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マンション管理関係判例



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  専有部分性/管理人室


平成 2年 6月25日 判タ755-207 東京高判


判決要旨
マンション分譲案内パンフレットに共用部分として管理人室を設置する旨記載されており、管理事務室(8.28u-共用部分であることに争いがない)に隣接して設置された管理人室(37.35u)についても法定共用部分と認められた事例


判決日・当事者
東京高裁平元(ネ)第967号、所有権保存登記抹消登記手続等請求控訴事件、平2.6.25第3民事部判決、取消自判・上告、原審東京地裁昭62(ワ)第12101号、平1.3.8判決、本誌715号239頁
控 訴 人       X1
同           X2
同           X3
同           X4
同           X5
同           X6
上6名訴訟代理人弁護士 富 澤 準二郎
同           石 井 和 男
被 控 訴 人     Y1興業株式会社
上代表者代表取締役   Y2
被 控 訴 人     Y3商事株式会社
上代表者代表取締役   Y4
上両名訴訟代理人弁護  土 田 宮 甫
同           堤 義 成
同           鈴 木 純
同           行 方 美 彦
同           吉 田 繁 實
同           白 土 麻 子


 【主 文】
 一 原判決を取り消す。
 二 被控訴人Y1興業株式会社は、控訴人らに対し、別紙物件目録記載の建物について、東京法務局文京出張所昭和○○年○月○日受付第184号所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。
 三 被控訴人Y3商事株式会社は、控訴人らに対し、別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。
 四 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。


 【事 実】
 控訴人らは、主文同旨の判決を求め、被控訴人らは、控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の主張及び証拠の関係は、原判決の事実摘示及び当審記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決2枚目裏末行、同4枚目表10行目、同6枚目表6行目及び同7枚目表9行目の各「区分所有の対象」を「区分所有権の目的」と、原判決3枚目表11行目の「区分所有者全員」を「区分所有者の全員」と、同裏9行目の「タ、ツ、イ」を「タ、イ」と、原判決4枚目裏初行の「睡眠のため」を「睡眠等をするため」と、同5行目の「保管する」、を「保管をする」と、原判決5枚目表7行目の「Y3商事に対しは」を「Y3商事に対しては」と、原判決6枚目裏8行目の「株式会社A」を「株式会社B」と、原判決7枚目表3行目の「B企業株式会社が」を「同4(五)の事実のうち、訴外B企業が」と、それぞれ改める。


 【理 由】
 一 控訴人らがいずれも本件マンション中に区分所有権の対象となる建物部分を所有していること(請求原因1の事実)、本件管理人室が本件マンションの一部分であること(同2の事実)、被控訴人Y1興業が本件管理人室につき主文第2項記載の所有権保存登記を経由しており、被控訴人Y3商事が本件管理人室を占有していること(同3(一)、(二)の事実)は、いずれも当事者間に争いがない。
 二 被控訴人らは、控訴人らには本件訴えを提起するにつき当事者適格がない旨主張するが、控訴人らは、本件管理人室が建物の区分所有等に関する法律4条1項の共用部分であると主張して、その共有持分権に基づき保存行為として本件訴えを提起しているのであるから、控訴人らが当事者適格を有することは明らかである。
 三 そこで、本件管理人室が建物の区分所有等に関する法律4条1項の共用部分であるか、同法1条の専有部分であるかにつき判断する。
 1 請求原因4項のうち当事者間に争いのない事実及び<証拠>とにより認められる事実は、次のとおりである。
 (一) 本件マンションは、地上7階建て、延床面積9,167.15平方メートルの建物で、専有部分として、1階及び2階に店舗、駐車場、倉庫等を、2階以上に居宅108戸(2階部分は賃貸用、3階以上は分譲)を有する比較的規模の大きなマンションである。
 (二) 本件管理人室は、和室2間(4.5畳、6畳)、台所、便所、風呂場、廊下及び玄関出入口からなる床面積37.35平方メートルの建物部分で、本件マンション1階の南西側に位置し、共用部分である玄関、ロビー、エレベーター及び階段に接している。本件管理人室は、原判決添付図面(二)(以下「図面(二)」という。)のト点とチ点との間に鉄製の玄関ドアが、カ点とヨ点との間に窓が、レ点とソ点との間にガラス引戸があるほか、周囲を壁で囲まれており、上各壁は、床及び天井に固定されている。本件管理人室からは、本件管理事務室等を経由しなくとも、上の玄関出入口を利用して外部との出入りをすることができる。本件管理人室には、警報装置、配電盤、点消灯装置などの共用設備は全く存在せず、電話も設置されていない。
 (三) 本件管理人室の南西側に隣接して、床面積約8.28平方メートルの本件管理事務室がある(その位置関係は図面(二)に記載のとおりである。)。本件管理事務室は、本件マンションの玄関・ロビーに面した側に開閉可能なガラス窓及びカウンターが設けられていて、本件マンションに出入りする人との応対やその監視ができる構造になっている。本件管理事務室には、火災、溢水等の警報装置、配電盤、共用部分の電灯の点消灯装置などの共用設備が設けられている。
 (四) 本件管理人室の床と本件管理事務室の床との間には段差がなく、その境である図面(二)のレ点とソ点との間にはガラス引戸があり、レ点とタ点との間は壁で仕切られている(なお、この壁がボード壁であるかコンクリート壁であるかは、証拠上、明らかにし難い。)上のガラス引戸には、被控訴人Y3商事が本件マンションの管理業務を行っていた昭和59年6月30日以前は鍵が取り付けられておらず、本件管理事務室と本件管理人室との間は自由に行き来することができた。
 (五) ところで、本件マンションの管理業務は、昭和59年6月30日まで被控訴人Y3商事が行っていたが、管理費の値上げ等を巡って同被控訴人と控訴人ら居宅部分の区分所有者との間に対立が生じ、同年7月1日以降は、居宅部分の区分所有者において、本件管理事務室の返還を受けた上、管理人を雇用して、いわゆる自主管理を行っている。被控訴人Y3商事は、その後も本件管理人室を占有し、1、2階にあるY3グループ関係の専有部分(店舗、駐車場、倉庫等。ただし、店舗は、本件マンション建築後現在まで営業に使用されていない。)の管理のために、日中、管理人を常駐させている。
 (六) 被控訴人Y3商事が本件マンションの管理業務を行っていた間、本件管理事務室において管理に従事する者は、用便、休憩、着替え等の場所として、また、管理関係の書類等の保管場所として、本件管理人室を利用していた(この間、被控訴人らの主張するように、本件管理人室が専らY3グループ関係の専有部分の管理のために使用されていたとは認め難い。)。しかし、前記の自主管理が開始された後は、被控訴人Y3商事が本件管理人室内にある便所等の使用を拒否したため、本件管理事務室において管理に従事する管理人は、一時、仮設の便所を使用していた(ただし、その後、事実上、本件管理人室内にある便所の使用が認められ、現在に至っている。)。また、本件管理事務室が狭隘であるところから、現在、管理業務に必要な薄冊の一部は控訴人らの居宅部分で保管されている。
 (七) なお、本件マンションの設計図(仕上表 甲第18号証の2)には、本件管理事務室に相当する事務室と、本件管理人室を構成する玄関踏込、台所、和室、洗面・脱衣室、便所及び浴室とが、一体として「管理人室」と表示されている。
 (八) また、訴外Bが本件マンションを販売するに当たって頒布したパンフレット(<証拠>)には、1階に共用部分として「管理人室」を設ける旨記載されており(ただし、これが本件管理事務室のみを指すのか、本件管理事務室と本件管理人室とを合わせたものを指すのかは、上のパンフレット自体からは明らかではない。)、同じくパンフレットの一つである本件マンション各室の価格表(<証拠>)には、1階に「管理事務室」と並んで「管理人室」が表示され、区分所有者と被控訴人Y3との間の管理委託契約書(<証拠>)に添付の管理費一覧表にも同様の表示がある。
 2 ところで、ある建物の部分が専有部分であるというためには、当該部分が「構造上区分され」かつ「独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができる」との建物の区分所有等に関する法律1条の要件(いわゆる構造上の独立性と利用上の独立性)を充足している必要がある。そして、上にいう構造上の独立性があるというためには、建物の構成部分である隔壁、階層等により独立した物的支配に適する程度に他の部分と遮断され、その範囲が明確であることをもって足りると解されるところ、上1(二)、(四)の事実によれば、本件管理人室がこのような意味における構造上の独立性を有していることは明らかである。
 そこで、以下、本件管理人室が利用上の独立性を有しているかどうかを検討する。
 3 上1(二)の事実によれば、本件管理人室には外部に通じる玄関出入口があって、本件管理事務室等を経由しなくとも外部との出入りをすることができ、また、内部には警報装置、配電盤、点消灯装置などの共用設備は全く存在せず、和室2間のほか台所、便所、風呂場も設けられていて居住の用に供することもできるから、これらの事実から見る限り、本件管理人室は利用上の独立性を有しているという余地がないではない。
 4 しかしながら、他方、上1(一)の事実によれば、本件マンションは、延床面積が9,000平方メートル以上で、108戸の居宅(専有部分)を有する比較的規模の大きなマンションであるところ、この種マンションにおいては、区分所有者の生活関係の円滑とその生活環境の維持保全とを図るため、管理業務に専念する管理人を置き、玄関、ロビー、廊下等の共用部分の清掃、ごみの処理、不在者に対する郵便物や荷物の保管、各種法令に基づく設備の保守点検に関する事務、来訪者との応対、不審者立入リの警戒、警報装置の監視等の多岐にわたる管理業務の遂行に当たらせる必要があると考えられる。本件マンションにおいては、当初から上のような管理体制がとられており、本件管理事務室がそのために管理人を常駐させる場所として造られたものであることは明らかである(本件管理事務室が共用部分に当たることは、当事者間に争いがない。)。
 ところが、上1(三)、(六)に認定したとおり、本件管理事務室には、日中だけにせよ管理人が常駐するのであれば不可欠の設備というべき便所がないだけでなく(本件マンションの外に仮設便所を設けたり、被控訴人らの主張するように2階以上の居宅部分の便所を借用するというのが、本来在るべき姿でないことはいうまでもなく、本件管理人室内の便所以外に使用し得る適当な便所があるとは認め難い。)、床面積が約8.28平方メートルと狭隘で、その構造上人目を避ける場所もないから、休憩、着替えをするにも適しないし、管理関係の書類等を保管する上でも支障がある。したがって、本件管理人室を全く使用することなく、本件管理事務室だけを使用して管理をしたのでは、本件マンションの管理業務を適切かつ円滑に遂行することは困難であり、本件管理人室を専有部分として特定の者の所有に帰属させた場合には、本件マンションの区分所有者の生活関係に支障が生じるおそれがある、といわなければならない。
 5 次に、本件管理人室が独立した建物としての用途に供することができるものかどうかを検討するに、被控訴人らは、本件管理人室はそれ自体として1戸の住居又は事務所として利用し、かつ、取引の対象とすることができると主張する。なるほど、前記のとおり、本件管理人室は、和室2間のほか台所、便所、風呂場も設けられているから、居住の用に供することができないではないが、他方、上1(二)、(四)のとおり、本件管理人室は、店舗、駐車場、倉庫等のある本件マンション1階(1階には他に住居部分は存在しない。)に位置し、共用部分である玄関、ロビー、エレベーター、階段及び本件管理事務室に接していて、しかも、本件管理事務室との間はもともとガラス引戸を通って自由に行き来することができるため、プライバシーを保つことも難しい構造になっていることにかんがみると、本件管理人室は、通常の住居として利用するには適しないものであり、住居として一般の取引の対象にするのは困難なものであると判断される。また、上のような本件管理人室の位置、構造や1(二)のとおりの本件管理人室内の設備(応接に便利な洋室はなく、電話など管理に必要な設備もない。)にかんがみると、事務所としての用途も限定的なものにならざるを得ず、後記のような本件マンション1、2階にある店舗、駐車場、倉庫等を管理するための事務所として利用するのであれば格別(ただし、その必要性が認められないことは後記のとおりである。)、これを一般的に事務所として利用し、取引の対象とすることもまた困難であると判断される。そのほか、本件管理人室は、その構造上、店舗、倉庫など、住居又は事務所以外の独立した建物としての用途に供するのにも適していないと考えられる。
 ところで、被控訴人らは、本件管理人室は、もともと本件マンション1、2階にある店舗、駐車場、倉庫等のY3グループ関係の専有部分を管理するために造られたものである(本件管理事務室は、これ以外の専有部分を管理するために造られたものである。)、と主張し、原審における証人Cの証言中にはこれにそう供述部分がある。しかしながら、上証人の挙げるところによっても、上のY3グループ関係の専有部分についての管理業務としては、倉庫・店舗内の換気(通風の確保)、駐車場の清掃くらいが主要なものであり、4に掲記の管理業務と対比すれば量的にも質的にもはるかにこれを下回るものであって、そのためにわざわざ別個独立の管理用の部屋(しかも、本件管理事務室の4倍以上の広さを持つ部屋)が必要であるとは到底考えられない。また、上証人の証言中には、本件管理人室は、将来1階の店舗部分においてコンビニエンス・ストアを営業する場合に、従業員の休憩場所として必要である旨の供述部分があるが、本件管理事務室において管理に従事する管理人に優先して、特に店舗の従業員のために排他的な休憩場所を設けるまでの必要があるとは認め難い(せいぜい、本件管理人室を管理人と共に利用することの可否が検討の対象となるにすぎない。)。
 6 更に、1(七)、(八)の事実によれば、本件管理人室は、当初から本件管理事務室と一体として本件マンション全体の管理に使われるように設計・建築されたことがうかがわれるのであり、1(六)の事実によれば、実際にも、昭和59年6月30日以前には、被控訴人Y3は、本件管理事務室において管理に従事する者の用便、休憩、着替え等の場所として、また、管理関係の書類等の保管場所として、本件管理人室を利用していたのであって、これらの事実に前記の本件管理人室の位置、構造、設備をも併せ考えると、本件管理事務室と一体として本件マンション全体の管理に使われるのが、本件管理人室の最も自然な用途である、というべきである。
 7 以上4ないし6で検討したところによれば、本件管理人室は、本件マンションの区分所有者の利益のために必要な存在であるという性質を有しており、また、それ自体として住居、事務所その他の独立した建物としての、用途に供するには適しておらず、むしろ、本件管理事務室と一体として本件マンション全体の管理に使われるのがその最も自然な用途なのであるから、本件管理人室は利用上の独立性を有していないと認めるのが相当である。
 したがって、本件管理人室は、建物の区分所有等に関する法律4条1項の共用部分ということになるから、区分所有権の目的とはならず、控訴人らを含む本件マンションの区分所有者全員の共用に属すべきものである。
 四 そうすると、本件管理人室につき、被控訴人Y1の経由している前記所有権保存登記は、実体に符合しない無効の登記であり、被控訴人Y3の有する占有は、占有権原に基づかない不法な占有である、というべきことになる。
 五 以上によれば、控訴人らの被控訴人らに対する本訴請求はいずれも理由があるから認容すべきであり、これと異なる原判決は失当であって、本件控訴は理由がある。
 よって、原判決を取り消した上、控訴人らの被控訴人らに対する本訴請求をいずれも認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法96条、89条、93条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官吉井直昭 裁判官小林克己 裁判官河邉義典)


別紙<省略>






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