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マンション管理関係判例



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居住ルール・管理規約/フローリング騒音



平成 8年 7月30日 判時1600-118  東京地八王子支判


判決要旨
絨毯張りだった床をフローリング床にしたことによって、騒音被害が従前の4倍になったことを認定し、これが受忍限度を超え不法行為を構成するとして階下の区分所有者に対し金75万円の支払を命じたが、フローリング床の撤去、復旧工事の請求については「差止め請求を是認する程の違法性があるとおいうことは困難」として棄却した事例


判決日・当事者
床面部分復旧工事等請求事件、東京地裁八王子支部平6(ワ)2699号、平8.7.30民2部判決、一部認容、一部棄却(控訴〈和解〉)
《当事者》 
原 告          甲 野 花 子
             〈ほか1名〉
上原告ら訴訟代理人弁護士 蒲 俊 郎
被 告          乙 山 松 子
上訴訟代理人弁護士    笠 井 浩 二


 【主文】 一 被告は原告らに対し、各金75万円及びこれに対する平成6年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 三 訴訟費用はこれを10分し、その1を被告の、その余を原告らの各負担とする。
 四 この判決は第1項に限り、仮に執行することができる。


 【事実及び理由】 第一 請求
 一 被告は、別紙(一)物件目録記載の建物の専有部分(以下「被告建物」という。)の別紙(二)図面記載部分《編注・りビング、廊下等の部分》の木製床を撤去したうえ、別紙(四)図面記載の材料及び仕様によって復旧工事をせよ。
 二 被告は、被告建物の別紙(三)図面記載部分《同・台所、洗面所の部分》の木製床を撤去したうえ、別紙(五)図面記載の材料及び仕様によって復旧工事をせよ。
 三 被告は、原告らに対し各300万及びこれに対する平成6年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 一 本件は、原告らは別紙(六)物件目録記載の(1棟の建物の表示)の建物(以下「本件マンション」という。)の専有部分(A103号室。以下「原告ら建物」という。)の所有者であるが、原告ら建物の階上である被告建物(A203号室)の所有者である被告は平成5年11旬ころ、何の合理的理由・特別の事情もなく、かつ、原告らの承認を得ること及び本件マンションの管理組合理事会への届け出なく、即ち、同管理組合規約・使用細則に違反して、被告建物の絨毯張りの床につき、「トップ・イレブン」なる非防音タイプの1階用床材を使用してフローリング(板張り)への張り替え(上床材を150ミり厚のコンクりトスラブ上に直貼りした板張り。以下「本件フローリング」という。)を敷設したところ、本件フローリング敷設により、被告建物に発生する歩く音・椅子を引く音等の生活音全てが断続的に、階下の原告ら建物内に響き聞こえてくるようになり、現在(平成8年6月)に至るまで継続して、被告建物の階下の原告ら建物に居住して本件マンションにおける静謐な環境・生活を享受していた原告らに対し、受忍限度を超える日常生活上の騒音被害・生活妨害等をもたらし、原告らに著しい肉体的・精神的苦痛を与えるに至ったから、前記管理組合規約・使用細則並びに区分所有法6条1項・57条ないし人格権侵害に基づく差止め(妨害除去・妨害予防)請求としての原状回復である復旧工事の施工及び不法行為に基づく慰謝料各300万円の支払を求め、被告は、「トップ・イレブン」はL(軽量床衝撃音の遮音性能の値。以下同じ。)60程度の床材であり、本件フローリングにより、原告らに受忍限度を超える日常生活上の騒音被害・生活妨害等をもたらしてはいないとして、上事実関係を否認し、さらに、前記管理組合は平成6年6月4日開催の定期総会において、原告らの苦情を受け入れて、被告建物の床について、原告ら被告両者による費用折半、施工業者は原告らが選び理事会の承認を得るとの条件でフローリングL45による改装工事を施工するよう勧告(以下「本件勧告」という。)し、被告はこれを承諾しているから解決済みであるとして争い、原告らは、本件勧告は被告の、本件フローリングはL60の防音措置が施された床材を使用している旨の虚偽の説明を前提としてなされたもので無効であると主張する事案である。
 二 争いのない事実及び証拠上容易に認定できる事実
 1 本件マンションは、井の頭公園に隣接する好立地に位置する高級マンションであり、周囲は住宅街で非常に静かな環境の中に存在すること。
 2 被告は被害建物(203号室)の所有者であること、被告は平成5年11月上旬ころ、被告建物の絨毯張りの床につき、「トップ・イレブン」なる床材によるフローリング(板張り)への張り替え(本件フローリング)を敷設したこと。
 3 本件勧告の事実。
 4 原告らは原告ら建物の所有者であり、平成4年7月から被告建物の階下に居住していること。
 四 争点
 1 本件フローリング敷設により、被告建物に発生する歩く音・椅子を引く音等の生活音全てが断続的に、階下に響き聞こえてくるようになったか否か。
 2 原告らに対し、受忍限度を超える日常生活上の騒音被害・生活妨害等をもたらしたかどうか。
 3 損害の有無、程度。
 4 差止めの可否
 5 本件勧告の効力
第三 争点に対する判断
 一 争点1及び2について
 1《証拠略》を総合すれば、次の各事実を認めることができる。
 (一) 被告は本件マンションの居住者(A302号室)らが床にフローリングを敷設したことを知り、被告も、これまでの絨毯張りは掃除が大変で夏場はうっとうしいこともあって、被告建物の床にフローリングを敷設することにし、上居住者から同人が依頼した業者の紹介を受け、平成5年10月ころ同業者に被告建物の居間(リビング)・東北角部屋・台所・洗面所・廊下の床へのフローリング施工を依頼した(工事費は約90万円)。
 (二) 被告は、フローリングによる階下への騒音等の影響を懸念はしたが、専門的なことは分からないため、上業者に全面的に任せ、フローリングにおける防音・遮音措置について、特に指示することはなかった。
 (三) 被告は同年10月15日本件マンションの管理組合理事長に、前所有者の了解を得た室内改装として届け出をしたが、当時管理組合規約・使用細則上規定されていた専有部分の仕様変更等についての所定の書式(「事前に工事等によって損害を受けるおそれのある組合員の承認を受けている」旨等の工作物設置等申込書・「専有部分の仕様変更等について他の区分所有者から騒音等の苦情が出た場合は速やかに原状に復することを確約する」旨の覚書)による届け出はなく、また、原告らは同月下旬ころ被告から、(フローリングの話はなく)改装工事を施工するので数日間工事音を我慢して欲しい旨説明を受けただけであった。
 (四) 本件フローリングは同年11月中旬ころ完了し、その際被告から本件フローリングについて「良い素材を使った。音を立てないよう気をつける」旨の説明があった。
 (五) 従前原告ら建物は静謐が保たれていたところ、そのころから本件フローリングにより、被告建物で発生する歩く音・椅子を引く音・(畳を敷いた後は)畳から降りるときの音・アイロンや鍋類を床に置く音・掃除機が床にぶつかる音等床に何かが当たるあらゆる音等の生活音が断続的に階下に響き聞こえてくる、ベッドに横たわると振動も伝わってくる感じがするようになった。このため、原告春子は被告方(被告本人及び子供〔成人男女2名〕)が寝静まるのを待って午前2時以降就寝し、原告花子は被告らが起床して歩き出す音で目が覚めるという生活が続いた。
 (六) このため、原告らは同年11月19日被告に対し、本件フローリングによる騒音の原因の調査方を申し入れたところ、本件フローリングに使用した床材は、(四)記載の被告の説明における「良い素材」ではなく、防音性能は最低のL60の板材であるとのことであり、同年12月には、被告建物の居間窓側壁の一部とフローリングとの間にシりコンコーキング材を入れる補修工事がなされたが、これによっても、騒音はいくらか軽減された程度であった。その後も原告ら被告間で交渉がなされたがまとまらなかった。
 (七) そこで、原告らは翌6年1月本件マンションの管理組合理事会の仲介を求めて理事宛に要望書を配付し、同理事会は原告ら及び被告の意見を聴取するなどして仲介に入ったが、同理事会での話合いによる解決もなされなかった。なお、同5年12月23日なされた理事会による騒音の実験(被告建物の床を歩いて、その音を階下の原告ら建物の部屋で聞く方法)では、理事会は、上の音は一般的な許容範囲で、著しく一般生活に支障を来すレベルに達していないと判断したが、被告は上実験後、居間・東北角部屋の床に畳マット、台所等の床に絨毯マットを敷き、できるだけ椅子を使わない生活をしているため、原告ら建物内の音の状態は、本件フローリング敷設直後に比べるとかなり緩和されている。
 (八) 次いで、原告らは本件マンションの管理組合総会へ被告に対する勧告の議案を提出して貰い、同総会は同年6月4日、協議のうえ本件勧告を決議するに至り、原告ら及び被告は本件勧告を受け入れた。
 (九) 原告らは本件勧告に従うべく準備をしていたところ、その過程の同年7月下旬ころ、本件フローリングは、「トップ・イレブン」なる防音措置(遮音材)の施されていない(緩衝材は施されている)1階用床板材を使用し、上床板材を150ミり厚のコンクりトスラブ上に直貼りして敷設されたものであったことが判明した(「トップ・イレブン」使用の場合の防音効果は、絨毯張りの場合と比べ4倍以上悪化する。)。このため、原告らは、被告はこれまで虚偽の説明をしていたとし、これに基づく本件勧告は効力がないとして、本件勧告は受け入れ難いと考えるに至った。
 被告は、本件フローリング施工に際し、原告らに対し床にフローリングを敷設するが、椅子を使わない生活をする旨説明したと供述するが、上供述等は《証拠略》に照らし措信できず、他に上認定を覆すに足りる証拠はない。
 2 上認定の(五)の事実によれば、本件フローリングにより同5年11月中旬ころから、被告建物に発生する歩く音・椅子を引く音等の生活音全てが断続的に、階下の原告ら建物内に響き聞こえてくるようになったものということができる。
 3 ところで、本件マンションのような集合住宅における騒音被害・生活妨害については、加害行為の有用性、妨害予防の簡便性、被害の程度及びその存続期間、その他の双方の主観的及び客観的な諸般の事情に鑑み、平均人の通常の感覚ないし感受性を基準として判断して、一定の限度までの騒音被害・生活妨害は、このような集合住宅における社会生活上止むを得ないものとして受忍すべきである一方、上の受忍限度を超える騒音被害・生活妨害は、不法行為を構成するものと解せられる。
 4 これを前記1において認定した各事実に基づき検討すると、被告が敷設した本件フローリングの有用性は一応肯認できるが、上敷設の緊急性はないところ(被告)、被告は本件フローリング施工に際し、本件フローリング敷設による階下への騒音等の問題を認識しながら、上騒音等の問題に対する事前の対策は不十分なまま、本件マンションの管理組合規約・使用細則に違反する形で、即ち、原告らの承認を得ること及び本件マンションの管理組合理事会への正規の届け出なく、本件フローリングを施工し、しかも、本件フローリングは、絨毯張りの場合と比べ防音・遮音効果が4倍以上悪化する「トップ・イレブン」なる防音措置(遮音材)の施されていない1階用床板材を使用して敷設されたものであったことから、本件フローリング敷設により平成5年11月中旬ころから、従前静謐が保たれていた原告ら建物において、被告建物に発生する歩く音・椅子を引く音等の生活音全てが断続的に、階下の原告ら建物内に響き聞こえてくるようになり、このため、原告春子は被告一家(被告本人及び子供〔成人男女2名〕が寝静まるのを待って就寝し、原告花子は被告らが起床して歩き出す音で目が覚めるという生活が続くに至ったものであるが(なお、前記認定の(六)(七)の各事実は、上判断を左右するとまでは言えない。)、上のとおり、被告における本件フローリング敷設による上騒音被害・生活妨害は、被告の上騒音等の問題に対する事前の対策が不十分なまま、原告らの承認を得ること及び本件マンションの管理組合理事会への正規の届け出なくなされた本件フローリング敷設によりもたらされたもので、本件フローリングに防音措置(遮音材)の施されている床板材を使用すれば相当程度防音・遮音され、また、その費用もそれほど掛かるものではないことをも勘案すれば、上加害行為の態様は芳しくないものであり、しかも、多数回、かつ、現在まで約2年半にわたり継続して、従前より4倍以上の防音・遮音悪化の状態でなされたものであり、そのうえ、早朝または深夜にわたることも度々であったのであるから、確かに、この種の騒音等に対する受け止め方は、各人の感覚ないし感受性に大きく左右され、気にすれば気にするほど我慢ができなくなるという性質を免れないものではあるが、平均人の通常の感覚ないし感受性を基準として判断してもなお、本件フローリング敷設による上騒音被害・生活妨害は社会生活上の受忍限度を超え、違法なものとして不法行為を構成すると言うことができる。
 二 争点3について
 上不法行為により、原告ら両名に対し多大な精神的苦痛を与えたものと言うべきところ、被告における本件フローリングによる前記騒音被害・生活妨害の態様・回数・期間・内容等を総合して勘案すれば、原告らのかかる精神的苦痛を慰謝するには、原告ら両名に対し、各75万円をもってするのを相当と思料する(なお、上不法行為後の遅延損害金の請求も理由がある)。
 三 争点4について
 次に、騒音被害・生活妨害による人格権または人格的利益の侵害ないし侵害の恐れに基づく妨害排除・予防請求としての差止め請求が認められるか否かは、侵害行為を差止める(妨害排除・予防する)ことによって生ずる加害者側の不利益と差止めを認めないことによって生ずる被害者側の不利益とを、被侵害利益の性質・程度と侵害行為の態様・性質・程度との相関関係から比較衡量して判断されるが、前述したように、被告における本件フローリングによる前記騒音被害・生活妨害は受忍限度を超えたものであり、したがって、上侵害行為(被告における本件フローリングによる前認騒音被害・生活妨害行為)の差止めを認めないことによって生ずる被害者側たる原告らの不利益は決して小さくないと言うべきであるが、本件フローリングの有用性は前記認定のとおりであり、本件フローリングに対する差止めないし差止めによる原状回復については、被告に対し相応の費用と損害をもたらすことは明らかであり、しかも、後記四に説示するとおり、若干の問題はあるものの原告ら及び被告に対し本件勧告が有効になされ、原告らもこれを一旦は受け入れた経緯に鑑みると、なおのこと、被告における本件フローリングによる前記騒音被害・生活妨害行為は直ちに、上差止め請求を是認する程の違法性があると言うことは困難と言わざるを得ない。
 なお、原告らは区分所有権法6条1項・57条に基づき、被告における本件フローリングによる前記騒音被害・生活妨害行為が区分所有者の共同の利益に反する行為であるとして、差止め請求としての原状回復を求めるが、前記認定によっても、上行為が直ちに区分所有者の共同の利益に反する行為とは言い難いから、上主張は採用できないし、前記管理組合規約・使用細則に基づく差止め請求の主張についても、上規約・規則に基づく専有部分の仕様変更等についての所定の書式(工作物設置申込書・「専有部分の仕様変更等についての他の区分所有者から騒音等の苦情が出た場合は速やかに原状に復することを確約する」旨の覚書)による届け出については、上覚書が無条件に差止め請求までをも定めたものとは俄に解し難いうえ、上届け出は必ずしも本件マンションの区分所有者において周知徹底されておらず、被告もかかる届け出をしていないことは前記認定のとおりであるからしても、上主張は採用し難い。
 四 争点5について
 ところで、前記二1(八)(九)に認定のとおり、前記管理組合は平成6年6月4日総会において協議のうえ本件勧告を決議し、原告ら及び被告はこれを受け入れたこと、原告らは本件勧告に従うべく準備をしていたところ、その過程の同8年7月下旬ころ、本件フローリングは、上のような防音措置(遮音材)の施されていない1階用床板材を使用して敷設されたものであったことが判明したため、原告らは、それまでの被告の、本件フローリングはL60の防音措置が施された床材を使用している旨の説明と異なっているとして、本件勧告に従うことを拒否したことが認められる。そこで、原告らは、本件勧告は、上総会において、被告の、本件フローリングはL60の防音措置が施された床材を使用している旨の虚偽の説明を前提としてなされたものである旨主張し、《証拠略》によれば、被告は当時この旨の説明をしていたことが窺われるけれども、上説明が被告の虚偽に基づくとまでは、これを認めるに足りる的確な証拠はない。そうだとすれば、本件勧告が被告の虚偽の説明を前提としてなされたもので無効である旨の原告らの主張は理由がない。しかしながら、本件勧告が有効になされ、原告ら及び被告が一旦これを受け入れたからといって、被告における本件フローリングによる前記騒音被害・生活妨害の問題が解決済みとなるものでもないから、この点の被告の主張もまた採用できない。
 五 よって、主文のとおり判決する。
 (裁判官 樋口 直)


 別紙(一)〜(六) 《略》





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