一切許されないと考えるものではないが、本件のように、「Z管理組合」がいわゆる権利能力なき社団としての実質を有し、代理者もしくは管理者の定めがある場合には、民事訴訟法46条によって管理組合自体が当事者能力を有するばかりでなく、選定当事者の方法や組合員の共同訴訟によることもでき、また、居住者たる共有者各自が区分所有法13条1項但書の保存行為としてそれぞれ訴を提起できるのであるから、あえて任意的訴訟担当を許容する合理的必要性に乏しく、このような場合には信託法11条の趣旨からみても任意的訴訟担当は許されないというべきである。
 原告は、区分所有法上の管理者は、手形法上の取立委任裏書の被裏書人と同様に訴訟担当が許されると主張する。しかし、そもそも法形式上からみても、取引委任裏書の場合には「手形より生ずる一切の権利を行使することを得」と規定されていて(手形法18条1項)、裁判上の権利行使が許されることが明らかであるばかりでなく、実質的にみても、取立委任の趣旨は手形面上に明確に記載され、その委任者は区分所有者と異なり1人であり、また、委任の趣旨も一義的に明確であるうえ、商取引における手形の特殊性に鑑みて、法が任意的訴訟信託を許容しているものと考えられる。これに対し、区分所有法の管理者については、その権限に裁判上の権利行使を含むか否かが法の規定上何ら明確ではないし、実質的にみても、区分所有者集会における訴提起の決議は区分所有者の過半数によって成立するのであるから、半数に近い者が反対しても決議は成立し、その場合上の決議にあたり反対した者も管理者に訴訟信託したことになるという不合理な結果になり、このような主張が誤まりであることは明白である。
 また、原告は、管理組合規約に組合員が同意したときに、同規約29条1、2項により訴訟信託があったものとみるべきであると主張するが、上にいう組合規約とは、区分所有者の過半数以上の同意があれば設定されるものであって、「区分所有者全員の書面による合意」(区分所有法24条1項)によって設定される区分所有法上の規約でないことは明らかである。したがって、原告の主張を前提とすると、過半数の区分所有者が規約の設定に同意すれば、他に半数近くの区分所有者がその規約設定に反対した場合でも、反対した半数近くの区分所有者も会長(管理者)に訴訟信託したという不合理な結果になる。また、仮に組合規約が区分所有者全員の承認によりて成立しているとしても、のちに述べるように、組合規約29条は管理者に訴訟上の行為を委任する旨を定めておらず、しかも、上組合規約成立時にはまだ本件訴訟提起は話題にすらなっていなかったのであるから、結論は異ならない。のみならず、組合規約29条2項によれば、会長(管理者)は、総会及び役員会の議決により、自己の名をもって組合の業務を行うことになっているが、総会の決議は議決権の過半数、役員会の決議は出席役員の3分の2で足りるのであり、上のような議決方法等からすれば、同条項は、管理者が組合の通常の管理業務を自己の名で執行しうることを定めた規定であって、訴訟の提起の如く各区分所有者に重大な影響を及ぼす特異な事例を予想した規定ではないと解すべきである。
 してみると、いずれにしても、各区分所有者が組合規約に同意したときに、組合規約の定めるところにより、管理者に訴訟追行権を委ねたとする原告の主張は失当である。
 2 仮に、原告の法定訴訟担当又は任意的訴訟担当の主張が認められ、区分所有法上の管理者個人の名で訴訟を提起することが認められるとしても、本件原告Xが管理者に選任された手続には違法があり、同人は区分所有法上の適法な管理者としての資格を有しない。
 すなわち、原告は、昭和47年5月25日に開かれた区分所有者集会において、原告が管理組合の会長に選任され、同集会で承認可決された管理組合規約5条の規定により、区分所有法17条の管理者に選任されたと主張するのであるが、本件建物の区分所有者の1人である被告Y電鉄に対しては、上集会の招集通知が一切なされておらず、したがって、上集会での管理組合規約の承認決議及び会長選任決議は区分所有法28条、29条及び24条1項に違反し無効である。
 したがって、原告は適法な管理者としての資格を有しないというほかはなく、原告が上資格を有することを前提として提起した本件訴は、原告適格を有しない者が提起した不適法なものとして却下されるべきである。
 二 請求の原因に対する認否
 1 請求の原因事実1のうち、本件建物における区分所有権の対象となる戸数が71戸であることは否認、原告が主張の管理組合の会長であることは不知、原告が区分所有法17条に定める管理者で、本訴につき当事者適格を有することは争う。その余の事実は認める。
 2 同2の事実は認める。
 3(一) 本件冒頭の事実のうち、本件1階駐車場、201号室、本件2階駐車場及び本件屋上がいずれも本件建物の一部であることは認めるが、その余の主張は争う。
 (二) 同3(一)の事実のうち、本件1階駐車場の一部に本件建物を支える支柱の一部が存すること及び汚水処理施設が埋められていることは認めるが、その余の事実は否認する。
 (三) 同3(二)の事実のうち、原告主張の個所に火災報知機及びエレベーターの緊急電話装置があることは認めるが、その余の事実は否認し、201号室が独立して住居等として使用することができないとの主張は争う。
 (四) 同3(三)のうち、本件2階駐車場が出入口に扉がなく、スロ−プによって道路に直結し、屋根がないことは認めるが、その余の事実は否認する。
 (五) 同3(四)のうち、主張の個所に主張の設備があることは認めるが、その余の主張は争う。
 4 同4の事実は認める。
 5 同5(一)及び(二)(1)ないし(5)の事実は不知、同(三)の事実は認める。
 6 同6(一)、(二)は争う。
 7 同7の主張は争う。
 8 同8の事実は不知。
 三 被告Y電鉄の主張
 本件1階駐車場及び201号室は、本件建物建築の経緯・目的及び上各部分の構造等からして、独立した専有部分として区分所有法1条の区分所有の目的となる建物であって、被告Y電鉄が区分所有権を有しており、また、本件2階駐車場は、本件1階駐車場の一部であって、同被告の所有である。
 上主張の詳細は、乙事件における原告Y電鉄の主張のとおりである。
(被告Y3レンタカー)
 一 本案前の申立の理由
 被告Y電鉄、同Y2レンタカーの主張を援用する。
 二 請求の原因に対する認否及び主張
 1 請求の原因事実1のうち本件建物における区分所有権の対象となる建物の戸数が71戸であることは否認し、その余の事実は争う。
 2 同2の事実は認める。
 3 同3の主張は争う。
 本件1、2階駐車場及び201号室は、被告Y電鉄の専有部分であり、本件屋上の使用権も被告Y電鉄が有しているものであって、被告Y3レンタカーは、これらを一括して賃借使用しているものである。以上に関しては、被告Y電鉄の主張のとおりであるから、これを援用する。
 4 同4の事実は認める。
 5(一) 同5(一)の事実は認める。
 (二) 同5(二)(1)のうち、被告Y3レンタカーが昭和45年ころ本件建物の区分所有者と管理契約を締結したこと、本件2階駐車場、201号室及び本件屋上をそれぞれ占有していることは認めるが、その余の事実は否認する。
 被告Y3レンタカーは、昭和45年11月5日被告Y2レンタカー(当時の商号「B株式会社」)よりその所有する本件土地、本件1、2階駐車場、201号室及び同会杜が無償使用権を有する本件屋上を一括して賃借し、その後同会社が、昭和46年9月27日本件土地、本件1、2階駐車場及び201号室の所有権ならびに本件屋上の無償使用権を被告Y電鉄に売り渡したので、同年10月1日同被告会社からあらためて上各物件を一括賃借したものである。
 なお、原告らマンション居住者と被告Y3レンタカーとの間の管理契約において、同被告が本件2階駐車場及び本件屋上の使用権を有することを原告らマンション居住者において認める旨の条項が存在するが、上は原告らが上建物部分につき何らの権利を有しないことを念のため管理契約において明らかにしたにすぎず、上各物件の使用権が本件建物の管理の対価として原告ら区分所有者から被告Y3レンタカーに与えられたとする原告の主張は全く理由がない。
 (三) 同5(二)(2)の事実は否認する。
 (四) 同5(二)(3)のうち、被告Y3レンタカーに対し、昭和47年6月19日付で原告主張のような通知がなされたこと、同被告が、同月26日付をもって本件建物の管理業務を辞任したことは認めるが、その余の事実は否認する。
 被告Y3レンタカーは、原告ら本件建物居住者との間で個別的に締結した管理契約に基づいて、管理業務を遂行してきたが、昭和47年5月ころ、原告ら居住者が、同被告事務所に毎日のように来て、管理契約で定めた月額4,000円の管理費用の使途について種々不当な主張を繰り返すので、管理業務のみならず他の業務にも支障を来たすこと及び採算上引き合わないことを理由に、同年6月26日付をもって、同月30日限り管理業務を辞任することにしたものであって、原告主張のように、原告らの債務不履行を理由とする契約解除を異議なく承認したものではない。
 (五) 同5(二)(4)、(5)の事実は認める。
 上仮処分事件における和解は、占有の本権及び占有権の有無を確定したものではなく、原告主張のとおり、本訴第一審判決があるまでの暫定措置を定めたものであるから、法的には被告Y3レンタカーが201号室全部を占有しているものである。
 (六) 同5(三)の事実は認める。
 6 同6(一)、(二)は争う。
 7 同7の事実は否認する。
 本件建物は、建築の当初からいわゆる下駄ばき住宅として建築されたものであり、仮に原告主張の管理組合の設立が有効であるとしても、上組合は住宅部分の所有者のみを会員としているものであるから、本件建物のうち住宅部分につき管理権を有するにすぎず、本件建物のうち非住宅部分である本件1、2階駐車場、201号室及び本件屋上については管理権を有しない。また、現実にも上各建物部分については被告Y3レンタカーが独自に管理しているものであって、原告が管理している事実はない。
 8 同8のうち、被告Y3レンタカーが本件建物の各区分所有者との間で管理契約を締結し、原告主張の期間中管理費を徴収したこと、被告Y3レンタカーが、昭和47年6月、本件建物の管理業務を辞任したことは認めるが、その余の事実は否認する。
 上期間中に徴収した管理費は月額金28万8,000円、総額金489万6,000円である。
 被告Y3レンタカーが原告らマンション居住者から徴収した管理費は、全部管理のために使用してきたものであり、残金はない。
 仮に被告Y3レンタカーが徴収した上管理費のうち一部管理のために使用されなかった部分があるとしても、それは被告Y3レンタカーと原告らマンション居住者との間で締結された管理契約による有償準委任の報酬であるから、これを原告に返還する義務はない。
 第三 乙事件についての当事者の主張
 一 請求の原因
 l 被告は、本件建物の居住部分の区分所有者中69名の合意に基づぎ、本件建物のうち居住用共用部分の維持管理を目的として設立された権利能力なき社団である。
 2 本件建物の敷地である本件土地は、もと甲事件被告Y2レンタカー(当時の商号は「A株式会社」)が所有し、同会社がその営業の本拠としてタクシーの駐車場等に使用していたが、同会社は、上土地の有効利用を図るべく、駐車場として使用できる面積が約300坪確保できることを条件に、上土地を分譲マンション建築用地として提供することを計画し、甲事件補助参加人Sと交渉の結果、1階部分と2階の人工台地に希望の面積の駐車場が確保されることが確認されたので、昭和44年9月18日、Y2レンタカーとSとの間で、(1)Y2レンタカーは本件土地をSに賃貸し、Sは、本件土地上に1、2階を駐車場とし、それ以外の部分を居住用マンションとする建物を建築して分譲する、(2)Sは、Y2レンタカーに対し、借地権設定の対価として、(イ)現金1億円、(ロ)1階駐車場(796.25平方メートル)、(イ)2階駐車場(233.99平方メートル)、(ニ)完成後のマンションの管理業務を行う権利、(ホ)管理人室及び(ヘ)屋上の無償使用権を提供することを主な合意内容とする「土地借地権譲渡契約」が締結された。
 3 上契約に基づき、Sは本件建物の建設に着工し、昭和45年10月末ころ本件建物が完成したので、Y2レンタカーに対し、本件1階駐車場及び本件2階駐車場の所有権を譲渡し、本件屋上の無償使用権を設定した。
 また、Y2レンタカーは、昭和45年10月末ころ、本件建物のうち別紙物件目録(八)記載の居室201号室(なお、これは甲事件において201号室と称するものと同一の居室であるが、ここでは、上物件目録記載のとおり、バルコニー部分も含んでおり、以下、これを「201号室」という。)をSから金300万円で買い受け、その所有権を取得した。(なお、これはSの設計ミスにより、当初1階部分に建築する予定であった管理人室が建築できなくなり、1階駐車場も当初約束した面積を確保することができなくなったところから、その代償の意味も含めて、第三者に650万円で分譲する予定にしていた201号室を300万円でY2レンタカーが買い取ることにしたものである。)
 そしてY2レンタカーは、昭和46年1月21日、本件1階駐車場及び201号室についてそれぞれ所有権保存登記を了した。
 4 その後原告は、同年9月27日、Y2レンタカーから本件土地、本件1、2階駐車場及び201号室の各所有権並びに本件屋上の無償使用権を買い受け、同年10月14日、本件土地、本件1階駐車場及び201号室についてそれぞれ所有権移転登記を経由した。
 5 上にのべたような経緯からして、本件1、2階駐車場及び201号室は、いずれも区分所有法1条の区分所有の目的となる建物であり、原告が区分所有権を有していることが明らかであるが、次に述べるような上各部分の構造等からしても、これらが区分所有権の目的となり得る建物部分であることは明らかである。
 (一) 1階駐車場について
 本件1階駐車場は、その周囲の三方がコンクリート壁と塀で仕切られており、入口にもシャッターが取付けられていて、本件建物の他の部分と完全に遮断されている。もっとも、西側及び南側部分の一部がコンクリート壁などによって遮断されていないけれども、西側及び南側は、基本的には本件建物全体を支える支柱及び人工台地を支える支柱の存在によって、他の建物部分及び外界との区分点が明確になっているうえ、そもそも本件1階駐車場は、その名のとおり駐車場としてつくられたものであり、その利用目的との関係でいえば、居住用建物のように周囲が完全に遮断されていることを必要としないのであるから、上のような支柱及び部分的なコンクリート壁の存在によって、他の部分及び外界と明確に区分されている以上、物権的支配の明確性の要請をも十分満たしているものというべきである。そして、マンション居住者がその所有する部屋に出入りするに際して1階駐車場部分を通過する必要は全くないし、通過もできないような構造となっている。このような構造の1階駐車場が区分所有法1条にいう「構造上区分された部分」にあたることは明らかである。
 このことは、1階駐車場の一部に建物全体を支える支柱や汚水処理施設が埋めこまれていても何ら変わるものではない。ただし、土地に接した1階部分に建物全体の支柱があること、地下に汚水処理施設が埋めこまれていることは、高層建築の場合当然のことであり、こうした施設の点検、修理あるいはその利用のために、その設置場所にマンション居住者や工事人らがしばしば出入りするのであればともかく、本件の場合、上施設の修理、点検等のために本件1階駐車場に出入りするのは、せいぜい年間十数回とわずかであるから、これによって本件1階駐車場の利用上の独立性が害されるとは到底いえないからである。
 さらに、被告の構成員である本件建物の居住者の多くが、1階駐車場はY2レンタカー(その後は原告)の専有部分であるとの認識を前提に本件マンションを購入しているばかりでなく、本訴提起前の甲事件被告、丙事件原告Y3レンタカーに対する仮処分申請においても1階駐車場を何ら問題としなかったし、原告に対しても1階駐車場の区分所有者としての管理費の請求をしているのであって、これらの事実は、本件1階駐車場が原告の専有部分であることを端的に裏付けるものといわなければならない。
 (二) 2階駐車場ついて
 本件2階駐車場は、もともと本件1階駐車場ではY2レンタカーの必要とした300坪の駐車場が確保できないため設けたものであって、三方を高さ数十センチメートルのコンクリート台とその上に設置された鉄柵(一部はガラス塀)で仕切られており、仕切られていないのは自動車の出入口だけであるが、この出入口は、コンクリートで造られたスロープによって本件建物東側の道路に通じている。このように、本件2階駐車場は、本件マンションの居住部分とは全く関係なく造られていて、マンション居住者が2階駐車場に入るには、一旦マンションを出てから、上スロープを利用するほかなく、2階駐車場から直接居住部分に出入りすることはできないようになっているばかりでなく、この駐車場は、1階駐車場部分の屋根に当たる部分にのみ存在するのである。
 以上の点からすれば、本件2階駐車場は、原告が本件1階駐車場について有する区分所有権に当然含まれる原告の専有部分というべきものであって、本件建物の法定共用部分にはあたらないというべきである。
 (三) 201号室について
 201号室は、Y2レンタカーがSからこれを買い取るに至った前述のような経緯から明らかなように、もともと一般にいわれる「管理人室」として造られたものではなく、第三者に分譲するために居住用として造られたもので、入口には受付用のカウンターがなく、通常の扉があるだけで、内部構造としても浴室、便所、台所、和室、事務室などがあって、他の居住部分と異なるものではなく、他の居住部分と異なる点は、玄関入口北側の壁に火災報知機とエレベーター緊急連絡装置が設けられていることだけであるが、これも、前述のように201号室の所有権を取得したY2レンタカーが本件マンションの管理業務を行う権利をSから譲り受け、Y3レンタカーがY2レンタカーの依頼により本件建物の管理を引き受けたため、たまたま201号室の玄関部分に設置されたにすぎない。しかも、上の各設備は玄関上側の壁面のわずかの部分を占めているにすぎず、これらを使用するために事務室部分や管理人居住部分をことさら通過したり使用する必要はなく、玄関の床面を使用すれば足りるばかりでなく、容易にこれらを取りはずして他の場所に移設することが可能である。
 したがって、201号室に上の施設が存することから、これを法定共用部分することはできず、同室が独立して区分所有の目的となり得る建物であることは明らかである。
 6 しかるに被告は、本件1、2階駐車場及び201号室を区分所有法3条1項のいわゆる法定共用部分であると主張して、原告の所有権を争うので、本件1、2階駐車場及び201号室につき原告が所有権を有することの確認を求める。
 二 請求の原因に対する認否
 1 請求の原因1の事実のうち、被告が権利能力なき社団であることは認めるが、被告が本件建物の居住部分の区分所有者69名の合意に基づき設立されたこと、その目的が本件建物のうち居住用共用部分のみの維持管理であることは否認する。被告は、本件建物の区分所有者70名全員の合意に基づき、本件建物全体の維持管理を目的として設立されたものである。
 2 同2の事実は不知。
 3 同3及び4の事実のうち、本件1階駐車場、201号室のそれぞれにつき、昭和46年1月21日Y2レンタカーが所有権保存登記を、本件土地、上1階駐車場及び201号室のそれぞれにつき、同年10月14日原告が各所有権移転登記を経由したことは認めるが、その余の事実は不知。
 4(一) 同5冒頭の主張は争う。
 (二) 同5(一)の事実のうち、本件1階駐車場が、コンクリート壁と塀で本件建物の地の部分と仕切られていることは否認する。コンクリートの塀は、道路と本件建物を仕切っているものではない。Y3レンタカーに対する仮処分申請において本件1階駐車場を問題としなかったことは認めるが、これは、本件2階駐車場及び201号室について緊急の必要があり、早期解決を望んだため、本件1階駐車場を含めなかったに過ぎず、本件1階駐車場について原告の区分所有権を認めたものではない。また被告は、本件1階駐車場についての管理費を請求しているのではなく、原告が上駐車場をあたかも区分所有権を有すると同じ態様においてY3レンタカーに使用させているため、管理費相当の損害金を請求しているものである。
 その余の主張は争う。
 (三) 同5(二)の事実のうち、本件2階駐車場が若干のコンクリート台と鉄柵等で仕切られていること、スロープによって道路に通じていることは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。
 (四) 同5(三)の事実のうち、201号室の玄関入口北側の壁に火災報知機及びエレベーター緊急連絡装置が設けられていることは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。
 (五) 本件1階駐車場及び2階駐車場は、区分所有法1条の「構造上区分された部分」に該当せず、201号室は、上の「構造上区分された部分」には該当するが、同条の「独立して建物としての用途に供することができるもの」には該当しないから、これらはいずれも区分所有の対象とならないものであって、本件建物の法定共用部分として各区分所有者の共有に属するものである。上主張の詳細については、甲事件における原告Xの主張をすべて援用する。
 5 同6の被告が原告の所有と争っていることは認める。
第四 丙事件についての当事者の主張
 一 請求の原因
 1 原告は、昭和45年11月5日、Y2レンタカー(当時の商号「B株式会社」)から、同社所有の本件土地、本件1、2階駐車場及び別紙物件目録(三)記載の建物201号室(ただし、丙事件においては、甲事件同様、上物件目録記載のとおり、バルコニー部分を含まない。)を賃借し、昭和45年ころ、本件建物の各居住者と土地賃貸契約並びに管理契約を締結し、昭和47年6月末日まで本件建物の共用部分の維持管理業務を遂行してきた。
 この間、Y2レンタカーは、昭和46年9月27日、本件土地、本件1、2階駐車場及び201号室をY電鉄に売り渡したため、原告は、同年10月1日Y電鉄からあらためて上各物件を賃借した。
 2 原告は、上のとおり本件建物の各居住者との間に締結した管理契約に基づき、管理業務を遂行してきたが、昭和47年5月ころ、Xら各居住者が、原告会社へ毎日のように訪れ、管理契約で定めた管理費の使途につき種々不当な主張を繰り返すので、原告は、管理業務のみでなく他のレンタカー業務にも支障を来すこと及び採算上引き合わないことを理由に、同年6月30日限りで管理を辞任した。
 3 Xら本件建物の居住部分の区分所有者は、同年5月25日、本件1、2階駐車場及び201号室の区分所有者であるY電鉄をことさらに除外して区分所有者集会を開き、本件建物の居住部分の区分所有者70名中61名の出席した上集会において、本件建物の共用部分の維持管理を目的として、権利能力なき社団である被告組合を設立し、現在Xがその代表者会長の地位にある。
 4 そしてXは、同年8月、本件2階駐車場及び201号室は、いずれも区分所有法3条1項にいう区分所有権の目的とならない建物の部分に該当し、本件建物のいわゆる法定共用部分であるとして、原告を相手方として、当庁に対し、本件2階駐車場及び201号室の執行官保管、Xの使用許諾等を求める仮処分申請をなした。これに対し原告も、同年8月当庁に対し、Xを相手方として、本件2階駐車場及び201号室に対する原告の使用の妨害禁止及びXが上2階駐車場を利用している本件建物居住者らから徴収した同年7、8月分の駐車料金合計金19万4,000円の返還を求める仮処分申請をした。
 その結果、同年9月21日、原告とXの間に要旨次のような裁判上の和解が成立した。
 (1) 昭和47年10月6日以降、本件2階駐車場のうち別紙図面(三)赤斜線部分をXが使用し、同図面青斜線部分を原告が使用すること
 (2) 本件2階駐車場のマンション居住者使用部分の駐車料金月額合計金9万7,000円はXにおいて集金し、同年9月分以降の集金額のうちから毎月金3万7,000円を毎月末日限り原告に支払うこと
 (3) 201号室のうち、別紙図面(二)の青斜線部分をXが使用し、同図面赤斜線部分を原告が使用すること
 (4) 本和解は、第一審の本案判決があるまでの暫定措置を定めるものであって、同本案判決言渡と同時にその効力を失うものであること
 5 ところでXは、昭和47年11月、本件2階駐車場及び201号室が本件建物の法定共用部分に属すると主張して、原告らを相手方として種々の請求をする訴訟(甲事件)を提起したが、X個人は上のような請求を訴訟上なしうる当事者適格を有せず、本件2階駐車場及び201号室が法定共用部分であるか否かを本案判決で確定することが必要であり、かつ有意義なのは、被告である。そして、さらに、Xの前記仮処分申請もその実質は被告が申請人であり、上和解に基づいて事実上の権利を行使しているのも、X個人ではなく、被告であると解される。
 6(一) 被告は、前記和解により、本件2階駐車場のうち別紙図面(三)の赤斜線部分及び201号室のうち別紙図面(二)の青斜線部分を占有使用し、かつ、原告が本件建物の居住者と個別的に賃貸借契約を結んで使用させ、毎月末日その翌月分の支払を受け得ることになっている駐車料金月額合計金9万7,000円(その内訳は、306号室Z4分、407号室Z5分、503号室Z6分、606号室Z7分、801号室Z8分、1304号室Z9分及び1305号室Z10分月額各金1万、1303号室Z11分月額金1万2,000円、505号室Z12分月額金1万5,000円。)を昭和47年7月分以降被告において集金し、上集金にかかる金員のうち同年9月分以降についてはそのうち毎月金3万7,000円を原告に支払っているが、そのほかは、すべて被告において領得している。
 (二) また、原告は、201号室のうち別紙図面(二)の青斜線部分を、原告の従業員訴外Y5の社宅として使用していたが、上和解の結果、昭和47年9月末日から同訴外人のために別の借間を社宅として借りざるを得ず、そのため同年9月末日不動産業者に対し仲介手数料金2万5,000円、家主に対し権利金2万5,000円を支払ったほか、上借間の賃料として、同年10月分から昭和49年8月分までは月額金2万5,000円、同年9月分から昭和51年8月分までは毎月金3万円、同年9月分以降は毎月金3万5,000円を、毎月末日限り翌月分払いの約に基づいて支払い、同額の損害を受けている。
 よって、原告は被告に対し、本件2階駐車場及び201号室の賃借権に基づき、本件2階駐車場のうち別紙図面(三)の赤斜線部分の明渡と201号室のうち別紙図面(二)の青斜線部分の明渡を求めるとともに、昭和47年7、8月分の前記駐車料金合計金19万4,000円と、前記不動産仲介手数料金2万5,000円及び前記権利金2万5,000円、以上合計金26万円及びこれに対する昭和47年10月1日から完済に至るまで民法所定の年5分の割合により遅延損害金の支払、さらに、別表記載のとおり、同年9月1日から前記各部分の明渡ずみに至るまで、毎月末日かぎり被告が毎月領得し、また領得する駐車料金と原告が支払い、また支払う前記賃料相当の損害金の合計金額(同表合計欄記載の金額)及び上各金員に対する同表の対応する遅延損害金起算日欄記載の日(いずれも上領得等のなされた月の翌月1日)から完済に至るまでそれぞれ民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
 二 請求の原因に対する認否及び主張
 1 請求の原因1の事実のうち、原告が、昭和45年ころ本件建物の各居住者と土地賃貸借契約並びに管理契約を締結したこと及び本件土地がY電鉄の所有であることは認めるが、原告が本件土地並びに本件1、2階駐車場及び201号室を賃借するに至った経緯は不知、本件1、2階駐車場及び201号室がY電鉄の所有であることは否認する。
 2 同2の事実のうち、原告が、昭和47年6月、本件建物の管理をやめたことは認めるが、その余の事実は否認する、原告が管理をやめたのは、原告の管理がきわめてずさんであり、かつ、会計も不明朗であったため、同年6月19日、各区分所有者が原告に対して各管理契約の解除の通知をなし、原告が、同月26日、これを異議なく承認したからである。
 3 同3の事実のうち、本件建物の区分所有者が、原告主張の日に区分所有者集会を開き、本件建物の共用部分の維持管理を目的とした権利能力なき社団である被告組合を設立し、現在Xが代表者会長の地位にあることは認めるが、その余の事実は否認する。
 4 同4の事実は認める。
 5 同5の事実のうち、Xが原告主張の訴訟を提起したことは認めるが、その余の主張は争う。
 6 同6(一)の事実のうち、被告が、本件2階駐車場及び201号室のうち原告主張の部分を占有使用し、原告主張のとおり駐車料金を徴収取得していることは認めるが、その余の主張及び同(二)の主張は争う。
 7 本件建物のうち、本件2階駐車場は、区分所有法1条の「構造上区分された部分」に該当せず、また、201号室は「構造上区分された部分」には該当するが、同条の「独立して建物としての用途に供することができるもの」には該当しないから、これらはいずれも区分所有の対象とはならないものであり、法定共用部分として、本件建物の区分所有者全員の共有に属するものである。したがって、Y電鉄は、本件2階駐車場、201号室について所有権を有せず、賃貸権限も有しないから、原告が同会社から上各建物部分を賃借したとしても、同賃借権に基づいてなんら請求をなし得ないものというべきである。
 本件2階駐車場及び201号室が、法定共用部分として本件建物の各区分所有者の共有に属することについては、被告の乙事件における主張及び甲事件における原告Xの主張を援用する。
 三 被告の主張に対する原告の反論
 本件2階駐車場及び201号室が、法定共用部分として各区分所有者の共有に属するとの主張は争う。上各物件が区分所有法1条に定める区分所有の目的となる建物であることについては、乙事件における原告Y電鉄の主張を援用する。
第五 証拠《略》


【理由】 第一 甲事件について
 一 原告の当事者適格について
 本件請求の趣旨及び原因によれば、本訴請求は、本件1、2階駐車場、201号室及び本件屋上が本件建物の法定共用部分(区分所有法3条1項)であるとして、(イ)本件1階駐車場及び201号室についてなされた各所有権保存登記及び各所有権移転登記の各抹消登記手続、(ロ)本件1、2階駐車場、201号室及び本件屋上の明渡及び賃料相当損害金の支払、(ハ)本件1階駐車場及び201号室について、管理費相当額の不当利得金の返還及び(ニ)本件2階駐車場の駐車料金について不当利得金の返還を求め、さらに、(ホ)各区分所有者が被告Y3レンタカーとの間で締結した管理契約に基づいて支払った管理費の残金について、委任事務終了に伴う受取物引渡義務の履行を求めるものであるところ、区分所有建物の法定共用部分は、契約による別段の定めがなされないかぎり原則として区分所有者全員の共有に属するものであるから(区分所有法4条1、2項)、上(イ)ないし(ニ)の各請求については本件建物の各区分所有者が、また、(ホ)の請求についても、管理契約の締結当事者たる各区分所有者が、それぞれの権利の帰属主体として、原告適格を有するのが本則である。
 しかるに、原告は、区分所有法17条1項の管理者として、法定訴訟担当又は任意的訴訟担当により、原告が当事者適格を有する旨主張するので、その当否について検討する。
 1 《証拠略》によれば、本件建物には本件係争物件以外に合計71戸の区分所有の対象となる居住用建物(以下、個々のこれらの建物を「住宅」という。)があり、別紙区分所有者目録記載の70名が分譲を受けるなどして所有していたが、上住宅の区分所有者らは、201号室及び当時登記簿上の所有者が死亡して相続人が不明であった406号室を除く70戸の区分所有者らに招集の通知をしたうえ、昭和47年5月25日、区分所有者のうち61名(委任状提出者21名を含む。)が出席して、区分所有者集会を開き、本件建物の共有物の維持、管理を目的として権利能力なき社団である「Z管理組合」(乙、丙事件被告)の設立及び案として準備されていた管理規約の承認決議をするとともに、上管理組合の代表者会長に本件原告を選任したほか、副会長2名、幹事3名、監事2名等の役員を選任したこと、そして、上集会終了後上管理規約設定についての各区分所有者の書面による承諾を徴したが、前記406号室の区分所有者の承諾書は本訴提起後の昭和48年8月16日になって提出され、被告Y電鉄に対しても上書面による承諾が求められたけれども、同被告はこれに応じなかったこと、上管理規約によれば、同規約は区分所有法23条に定める「規約」とするものとされ(第6条)、同組合の会長は同法17条に定める「管理者」となるものとされている(第5条)こと、そして、昭和47年9月25日区分所有者たる組合員61名(委任状提出者32名を含む。)出席のもとに開かれた同組合臨時総会で本件訴訟の提起が討議され、投票の結果、60名(委任状提出者32名を含む)の賛成があって本件訴訟の提起が議決され、上決議に基づいて、同年11月7日、当時上管理組合の会長であり区分所有法上の管理者であったXが原告となって本件訴訟を提起したこと、その後、Z1、Z2、Z3が順次同組合の会長に就任したが、現在は再びXが会長の地位にあること、以上の事実が認められ、上認定に反する証拠はない。
 2 ところで原告は、区分所有法上の管理者は、同法18条2項に基づき、その職務上、裁判外の行為のみならず裁判上の行為についても各区分所有者を代理する権限を有しており、自己の名で訴訟を追行することができるものと解すべきであるから、上管理者の地位にある原告が本件訴訟について原告適格を有すると主張する。
 しかしながら、いわゆる法定訴訟信託は、権利又は法律関係の帰属主体でない第三者にその訴訟物たる権利又は法律関係について自己の名で訴訟を追行しうる権能を付与し、その反面、上帰属主体に対しては、その権利又は法律関係について有する管理処分権限の一部である訴訟追行権能を失わせ、あるいはこれを制限する一方、その訴訟の判決の効力を上帰属主体に及ぼさせるものであるから、法律に明文の規定がある場合もしくはその類推適用を認めるべき場合に限ってこれを認めるのを相当とするところ、区分所有法上、管理者は「共用部分を保存し、第12条第1項若しくは第13条第1項の規定による共有者の合意若しくは決定又は集会の決議を実行し、及び規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う」ものとされてはいるが(同法18条1項)、他方同法18条2項によれば、「管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する」ものとされており、その地位は、あくまでも区分所有者の代理人と定められているのであって、上代理人に支配人等の場合と同様訴訟代理権をも含むものと解すべきか否かはともかくとして、少なくとも区分所有法は管理者に区分所有者の代理人としての地位以上のものを認めていないものと解すべきである。けだし上規定は、共有部分の保存、変更、管理等に必要な行為をその都度すべての区分所有者が共同して行う煩を避けるとともに、管理等を円滑に行い、区分所有者全員の共同の利益をはかるため、規約又は集会の決議によりあらかじめ管理を行うべき者を定めて、その者に管理に当たらせることを認めるとともに、管理を行ううえで通常予想される第三者との取引等については、その者につきあらかじめ代理権限を与えておくことで必要かつ十分であるとの趣旨に出たものであり、したがって、上の代理権は、破産財団に関する破産管財人や債権質の債権者又は債権者代位権を行使する債権者等のように、第三者が、自己の利益又は自己が代表する者の利益のために、訴訟物たる権利義務について管理処分権能が認められ、それに基づいて訴訟担当が許される場合とは根本的に異るものであるというべきである。原告は、法文上相続人の代理人とみなすものとされている(民法1015条)遺言執行者が、遺言の執行に関する訴訟について自らの名をもって当事者となることが認められていることと対比して、同様の条文構成をとる管理者についても法定訴訟担当を認めるべきである旨主張するが、遺言につき遺言執行者がある場合には、遺言に関係ある相続財産については、相続人は処分権を失い(同法1013条)、独り遺言執行者のみが管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有するのであって(同法1012条1項)、遺言執行者は、法律によって与えられた上の管理処分権に基づき、遺言の執行に関する訴訟について自らの名による訴訟追行権を有するもので、上訴訟追行権は相続人の代理権に基づくものではなく、民法が遺言執行者を相続の代理人とみなすものとしているのは、遺言執行者の行為の法的効果が相続人に帰属するものであることを明らかにする趣旨に出たものと解するのが相当であるから、上のような遺言執行者と区分所有法上の管理者とを同列に扱うべき根拠はないものというべきである。
 また、共用部分の保存等に関して訴訟を提起追行する必要が生じた場合、それが保存行為に属するものであれば、各区分所有者が単独で訴訟を提起追行することが可能であるし(区分所有法13条1項但書)、また、各区分所有者が共同で訴訟を提起するか、もしそれが煩瑣であるならば選定当事者の方法をとるか、もしくは管理組合が設立され、同組合が権利能力なき社団としての実質を具備しているのであれば(被告組合が権利能力なき社団であることは乙、丙事件において当事者間に争いがない。)、組合が各区分所有者から訴訟信託を受け、自身が当事者となって訴訟を提起すれば足り、管理者に自己の名をもって訴訟を提起追行できる権限を認めなければ権利の実現が著しく困難になるものでもない。
 以上のとおり、区分所有法上の管理者が区分所有者に帰属する権利または法律関係について、その帰属主体たる区分所有者に代り、自己の名をもって訴訟を追行する権限を有するする法文上の根拠はなく、また、法定訴訟信託に関する他の規定の類推適用を認めるべき合理的必要性もない。
 したがって、原告が本件訴訟につき区分所有法18条2項に基づき原告適格を有するとの主張は採用できない。
 3 次に原告は、いわゆる任意的訴訟担当として、本件訴訟について当事者適格を有すると主張する。
 まず原告は、区分所有者集会において特定の民事訴訟を提起することが決議された場合、管理者は、区分所有法18条1項、2項により、その職務として当該訴訟を提起する権利を有し、義務を負うもので、上の関係は、手形法上の取立委任裏書の被裏書人が自己の名をもって裏書人の有する手形上の権利を裁判上行使する関係と同様であり、法の許容する任意的訴訟担当の場合に該当する旨主張する。しかしながら、なるほど管理者が区分所有者集会の決議を実行する権利を有し、義務を負うことは原告の主張するとおりである(区分所有法18条1項)けれども、さきにみたとおり、管理者は、区分所有者の代理人としてその職務を行うものとされているのであって、自己の名をもって区分所有者に属する権利を行使することを法律上認められているものではないから、その地位を取立委任裏書の被裏書人と同視することは到底できないのみならず、原告は、昭和47年9月25日の区分所有者集会において本件訴訟の提起が議決された旨主張するが、さきに認定したように、上同日開催されたのは管理組合の臨時総会であって、管理組合の意思決定機関である総会において本件訴訟の提起が議決されたとしても、それが直ちに各区分所有者による原告への訴訟追行権の付与を意味しないことは多言を要しないところである。さらに原告は、管理組合規約中、「会長は、組合を代表し、総会及び役員会の決議に基づいて組合の業務を執行する。」旨を定める29条1項及び「会長は、総会及び役員会の議決を得たときは、自己の名に於いて組合の業務を執行することができる。」旨を定める同条2項の各規定をあげて、各区分所有者は、上各規定を含む組合規約に同意した時に、将来管理組合において訴訟を提起することを含めて何らかの決議がなされた場合には、その決議の実行について会長すなわち管理者に委任する旨あらかじめ授権したものと解すべき旨主張する。しかし、前掲甲第1号証の1によると、上管理組合規約中に原告主張のような各規定のあることは認められるが、上組合規約の各規定は組合業務の執行権限に関する規定であることが明らかであるから、上規約によって、各区分所有者から会長(管理者)に対する訴訟追行権の付与があらかじめあったものとみることはできないものというべきである。
 以上検討したところによれば、原告が、個人として、各区分所有者から本件について有効に訴訟信託を受けたものと認めるには、なおその根拠が薄弱であるというほかなく、原告個人については本件について任意的訴訟担当者としての当事者適格を認めることはできないものというべきである。
 以上の次第で、原告は、本件訴訟について当事者適格を有しないものというほかはない。
 二 そうとすれば、本件訴はいずれも不適法なものであるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法89条を適用して、全部原告の負担とする。
第二 乙事件にいて
 一 被告が、その構成員数、維持管理の対象とする建物の範囲の点はさて措き、本件建物の区分所有者の合意に基づき建物の維持管理を目的として設立された権利能力なき社団であることは当事者間に争いがない。
 二 《証拠略》によれば、次のような事実が認められ、他に上認定を左右する証拠はない。
 1 本件建物の敷地である本件土地は、もとY2レンタカー(同会社の商号は、もと「A株式会社」であったが、昭和45年12月23日「B株式会社」に、ついで昭和46年12月15日「Y2レンタカー株式会社」に、それぞれ商号変更された。以下、便宜上上商号変更の経過を省略して、「Y2レンタカー」という。)の所有であり、本件建物が建築される以前は、同土地と道路を隔てて反対側の同会社所有の東京都○○区○○2丁目373番3の土地786.38平方メ−トルとともに、同会杜が当時行っていたタクシー営業の本拠地として、タクシーの駐車場に使用されていた。
 2 ところで、同会社は、本件土地の有効利用を図るべく、タクシー駐車場として約300坪の面積が確保できることを条件として、本件土地をマンション建築用地として提供することとし、マンション建設業者である。S(甲事件補助参加人)と交渉の結果、建築後のマンションの1階全部と人工台地上(2階)に上駐車場が確保できる見とおしがついたところから、昭和44年9月18日、Y2レンタカーとSとの間で、(イ)Sは、Y2レンタカーから上土地につき借地権の設定を受けて、同土地上に分譲マンションを建築する。(ロ)Sは、上借地権設定の対価として、Y2レンタカーに対して、現金1億円を支払うほか、現物給付として、建築後のマンションのうち1階駐車場(796.25平方メートル)及び2階駐車場(233.99平方メートル)の所有権を譲渡し、更に、建築後のマンションの管理業務をY2レンタカーに委託し、上管理業務の必要上管理人室(22.88平方メートル)を同会社に提供する。(ハ)SはY2レンタカーに対し、同会社が完成後のマンションの屋上を無償で使用することを承諾する等を内容とする「土地借地権譲渡契約」が締結された。
 3 Sは、上契約に基づき本件建物の建築に着工したが、着工時の計画では本件建物の1階部分に管理人室を作る予定であったところ、それでは1階駐車場に上契約どおりの駐車スペースを確保できなくなることが判明したため、1階部分に管理人室を設けることをやめて、その代わりに2階の201号室を管理人室としてY2レンタカーに提供することとしたが、201号室は650万円で第三者に分譲することを予定していたものであったうえ、面積も45.70平方メートルと当初の管理人室の予定面積(22.88平方メートル)の倍程度あるところから、SはY2レンタカーに対し差額金として金300万円の支払を要求し、Y2レンタカーはこれを支払った。
 4 本件建物は昭和45年12月ころ完成したので、Y2レンタカーは、Sから本件建物のうち本件1、2階駐車場及びバルコニー部分を含む201号室全部の引渡を受けるとともに、昭和46年1月21日、本件1階駐車場及び201号室についてそれぞれ所有権保存登記を経由した。(上所有権保存登記経由の事実は、当事者間に争いがない。)
 5 Y2レンタカーは、上2の契約締結に先立ち、建築後のマンションの管理業務をさせるため別会社としてY3レンタカーを設立し、本件建物が完成して上1、2階駐車場及び201号室の引渡を受けると、昭和45年11月5日上各部分及び本件土地を同会社に賃貸するとともに上管理業務を担当させた。
 6 その後Y2レンタカーは、昭和46年9月27日原告に対し、本件土地、本件1、2階駐車場及び201号室の所有権並びに本件屋上の無償使用権を代金7,000万円で売り渡し、原告は、同年10月14日、本件土地、本件1階駐車場及び201号室についてそれぞれ所有権移転登記を経由した(上所有権移転登記経由の事実は、当事者間に争いがない。)ので、Y3レンタカーは、上の各物件につきあらためて同年10月1日原告との間に賃貸借契約を締結した。
 三 ところで、本件建物の全体の構造であるが、《証拠略》を総合すると、本件建物は、鉄骨コンクリート造陸屋根13階建の建物で、2階以上が本件係争にかかる201号室を含む住宅部分となっており、1階部分のみは南側に張り出した形になっていて(別紙図面(五)、中概ねC線以北の部分が上住宅部分である建物本体にあたる。)、同階には本件1階駐車場のほかその北側部分に上住宅部分への玄関、階段室、エレベーター室及び電気室などの共用施設があり、上張り出し部分の屋上が人工台地として本件2階駐車場となっていること、そして、上住宅部分へは、本件建物東側の道路から北側通路を通って上玄関に至り、そこからエレベーター又は階段を利用するのが唯一の経路となっていること、そのほか、本件建物の敷地(本件土地)は、東側道路に面する部分を除き、他の三方がブロック塀によって囲繞されていることが認められ、他に上認定を左右する証拠はない。
 四 そこで、上1、2階駐車場及び201号室が、それぞれ区分所有権の対象となるのか、それとも法定共用部分として共有に属するものか否かの点について判断する。
 およそ、1棟の建物の一部分が区分所有権の対象となり得るためには、その部分が他の建物部分から「構造上区分され」ていること(いわゆる「構造上の独立性」)と「独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるもの」であること(いわゆる「利用上の独立性」)が必要であることは、区分所有法1条の規定からして明らかなところである。
 
そこで、上の見地から、前記各建物部分がそれぞれ上2要件を具備するか否かについて順次検討を加えることとする。
 1 1階駐車場
 《証拠略》によれば、本件1階駐車場の構造は次のとおりであることが認められ、他に上認定を覆えす証拠はない。
 (一) 本件1階駐車場は、別紙図面(五)のとおり、その北側はコンクリート壁及びドアによって外部及び前記共用施設部分と完全に遮断され、東側は公道に面して出入口となっており、同所には隔壁こそないものの全面にわたって本件建物の完成当時から上下に開閉できるシャッターが設置されていて外部との遮断が可能となっており、また西側及び南側は、西側の一部にコンクリート壁が設けられ、南例の一部が本件2階駐車場へのスロープの基部の外壁によって外部と遮断されているほかは、本件建物全体を支える支柱及び前記人工台地を支える支柱があるのみで、その間をつなぐ障壁もシャッター等の設備もないが、外側に前記ブロック塀があるため外部からは容易に出入りできない。
 (二) そして、内部は、東側出入口の南脇に事務室があるほか、一部に水道設備及び消火設備の附設された上建物全体の支柱14本と人工台地の支柱7本が概ね南北4列に並んで立っているのみで、隔壁等は一切設けられておらず、床面には前記図面(五)表示の位置に洗車用水の排水溝が設けられている。
 (三) そのほか、天井、北側のコンクリート壁及び上支柱の一部に沿って本件建物全体のための給排水用配管が、また北西隅には電気及び電話地下ケーブルを点検するためのダクトとピットがそれぞれ設けられており、床下には本件建物全体の汚水処理施設が埋設され、そのための蓋つきのマンホールが床面の各所に設けられているほか、前記2階駐車場へのスロープの下が物置となっていて、その内部に汚水処理施設用の電動設備が設けられている。
 ところで、上認定事実によると、本件1階駐車場は、その北側のコンクリート壁及びドアによって、本件建物の本体である住宅部分とは完全に遮断されて明確に区分されており、建物の外部との関係でも、東側はシャッターで遮断可能な構造となっており、南側及び西側も一部を除いては外壁こそないものの一部の外壁及び支柱によって外部との区画は十分明確であるというべきあり(現在は、本件建物敷地がコンクリート塀によって囲繞されていて容易に外部から敷地内に立入ることができないためもあって、前記のような構造となっているが、必要があれば、支柱と支柱との間及び既存の外壁と支柱との間にシャッター設備を設けるなどして、外部との遮断をはかることは十分できるものと認められる。)、上の程度に外部との区画、したがって建物所有権の及ぶ範囲が明確であるような構造を有するものであれば、周囲すべてが隔壁によって他と遮断されていなくても、区分所有法上の「構造上の独立性」に欠けるところはないものというべきである。
 また、前記認定にかかる本件建物建築の経緯からも明らかなように、上1階駐車場部分は、当初から人口台地部分とともにY2レンタカーのタクシー営業のための駐車場として建築されたもので、同所には駐車場として必要な諸設備が設けられており、現実に建物完成以来引き続き駐車場として利用されてきたことは前掲各証拠によって明らかであるうえ、前記認定事実によると、上駐車場は東側出入口から直接公道に出入りでき、他の住宅部分の居住者も、本件1階駐車場を通ることなく、それぞれの住宅に出人りできるようになっている。もっとも本件1階駐車場には、前記認定のとおり、本件建物全体及び人工台地を支える支柱があるほか、建物全体のための給排水用配管が壁と支柱に沿って取り付けられ、床下には汚水処理施設が埋設されていて、床面の各所に蓋つきマンホールがあり、上汚水処理施設のための電動設備や、さらには電気地中ケーブルダクト及び電話地下ケーブルピットが埋設されており、これらを点検、補修するためには、本件1階駐車場に立入る必要があることは当然に考えられるところであるが、証人Dの証言及び甲事件被告、丙事件原告Y3レンタカー代表者尋問の結果によると、上汚水処理施設に薬品を投入するのは1か月に1回程度で、それを含めても上点検、補修のための1階駐車場への立入りは年間で十数回にすぎず、これによって駐車場の利用に格別支障を及ぼさないことが認められる(他に上認定を左右する証拠はない。)。
 そうだとするならば、本件1階駐車場は、その利用目的及び利用形態、本件建物全体に対して占める機能上の位置、その構造、設備等からみて、利用上の独立性を有するものと認めるのが相当である。
 以上の検討から明らかなように、本件1階駐車場は、独立して区分所有の目的となり得る建物部分すなわち専有部分であるというべきであり、したがって、原告がその区分所有権を有するものというべきである。
 2 2階駐車場
 本件2階駐車場は、前記認定のように本件建物の南側に張り出した人工台地上にあり、しかも《証拠略》によると、上駐車場は別紙図面(六)のとおり、本件建物の東側の道路からスロープによって出入りするようになっており、北側の本件建物の2階住宅部分との間はコンクリート台及びその上に設けられたガラス塀で仕切られ、その余の周囲は、コンクリート台とその上にめぐらされた高さ約1.5メートルの鉄柵により囲まれ(上駐車場が上のような構造であることは当事者間に争いがない。)、上住宅部分から直接出入りすることはできず、上住宅居住者がこれを利用するには、いったん1階玄関から建物外に出て、上スロープを通って出入りするほかない構造になっているが、一方上は露天駐車場で天井及びそれに接着する壁等はなく(上の事実は当者間に争いがない。)、上人工台地全体が本件1階駐車場の南側張り出し部分の屋根となっていることが認められ、他に上認定を左右する証拠はない。
 しかして、前記二において認定したとおり、上2階駐車場は、当初から1階駐車場とともにY2レンタカーのタクシー駐車場として利用する目的のもとに造られたもので、その後現実に一部はY3レンタカーにおいて本件建物住宅部分居住者に有料駐車場として使用させ、一部は1階駐車場とともに賃借したY3レンタカーにおいて所有車両の駐車場として使用してきたことが《証拠略》によって認められる。被告は上2階駐車場は分譲の際被分譲者の専用駐車場であると明示され、その後もそのとおり使用されてきたものであると主張し、《証拠略》に上の趣旨に沿う部分がないでもないが、《証拠略》と対比して措信できない。
 そうだとするならば、本件2階駐車場は、区分所有法上の「構造上の独立性」を有するとは認めがたいが、さりとて本件建物の法定共用部分とはいえず、1階駐車場の構造部分(屋根)として、その所有権に含まれるとみるべきで、結局原告の所有に属するものといわざるを得ない。
 3 201号室
 本件201号室が「構造上の独立性」を有することは被告の争わないところである。そこで、上室が「利用上の独立性」を有するか否かの点について判断するに、《証拠略》によると、前記認定のように、当初、Y2レンタカーとSとの間の「土地借地権譲渡契約」において、1階部分に管理人室を設けたうえ、これを管理業務の委託に伴いY2レンタカーに提供するものとされていたところ、その後駐車場の面積の関係から管理人室を1階に設けることができなくなったため、本来第三者に分譲することを予定して設計、建築されていた201号室をその代替として差額金を徴したうえY2レンタカーに譲渡したものであるうえ、その内部構造、設備等をみても、受付あるいはカウンター等の通常管理業務に必要とされる設備もなく、玄関の北側壁面に本件建物全体の火災報知機及びエレベーター緊急連絡装置が設置されている(上各装置が設置されていることは当事者間に争いがない。)点を除けば、B'タイプとして分譲された他の住宅と同一の構造、設備であり、しかも、上各装置はいずれもさして多額の費用を要せずして他へ移設することが可能であることが認められ、他に上認定を左右する証拠はない。
 上認定事実からするならば、本件201号室は通常の分譲マンションにおける管理人室とは異なるもので、上のような火災報知機等が設置されているからといって「利用上の独立性」に欠けるところはないものというべきである。
 したがって、本件201号室は、独立して区分所有の目的となり得る部分すなわち専有部分とみるべきであり、したがって、上室はSからY2レンタカーを経てこれを取得した原告の所有であると認めざる得ない。
 五 以上の次第で、本件1、2階駐車場及び201号室は原告の所有であるところ、被告がこれを争っていることは同被告もこれを認めるところであるから、その所有権確認を求める原告の本訴請求は理由がある。
 よって、これを認容することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法89条を適用して、全部被告の負担とする。
第三 丙事件について
 一 本件建物の一部である201号室が区分所有権の対象たり得る専有部分であって、甲事件被告、乙事件原告Y電鉄の所有であること及び本件2階駐車場が、上Y電鉄が区分所有権を有する専有部分たる本件1階駐車場の構造部分(屋根)として、上区分所有権がこれに及ぶものであることは、乙事件四の2、3において判示したとおりである。
 そして、原告が、昭和45年11月5日、201号室及び本件2階駐車場を、当時の所有者Y2レンタカーから本件土地及び本件1階駐車場等と共に賃借し、その後上各物件の所有権がY2レンタカーからY電鉄に移転したのに伴い、昭和46年10月1日、あらためて同会社から上各物件を賃借したことは、これまた乙事件二において判示したとおりである。
 二 次に
 1 本件建物の区分所有者が昭和47年5月25日、本件建物の共有部分の維持管理を目的とした権利能力なき社団である被告組合を設立し、当時被告組合の会長であり、かつ区分所有法の管理者であった甲事件原告X(以下「X」という。)が、昭和47年8月、本件2階駐車場及び201号室が本件建物の法定共用部分であるとして、当庁に対し、原告を相手方として、上各物件の執行官保管、Xの使用許諾等を求める仮処分申請をし、これに対して原告も、同年8月当庁に対し、Xを相手方として、上各物件に対する原告の使用妨害禁止及びXが上2階駐車揚を利用している本件建物居住者らから徴収した同年7、8月分駐車料金合計金19万4,000円の返還を求める仮処分申請をした。
 その結果、同年9月21日、原告とXとの間に要旨次のような裁判上の和解が成立した。
 (一) 昭和47年10月6日以降、本件2階駐車場のうち別紙図面(三)赤斜線部分をXが使用し、同図面青斜線部分を原告が使用する。
 (二) 上駐車場の住宅居住者使用の駐車料金月額合計金9万7,000円はXにおいて集金し、同年9月分以降の集金額のうちから毎月金3万7,000円を毎月末日限り原告に支払う。
 (三) 201号室のうち別紙図面(二)の青斜線部分をXが使用し、同図面の赤斜線部分を原告が使用する。
 (三) 本和解は、第一審の本案判決があるまでの暫定措置を定めるものであって、同本案判決言渡と同時に効力を失う。
 2 被告は、上和解に基づき、同年10月6日以降本件2階駐車場のうち別紙図面(三)の赤斜線部分及び201号室のうち別紙図面(二)の青斜線部分(以下、一括して「本件各部分」という)を占有使用し、かつ、原告が本件建物の居住者と個別的に賃貸借契約を結んで支払を受けてきた上2階駐車場の駐車料金合計月額金9万7,000円を被告において集金し、上集金額のうち同年9月分以降毎月金3万7,000円を原告に支払っているが、その余は被告において取得している。
 以上の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
 三 ところで、上仮処分申請事件においてなされた裁判上の和解は、形式的には上事件の当事者であるXと原告Y3レンタカーとの間に成立したものであるが、さきの甲事件において明らかなように、被告としては被告組合の代表者会長(管理者)であるXに自己の名をもって裁判上の行為をなす権限があると考え、上仮処分申請も上の見解に立って形式的にはX個人としてではあるが、実質的には被告組合の代表者としてなし、さらに上の立場で裁判上の和解を成立させたものと解れるうえ、本件における弁論の全趣旨からして被告も上裁判上の和解における合意の効力が被告組合に及ぶことは争っていないものとみられることなどから、少くとも上裁判上の和解の私法的合意の側面においては、被告組合との間においてその効力を生じているものとみるのが相当である。
 そこで、以上を前提として原告の被告に対する各請求について判断する。
 四 本件各部分の明渡請求について
 被告が、本件各部分を占有していることは前記のとおり当事者間に争いのないところであり、しかして被告は上各部分につき、これが本件建物の法定共用部分であると主張するだけで(上左主張が理由のないものであることは、さきに乙事件において判示したとおりである。)、他に占有権原を主張立証しない(前記和解は、暫定的なもので、本件各部分について被告に事実上の使用権を認めたものにすぎず、占有に関する本権までも認めたものでないことは弁論の全趣旨からして明らかである。)。
 したがって、本件各部分の賃借権に基づき、被告に対しその明渡を求める原告の請求は理由がある。
 五 駐車料金返還請求について
 被告が、原告Y3レンタカーと本件建物居住者との間の賃貸借契約に基づく本件2階駐車場の料金に関し、前記裁判上の和解に基づき、昭和47年7、8月分合計金19万4、000円、同年9月以降毎月金6万円宛領得していることは前記のとおり当事者間に争いのないところであり、上2階駐車場が法定共用部分ではなく、1階駐車場の構造部分として乙事件原告Y電鉄の所有に属し、同会社が原告に賃貸中のものであることはさきに乙事件において判示したとおりである。しかして、上裁判上の和解による取決めは暫定的なもので、後日第一審の本案判決によって本権の所在が明らかとなったときは、その結果に基づいて清算する趣旨であったことが、弁論の全趣旨からして明らかであるから、被告は原告に対し、昭和47年7、8月分の金19万4,000円及び同年9月以降本判決言渡の日まで1か月金6万円の割合による金員の返還義務があるものというべきである。
 原告Y3レンタカーは、上1か月金6万円の割合による金員につき、被告が本件2階駐車場のうちその占有部分を明渡す日までの不当利得返還を求めているが、前記裁判上の和解によると、被告側において上駐車料金を徴収するとの取決めは本判決言渡と同時に失効することが明らかであるから、被告が本判決言渡後も引続き徴収するか否かは将来の不確定な事実にかかるものであり、被告が未だこれを徴収していない以上、その支払を求めることはできないものといわざるを得ず、したがって本訴においては本判決言渡の日後の分の請求は認めることができない。
 また、原告は、上19万4,000円については昭和47年10月1日から、また、同年9月以降の徴収分についてはそれぞれ徴収月の翌月1日からの遅延損害金の支払を求めているが、前記裁判上の和解の趣旨に徴し、上徴収した駐車料金の返還債務の履行期は本判決の言渡によって到来するものであると解されるうえ、上徴収は裁判上の和解に基づくものであるから、被告組合は悪意の受益者とはいえず、また、上裁判上の和解において、返還金に利息もしくは遅延損害金を附して支払うことまでも約したものとは解し得ない。したがって、原告の上請求のうち、本案判決言渡の日までの間の遅延損害金の支払を求める部分は理由がないというべきであり、上徴収した駐車料金の返還債務の履行期が到来する本案判決言渡の日の翌日から支払ずみまで民法所定の年5分の割合による金員の支払いを求める限度において理由がある。
 六 不動産仲介手数料、権利金及び賃料相当損害金請求について
 原告Y3レンタカーは、裁判上の和解により本件201号室の一部を明渡したことによって、仲介手数料等の損害を被った旨主張するが、その主張自体から明らかなように、上明渡は裁判上の和解に基づくものであるから、被告組合の不法行為によるものとはいえず、仮に被告組合の仮処分申請が不法行為にあたるとしても、上明渡が裁判上の和解に基づくものである以上、その間に法的因果関係はないものというべく、また上和解において明渡による損害賠償債権を留保したともみられない。
 したがって、上請求は、現実に主張の金員を支出したか否かの点を判断するまでもなく、理由がないものというべきである。
 七 結論
 したがって、原告の本訴請求中、被告に対し、本件2階駐車場のうち別紙図面(三)の赤斜線部分及び201号室のうち別紙図面(二)の青斜線部分の明渡並びに被告が不当利得した昭和47年7、8月分の駐車料金19万4,000円と同年9月から本判決言渡の日まで1か月金6万月の割合による金員及びこれらに対する本判決言渡の日の翌日から支払ずみに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるが、その余の部分は理由がないから、上の限度でこれを正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法92条但書、89条を適用して全部被告の負担とし、仮執行宣言は附するのが相当でないので附さないこととする。
 よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小川昭二郎 裁判官 魚住庸夫 市村陽典)


別紙 物件目録(一)〜(八)《略》
   別表《略》
   区分所有者目録《略》
   図面(一)〜(六)《略》





ご相談・ご質問は、お問い合わせのページよりどうぞ。

   戻るアイコントップページへ戻る   マンション等建替・長期修繕計画のページへ戻る    管理関係判例リスト一覧へ戻る
  
 このページの最初へ戻る



マンション管理関係判例





topマーク