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マンション管理関係判例



bP9 
居住ルール・管理規約/フローリング騒音
 


平成 3年11月12日 判時1421-87/判タ788-231 東京地判


判決要旨
マンションの下の階の住人が上の階の住人に対して、床をフローリングにしたために生じた騒音を理由に床を畳敷又は絨毯敷に変更することを求めた請求等が、全体としては受忍限度内として棄却された事例


判決日・当事者
東京地裁平2(ワ)第13944号、慰謝料等請求事件、平3.11.12民事第17部判決、請求棄却・控訴
原 告       X
被 告       Y
上訴訟代理人弁護士 小 川 敏 夫
同         保 坂 志 郎


【主 文】
 一 原告の請求を棄却する。
 二 訴訟費用は原告の負担とする。


【事実及び理由】
第一 請求
 1 被告は、その自宅である東京都○○区<番地略>所在のマンションの1012号室の木製床を撤去した上、その床を畳敷または絨毯敷に変更せよ。
 2 被告は、上変更済みまで、上木製床を使用してはならない。
 3 被告は、原告に対し、218万円を支払え。
第二 事案の概要
 一 原告の主張
 1 原告は、東京都○○区<番地略>所在のマンション(通称A)の912号室(以下「原告方居室」という。)に家族(妻、娘及び息子)とともに居住しているものであり、被告は、上912号室の階上の1012号室(以下「被告方居室」ともいう。)に家族(妻及び4子)とともに居住しているものである。
 2 被告は、上1012号室に入居するにあたり、原告の承諾を得ることなく、平成2年4月1日から同室にいわゆるフローリング工事等を行い、約100u強にわたって木製の床(以下「本件木製床」という。)を設置してしまったため、原告及びその家族は、上工事開始後その工事騒音に悩まされるとともに、被告及びその家族が被告方に入居した後は、同人らが本件木製床を歩く足音、椅子などを引きずり動かす音、掃除機の音、戸の開閉の音、特に子供らが椅子などから本件木製床に飛び降りたり本件木製床上を跳びはねかけずり回ったりする音等に悩まされ続けている。被告及びその家族が発する上の音は、重低音を伴うもので原告ら家族4人の我慢の限界をはるかに越えたものであり、まさに騒音であって、その音は、階下である原告方に、毎日、朝6時ころからひどいときには真夜中の2時ころまで、頭上より響きわたっている。原告が管理人を通じて注意の電話をすると、ことさらに上の騒音を発生させる始末である。
 3 そのため、原告及びその家族は静かな状態の中で仕事や生活をすることができず、安眼も妨げられ、ために原告は偏頭病が発生し、妻は手術後の安静ができず、娘及び息子は試験勉強が妨げられるなど、原告は多大な精神的苦痛を被っている。これをしいて金銭的に評価すれば、1日1万円を下らないのである。
 4 被告方の前記騒音は、今後もなお反復的に続くものと考えられる。
 5 そこで、原告は、被告に対し、本件木製床を畳敷また絨毯敷に変更するよう求めるとともに、それまでの間の本件木製床の使用の差止めを求め、併せて、さしあたり上フローリング工事等が始まった平成2年4月1日から同年11月4日までの218日間の慰謝料合計218万円の支払いを求める。
 二 被告の主張
 被告が本件1012号室に入居するにあたり、同室の床をいわゆるフローリング工事により木製の床にしたことは認めるが、原告主張のような騒音を原告方に与えているとの点は否認する。むしろ、フローリング工事は遮音性を高めるために行ったものであって、実際には、原告方に伝播する音の程度は被告が入居する前より著しく小さくなっているはずである。少なくともいわゆる受忍限度を超えることはない。
第三 当裁判所の判断
 一 証拠(<書証番号略>「原被告各本人、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。
 1 本件マンション、(通称A)は、昭和45年3月ころに建設されたもので、原告及びその家族(妻、娘(平成2年4月当時25才)及び息子(同24才))は、上建設直後から本件マンションの912号室に居住しており、他方、被告及びその家族(妻、現在小3の男児、小1の女児、6才及び3才の幼稚園女児)は、平成2年7月上旬ころに本件マンション1012号室に転居してきたものである。上原告方912号室は本件マンションの9階に、被告方1012号室はその10階にそれぞれ位置し、両室は上下の関係にある。
 2 被告方1012号室の前居住者は、本件マンション建設直後からB夫婦で、同人らには子供はなく、平成2年4月当時Bは70才位であった。本件1012号室の間取は当初原告方と同じであったが、Bは、途中で畳の部屋を取り除いて隣接する居間と一緒にしてワンルームとし、床ボードの上に絨毯を張って使用していた。
 3 被告は、本件1012号室を上Bから購入したが、同室に入居するにあたり室内改装工事を行うこととし、平成2年4月1日から、業者をして、前記の床ボード及び赦毯等を撤去して床を板張りにするいわゆるフローリング工事を行わしめ、また、天井の板を張り替える工事等を行わしめて、その完成後の同年7月上旬ころ家族とともに入居した。上フローリング工事は、主として、長男が小児ぜんそくを患っているため行われたものである。
 4 ところで、フローリング工事とは、マンション等の居室内の床を板張りにする工事のことであり、その概要は、コンクリート床面(スラブ)にゴム製クッションのついたナイロン樹脂製の支持脚を立て(1uにつき約8本)、その上に正方形ないし長方形の床パネル(厚さ約2.0ないし2.5cmを張り、更にその上に捨張り板を張って、この上に表面仕上材(板)を張りつめるというものである。コンクリート床面から床パネル上面までの高さは、約4ないし24.4センチメートルの間で自由に設定できるものとされている。(<書証番号略>)
 被告の行った本件フローリング工事の内容は明らかでないが、基本的には上のようなものであったと推認される(但し、被告は、前記捨張り板と仕上材との間に更に遮音ゴムマットを張っていると述べている。)。
 二1 ところで、原告は、前記のとおり、「被告のフローリング工事等の開始後、原告及びその家族は、その工事騒音に悩まされるとともに、被告及びその家族が入居した後は、同人らが本件木製床を歩く足音、椅子などを引きずり動かす音、掃除機の音、戸の開閉の音、特に子供らが椅子などから本件木製床に飛び降りたり本件木製床上を跳びはねかけずり回ったりする音等に悩まされ続けている。被告及びその家族が発する上の騒音は、原告ら家族4人の我慢の限界をはるかに超えるものである。」旨主張している。
 たしかに、当裁判所の検証の結果(第2回)によれば、本件木製床を青年男子(身長約170cm、体重約75kg)が通常歩行したときの歩行音を原告方において聞くことができたし、また、中学2年生の男子(身長約163cm、体重約47kg)がスキップ走行したときの振動音を原告方において聞くことができた。上検証の結果よりすれば、原告方においては、通常、階上の被告方において被告及びその家族が本件木製床を歩行する足音、椅子を引きずり動かす音、掃除機の音、戸の開閉の音、子供らが椅子などから本件木製床に飛び降りたり本件木製床上を跳びはねかけずり回ったりする音(以下、以上をまとめて「本件床音」という。)が聞こえるものと推認される。
 しかし、問題は、本件床音が原告の状態に置かれた平均人を基準にしていわゆる受忍の限度を超えているかである。上の検証によって聞くことのできた音の大小をここで言葉によって表現するのは甚だ困難であるが、しいて一言でいえば、その音はそれほど大きくはなく、前記青年男子が通常歩行したときの歩行音についてはほとんど気にならない程度、前記中学2年生の男子がスキップ走行したときの振動音については少し気になる程度であったということができる。これによって考えてみると、被告及びその家族が発する本件床音のうち、本件木製床を歩行する足音、椅子を引きずりり動かす音、掃除機の音、戸の開閉の音については、受忍の限度内にあるものということができる。その余の子供らが椅子などから本件木製床に飛び降りたり本件木製床上を跳びはねかけずり回ったりする音については、それが反復的になされるものであろうことは否定できず、また、それ自体を1回的にとらえれば受忍の限度を超えるものがあるかもしれない。しかし、上の音はその性質上必ずしも長時間にわたって続くものではなく、通常は短時間で終わるものと考えられ、そもそもそれは子供らが日常生活を営む上において不可避的に発生するものであること、他方、本件マンションは20年以上も前に建築されたものであり、都心の○○に存在していること、原告自身も本件マンションで2子を育てあげていること、以上の点を考慮すると、上の音も、それを全体的にとらえれば、なお受忍の限度内にあるものというべきである。原告は、受忍の限度を超えた騒音が反復的にかつ長時間にわたって発生しているとして、<書証番号略>を提出するようであるが、上各号証に記載された原告のいう騒音がどの程度のものであったかを認めるに足る証拠はなく、それが受忍の限度を超えているかどうかを判断することもできない。
 2 なお、原告は、被告方の本件室内改装工事に伴って発生した工事騒音により精神的苦痛を被ったとして、慰謝料を請求しているが、本件全証拠によるも上工事音の程度を知ることができず、それが受忍限度を超えているかどうかを判断することもできない。
 3 結局、原告の本訴請求は、現時点ではこれを認容することができない。
 三 なお、付言するに、人間の感覚は極めて個人差の強いものであり、ある人はある音に対してなんらの苦痛を感じなくても、ある人はそれを耐え難い騒音と感じることは、しばしばある。被告は、このことに思いを至し、法律上の違法性は現在のところ証明されていないとしても、現に原告は本件訴訟を提起する程に被告方の音をうるさく感じていることに十分留意し、日常生活を送るべきである。特に、被告は、幼い子を含めて4人の子がいながら床を板張りにしたのであるから、その子らが家の中でことさらに跳びはねたりかけずり回ったりすることのないよう十分注意すべきである。他方、原告においても、被告方の子供の中にはぜんそくを患っている子がいて、そのために被告も床を板張りにしたものであることを理解し、また、子供はその成長の過程でどうしても兄弟喧嘩をしたりあるいは跳びはねたりかけずり回ったりし、ときには大きな声を出したりするものであることを思い(原告も2人の子を育てている。)、ある程度のことは大目にみてやることが望まれる。
 よって、主文のとおり判決する。
 (裁判官原田敏章)





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