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マンション管理関係判例



bR1
  専有部分性/管理人室


平成 5年 2月12日 判時1459-111/判タ819-153(田尾桃二・NBL535-32) 最高判


判決要旨
共用設備も存在せず、独立して外部と出入りできる玄関もあり、構造上の独立性の認められる37.35uの管理人室について、共用部分であることに争いのない8.28uの隣接の管理事務室との利用上の一体性を理由に専有部分性を否定した事例/判例評釈/丸山英気(私法判例リマークス1994<下>22)/橋本真一(判タ852-34)


判決日・当事者
最高裁平2(オ)1369号、平5・2・12二小法廷判決、上告棄却一審東京地裁昭62(ワ)12101号、平元・3・8判決、2審東京高裁平元(ネ)967号、平2・6・25判決
《当事者》
上告人  X1興業株式会社
上代表者代表取締役
     X2
上告人  X3商事株式会社
上代表者代表取締役
     X4
上両名訴訟代理人弁護士
     田宮 甫
     堤 義成
     鈴木 純
     行方美彦
     吉田繁實
     白土麻子
被上告人 Y
     <ほか5名〉


 【主文】 本件上告を棄却する。
  上告費用は上告人らの負担とする。


 【理由】 上告代理人田宮甫、同堤義成、同鈴木純、同行方美彦、同吉田繁實、同白土麻子の上告理由について
 原審の適法に確定した事実は、次のとおりである。(1) 本件管理人室は、床面積37.35平方メートルで、和室2間、台所、便所、風呂場、廊下及び玄関出入口から成るが、同室内には、警報装置、配電盤、点消灯装置などの共用設備は存在しないし、電話も設置されておらず、鉄製で施錠可能な玄関ドアがあり、これを利用して、隣接する管理事務室を利用しないでも外部との出入りができる。(2) しかしながら、本件マンションは、地上7階建、延床面積9167.15平方メートルで、専有部分として、1、2階に店舗、駐車場、倉庫等を、2階以上に区分所有の対象となっている居宅108戸を有し、本件管理人室が存在する1階には住居部分は存在しない。(3) 本件管理人室は、共用部分である玄関、ロビー、エレベーター及び階段に接しており、本件管理人室に隣接して、床面積8.28平方メートルの共用部分である管理事務室があり、その玄関・ロビーに面した側に開閉可能なガラス窓及びカウンターが設けられていて、本件マンションに出入りする人との応対やその監視ができる構造になっており、火災、溢水などの警報装置、配電盤、共用部分の電灯の点消灯装置などの共用設備が設けられている。(4) 本件管理人室の床と上管理事務室の床との間には段差がなく、その境にあるガラス引戸を開閉して自由に行き来することができるようになっており、また、上管理事務室には、管理人が常駐するのであれば不可欠の設備というべき便所がなく、管理関係の書類を保管する上でも支障が生ずるほど狭いものである。(5) 本件マンションの区分所有の対象となる居宅の販売に当たって頒布されたパンフレットや、上居宅の区分所有者と上告人X3商事株式会社との間の管理委託契約書に添付の管理費一覧表には、管理事務室の表示と共に管理人室の表示があり、本件マンションの設計図(仕上表)には、本件管理人室と前記管理事務室が一体として「管理人室」と表示されている。
 上各事実を総合してみれば、本件マンションは、比較的規模が大きく、居宅の専有部分が大部分を占めており、したがって、本件マンションにおいては、区分所有者の居住生活を円滑にし、その環境の維持保全を図るため、その業務に当たる管理人を常駐させ、多岐にわたる管理業務の遂行に当たらせる必要があるというべきであるところ、本件マンションの玄関に接する共用部分である管理事務室のみでは、管理人を常駐させてその業務を適切かつ円滑に遂行させることが困難であることは上認定事実から明らかであるから、本件管理人室は管理事務室と合わせて一体として利用することが予定されていたものというべきであり、両室は機能的にこれを分離することができないものといわなければならない。そうすると、本件管理人室には、構造上の独立性があるとしても、利用上の独立性はないというべきであり、本件管理人室は、区分所有権の目的とならないものと解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は事案を異にし、本件に適切でない。諭旨は、採用することができない。
 よって、民訴法401条、95条、89条、93条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 藤島昭 中島敏次郎 木崎良平)

上告代理人田宮甫、同堤義成、同鈴木純、同行方美彦、同吉田繁實、同白土麻子の上告理由
 ○上告理由書記載の上告理由
 第一、要約
 原判決には、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という)第1条の解釈適用を誤った違法があり、かつ上違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。
 第二、区分所有法第1条にいう「構造上の独立性」「利用上の独立性」の判断基準
 一、区分所有法第1条は「1棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して、住居、店舗、事務所又は倉庫、その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところによりそれぞれ所有権の目的とすることができる」旨定めている。
 従って1棟の建物のうち、ある部分が区分所有権(同法第2条第1項)の対象となるか否か、換言すれば、当該部分が専有部分(同法第2条第3項)か否かは、一重に当該部分について区分所有法第1条にいう「構造上の独立性」の要件及び「利用上の独立性」の要件が具備されているか否かによって決せられることとなる。
 そして「構造上の独立性」の要件も、「利用上の独立性」の要件も、当該部分について区分所有権が成立するか否かを決する要件である以上、その判断基準は、当該部分を外形的にみて、一義的に明確な程度に客観的なものでなければならない。
 けだし、もし、「構造上の独立性」の要件、「利用上の独立性」の要件が、区分所有者の主観(例えば、「当該部分が管理のために必要である」との主観的判断)をも加味して判断されるとすれば、本来、区分所有権の対象となりうる部分であるにもかかわらず、ある特定の区分所有者の主観によって、当該部分の所有権が剥奪される結果にもなりかねないからである。
 二、ところで、従前、最高裁判所は、「構造上の独立性」の要件については「建物の構成部分である隔壁、階層等により独立した物的支配に適する程度に他の部分と遮断され、その範囲が明確であることをもって足り、必ずしも周囲すべてが完全に遮蔽されていることを要しない」と判示し、更に「利用上の独立性」については、「それ自体として、独立の建物としての用途に供することができるような外形を有する(こと)」ないしは「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができ(ること)」と判示してきた(最高裁判所昭和56年6月18日判決、なお、上最高裁判決は、当該建物部分の一部に共用設備が設置されていた事案であり、共用設備の存在と「利用上の独立性」の関係についても詳細に論及しているが、この点については、後に検討する)。
 上最高裁判所の判示する「構造上の独立性」に関する解釈、「利用上の独立性」に関する解釈は、前述した「当該部分を外形的にみて、一義的に明確な程度に客観的なものでなければならない」とする判断基準に充分に適合するものであり、本事件においても維持されなければならない。
 なお、本事件においては、原判決は本件管理人室の「構造上の独立性」を肯定しているので、以下、本件管理人室の「利用上の独立性」を検討する。
 三、本件管理人室及び本件管理事務室の位置、構造、関係は、原判決の認定によれば下記のとおりである。
 1 本件管理人室は、和室2間(4.5畳、6畳)、台所、便所、風呂場、廊下及び玄関出入口からなる床面積37.35平方メートルの建物部分で、本件マンション1階の南西側に位置し、共用部分である玄関、ロビー、エレベーター及び階段に接している。本件管理人室は、別添図面(二)(以下「図面(二)」という。)のト点とチ点との間に鉄製の玄関ドアが、カ点とヨ点との間に窓が、レ点とソ点との間にガラス引戸があるほか、周囲を壁で囲まれており、上各壁は、床及び天井に固定されている。
 本件管理人室からは、本件管理事務室等を経由しなくとも、上の玄関出入口を利用して外部との出入りすることができる。本件管理人室には、警報装置、配電盤、点消灯装置などの共用設備は全く存在せず、電話も設置されていない。
 2 本件管理人室の南西側に隣接して、床面積約8.28平方メートルの本件管理事務室がある(その位置関係は図面(二)に記載のとおりである。)。本件管理事務室は、本件マンションの玄関・ロビーに面した側に開閉可能なガラス窓及びカウンターが設けられていて、本件マンションに出入りする人との応対やその監視ができる構造になっている。
 本件管理事務室には、火災、溢水等の警報装置、配電盤、共用部分の電灯の点消灯装置などの共用設備が設けられている。
 3 本件管理人室の床と本件管理事務室の床との間には段差がなく、その堺である図面(二)のレ点とソ点との間にはガラス引戸があり、レ点とタ点との間は壁で仕切られている(なお、この壁がボード壁であるかコンクリート壁であるかは、証拠上、明らかにし難い。)。 上のガラス引戸には、被控訴人X3商事が本件マンションの管理業務を行っていた昭和59年6月30日以前は鍵が取り付けられておらず、本件管理事務室と本件管理人室との間は自由に行き来することができた。
 四、上原判決認定事実によれば、
 1 本件管理人室は、@玄関出入口、A廊下、B和室2畳(4.5畳、6畳)、C便所、D台所、E風呂場から構成されており、かつ、
 2 本件管理人室からは、本件管理事務室等を経由せずに右の玄関出入口を利用して外部との出入りをすることができる
というのである。
 上によれば、本件管理人室は、人間が居宅又は事務所として使用する上で、必要にして十分な生活空間であるという外ない。
 換言すれば本件管理人室は、本件管理人室以外の他の建物部分を伴うことなく、本件管理人室単独で居宅ないし事務室として使用可能な空間なのである(現に本件管理人室は不動産登記簿上は「居宅」として登記されている)。
 従って、前記最高裁判所判決の判示する「利用上の独立性」の判断基準、即ち「それ自体として、独立の建物としての用途に供することができるような外形を有する(こと)」ないしは「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供する事ができ(ること)」という判断基準によれば、本件管理人室には、区分所有法第1条にいう「利用上の独立性の要件」(「独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるもの」)が備わっていることは、何人の目にも明らかであるという外ない(原判決も「本件管理人室には外部に通じる玄関出入口があって、本件管理事務室等を経由しなくとも、外部との出入りをすることができ、また内部には警報装置、配電盤、点消灯装置などの共用設備は全く存在せず、和室2間のほか、台所、便所、風呂場も設けられていて居住の用に供することもできるから、これらの事実からみる限り、本件管理人室は、利用上の独立性を有しているという余地がないではない。」として、本件管理人室の「利用上の独立性」を肯定するかの如き判示をしている)。
 第三、原判決の違法性
 一、1しかるに原判決は、要旨下記の理由を挙げて、本件管理人室の「利用上の独立性」を否定した。
    記
 (一) 本件マンションは108戸の居宅(専有部分)を有する比較的規模の大きなマンションであり、管理業務に専念する管理人を置き、共用部分の清掃等多岐にわたる管理業務の遂行にあたらせる必要がある。
 本件管理事務室は、上管理業務遂行のため、管理人を常駐させる場所として造られたものである。
 しかるに本件管理事務室には、管理人が常駐するのであれば不可欠の設備である便所がなく、その床面積は、約8.2メートルと狭隘で、休憩着替えをするにも適しないし、管理関係の書類等を保管するうえでも支障がある。
 従って、本件管理人室をまったく使用することなく本件管理事務室だけを使用して管理をしたのでは、本件マンションの管理業務を適切かつ円滑に遂行することは困難であり、本件管理人室を専有部分として特定の者の所有に帰属させた場合には、本件マンションの区分所有者の生活関係に支障が生じるおそれがある(原判決理由中第3項4)
(二) 本件管理人室は、居住の用に供することができないではないが、他方店舗、駐車場、倉庫等のある本件マンション1階に位置し、共用部分である玄関等及び本件管理事務室に接していて、本件管理事務室との間は、もともとガラス引戸を通って自由に行き来する事ができるため、プライバシーを保つことも難しい構造になっているこことにかんがみると、本件管理人室は、通常の住居として利用するには適しないものであり、住居として一般の取引の対象にするのは困難なものである。
 また、本件管理人室の位置、構造、設備にかんがみると事務所としての用途も限定的にものにならざるを得ず、これを一般的に事務所として利用し、取引の対象とすることも困難である。そのほか本件管理人室は、店舗、倉庫など、住居又は事務所以外の独立した建物としての用途にも適していない。
 ところで、本件管理人室はもともと本件マンション1、2階にある店舗、駐車場、倉庫等のX3グループ関係各社の所有に属する専有部分を管理するために造られたものとしても、X3グループ関係各社の所有に属する専有部分についての管理業務としては換気、清掃くらいが主要なものであり、本件マンションの多岐にわたる管理業務と対比すれば、量的にも質的にもはるかにこれを下回るものであって、そのためにわざわざ別個独立の管理用の部屋が必要であると考えられない。
 また、本件管理人室は将来1階の店舗部分において、コンビニエンス・ストアを営業する場合に従業員の休憩場所として必要であるとしても、本件管理事務室において管理に従事する管理人に優先して、特に店舗の従業員のために排他的な休憩場所を設けるまでの必要があるとは認め難い(原判決理由中第3項5)。
(三) 昭和59年6月30日以前には、上告人X3商事は、本件管理事務室において管理に従事する者の用便、休憩、着替等の場所として、または管理関係の書類等の保管場所として本件管理人室を利用していた。
 これらの事実に本件管理人室の位置、構造、設備をも併せ考えると本件管理事務室と一体として本件マンション全体の管理に使われるのが、本件管理人室の最も自然な用途である(原判決理由中第3項6)。
 2 しかしながら、原判決が本件管理人室の「利用上の独立性」を否定する根拠として挙げるものは、いずれも「利用上の独立性」に関する前記最高裁判所判決の判断基準(「それ自体として、独立の建物としての用途に供することができる外形を有する(こと)」ないしは「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができ(ること)」)を大きく逸脱するものであり、かつ前記最高裁判所判決が判示する要素以外のものを「利用上の独立性」の判断基準の中に持ち込むものであり、その違法性は顕著である。
 以下、原判決理由の順に即して検討する。
 二、1 原判決理由中第3項4の要旨は「本件マンションは比較的規模の大きなマンションであり、管理人を置き、多岐にわたる管理業務の遂行にあたらせる必要があるところ、本件管理事務室内には、管理人常駐のため、不可欠の設備である便所がなく、かつ本件管理事務室は狭隘で休憩、着替えをするにも適しないし、管理関係の書類を保管する上でも支障がある。従って本件マンションの管理業務を適切かつ円滑に遂行することは困難であり、本件管理人室を専有部分として特定の者の所有に帰属させた場合には、本件マンションの区分所有者の生活関係に支障が生ずるおそれがある」という点にある。
 2 しかしながら、区分所有法第1条にいう「利用上の独立性」の要件はその法文(「独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるもの」)から明らかなとおり「当該部分(本件では本件管理人室)が、他の部分を伴うことなく、当該部分だけで住居その他の建物としての用途に供しうるか否か」ということを意味している。これに反し、原判決は「当該部分(本件では、本件管理人室)は、他の部分を伴うことなく、住居その他の建物としての用途に供しうるとしても、当該部分の中に他の建物部分(本件では、本件管理事務室)の利用にとって便宜な施設(原判決のいう便所等)があるか否か、ないしは、他の建物部分(本件では、本件管理事務室)を使用するうえで、当該部分(本件では本件管理人室)を併せて利用した方が便利か否か」という主観的判断基準で「利用上の独立性」の有無を吟味しているのである。
 かくの如き、判断基準が、前記区分所有法第1条の規定(「独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他の建物としての用途に供することができるもの」)とは、到底相容れるものではないことは明白である。
 万一、原判決の如く「ある建物部分内にマンション管理のうえで、便利な施設があるときは、当該建物部分は共用部分となる」という判断基準で、「利用上の独立性」の要件を解釈運用した場合、ある専用部分内に偶々「マンション管理のため便利ないし有益なもの」が存在したときは、それだけの理由で、当該専有部分に関する区分所有権は剥奪され、当該部分は、共用部分と認定されることになろう。しかしながら、このような結論に首肯する者は、おそらく誰一人としていないはずである。
 また、だからこそ、前記最高裁判所判決は、「利用上の独立性」を「それ自体として、独立の建物としての用途に供することができるような外形を有する(こと)」ないし「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができ(ること)」と定義し、外形的判断基準を用いることにより「利用上の独立性」の要件を可能な限り客観的かつ一義的になしうるよう努めているのであろう。
 上によれば、原判決理由第3項3記載の判決理由が区分所有法第1条に定める「利用上の独立性」の要件に関し、最高裁判所昭和56年6月18日判決に明らかに抵触し、かつ、上最高裁判所判決とは明らかに異質な要素を持ち込んだものであることは明白である。
 なお、原判決理由第3項3では「本件マンションは比較的規模が大きなマンションで管理業務に専念する管理人を常駐させる必要があるところ、本件管理事務室内には、管理人常駐のため不可欠な便所がないばかりでなく、本件管理事務室は狭隘で、管理人が休憩、着替をするうえにも適しないし、管理関係の書類等を保管する上でも支障がある」旨判示するので、この点につき付言する。
 原判決は、その前提として「本件マンションは比較的規模の大きなマンションで管理人を常駐させる必要がある」と判示しているが、管理人を常駐させる必要があるか否かは区分所有者全員が規約を定め、集会を開き自治的に決すべき事項(区分所有法第3条)であって、裁判所が決すべき事項ではない(しかも本件マンションにあっては、適法に定められた規約も存在せず、従って適法に開催された集会もなく、かつ区分所有者団体が「管理人を常駐させる」旨適法に決議したことも一度もないのである)。
 なる程本件マンションの規模は比較的大きい。しかしながらマンションの規模が比較的大きくても、管理組合の財政上、管理人を常駐させ得ない場合もありうるし、また、管理人を常駐させない形の管理形態もあり得る。
 いずれにせよ、管理人を常駐させる必要があるか否かは、区分所有者全員が自治的に決すべき事項(区分所有法第3条)であって、裁判所が決定すべき事項では到底あり得ない。また仮に万歩譲歩して、本件マンションに管理人を常駐させる必要があると仮定しても、そのことから直ちに本件管理人室の「利用上の独立性」を否定することは論理の飛躍以外の何物でもない。なる程、管理人を常駐する必要があるとすれば、本件管理事務室内には便所がなく、かつ、本件管理事務室は狭隘で管理人の休憩、着替え、管理用書類の保管等のうえで不便かも知れない。しかしながら上利用上の不便は、本件マンション建築当時から本件管理事務室に内在する欠陥であり、上欠陥を補うため、隣接する区分所有建物(本件では本件管理人室)の区分所有権を剥奪することは到底許され得ないのである。
 区分所有法第1条にいう「利用上の独立性」の有無は、最高裁判所昭和56年6月18日判決が判示するとおり、当該建物を外形的にみて「それ自体として独立の建物としての用途に供することができる」か否か、「独立の建物の場合と実質的に異なることのない態様の排他的使用に供することができる」か否かという客観的かつ一義的な判断基準によって決しなければならないのである。
 三、1 原判決理由中第3項5の要旨は、「本件管理人室は通常の住居として利用するには適しないものであり、住居として一般の取引の対象にするには困難なものである。また、本件管理人室は、事務所としての用途も限定的なもので、これを一般的に事務所として利用し取引の対象とすることも困難である。
 そのほか、本件管理人室その構造上、店舗、倉庫など住居又は事務所以外の独立した建物としての用途に供するのにも適していない」という点にあり、かつ原判決は上の点に付加して「被上告人らが、本件マンション管理のため本件管理入室を使用する必要性と、上告人らが、X3グループ関係各社の所有に属する専有部分(店舗、駐車場、倉庫等)の管理のため、本件管理人室を使用する必要性を対比した場合、後者の必要性が、量的にも質的にも、前者の必要性を遥かに下回る」と述べている。
 2 しかしながら、前述したとおり、原判決認定事実によれば、
(一) 本件管理人室は、@玄関出入口、A廊下、B和室2畳(4.5畳、6畳)C便所、D台所、E風呂場から構成されていること
(二) 本件管理人室からは、本件管理事務室等を経由することなく、上の玄関出入口を利用して外部との出入りをすることができること
(三) 本件管理人室内には、警報装置、配電盤、点消灯装置等の共用設備が、まったく存在しないこと
は明白である。
 本件管理人室が、上のような構造を有する以上、1人又は数人の人間が、本件マンションの他の部分を利用することなく、本件管理人室それ自体を、単独で居宅ないし事務室として使用することは、十二分に可能であることは明白である。
 前述した最高裁判所昭和56年6月18日判決によれば、区分所有法第1条にいう「利用上の独立性」とは「それ自体として独立の建物としての用途に供することができるような外形を有する(こと)」ないしは「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができ(ること)」を意味するのだから、本件管理人室が、最高裁判所昭和56年6月18日判決にいう「利用上の独立性」の要件を具備していることは疑問の余地がない。
 3 原判決は
 @ 本件管理人室は、店舗、駐車場、倉庫(いずれもX3グループ関係各社の所有に属する専有部分である)等のある本件マンション1階(1階には他の住居部分は存在しない)に位置すること
 A 共用部分である玄関、ロビー、エレベーター、階段及び本件管理事務室に接していること
 B 本件管理事務室との間は、もともとガラス引戸を通って自由に行き来することができるため、プライバシーを保つことも難しい構造になっていること
 C 本件管理人室内には、応接に便利な洋室がなく、電話など管理に必要な設備もないこと
の4点をあげて、本件管理人室を「通常の住居として利用するに適せず、事務所としての用途も限定的にならざるを得ない」としているが、上@ないしCは、いずれも本件管理人室の「利用上の独立性」を否定する根拠とはなり得ない。以上その理由を述べる。
 (一) まず、本件管理事務室が本件マンションの1階部分に位置すること、本件マンション1階部分には店舗、駐車場、倉庫があること、本件マンション1階には他に住居部分が存在しないことは、原判決の指摘するとおりである。しかしながら上各事実は、本件管理人室の「利用上の独立性」(「それ自体として、独立の建物としての用途に供することができるような外形を有すること」ないしは「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができること」)を判断するうえで、まったく無関係な事柄である。けだしある建物部分が1階部分に位置するが故に「それ自体として独立の建物としての用途に供し得ない」ということは到底できないし(1階部分に専有部分のあるマンションはいくらでもある)また同1階に他に住居部分がないからといって「それ自体として独立の建物としての用途に供し得ない」ということもあり得ないからである。
 なお、本件管理人質は、元々X3グループ関係各社の所有に属する専有部分(店舗、駐車場、倉庫等)を管理するため設けられたものであるが故に、これらX3グループ関係各社の所有に属する専有部分の大多数が集中する1階部分に設置されたのであり、本件管理人室が、1階部分に位置することは、言わば「理の当然」であり、本件管理人室の「利用上の独立性」を否定する根拠には到底なり得ない。
 (二) 本件管理人室が、共用部分である玄関、ロビー、エレベーター、階段及び本件管理事務室に接していることは、原判決指摘のとおりである。
 しかしながら、ある建物部分が、玄関、ロビー、廊下、階段、エレベーター等の共同部分に接していても、前記最高裁判所判決にいう「利用上の独立性」(「それ自体として、独立の建物としての用途に供することができるような外形を有すること」ないしは「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができること」)が認められれば、当該建物部分は、区分所有権の対象となり得るはずである。現に日本に存在する区分所有建物は、ほとんどすべて廊下、階段等の共用部分に接しており、これらの共用部分に接していなければ、当該区分所有建物には出入りすることすらできないのである。
 従って、本件管理人室が玄関、ロビー、エレベーター、階段、本件管理事務室等の共用部分に接していることは本件管理人室の「利用上の独立性」(「それ自体として独立の建物としての用途に供することができるような外形を有すること」ないしは「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができること」)を否定する理由にはなり得ない。
 (三) 本件管理人室と本件管理事務室との間はガラス引戸が存在すること、昭和59年6月30日以前は鍵が取り付けられておらず、本件管理人室と本件管理事務室との間は自由に行き来できた(現在は鍵が設置されている)ことは原判決の指摘するとおりである。
 しかしながら、上事実から「(本件管理人室は)プライバシーを保つことも難しい構造となっていることにかんがみると、本件管理人室は通常の住居として利用するには適しない」と結論付けることは論理の飛躍としか言いようがない。
 けだし、「もともと、ガラス引戸を通って自由に行き来する事ができる状態にあったこと」によりプライバシーの確保が困難であるというのであれば、ガラス引戸に付いた鍵を常時、施錠(前述のとおり、現在はガラス引戸に鍵が付けられており、常時施錠することは可能である)さえすれば、「自由に行き来できる状態」は解消されるのであり、プライバシーを確保することは十分可能となるからである。
 また、ガラス引戸の存在自体が、プライバシーを保つことを困難ならしめるというのであれば、ガラス引戸を他の堅固な扉に変更することは、きわめて容易なことであり、ガラス引戸の存在をもって、本件管理人室の「利用上の独立性」(「それ自体として、独立した建物としての用途に供しうる外形を有すること」ないしは「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない排他的使用に供することができること」)を否定することは、暴論という外ない。
 いずれにしても「ガラス引戸が存在するが故に、プライバシーを保つことができず、そのために、本件管理人室を通常の住居として利用するのはふさわしくない」という判断は、前記最高裁判所判決にいう「利用上の独立性」の判断基準(「それ自体として独立の建物としての用途に供しうる外形を有すること」ないしは「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない排他的使用に供することができること」)に抵触し、首肯できない。
 また、仮に万歩譲歩して、原判決のいうとおり、ガラス引戸の存在によりプライバシーを保つことが困難であると仮定してみても、そのこと自体と区分所有法第1条にいう「利用上の独立性」の要件とは、まったく関係のない事柄と言わざるを得ない。けだし「利用上の独立性」とは、最高裁判所昭和56年6月18日判決によれば「それ自体として、独立の建物としての用途に供することができる外形を有すること」換言すれば「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができること」を意味し、ガラス引戸の存在(前述したとおりガラス引戸は、いつでも施錠可能な状態にあり、かつ容易に他の材質のものに取り換え可能である)は、上の「独立の建物としての用途に供しうる外形」及び「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用」にとって、何ら障害になり得ないからである。
 (四) 原判決が指摘するとおり本件管理人室内には、応接に便利な洋室、及び電話等の設備はない。
 しかしながら応接に便利な洋室、電話等は、ある建物部分が「利用上の独立性」(「それ自体として独立の建物としての用途に供することができるような外形を有すること」ないしは「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない排他的使用に供することができること」)を具備する為に、必要不可欠な施設とは到底言い得ない。
 けだし、洋室が存在しなくとも、和室に応接に応接セットを持ち込むことは、簡単にできるし、電話の施設も同様であり、応接セット、洋間、電話等の存在は「独立して事務所としての用途に供することができる外形」ないしは「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用」の本質的要素とはなり得ないからである。
 やはり、洋室、応接セット、電話等は、「利用上の独立性」とは、まったく無関係の存在といわざるを得ないのである。
 4 原判決は上の外、被上告人らが、本件管理人室を本件マンションの管理のため使用する必要性と上告人らが、本件管理人室をX3グループ関係各社の所有に属する店舗、駐車場、倉庫等の専有部分の管理のため使用する必要性を対比し、後者の方が前者に比して量的にも質的にも、遥かに低いことをあげて、本件管理人室の「利用上の独立性」を否定している。
 しかしながら、繰り返し述べてきたとおり区分所有法第1条にいう「利用上の独立性」の要件は、ある建物部分が「それ自体として独立の建物としての用途に供しうる外形を有する(こと)」ないしは「独立の建物の場合と実質的に異なることのない態様の排他的使用に供することができ(ること)」を意味しており、「当該建物部分が他の部分の利用にとって必要か否か」という観念は「利用上の独立性」の判断要素となり得ない。
 この意味において、原判決は「利用上の独立性」の判断基準を大幅に逸脱しており、その違法性は顕著であると言わざるを得ない。
 5 以上によれば、原判決理由第3項5記載の各事実は、本件管理人室の「利用上の独立性」(前述したとおり、本件管理人室の「利用上の独立性」は、原判決の認定事実から容易に肯定できるところである)を否定する根拠になり得ないことは明白である。
 四、1 原判決理由中第3項6の要旨は「昭和59年6月30日以前は、上告人X3商事は本件管理事務室において、管理に従事する者の用便、休憩、着替え等の場所として、また管理関係の書類等の保管場所として、本件管理人室を利用していたのであり、本件管理人室は本件管理事務室と一体として、本件マンション全体の管理に使われるのが、最も自然な用途である」という点にある。
 2 しかしながら、繰り返し述べているように「利用上の独立性」の観念は「それ自体として独立の建物としての用途に供することができるような外形を有する(こと)」ないし「独立の建物の場合と実質的に異なることのない態様の排他的支配に供することができ(ること)」(最高裁判所昭和56年6月18日判決)を意味する観念である。
 換言すれば「利用上の独立性」の観念は「ある建物部分を外形からみて、それ自体として他の部分を伴うことなく、独立の建物としての用途に供しうるか否か」という客観的な判断基準であり、当該建物が過去どのように使用されてきたか、また現在どのように利用されているのかといった個別具体的な事情は「利用の独立性」の判断要素とはなり得ない。
 けだし、「利用上の独立性」の観念は、ある建物部分が区分所有権の対象となるのか否か(専有部分となるのか、共用部分となるのか)を決する上で、最も重要な要件であり、当該建物部分の過去における利用状況ないし現在または将来の利用状況といった個別具体的な状況によって、当該建物部分の「利用上の独立性」が、肯定されたり、否定されたりしたのでは区分所有建物の法律関係は著しく不安定にならざるを得ないからである。
 これを本件についてみれば、なる程、過去において本件管理人室は本件管理事務室と一体として利用されていた時期があるかも知れない。上仮定的事実を前提とすれば、原判決の如く、本件管理人室は「利用上の独立性」を欠くという結論に結びつきやすい。
 しかしながら原判決が認定するとおり、現在では、本件管理人室は、X3グループ関係各社の所有に属する専有部分の管理のため、上告人X3商事が日中管理人を常駐させ、本件管理事務室とは独立した建物として、使用しているのである。上事実を前提とすれば、上告人らの主張の如く、本件管理人室は「利用上の独立性」を有するという結論に結びつきやすい。
 上のとおり、「利用上の独立性」の観念を原判決の如く過去、現在、将来の利用状況を加味して判断するのであれば、その時々の具体的な利用状況によって「利用上の独立性」の判断が区々となってしまう。
 しかしながら、その時々の具体的利用状況によって「利用上の独立性」が肯定されたり否定されたりしたのでは、区分所有建物の法律関係は著しく不安定とならざるを得ない。
 やはり、「利用上の独立性」の有無は最高裁判所昭和56年6月18日判決の如く「それ自体として、独立の建物としての用途に供することができるような外形を有する(こと)」ないしは「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができ(ること)」という個別具体的な利用状況を捨象した外形的、客観的な判断基準をもって決する外ないのである。
 3 上によれば、原判決理由中第3項6は、「利用上の独立性」の要件に関し、最高裁判所昭和56年6月18日判決が判示する要素と著しく異なる要素を持ち込んだものであり、その違法性は顕著であるといわざるを得ない。
 五、以上により、原判決指摘の各事実は、いずれも本件管理人室の「利用上の独立性」を否定するものとは到底言い得ない。
 かえって、原判決も指摘するとおり
 1 本件管理人室が@玄関出入口、A廊下、B和室2畳(4.5畳、6畳)、C便所、D台所、E風呂場から構成されていること
 2 本件管理人室からは本件管理事務室等を経由することなく、上玄関出入口を利用して外部との出入りをすることができること
 3 本件管理人室内には、警報装置、配電盤、点消灯装置などの共用設備がまったく存在しないこと
から考えるならば、本件管理人室は「それ自体として独立の建物としての用途に供することのできるような外形を有する建物部分」ないし「独立の建物の場合と実質的に異なることのない態様の排他的使用に供することができる建物部分」に該当することは明らかであると言わなければならない。
 第四、最高裁判所昭和56年6月18日判決の事案との対比
 一、1 これまで繰り返し引用した最高裁判所昭和56年6月18日最高裁判所判決の事案はマンション内の車庫(専有部分として登記がなされている)の一部に臭気抜き排気管、排水マンホール等の共用設備が存在する事案であった。
 上事案につき、上最高裁判所判決は、次のとおり判示している。
   記
 建物の区分所有等に関する法律1条にいう構造上他の部分と区分された建物部分とは、建物の構成部分である隔壁、階層等により独立した物的支配に適する程度に他の部分と遮断され、その範囲が明確であることをもって足り、必ずしも周囲すべてが完全に遮蔽されていることを要しないものと解するのが相当である。
 そして、このような構造を有し、かつ、それ自体として独立の建物としての用途に供することができるような外形を有する建物部分は、そのうち一部の他の区分所有者らの共用に供される設備が設置され、このような共用設備の設置場所としての意味ないし機能を一部帯有しているようなものであっても、上の共用設備が当該建物部分の小部分を占めるにとどまり、その余の部分をもって独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができ、かつ、他の区分所有者らによる上共用設備の利用、管理によって上の排他的使用に格別の制限ないし障害を生ずることがなく、反面、かかる使用によって共用設備の保存及び他の区分所有者らによる利用に影響を及ぼすこともない場合には、なお建物の区分所有等に関する法律にいう建物の専有部分として区分所有権の目的となりうるものと解するのが相当である。
 2 本事件と上最高裁判所判決の事案と比較してみるに最高裁判所判決の事案は、係争の対象となっている車庫部分に、他の区分所有者の共用に供されるべき設備が存在していたのに対し、本件においでは、原判決が認定するとおり係争の対象となっている本件管理人室内には、他の区分所有者らの共用に供される設備が一切存在しない。
 上一事からだけでも本件管理人室の「利用上の独立性」は上最高裁判所の事案よりも一層強い理由で十分に肯定されなければならない。
 二、1 本事件で問題となるのは、本件管理人室内に存在する便所である。けだし原判決は「管理人が管理業務を遂行するためには、便所が必要であるところ、便所は、本件管理人室内に存在し、本件管理事務室内に存在しない。従って本件管理人室は、本件管理事務室と一体となって法定共用部分に該当する」とも解しうるからである。
 なる程、便所が「他の区分所有者の共用に供される設備」に該当するならば、本件管理人室内に便所が存在することをもって、本件管理人室の「利用上の独立性」を否定する余地も生ずるのかも知れない。
 しかしながら、便所は警報装置、配電盤、点消灯装置等(本件管理事務室内に存在する)の共用施設とは、自らその性質を異にし、本来本件管理人室の一部を構成し、本件管理人室を独立の建物として使用するうえで、必要不可欠な施設である。
 また、本件管理人室の便所は、その構造上、本件管理人室の利用者が専用する目的で設置されたものであることは明らかであり、他の区分所有者全員が共用する目的で設置された設備でないことも疑いを容れる余地もない。
 だとすれば、本件管理人室内の便所を「他の区分所有者らの共用に供されるべき設備」ということはできず、本件管理人室の「利用上の独立性」を否定することは不可能である。
 2 なる程本件マンションの管理業務を遂行する上で、管理事務室に管理人を常駐させる管理形態を採用するならば、本件管理人室内に便所が設置されていないことは著しく不便であろう。
 しかしながら翻って考えてみるに、本件マンションを管理するうえで、本件管理事務室内に管理人を常駐させることが、絶対に必要不可欠とまでは言い切れないはずである。
 また、仮に万歩譲歩して本件マンションの管理業務を遂行するうえで、本件管理事務室内に管理人を常駐させることが必要不可欠であると仮定しても、本件管理事務室内に便所が設置されていないことは、本件管理事務室の本来的欠陥という外なく、上本来的欠陥を補う為、隣接する本件管理人室(前述のとおり@玄関出入口、A廊下、B和室2間、C便所、D台所、E風呂場より構成される建物部分であり、その中には警報装置、配電盤、点消灯装置等の共用設備はまったく存在せず、また、本件管理事務室等を通過することなく、外部に自由に出入りできる)の区分所有権を剥奪するというのであれば、それは区分所有権に対する違法な侵害以外の何物でもない。
 三、なお、現在日本に存在するマンションのうち、管理人室の存在するものの多くは、当該管理人室について、「構造上の独立性」の要件及び「利用上の独立性」の要件双方ともに充足されるケースが多い。このため、当該管理人室が専用部分に該当するのか、共用部分に該当するのかという争いを事前に防止するため、当該管理人室を管理規約により共用部分(区分所有法第4条第2項)と定めているケースが大多数である。本件マンションにおいては前述のとおり、適法に制定された規約すら存在しないのが現状であるが、被上告人らが、本件マンションの管理業務を行う上で、管理人を常駐させることが必要不可欠であると考えるならば、被上告人らが、区分所有法第31条に定める手続に従って本件管理人室を規約共用部分とする旨の管理規約を制定することも十分可能である。
 かような手続きをとることもなく、本件管理人室の「利用上の独立性」を否定せんがため、かかる訴訟を提起した被上告人らの態度は、区分所有法の趣旨に著しく反するものと言わざるを得ない。
 四、上によれば本事件は本件管理人室ないには、共用設備がまったく存在していない点において、前記最高裁判所判決の事案(車庫部分の一部に共用設備が存在したが、前記判断基準によって「利用上の独立性」を肯定した)よりも一層強い理由でその「利用上の独立性」が肯定されなければならない事案であった。
 しかるに、本件管理人室内に一切の共用設備が存在しないものにもかかわらず、本件管理人室の「利用上の独立性」を否定した原判決は、前記最高裁判所昭和56年6月18日判決に明らかに違背していると言わざるを得ない。
 第五、登記実務
 一、1 マンションのうちある部分が専有部分に該当するのか、共用部分に該当するのかに関する登記先例(昭和50年1月13日法務省民3第147号各法務局長、地方法務局長あて民事局通達、その内容は別紙のとおり)の要旨は下記のとおりである。
   記
 (1) 受付者の常駐する構造を有し、内部に各専有部分を集中管理する消防設備、警報装置等の恒常的設備が設けられており、一般の居住室と別形態になっている管理受付室は、法定共用部分である。
 (二) 管理人が居住し、管理事務を行っているが、共用施設がない形態の管理受付室は法定共用部分ではない。
 (三) 受付事務を行える構造を有し、内部に各専有部分を集中管理する消防設備、警報装置等の恒常的設備が設けられているが、一般居住室と一体をなしているような管理受付室は、法定共用部分ではない。
 2 上登記先例は、前記最高裁判所昭和56年6月18日判決にいう「利用上の独立性」に関する判断基準、即ち「それ自体として独立の建物としての用途に供することができるような外形を有すること」ないしは「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができること」と、その内容において合致しており、十分に是認しうる。
 二、ところで、原判決は
 @ マンションの規模(原判決理由中第3項4)
 A 管理人常駐の必要性(原判決理由中第3項4)
 B 管理人の常駐のための設備の存在(原判決理由中第3項4)
 C 管理人室におけるプライバシーの確保(原判決理由中第3項5)
 D 管理人室における応接の利便性(原判決理由中第3項5)
 E 管理人室区分所有者が管理人室を必要とする事情と他の区分所有者全員が管理人室を必要とする事情の比較衡量(原判決理由中第3項5)
 F 過去の経緯(原判決理由中第3項6)等
の事情を総合的に判断し、当該建物部分の「利用上の独立性」の有無を決しようという判断基準を用いている。
 しかしながら、上@ないしF記載の事項は、いずれも実質的審査権限のない登記官にとって探知不可能な事柄である。
 従って「利用上の独立性」の有無を判断するにあたり、原判決が指摘する各事項を総合的に判断しなければならないとすれば、登記実務は大混乱に陥ることは火を見るよりも明白である。
 やはり、登記実務の安定性の面から考えてみても、区分所有法第1条にいう「利用上の独立性」の要件は、最高裁判所昭和56年6月18日判決が判示するとおり、「それ自体として、独立の建物としての用途に供することができるような外形を有すること」ないしは「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができること」という客観的かつ一義的な判断基準を用いる外ないのである。
 第六、結語
 以上によれば、原判決には、区分所有法第1条に関して、その解釈・適用を誤った違法があり、かつ上解釈適用の誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかである。
 よって原判決は破棄を免れ得ない。
(添付書類―そのうち図面(一)は原判決、図面(二)は一審判決各添付と同一―省略)
 ○ 上告理由補充書記載の上告理由
 第一、本事件の争点
 一、本事件の争点は、本件管理人室に建物の区分所有に関する法律(以下「区分所有法」という)第1条に定める「利用上の独立性」の要件(「独立して、住居、店舗、事務所又は倉庫、その他建物としての用途に供することができるもの」)が具備されているか否かの一点に尽きる。
 二、なお本件管理人室及び本件管理事務室の位置、構造、関係は、原判決の認定によれば下記のとおりである。
 1 本件管理人室は、和室2間(4.5畳、6畳)、台所、便所、風呂場、廊下及び玄関出入口からなる床面積37.35平方メートルの建物部分で、本件マンション1階の南西側に位置し、共用部分である玄関、ロビー、エレベーター及び階段に接している。本件管理人室は、別添図面(ニ)(以下「図面(二)」という。)のト点とチ点との間に鉄製の玄関ドアが、カ点とヨ点との間に窓が、レ点とソ点との間にガラス引戸があるほか、周囲を壁で囲まれており、上各壁は、床及び天井に固定されている。
 本件管理人室からは、本件管理事務室等を経由しなくとも、上の玄関出入口を利用して外部との出入りすることができる。本件管理人室には、警報装置、配電盤、点消灯装置などの共用設備は全く存在せず、電話も設置されていない。
 2 本件管理人室の南西側に隣接して、床面積約8.28平方メートルの本件管理事務室がある(その位置関係は図面(二)に記載のとおりである。)。本件管理事務室は、本件マンションの玄関・ロビーに面した側に開閉可能なガラス窓及びカウンターが設けられていて、本件マンションに出入りする人との応対やその監視ができる構造になっている。
 本件管理事務室には、火災、溢水等の警報装置、配電盤、共用部分の電灯の点消灯装置などの共用設備が設けられている。
 3 本件管理人室の床と本件管理事務室の床との間には段差がなく、その境である図面(二)のレ点とソ点との間にはガラス引戸があり、レ点とタ点との間は壁で仕切られている(なお、この壁がボード壁であるかコンクリート壁であるかは、証拠上、明らかにし難い。)。
 上のガラス引戸には、被控訴人X3商事が本件マンションの管理業務を行っていた昭和59年6月30日以前は鍵が取り付けられておらず、本件管理事務室と本件管理人室との間は自由に行き来することができた。
 三、上原審認定事実を前提としたうえで、第一審判決は、本件管理人室について「利用上の独立性」の要件が具備されていることを判断した。
 これに対し、原審(第二審)判決は、上原審認定事実を前提としながらも、本件管理人室について「利用上の独立性」の要件が具備されていないと判断した。
 では、第一審判決の立場と、原審判決の立場のいずれが区分所有法第1条の立法趣旨に適合するのであろうか。
 この問題を考えるに先立って、第一審判決における「利用上の独立性」の要件の判断基準、原審判決における「利用上の独立性」の判断基準について各々検討する。
 第二、第一審判決の立場
 一 第一審判決の要旨は下記のとおりである。
 1 「利用上の独立性」とは社会観念上それ自体として独立の建物としての用途に供することができるような外形を有することをいうと解するのが相当である(第一審判決理由中第3項1)
 2 本件管理人室は、隔壁(仕切り壁)、階層(床及び天井)等により独立した物的支配に適する程度に他の部分と遮断され、その範囲が明確であり、かつ社会観念上それ自体として独立の建物としての用途(本件管理人室の場合は居室または事務室)に供することができるような外形を有していることが認められ、構造上及び利用上の独立性を有していることは明らかである。
 従って、本件管理人室は区分所有法1条の専有部分に該当し、同法4条1項の共用部分に該当しないというべきである(第一審判決理由中第3項2)。
 3 マンション購入者としては本件管理人室と本件管理事務室とが一体となって管理人室を構成し、これが共用部分となると理解していたとしても無理からぬ面があるが、本件管理人室が専有部分か否かは前記のとおり構造上及び利用上の独立性の有無によって決せられるべき性質の事柄であり、マンション販売用のパンフレット等の記載やマンション購入者の認訟によって左右されるものではないから、上認定の事実によって前記認定判断に消長を来すものではない。
 また、被上告人らは、本件マンションは24時間の管理体制を取る必要があり、そのためには管理人が睡眠、休憩、更衣をする場所や管理関係の書類等を保管する場所が必要であるにもかかわらず、本件管理事務室は約8.28平方メートルの広さしかなく、睡眠、休憩、更衣をする場所や管理関係の書類等を保管する場所はもちろん便所さえないから、本件管理人室を本件管理事務室と不可分一体のものとして利用する必要がある旨主張する。なるほど本件マンションは108戸の専有部分(住宅)を包含する比較的規模の大きなマンションであることは当事者間に争いがなく、したがってこれを管理するためには管理業務に専念する管理人を常駐させる必要性が高いとはいえても、そのために本件管理人室とくに和室、台所、便所が配電盤や警報装置等のような共用設備と同視しうるほどに本件管理事務室と不可分一体の関係にあるものと認めることはできないから、上事実によっても前記認定判断に消長を来すものではない(第一審判決理由中第3項3)。
 二、上第一審判決要旨から明らかなとおり、第一審判決は「利用上の独立性」の判断基準について「社会観念上それ自体として独立の建物としての用途に供することができるような外形を有すること」という基準を用いている(上判断基準は後述する最高裁判所昭和56年6月18日判決における「利用上の独立性」の判断基準と同旨である)。
 即ち、第一審判決は、「当該建物部分を客観的・外形的に観察し、他の部分を伴うことなく、当該建物部分単独で、社会観念上、1個の建物として利用しうるか否か」という判断基準を用いて「利用上の独立性」の要件の有無を判断しようとしているのである(この意味において第一審判決は「外形基準説」と名付けることもできよう)。
 第三、原審判決の立場
 一、原審判決の要旨は下記のとおりである。
 1 本件管理人室には外部に通じる玄関出入口があって、本件管理事務室等を経由しなくとも外部との出入りをすることができ、また、内部には警報装置、配電盤、点消灯装置などの共用設備は全く存在せず、和室2間のほか台所、便所、風呂場も設けられていて居住の用に供することもできるから、これらの事実から見る限り、本件管理人室は利用上の独立性を有しているという余地がないではない(原判決理由中第3項3)。
 2 しかしながら、
 (一) 本件マンションは108戸の居宅(専有部分)を有する比較的規模の大きなマンションであり、管理業務に専念する管理人を置き、共用部分の清掃等多岐にわたる管理業務の遂行にあたらせる必要がある。
 本件管理事務室は、上管理業務遂行のため、管理人を常駐させる場所として造られたものである。
 しかるに本件管理事務室には、管理人が常駐するのであれば不可欠の設備である便所がなく、その床面積は、約8.2メートルと狭隘で、休憩着替えをするにも適しないし、管理関係の書類等を保管するうえでも支障がある。
 従って、本件管理人室をまったく使用することもなく本件管理事務室だけを使用して管理したのでは、本件マンションの管理業務を適切かつ円滑に遂行することは困難であり、本件管理人室を専有部分として特定の者の所有に帰属させた場合には、本件マンションの区分所有者の生活関係に支障が生じるおそれがある(原判決理由中第3項4)。
 (二) 本件管理人室は、居住の用に供することができないではないが、他方店舗、駐車場、倉庫等のある本件マンション1階に位置し、共用部分である玄関等及び本件管理事務室に接していて、本件管理事務室との間は、もともとガラス引戸を通って自由に行き来する事ができるため、プライバシーを保つことも難しい構造になっていることにかんがみると、本件管理人室は、通常の住居として利用するには適しないものであり、住居として一般の取引の対象にするのは困難なものである。また、本件管理人室の位置、構造、設備にかんがみると事務所としての用途も限定的なものにならざるを得ず、これを一般的に事務所として利用し、取引の対象とすることも困難である。そのほか本件管理人室は、店舗、倉庫など、住居又は事務所以外の独立した建物としての用途にも適していない。
 ところで、本件管理人室はもともと本件マンション1、2階にある店舗、駐車場、倉庫等のX3グループ関係会社の所有に属する専有部分を管理するために造られたものとしても、X3グループ関係各社の所有に属する専有部分についての管理業務としては換気、清掃くらいが主要なものであり、本件マンションの多岐にわたる管理業務と対比すれば、量的にも質的にもはるかにこれを下回るものであって、そのためにわざわざ別個独立の管理用の部屋が必要であると考えられない。
 また、本件管理人室は将来1階の店舗部分において、コンビニエンス・ストアを営業する場合に従業員の休憩場所として必要であるとしても、本件管理事務室において管理に従事する管理人に優先して、特に店舗の従業員のために排他的な休憩場所を設けるまでの必要があるとは認め難い(原判決理由中第3項5)。
 (三) 昭和59年6月30日以前には、上告人X3商事は、本件管理事務室において管理に従事する者の用便、休憩、着替等の場所として、または管理関係の書類等の保管場所として本件管理人室を利用していた。
 これらの事実に本件管理人室の位置、構造、設備をも併せ考えると本件管理事務室と一体として本件マンション全体の管理に使われるのが、本件管理人室の最も自然な用途である(原判決理由中第3項6)。
 3 従って、本件管理人室は、本件マンションの区分所有者の利益のために必要な存在であるという性質を有しており、また、それ自体として住居、事務所その他の独立した建物としての用途に供するには適しておらず、むしろ、本件管理事務室と一体として本件マンション全体の管理に使われるのがその最も自然な用途なのであるから、本件管理人室は利用上の独立性を有していないと認めるのが相当である(原判決理由中第3項7)。
 二、上にみたとおり、原審判決は(「本件管理人室は、利用上の独立性を有しているという余地がないではない」としながらも)、
 @ マンションの規模(原判決理由中第3項4)
 A 管理人常駐の必要性(原判決理由中第3項4)
 B 管理人の常駐のための設備の存在(原判決理由中第3項4)
 C 管理人室におけるプライバシーの確保(原判決理由中第3項5)
 D 管理人室における応接の利便性(原判決理由中第3項5)
 E 管理人室区分所有者が管理人室を必要とする事情と他の区分所有者全員が管理人室を必要とする事情の比較衡量(原判決理由中第3項5)
 F 過去の経緯(原判決理由中第3項6)等
の諸般の事情を総合的に判断し、当該建物部分の「利用上の独立性」の要件の有無を決しようとしている(この意味において、原審判決は「諸般の事情説」と名付けることもできよう)。
 第四、上告人らの主張
 一、では区分所有法第1条に定める「利用上の独立性」の要件の解釈について、第一審判決の立場(外形基準説)と原審判決の立場(諸般の事情説)のいずれの立場が正しいのであろうか。
 上告人らは、第一審判決の立場が正しいと考える。
 以下その理由を述べる。
 二、1「利用上の独立性」の要件は(「構造上の独立性」の要件とともに)、ある建物部分に区分所有権(区分所有法第2条第1項)が成立するか否かを決するうえで、決定的に重要な役割を果す(区分所有法第1条)。
 2 そして、区分所有権の観念は、区分所有法を支える最も基礎的な観念である。例えば、区分所有権を有するか否かによって
 @ 集会における議決権の有無及びその割合が決せられ(区分所有法第38条、同第14条)、
 A 規約の設定、変更、廃止決議について議決権を有するか否か、及びその割合が決定され(区分所有法第31条)、
 B 区分所有法第7節に定める「義務違反者に対する措権」の適用を受けるか否か、また、同節各案が定める決議に参加できるのか否かが、決せられ、
 C 区分所有法第62条に定める建替決義に参加できるのか否か、及びその議決権割合が決せられ、
 D 規約の適用(区分所有法第30条)
を受けるのか否か、就中、管理費、修繕積立金等の支払義務を負担するか否かが、決せられる。
 これ以外にも、区分所有法を一読すれば、「区分所有権」(ないしは「区分所有者」)の観念が、区分所有法を成り立たしめる最も基礎的な観念であることは一目瞭然である。
 3 だとすれば、区分所有権の有無、及び区分所有権を基礎付ける「利用上の独立性」の要件は、誰が見ても、一義的に明確である程度に客観的・外形的に判断されなければならない。
 けだし、区分所有権の有無及び「利用上の独立性」の要件の有無が、判断する主体の置かれた立場によって、区々に左右されるならば、区分所有法が予定する規約、集会、議決等の制度は、到底機能し得なくなってしまうからである。
 原判決が指摘する「管理人常駐の必要性(原判決理由中第3項4)」「管理人室区分所有者が管理人室を必要とする事情と他の区分所有者全員が管理人室を必要とする事情の比較衡量」(原判決理由中第3項5)、「過去の経緯」(原判決理由中第3項6)等は、いずれも判断する主体が置かれた立場により、その判断が区々にわかれる判断基準であり、上判断基準を用いれば、区分所有法が予定する集会、規約議決権等の制度が機能し得なくなることは必定である。
 やはり、区分所有権の有無及び区分所有権を基礎付ける「利用上の独立性」の要件の有無は、「当該建物部分を客観的・外形的に観察し、当該建物部分が他の部分を伴うことなく、単独で建物の用途に供しうるか否か」という、誰がみても一義的に明らかな外形的判断基準を用いて決する外はないのである。
 三、マンション取引の面からみても「区分所有権」の観念は決定的に重要な役割を果している。
 いま、AがBに対し、ある建物部分を売却する場合を考えてみよう。
 もし、当該部分に区分所有権が成立するならばA・B間の売買契約が有効であることは当然であるが、もし、当該部分に区分所有権が成立し得ないならば、A・B間の売買契約は原始的に不能となる。
 従って、マンション取引の安全を確保するためには、当該部分に区分所有権が成立するか否かの判断基準及び区分所有権を基礎付ける「利用上の独立性」の有無の判断基準は、当該部分を、客観的・外形的に観察し、誰がみても一義的に明らかになるような判断基準でなければならない。
 第一審判決が判示する「社会観念上、それ自体として、独立の建物としての用途に供することができるような外形を有すること」という判断基準は、上要請を十二分に充足するものである。
 これに反し、原審判決が用いる判断基準、例えば「管理人常駐の必要性」(原判決理由中第3項4)、「管理人室区分所有者が管理人室を必要とする事情と他の区分所有者全員が管理人室を必要とする事情の比較衡量」「過去の経緯」等はいずれも判断する主体の置かれた立場によって、その結論が区々にわかれる可能性が著しく高く、上判断基準を用いた場合、マンション買主の地位が著しく不安定なものとなることは、火を見るよりも明白である。
 やはり、マンション取引の安定性を確保する見地からみても、ある建物部分に区分所有権が成立するか否かの判断基準、ないしは区分所有権を基礎付ける「利用上の独立性」の要件の有無を決する判断基準は、第一審判決が判示する「社会通念上、それ自体として独立の建物としての用途に供することができるような外形を有すること」という客観的・外形的判断基準を用いる外ないのである。
 四、上告理由書において、再三引用しかつ、上告理由書第4において詳論したとおり、最高裁判所昭和56年6月18日判決は「利用上の独立性」の要件について「それ自体として独立の建物としての用途に供することができるような外形を有すること」ないしは「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができること」という判断基準を採用している。
 上最高裁判所判決が示す判断基準は、第一審判決が「利用上の独立性」の有無の判断基準として示したものとほぼ同旨である。
 そして、上最高裁判所判決が示す判断基準が「当該建物部分を客観的・外形的に観察し、他の部分を伴うことなく、当該建物部分単独で、建物としての用途に供しうる外形を有すること」という外形基準説的立場に立っていることも疑問の余地がない。
 従って、上最高裁判所判決を維持する限り、第二審判決の立場は到底採用することができず、第一審判決の立場を採用せざるを得ないのである。
 五、上告理由書第5で述べたとおり、現行の登記実務は、上最高裁判所判決、第一審判決の示す外形基準説の立場に立っている。
 そして、登記官に実質的な審査権限の認められていない現行登記手続上は、原告判決の示す判断基準は、登記実務において到底採用できないこと、登記実務上は、上最高裁判所判決第一審判決の判示する外形的基準説の立場を採用せざるを得ないことは上告理由書第5で詳論したとおりである。
 第五、詳論
 一、原判決認定事実によれば、
 1 本件管理人室は、@玄関出入口、A廊下、B和室2畳(4.5畳、6畳)、C便所、D台所、E風呂場から構成されており、かつ、
 2 本件管理人室からは、本件管理事務室等を経由せずに上の玄関出入口を利用して外部との出入りをすることができる
というのである。
 上原判決認定事実を前提として、前記最高裁判所判決及び第一審判決の判示する「利用上の独立性」の判断基準、即ち「それ自体として、独立の建物としての用途に供することができるような外形を有する(こと)」ないしは「独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供する事ができ(ること)」という判断基準を適用すれば、本件管理人室には、区分所有法第1条にいう「利用上の独立性の要件」(「独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるもの」)が備わっていることは、何人の目にも明らかであるという外ない「原判決も「本件管理人室には外部に通じる玄関出入口があって、本件管理事務室等を経由しなくとも、外部との出入りをすることができ、また内部には警報装置、配電盤、点消灯装置などの共用設備は全く存在せず、和室2間のほか、台所、便所、風呂場も設けられていて居住の用に供することもできるから、これらの事実からみる限り、本件管理人室は、利用上の独立性を有しているという余地がないではない。」として、本件管理人室の「利用上の独立性」を肯定するかの如き判示をしている)。
 二、以上によれば、原判決には、区分所有法第1条に関して、その解釈・適用を誤った違法があり、かつ上解釈適用の誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかである。
 よって直ちに原判決は破棄されたい。

 




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