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マンション管理関係判例



bP6 管理者・管理委託/給排水管等の設備


平成 5年 1月28日 判時1470-91/判タ853-237 東京地判


判決要旨
マンションの階上の部屋の水道管の劣化により階下の部屋に水洩れ事故が生じたことについて、マンションの管理会社が階下の区分所有者に対して、管理契約上ないし事務管理者としての債務不履行に基づく損害賠償責任を負わないとされた事例

判決日・当事者
東京地裁平3(ワ)13367号、平5・1・28民12部判決、一部認容、一部棄却(確定)
《当事者》
 原      告   X
上訴訟代理人弁護士   海老原 照 男
被       告   Y1
            〈ほか2名〉
上3名訴訟代理人弁護士 渡 邊   隆
上訴訟復代理人弁護士  長 倉 隆 顯

【主文】 一 被告Y1及びY2株式会社は、原告に対し、各自、金103万1,170円及びこれに対する平成3年10月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告Y1及びY2株式会社に対するその余の請求並びに被告Y3株式会社に対する請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、原告と被告Y1及びY2株式会社との間においては、これを4分し、その1を同被告らの、その余を原告の各負担とし、原告と被告Y3株式会社との間においては、全部原告の負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。

【事実及び理由】 第一 請求
 被告らは、原告に対し、各自、金423万5,000円及びこれに対する平成3年10月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、原告が所有し第三者に賃貸中のマンション居室の直上階の他人専有部分からの水漏れ事故につき、当該専有部分の所有者、仲介人ないしマンション管理会社である被告らに対して損害賠償を求めた事案である。
 一 争いのない事実又は証拠上容易に認定し得る事実
 1 原告は、昭和62年9月、別紙物件目録(一)記載のマンション(以下「本件マンション」という。)のうち、同目録(二)記載の専有部分(洋室、台所兼食堂〔以下単に「台所」という。〕、玄関、浴室)である103号室(以下「本件居室」という。)を、株式会社A(以下「A」という。)から買い受け、これを、同会社の仲介により、B(以下「B」という。)に対し、平成元年8月20日から期間2年間、賃料1か月8万2,000円の約定で賃貸した。
 2 一方、被告Y1(以下「被告Y1」という。)は、不動産の仲介等を目的とする被告Y2株式会社(以下「被告Y2」という。)の仲介により、本件マンションのうち、本件居室の直上階に位置し、本件居室とほぼ同様の構造を有する専有部分である203号室(以下「203号室」という。)を買い受けた。
 3 また、被告Y3株式会社(以下「被告Y3」という。)は、不動産の管理等を目的とする会社であるが、昭和57年11月1日、本件マンションの管理組合との間において、本件マンションの管理につき業務委託管理契約(以下「本件管理契約」という。)を締結した。
 4 ところが、平成2年12月27日、203号室の台所の水道蛇口と給水管とを連結するフレキシブル配管の上部接続部分のパッキンの劣化により、当該箇所から漏水し、その水が階下まで伝わって本件居室の天井から水漏れし、これが継続して本件居室の内部及びBの所有物件を汚損する事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 5 そこで、被告Y1及びY2は、平成3年1月16日付確認書(以下「本件確認書」という。)をもって、原告及びBに対し、本件事故の発生について自己に責任があることを確認した上、原告が提出し被告Y1が承認した工事見積りによる本件居室の完全な原状回復を行うとともに合理的な資料に基づくBの物的損害及び今後の当事者間の話し合いにより決定すべき原告及びBに対する精神的損害につき連帯して賠償責任を負うことを認めた。
 6 Bは、原告との間で、本件居室に関する賃貸借契約を平成3年1月末日限り合意解約して本件居室を明け渡し、その後、被告Y1及びY2との間においては20万円の支払を受けることで本件事故につき示談を成立させ、同年6月18日、上金員の支払を受けた。また、原告は、株式会社C(以下「C」という。)に依頼し、代金123万5,000円で本件居室の修復工事をした。
 二 原告の主張
 1 被告Y3の責任原因
 (一) 被告Y3は、本件管理契約に基づき、本件マンションの委託管理者として、水漏れ箇所が共用部分であると専有部分であるとを問わず、水漏れを防止し、再発しないよう適切に処置すべき契約上の義務があった。
 (二) 仮に、そうでないとしても、被告Y3は、本件事故発生の翌日ころ、原告及び被告Y1の要請により水漏れの原因を調査し、これを直ちに停止させるべく作業を行い、もって事務管理行為を開始したものであるから、その事務の性質に従い、最も本人である原告に適すべき方法により事務を管理すべき法律上の義務を負ったのに、その後、何らの措置を講ずることなく放置して上義務に違反したから、事務管理者の債務不履行責任を免れない。
 2 損害賠償額
 被告らが、各自、原告に対して賠償すべき損害は、以下の合計423万5,000円である。
 (一) 修復工事代金 123万5,000円
 203号室からの水漏れは、平成2年12月27日から平成3年1月20日ころまで継続したため、本件居室の全部が水浸しになり、洋室のみならず、台所及び玄関まで汚損したから、これら全部の修復工事に要したCの上工事代金は本件事故による損害である。
 (二) 逸失賃料    98万4,000円
 本件事故がなければ、Bは本件居室を引き続き賃借したことが明らかであるから、同人が平成3年1月末日限り上賃貸借契約を解約したことにより、その賃料1か月8万2,000円の1年分に相当する上金額の得べかりし賃料の喪失による損害を被った。
 (三) 慰謝料    201万6,000円
 原告は、本件事故の発生後、被告ら、B及び施工業者との連絡、交渉に追われたが、被告らから誠意ある対応を受けず、被告Y3の担当者に至っては脅迫的言辞を弄したため、やり場のない怒りや不安等で自己の仕事も手につかず、体調を崩すなどして精神的苦痛を被った。これに対する慰謝料は300万円を下らないが、その内金として上金額を請求する。
 三 被告らの主張
 1 被告Y3は、本件事故につき損害賠償責任を負わない。
 (一) 本件管理契約による委託管理の対象は共用部分に限定されているところ、本件事故の原因となった203号室の給水管は、被告Y1の専有部分への水道の供給のためにのみ存在する水道支管であり、上専有部分の附属物であるから、被告Y3には契約上の管理責任はない。
 (二) 被告Y3には事務管理者の債務不履行責任もない。すなわち、被告Y3は、平成2年12月27日午前11時ころ、本件居室の売主であり、かつ、Bが賃借する際の仲介人でもあった株式会社A(以下「A」という。)からの連絡により本件事故の発生を知り、株式会社Dサービス(以下「D」という。)に対し、水漏れに対処するよう連絡した。しかし、工事費用の負担をめぐる行き違いから着工に至らず、平成3年1月7日、原告からの再度の連絡により、被告Y3の担当者が現場に急行し、他の水道業者に水漏れの原因となった203号室のパッキンの交換修理をさせた。被告Y3の上行為が事務管理に当たるとしても、その本人は203号室の所有者である被告Y1にほかならないし、仮に、原告を本人とする事務管理が成立したとしても、被告Y3において善良な管理者の注意義務を尽くし、最も本人の利益に適すべき方法によって事務を管理したことは明らかである。
 2 本件事故は、本件居室の洋室の物入れの天袋内に水漏れして発生したもので、平成3年1月7日には完全に止まっており、この間、Bにおいて応急措置を講じ、水漏れ被害は洋室以外の部分には及んでいないから、原告主張の工事代金のうち、洋室以外の分を被告Y1及びY2が負担すべきいわれはない。また、Bは、原告の申込みに応じて、やむを得ず本件居室の賃貸借契約を合意解約したものであるから、原告主張の逸失賃料と本件事故との間には因果関係はない。さらに、被告Y3の担当者が原告主張のような脅迫的言辞を弄した事実もない。
 四 本件の争点
 1 被告Y3が本件事故につき損害賠償責任を負うか否か。
 2 原告に対する損害賠償額はいくらか。
第三 争点に対する判断
 一 争点1(被告Y3の責任原因の存否)について
 1 まず、本件事故の経過についてみるに、《証拠略》を総合すると、以下の事実が認められる。
 (一) Bは、平成2年12月27日午前3時ころ、本件居室で就寝中、水漏れの音で目が醒め、洋室の物入れ天袋の天井(別紙図面の×印の箇所)から水滴が落ち布団がびしょ濡れになっているのを発見し、203号室に赴きその居住者に連絡しようとしたが、誰も出ないため、水漏れ箇所にバケツを置いて就寝した。そして、同日、午前10時ころ起床して再び上居住者に事情を説明し(上時点でバケツに半分くらい水が溜まっていた。)、共ども203号室の内部を点検したが、原因が判明しなかったので、そのまま勤務先の会社に出動し、Aに対し、年末に帰省するので水漏れを早急に修理して欲しい旨依頼した。
 (二) 被告Y3は、上同日、Aから連絡を受けたが、翌28日から1月6日まで年末年始の休みに入るため、24時間体制でマンションの水漏れ、配管詰まりの緊急修理等を行っているDに原因調査を依頼するとともに、原告に対し、この間の事情を説明した。Dは、上業務に着手するに当たり原告に代金の一時立替払を要求し、原告からこれを拒否されるなどのことがあり、平成2年12月28日、現場に赴いて調査したが、水漏れ箇所は判明しなかったところ、原告は、同日、Aから年内の業務を終了する旨の連絡を受けたにとどまるため、水漏れは止まったものと理解していた。
 (三) しかし、Bは、上同日午後1時ころ帰宅し、台所と洋室の間の通路の洋室側の天袋や浴室の換気扇からも水漏れしているのを発見して、その下にバケツを置き、さらに、翌29日午前1時ころ、洋室の押入れ前の天井からも水漏れし、カーペットが半径1メートル弱の範囲で湿っているのを認め、水を受けるためにプラスチック製の衣装箱を置いた。31日には、押入れ前の天井の石膏ボードの継ぎ目がやや緩み、天井紙が膨らんだので、天井紙をカッターで穴を開けて水を衣装箱の中に落したところ、その半分程度まで水が溜まった。その後、通路側の天袋の水漏れは止まったが、押入れ前の天井及び物入れの天袋からは新年になっても水漏れが継続していたため、Bは、帰省を取りやめ、正月休み中在宅した。この間、Bにおいて、台所の流しの上の食器棚等を全部点検したが、水が漏れている箇所はなかった。
 (四) 被告Y3では、年末年始の休み中の緊急連絡は、会社にかかった電話を担当者の自宅に転送して対処する仕組みになっていたところ、その連絡がなかったが、原告は、平成3年1月6日、Bに電話して水漏れがまだ止まっていないことを知り、翌7日、被告Y3に連絡して善処方を求めた。そこで、被告Y3の担当者は、現場に急行して203号室の室内を点検した結果、前記のとおり、台所の給水管の接続部分から漏水していることが判明し、同行した水道業者にそのパッキンの交換修理をさせ、水漏れが完全に停止した。その際、本件居室の内部を点検したところでは、洋室の押入れ近辺に水漏れの跡があったが、台所にはその痕跡が見当たらなかった。
 (五) 原告は、本件事故による損害賠償につき、弁護士に委任して平成3年1月16日付の本件確認書を作成し、被告Y1及び同Y2は、これに調印して前記のとおり合意をしたが、被告Y3は、原告が本件居室の管理費を長期間にわたり滞納していることなども指摘して、上確認書への調印を拒否した。本件居室の原状回復は、原告が出し被告Y1が承認した工事見積りに基づくこととされていたので、原告がE建設株式会社に依頼して見積りをさせたところ、同会社は、同年2月2日、洋室のほか台所及び玄関を含めて改修工事を行うこととして代金210万円の見積書を作成した。
 (六) しかし、被告Y2は、上見積りに承服することができず、独自に有限会社Fに見積り依頼をし、同会社において、水漏れによる修復が必要な箇所は洋室のみであると判断して、平成3年2月15日、その工事代金を31万9,572円とする見積書を作成提出したため、折り合いがつかなかった。そこで、原告は、同年5月、改めてCに依頼して、洋室のほか台所及び玄関を含む修復工事代金を123万5,000円とする見積りををさせた上、被告Y1の承認を得ないまま施工させ、遅くとも同年6月末ころには完成し、同年7月2日、Cは原告に対して上代金の支払を請求したが、その決済は未了である。
 2 そこで、被告Y3の本件契約上の管理責任の存否について検討する。《証拠略》によれば、被告Y3は、2,500件くらいのマンションの管理業務を行い、本件マンションについては、その管理組合との間で本件管理契約を締結した上、委託業務の対象を、諸設備及びその敷地等の共有部分の管理並びに維持運営と規定し(1条)、共用施設の給排水衛生設備の保守・点険・修理をその一例として掲げ(2条)、上業務については第三者に発注して行わせることができるが(3条)、その際には被告Y3がその都度立会確認をし、当該組合員及び占有者との連絡調整に当たるべきものと定めていることが認められる。被告Y3が本件居室の水漏れ事故発生の連絡を受けるやその原因調査をDに依頼したのは、上事故が本件管理契約に基づく上のような委託業務の守備範囲に属するものであるか否かを見極め、臨機の対応をとるための措置であると考えられるが、水漏れの原因は、結局、被告Y1所有の専有部分である203号室の内部、すなわち、その台所の水道蛇口と給水管とを連結するフレキシブル配管の上部接続部分のパッキンの劣化であることが判明したことは、前記のとおりである。そして、上パッキンを含む給水管は、被告Y1の専有部分たる建物部分への水道の供給のためにのみ存在する水道支管であって、上建物部分の附属物にほかならないから、これが本件マンションの共用部分、すなわち、本件管理契約にいう共有部分ないし共用施設に当たらないことは明らかであり、また、この点に関し、本件マンションの管理組合の規約において別段の定めのあることの主張・立証もない。そうすると、被告Y3は、本件管理契約に基づき、本件事故によって原告に生じた損害につき賠償責任を負うものではないから、原告の主張は採用することができない。
 3 次に、事務管理者の債務不履行責任の存否について判断する。前記認定事実からすれば、被告Y3は、本件居室の水漏れの停止について、義務なくして原告のために事務の管理を開始したものといわざるを得ないから、本人の意思ないし利益に従い、善良な管理者の注意義務をもって上事務を処理すべき義務を負うに至ったというべきである。しかしながら、被告Y3は、前記のとおり、本件事故の発生当日にAからの連絡で本件居室の水漏れを知り、翌日から1月6日まで年末年始の休みに入るため、24時間体制でマンションの水漏れ、配管詰まりの緊急修理等を行っているDに原因調査を依頼し、同会社において、現場調査したが、水漏れ箇所が判明しないまま越年し、この間、年末年始の休み中の緊急連絡もなかったところ、平成3年1月7日、原告からの連絡に基づき、担当者を現場に急行させて水漏れ箇所を突き止め、同行した水道業者にその修理をさせた結果、水漏れは完全に止まったものである。もし本件事故の発生当日に逸速く適宜の措置を講じていれば、原告の損害の発生ないし拡大を防止し得た蓋然性はあるとしても、本件事故はたまたま年末年始の休みの時期と合致していたのであって、上のような経過に照らすと、事務の性質に応じ客観的に判断する限り、被告Y3は、推知し得べき本人の意思に従い、また、最も本人の利益に適すべき方法によって事務の管理行為を行ったものと認めて妨げないというべきである。したがって、被告Y3に事務管理者の債務不履行があったということはできないから、この点に関する原告の主張もまた、採用するに由ないといわなければならない。
 4 このように、被告Y3は、本件事故につき、損害賠償責任を負うものではない。
 二 争点2(損害賠償額)について
 1 そこで、被告Y1及び同Y2が本件確認書に基づいて負担すべき損害賠償の額について検討する。
 (一) 修復工事代金
 原告は、本件居室の水漏れは平成3年1月20日ころまで継続し、本件居室の全部が水浸しになり、洋室のみならず、台所及び玄関まで汚損した旨主張し、《証拠略》には、上主張に沿う記載及び供述部分がある。しかしながら、前記認定事実に照らすと、水漏れは同月7日には、完全に止まったのであり、また、洋室以外の部分が本件事故によって汚損したものと認めることは困難であるから、上証拠はたやすく信用することができず、他に、上主張事実を認めるに足りる証拠はない。ところで、原告がCに依頼した工事の見積代金123万5,000円は、本件確認書で約定された被告Y1の承認を得たものではなく、かつ、洋室工事分55万4,000円、台所工事分39万7,000円、玄関工事分13万3,000円及び諸経費15万1,000円の合計であるが、本件確認書の趣旨とするところは、原状回復のために要する本件事故と相当因果関係のある汚損修復費用は被告Y1及び同Y2において連帯負担すべきことを約したものと認められる。そうすると、上被告両名において負担すべき分は、上洋室工事分55万4,000円と、上諸経費のうち3つの工事区分により案分計算して得られる洋室工事分相当額7万7,170円とを合計した63万1,170円と認めるのが相当である。なお、洋室工事分の見積りとしては、これより廉価な有限会社F作成の見積書が乙一として提出されており、また、同会社の代表取締役である証人Gは、Cの前記見積りは既往の材質より高価なものを使用している旨証言するが、前掲甲三の記載内容等に照らし、そのまま採用することは躊躇せざるを得ず、これらが上認定判断の妨げになるものということはできない。
 (二) 逸失賃料
 原告が、本件事故後、Bとの間で、本件居室に関する賃貸借契約を平成3年1月末日限り合意解約して本件居室の明渡しを受けたこと並びに本件居室の修復工事は遅くとも同年6月末ころには完成したことは前記のとおりである。ところで、原告は、本件事故がなければBが本件居室を引き続き賃借したことが明らかであるとして、1年分の得べかりし賃料を本件事故に基づく損害賠償として求めているが、被告Y1及び同Y2に対する本訴請求は、本件確認書に基づく請求であるところ、上確認書においては、Bに生じた物的損害を賠賞の対象項目として明記する一方、原告に生じた財産的損害を記載していないのであるから、逸失賃料の請求それ自体は、その前提において失当であるといわざるを得ない。もっとも、本件確認書は、水漏れが停止してから9日後の、しかも、Bとの賃貸借契約がなお存続中の時点において作成されたものであり、前記認定事実からすると、上時点においては、事態の早急な解決が見込まれていたものと考えられるから、本件居室に関し、Bがその後に賃貸借契約を合意解約し、かつ、新規賃貸がされないまま経過するという事態の展開は、関係者の間では予測されておらず、そのために前記のような記載になったものと推認される。そして、本件事故と相当因果関係にある逸失賃料であれば、これを損害賠償の対象から除外すべき合理的根拠は乏しいから、この点は、後述する慰謝料の算定において斟酌するのが相当である。
 (三) 慰謝料
 本件確認書において今後の当事者間の話し合いによって決定すべき原告及びBに対する精神的損害も賠償の対象としていたこと並びにBと被告Y1及び同Y2との間においては20万円の支払を受けることで示談が成立したことは、前記のとおりである。そして、《証拠略》によると、原告は、本件居室を昭和62年9月銀行ローンにより代金2,860万円で買い受け、その融資先に極度額2,480万円の根抵当権を設定し、第三者に賃貸して得られる賃料を上ローンの支払に充てていたが、Bの退去後は新規賃貸による賃料収入を得られず、また、本件事故の当時は、自らがかねてより営業していた人材派遣会社と情報データーサービス会社の営業に奔走中であり、本件事故の処理にも少なからず腐心したことが認められる。もっとも、上証拠によれば、原告は、会社事務所の賃料の支払を滞納して平成3年7月その明渡を余儀なくされ、さらに、上ローンの支払の滞納により同年11月には本件居室につき競売による差押えを受けたことが認められるが、こうした事態が本件事故そのものと相当因果関係にあることまで確認するに足りる証拠はないし、また、被告Y3の担当者から脅迫的言辞を受けた旨の原告の主張事実を認めるに足りる的確な証拠もない。そこで、以上のような諸点に、本件事故の態様、その後の関係者の対応、原告の前記逸失賃料その他諸般の事情を総合考慮すると、慰謝料としては、40万円をもって相当と認める。
第四 結論
 以上の次第で、原告の本訴請求は、被告Y1及び同Y2に対し、各自、合計103万1,170円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成3年10月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があり、これを認容すべきであるが、上被告らに対するその余の請求並びに被告Y3に対する請求はいずれも理由がないから、これを棄却する。
(裁判官 篠原勝美)

別紙 物件目録《略》

1階平面図〈別添画像〉





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