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マンション管理関係判例



bP1 専有部分性/給排水管等の設備
 



平成11年 8月23日  福岡地裁


判決要旨
床下の空間部分にある当該居室専用の排水管は専有部分に属する建物の附属物であるとし、漏水被害について管理組合の賠償責任を否定した事例
共用部分の漏水事故について管理組合の管理業務懈怠の不法行為責任を構成するには、事故の発生を回避するための具体的な作為業務の存在と、その作為義務に違反した事実が認められなければならないとし、当該管理組合についてその作為義務(排水ドレーンの改修を事故以前に行うべき義務)を認めることはできないとした事例

判決日・当事者
平成11.8.23 福岡地裁 損害賠償請求事件 中島
平成9年(ワ)第3783号 損害賠償等請求事件

福岡市○○区○○町7丁目12番603号
  原   告       X1
福岡市○○区○○町1丁目2番2号
 Aマンション○○207号室
  原    告      X2
福岡市○○区○○1丁目8番5号
 B第2○○○ 303号室
  原    告      X3
福岡市○○区○○1丁目8番5号
 B第2○○○ 303号室
  原    告      X4
  上4名訴訟代理人弁護士 敷 地 隆 光
福岡市○○区○○1丁目8番5号
  被      告    B第2西○○管理組合
  上代表者副理事長    Y1
  上訴訟代理人弁護士   中 島 繁 樹
福岡市○○区○○5丁目7番3号
  被      告    株式会社Y2ビルサービス
  上代表者代表取締役   Y3
  上訴訟代理人弁護土   岩 田   務
東京都○区○○○2丁目9番5号
  被   告       Y4火災海上保険株式会社
  上代表者代表取締役   Y5
  上訴訟代理人弁護士   梅 野 茂 夫

【主      文】
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

【事実及び理由】
第一  請求
 一  被告らは、原告X1に対し、各自金272万7,650円及びこれに対する平成8年10月20日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 二  被告らは、原告X2に対し、各自金361万9,540円及びこれに対する平成8年8月14日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 三  被告らは、原告X3に対し、各自368万1,989円及びこれに対する平成8年1月28日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 四  被告らは、原告X4に対し、各自金2,203万1,000円及びこれに対する平成8年8月14日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第二  事案の概要
 (以下、原告X1を「原告X1」、原告X2を「原告X2」、原告X3を「原告X3」、原告X4を「原告X4」、被告B第2○○○管理組合を「被告管理組合」、被告株式会社Y2ビルサービスを「被告Y2」、被告Y4火災海上保険株式会社を「被告Y4火災」という。)
 一  争いのない事実等
  1  (原告らの地位)
 原告X1は、福岡市○○区○○1丁目8番5号所在のマンションであるB第2○○○(以下「本件マンション」という。)903号室の所有者である。原告X2は、同室を賃借していたX5の配偶者で、平成7年4月1日から平成9年3月31日まで同室に居住していた(甲4の2により認める。)。原告X3は、本件マンション303号室の所有者であり、原告X4はその配偶者である(原告X3により認める。)。
  2  (被告らの地位)
 被告管理組合は、本件マンションの全区分所有者で構成される同マンションの管理組合である。被告Y2は、昭和63年12月1日、被告管理組合との間で本件マンションの管理委託契約を締結して(以下「本件管理委託契約」という。)、管理業務を受託した業者である(甲1により認める。)。また、本件マンションには、被告Y4火災を保険者、被告管理組合を被保険者とする、賠償責任保険契約が締結されている(甲2により認める。以下「本件保険契約」という。)。
  3  事故の発生
 本件マンションにおいて、次のとおり漏水及び溢水事故が発生した(以下の事故を総称して「本件各事故」という。また、各事故の発生日及び発生原因については、各事故の記載の末尾に掲げる証拠により認める。)。
   (一) (第1事故)平成7年5月14日に発生した、共用部分である屋上排水ドレーンゴミ詰まりに起因する漏水事故(乙ロ4、乙ハ9、13。ただし、その継続期間については、 争点2記載のとおり争いがある。)
   (二) (第2事故)平成8年8月14日に発生した、903号室北側バルコニー排水口目詰まりに起因する溢水事故(原告X2、証人C、D)
   (三) (第3事故)平成8年1月28日に発生した、503号室床下排水管亀裂に起因する漏水事故(甲43、乙ハ6)
   (四) (第4事故) 平成8年8月14日に発生した、403号室バルコニー排水口目詰まりに起因する漏水事故(甲43、乙ハ16)
 二  争点
  1 本件各事故に関する被告らの責任原因
   (一) 被告管理組合について
   (原告らの主張)
    (1) 被告管理組合には、第1事故につき屋上排水ドレーンの、第2及び第4事故につきバルコニーの、第3事故につき床スラブの管理を怠った過失による不法行為責任がある。また、被告管理組合には、原告らとの管理委託契約上の債務不履行責任がある。
    (2) 被告管理組合に法人格がなくても、権利能力なき社団として、不法行為責任の主体となり得る。また被告管理組合が、組合外の第三者に対し、不法行為責任を負うこともあり得る。
    (3) 第2及び第4事故に関し、バルコニーは構造的には建物全体の躯体の一部であって、明らかに本件マンションの共有部分であるから、その管理については被告管理組合が責任を負う。また、本件マンションの管理規約(以下単に「規約」という。)23条ただし書により、バルコニーの管理のうち通常の使用に伴うものについては、バルコニーの専用使用権を有する各住戸の区分所有者がその責任を負うとしても、上各事故の発生した台風接近時にバルコニー排水口の目詰まりを防ぐことは、バルコニーの通常の使用に伴う管理義務の範囲を超えており、被告管理組合が管理責任を負うべきである。
    (4) 第3事故に関し、503号室床下排水管は、構造上の独立性、利用上の独立性、特定区分所有者単独での保守管理可能性のいずれの点から判断しても共有部分であるから、被告管理組合が管理責任を負う。
   (被告管理組合の主張)
    (1) 法人格のない被告管理組合は、原則として不法行為能力を有しない。また、被告管理組合の特定の代表者個人が不法行為の要件を具備することにつき、原告らからは何らの主張がなく、証拠もない。
    (2) 被告管理組合は本件マンションの共用部分を管理する権限を有しているが、仮に上権限の不行使があっても、それによって被告管理組合が原告らに不法行為責任を負うものではない。また、被告管理組合の権限は、組合内部の権限にすぎないから、組合外の第三者である原告X2に対して、被告管理組合が不法行為責任を負うことはない。
    (3) 第1事故に関して、屋上排水ドレーンは被告管理組合が通常管理せず、占有もしていないから、被告管理組合は不作為による不法行為責任を負わない。
    (4) 第2及び第4事故に関して、規約23条ただし書により、バルコニーの管理のうち通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する当該住戸の区分所有者がその責任と負担において行うこととされているから、被告管理組合は責任を負わない。また、バルコニーの排水設備に欠陥があったとしても、規約32条1項に基づき、その保全及び修繕の責任は専用使用する区分所有者が負うべきであり、被告管理組合に責任はない。
    (5) 第3事故について、503号室床下排水管は、同室の区分所有者が所有する専有部分であり、仮に共用部分であるとしても、同室の区分所有者が専用使用する部分であるから、上区分所有者が管理責任を負い、被告管理組合に管理責任はない。
  (二) 被告Y2について
   (原告らの主張)
 被告Y2には、本件各事故につき、本件管理委託契約に係る債務不履行責任(保全、修理責任、損害拡大防止責任等)がある。また、共有施設管理を怠ったことによる不法行為責任がある。
 第2ないし第4事故については、被告管理組合の責任原因に関する原告らの主張(3)及び(4)のとおり、被告管理組合が上各事故に係るバルコニー及び床下排水管につき管理責任を有し、被告Y2も本件管理委託契約により、管理義務を負う。
   (被告Y2の主張)
    (1) 被告Y2は、屋上排水ドレインの清掃を毎月実施するなど、マンション管理会社としての通常の義務を履行しており、屋上ドレインの保全、修理の義務を怠ったとはいえず、第1事故につき債務不履行及び不法行為責任はない。
    (2) 第2及び第4事故については、バルコニーが各住戸の専有部分の一部と解される以上、工作物の保存の瑕疵として、バルコニーの占有者ないし区分所有者が管理責任を負うべきであり、仮にバルコニーが共用部分とされるとしても、規約23条ただし書に基づき、専用使用権を有する各住戸の区分所有権者が管理責任を負うべきである。したがって、被告Y2にバルコニーの管理義務はなく、債務不履行及び不法行為責任もない。また、被告Y2が損害を拡大させた事実はなく、この点に関する責任もない。
    (3) 第3事故についても、503号室の床下排水管は、専有部分相互の境界部分のうち、いわば上塗り部分に当たり、同室の区分所有者が所有する専有部分であると解されるから、上区分所有者が保全と修繕の義務を負う。また、仮に共用部分であったとしても、規約32条1項により、503号室の専用使用者が保全と修繕の義務を負う。したがって、被告Y2には管理責任はなく、債務不履行及び不法行為責任もない。また、被告Y2が損害を拡大させた事実はなく、この点に関する責任もない。
  (三) 被告Y4について
   (原告らの主張)
    (1) 被告Y4火災は、被告管理組合に対し、本件保険契約漏水担保特約条項に基づき保険金を支払う義務を有するところ、原告らは、被告管理組合に対する損害賠償債権に基づく債権者代位権により、上保険金の支払いを請求する。また、第4事故に関する損害賠償請求のうち、被告Y4火災による保険金額を超える部分については、被告Y4火災の鑑定人及び被告Y2の過失によって損害が拡大したことを原因とする使用者責任に基づく損害賠償を求める。
    (2) なお、特定債権の保全を目的とする債権者代位権の転用事例においては、債務者無資力の要件は緩和されるべきであり、殊に本件のように、最終的には原告らの被害を弁償すべき保険金の請求を原告らが代位して行うことは、被告管理組合の資力に関係なく認められるべきである。また、本件のような裁判上の代位であれば、当該債権の履行期が未到来でも代位権の行使は可能であり、原告らが被告管理組合に対する損害賠償請求と併せて被告Y4火災に対する保険金請求を行っている以上、保険金請求権の代位行使も認められる。
    (3) また、第2ないし第4事故については、被告管理組合の責任に関する原告らの主張(3)及び(4)のとおり、被告管理組合が責任を負う以上、本件保険契約の対象となる。
   (被告Y4火災の主張)
    (1) 原告らが債権者代位権を行使するに当たっては、被告管理組合の無資力及び被告管理組合の被告Y4火災に対する保険金請求権が履行期にあることが必要である。上保険金請求権は、損害の確定によって履行期が到来するのであり、現時点では履行期は到来していない。したがって、原告は被告Y4火災に対して、将来の給付の訴えならともかく、現在の給付を求めることはできない。
 仮に債権者代位権が認められたとしても、本件保険契約による保険額は、対物1事故につき500万円であるから、原告らは、第4事故による損害のうち500万円を超える部分について、債権者代位権を行使することはできない。
    (2) 第2及び第4事故については、バルコニーが専有部分である以上、上各事故は、排水口の清掃を怠った占有者や区分所有者の管理懈怠に起因するものであり、本件保険契約の対象とはならない。仮にバルコニーが共用部分であっても、規約23条ただし書により、その管理のうち通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者が責任を負い、上各事故がバルコニーや排水口の構造上の欠陥により発生したとしても、規約32条1項により、その保全及び修繕は、専用使用権を有する区分所有者の責任であるから、本件保険契約の対象とはならない。
 第3事故についても、503号室の床下排水管は専有部分の建物の附属物であり、同室の区分所有者が管理責任を負うべきであるから、本件保険契約の対象とならない。
    (3) 被告Y4火災に対する使用者責任については、原告らのいう鑑定人や被告Y2は、被告Y4火災の従業員でも指揮監督を受ける者でもなく、同人らに過失もないから、原告らの主張は失当である。
  2 本件各事故により原告らに生じた損害について
   (一) 原告らの主張
    (1) 原告X1の損害(第1事故による損害)
構造物損害・内装   247万7,650円
弁護士費用       25万0,000円
なお、第1事故は、平成7年5月14日から平成8年10月20日まで継続的に発生したものである。
    (2) 原告X2の損害
(第1事故による損害)
和服2着        44万2,700円
漏水原因調査費用    25万8,000円
(第2事故による損害)
内装          96万0,000円
家具調度品       6万7,940円
クリーニング代     2万2,400円
着物洗い張り等     4万0,500円
絵画          24万5,000円
引越し移転費用     15万0,000円
移転仲介料、敷金    60万3,000円
慰謝料         50万0,000円
弁護士費用       33万0,000円
    (3)原告X3の損害(第4事故による損害)
構造物損害・内装    334万1,989円
弁護士費用       34万0,000円
    (4)原告X4の損害
(第3事故による損害)
着物洗い張り等     276万5,000円
(なお、ビデオの損害は、第4事故による損害とまとめて請求する。)
(第4事故による損害)
小物・呉服       718万7,000円
屏風・掛軸・額補修費  240万0,000円
その他の美術工芸品   236万0,000円
業務用着物、三味線、扇子等
            226万4,000円
テレビ・ビデオデッキ・BSチューナー
            25万5,000円
ビデオダビング料    80万0,000円
屋久杉のテーブル    20万0,000円
休業補償        180万0,000円
弁護士費用       200万0,000円
  (二) 損害に関する被告らの主張
 被告らは、原告らの主張する損害につき、いずれも否認する。なお、損害に関する被告らの個別の主張は次のとおりである。
(第1事故)
 第1事故は、平成7年5月14日に発生したに過ぎず、その後漏水が継続的に発生した事実はないから、損害が903号室全体に及ぶことはない(被告Y2、Y4火災)。同事故による損害は、壁クロスと畳の損害(903号室占有者のX5と被告管理組合の間で示談済み)のみであり、他に損害はない(被告Y4火災)。原告らの主張する損害は、事故に起因するか不明ないし疑問であり、相当因果関係が肯定できない(被告管理組合、Y2)
(第2事故)
 慰謝料の請求は相当でなく、第2事故との相当因果関係もない。また、引越し移転費用、移転仲介料及び敷金も事故と相当因果関係がない。着物、絵画等に関する損害についても、損害の発生や事故との相当因果関係が不明である(被告Y4火災、Y2)。
(第3事故)
 503号室所有者のX6と原告X3との示談の対象とされた損害の他に、損害の発生はない。原告X4が主張する損害は、漏水事故により発生することはあり得ない(被告Y4火災)。事故と着物の損害との間に相当因果関係はない(被告Y2)。
(第4事故)
 原告X3の主張する損害は、漏水の回数、場所及び規模に照らして、上事故では発生し得ない以上、事故と相当因果関係がない。また、原告X4が主張する損害も、事故時の状況や鑑定人の観察等に照らして、いずれも事故と相当因果関係がない(被告Y4火災、Y2)。なお、原告X3は第4事故による損害として、第3事故に関するX6と原告X3との示談の対象とされた損害について再度請求しており、不当である(被告管理組合)。
  3 本件各事故による損害に関する示談の成否
(被告らの主張)
   (一) 第1事故については,被告管理組合と903号室の占有者であるX5との間で示談が成立し、被告Y4火災より保険金8万5,000円を支払い済みである。
   (二) 第3事故については、被告管理組合の立会いにより、503号室の所有者であるX6と403号室、303号室(原告X3)及び203号室の各区分所有者との間で示談が成立した。
(原告らの主張)
   (一) 第1事故に関する示談は、原告X1に関し何らの権限もない者が行ったこと、示談に至る意思形成過程に瑕疵があること、示談の際の条件が成就していないこと、示談作成時に予見不可能な新たな損害が生じたこと等から、無効である。
   (二) 第3事故に関する示談は、被告Y2の従業員より、他の被害者に関する早期処理のための示談であって、原告X3及び原告X4については別途検討協議する旨明言したことから、原告X3がやむなく応じたものであり、十分な資料を示された上で真に和解の意思をもって示談したものではないから、無効である。
  4 被告Y4火災の第1事故についての保険金支払義務に関す商法663条による消滅時効の成否
(被告Y4火災の主張)
 事故の発生日である平成7年5月14日から保険金請求権の消滅時効期間である2年が経過した。被告Y4火災は上時効を援用する。
(原告らの主張)
 時効の起算点は、事故の終了した平成8年10月20日である。平成9年10月に本件訴訟が提起されており、時効は完成していない。
第三 争点に対する判断
 一 まず、争点1(本件各事故に関する被告らの責任原因)について判断する。
  1 被告管理組合の責任原因について
   (一) 第1事故について
     (1) そもそも被告管理組合は、法人格のない被告管理組合に不法行為能力がないこと、被告管理組合の特定の代表者個人が不法行為の要件を具備することについて原告らの主張がないこと、被告管理組合が組合外の第三者である原告X2に不法行為責任を負う理由はないことを主張する。
 しかしながら、被告管理組合は、その組織、理事の存在、総会の運営方法等(乙イ1参照)に照らして、権利態力なき社団と解されるところ、権利能力なき社団にも不法行為責任を認め得ることは多言を要しない。また、原告らの主張は、被告管理組合の代表者における管理懈怠の不作為による責任等を主張するものと善解する余地があるから、代表者個人の不法行為に関する主張がないとの一事で請求を斥けることは相当でない。更に、被告管理組合が組合外の第三者に対して不法行為責任を負うことについても、その可能性自体は否定することができない。
     (2) また、第1事故が発生した屋上排水ドレーンが共用部分であることは、当事者間に争いがないところ、共用部分については、本来最終的な管理責任を負う本件マンションの区分所有者により構成された被告管理組合が、管理権限を有するのみならず、その責任と負担において管理を行うこととされている(規約23条)。したがって、被告管理組合が共用部分を管理すべき義務を負う以上、その義務違反が不法行為又は債務不履行責任を構成する可能性があることについても、これを否定することはできない。
     (3) しかしながら、被告管理組合による管理義務の懈怠が不法行為を構成するには、被告管理組合について、その管理する共用部分において事故の発生を回避するための具体的な作為義務、すなわち事故の予見可能性ないし事故を回避するための作為可能性の存在と、上作為義務に違反した事実が認められなければならない。そこで、第1事故に関してこの点について検討する。
      (イ) そもそも、被告管理組合の作為義務を論ずる前提として、第1事故の態様自体を確定することが必要である。すなわち、原告らは、屋上排水ドレーンからの漏水が、平成7年5月14日以降、平成8年10月20日まで継続した旨主張しており、原告X2も上主張に沿う供述をしている。(甲22、原告X2)。しかし、証拠(甲36、乙イ4、12、乙ロ4、5、原告X2、被告Y2代表者Y3、証人D、E)によれば、平成7年5月14日以降平成8年10月29日まで、2度の梅雨や数回の台風の接近にもかかわらず、被告管理組合が漏水の報告を受けていないこと、同年1月8日に屋上からの漏水が他所で生じた際も、903号室には被害がなかったこと、漏水の態様が平成7年5月14日とその後で全く異なっていることが認められる。以上の事実によれば、平成7年5月14日より後に生じた903号室の水滴の害は、屋上排水ドレーンのゴミ詰まりとは別の原因により生じたものと考えるべきであるから、第1事故は、同日限りで終了した単発的な事故であったと認めるのが相当である。
      (ロ) 以上を前提に、第1事故の発生について、被告管理組合に具体的な作為義務違反が存したか否かについて判断する。
 この点に関する原告らの主張は、必ずしも明確ではないところ、証拠に基づいてかかる作為義務違反の可能性を検討するに、第1事故以前に、屋上に関して排水ドレーンのゴミ詰まりによる漏水や類似の事故が発生したことなど、上事故を予見すべき状況にあったことを認めるに足りる証拠は見当たらない。他方、証拠(乙ロ7、被告Y2代表者Y3)によれば、屋上排水ドレーンのある庇の部分に達するには、本件マンション南側の棟の10階部分から、幅約40センチメートル、ビル10階建て相当の高所にある隙間を渡って、庇のある北側の棟の屋上へ行くこととなるところ、上隙間を渡ることは非常に危険であること、このため、本件マンションの50歳代後半の女性管理人に清掃させることができず、被告管理組合の委託を受けた被告Y2が、毎月1回特に人員を派遣して庇の部分を清掃していたことが認められる。
 以上の事実に基づいて検討するに、第1事故以前に本件類似の事故が発生した事実が認められない以上、管理会社から毎月1回を超える頻度で危険を冒して屋根の庇の部分まで人員を派遣して清掃させなければならない事情は窺われず、当時被告管理組合がこれ以上の頻度で清掃を実施すべき義務を有していたと認めることは困難である。また、以前に類似の事故が発生した事実が認められないことから、被告管理組合がその後行われたような排水ドレーンの改修を第1事故発生以前に行うべき義務も認め難いといわざるを得ない。そして、被告管理組合に第1事故の防止に関して他に何らかの作為義務を認めるに足りる証拠はない。
    (4) してみれば、第1事故に関し、被告管理組合に過失を構成するような作為義務違反が存したとの立証はないから、被告管理組合の不法行為責任を認めることはできない。
    (5) また、原告らは、被告管理組合に対する原告らとの管理委託契約上の債務の不履行も主張する。しかしながら、被告管理組合が本件マンションの区分所有者に対し、共用部分を管理すべき責務を負うとしても、(3)で認定した事実関係を前提とすれば、被告管理組合としては第1事故発生当時、屋上排水ドレーンの管理責任者としてなすべきことを行っていたと認めるのが相当であり、上認定を覆すに足りる証拠はない。
    (6) よって、被告管理組合には、第1事故に関し、原告らに対する責任原因を認めることはできない。
  (二) 第2及び第4事故について
    (1) 第2及び第4事故に関する被告管理組合の責任原因を検討するに当たっては、各事故の発生したバルコニーの管理責任の所在を検討する必要がある。
 建物又はその敷地若しくは附属施設の管理に関する区分所有者相互間の事項は、管理規約により定めることができるところ(建物の区分所有等に関する法律30条1項)、規約23条は「敷地および共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負坦においてこれを行うものとする。但し、バルコニー等の管理のうち、通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを行わなければならない。」と規定している(乙イ1)。したがって、本件マンションでは、バルコニーを共用部分と理解した上で、その専用使用権を有する者、すなわち各住戸の区分所有者が、その管理のうち通常の使用に伴うものにつき責任を負うこととされているものと解される。また、上条項の文言からは、それ以外の場合については、被告管理組合が管理責任を負うものと解される。したがって、バルコニーの管理責任の所在については、「通常の使用に伴うもの」か否かが、判断の基準となる。
    (2) そこで、第2及び第4事故が、バルコニーの通常の使用に伴うものの範疇において生じたか否かを検討する。証拠(乙ロ5、原告X2、証人C、D)によれば、第2事故の発生は、平成8年8月14日に台風12号が福岡市付近を直撃した際、903号室バルコニーの排水口が木の葉で目詰まりしてバルコニーに水が溜まったことに起因すること、事故当時同室の居住者が不在であったこと、第4事故は、同日403号室バルコニー排水口がゴミによる目詰まりにより排水に支障を来したことに起因すること、当時同室は空室であったこと、他に同日本件マンションにおいて漏水が報告されてないことが認められる。上事実を踏まえて考えるに、上各事故はバルコニー排水口からの雨水の排水という、バルコニーの通常の使用過程で生じた事故であって、上雨水が台風の直撃によるものであり、木の葉が台風により飛来したものと推測されることを考慮しても、バルコニーの使用自体の性格としては、通常の使用と異なることにはならないといわざるを得ない。
 してみれば、上各事故は、通常の使用に伴って生じたものというべきであり、その管理は、各室の専用使用権を有する者が責任をもって行うものというべきである(なお付言すれば、以上は上各事故について、専用使用権を有する者が有責であると述べる趣旨ではなく、有責か否かを判断するには、更に、上台風による各事故の発生が不可抗力か否か等の検討が必要であると思料する。)。
    (3) したがって、第2及び第4事故については、被告管理組合の管理責任が認められない以上、被告管理組合に不法行為及び債務不履行責任は認められない。
  (三) 第3事故について
    (1) 争いのない事実等3(三)のとおり、第3事故は503号室床下排水管の亀裂により生じた事故であるところ、第2及び第4事故同様、名室の床下排水管に関する管理責任の所在が問題となる。そして、規約に床下排水管の管理責任に関する直接の規定がないことから、管理責任の所在を検討するについては、上排水管が専有部分に属する建物の附属物か、共用部分かを判断する必要がある。
    (2) 上判断に当たり、そもそも上排水管の所在する専有部分の床下について、これが専有部分か共用部分かが問題となる。そこで検討するに、階下との境界部分に囲まれた空間のみを専有部分とすれば、区分所有者の所有権の行使を不当に制限して妥当でなく、階下の他室等との境界をなす中央部まで専有部分とすれば、建物の骨格を維持する観点から妥当でない。よって、階下との境界をなす中央部についてはこれを共用部分とし、その上にある床下の空間等はこれを専有部分と解するのが相当である(乙ハ17参照)。したがって、上排水管は床下の空間部分にある以上、専有部分にあることになり、上排水管が専ら503号室の用にのみ供されていること(弁論の全趣旨により認める。)をも考慮すれば、上排水管は専有部分に属する建物の附属物であって、共用部分ではないというべきである。
    (3) したがって、上排水管の管理責任は503号室の区分所有者が負うべきであるから、被告管理組合は、第3事故についても不法行為責任及び債務不履行責任を負わない。
  (四)被告管理組合の責任原因に関するまとめ
 (一)ないし(三)で検討したとおり、被告管理組合には、本件各事故について、不法行為責任及び債務不履行責任を認めるべき責任原因がない。
  2 被告Y2の責任原因について
  (一)第1事故について
 共用部分である屋上排水ドレーンに関して生じた第1事故については、本件管理委託契約により被告管理組合から共用部分の管理を委託された被告Y2にも、上ドレーンを管理すべき契約上の義務が認められる。したがって、被告Y2が上契約上の義務に違反した場合、これが債務不履行となり得ることは勿論、場合によっては、共有施設の管理懈怠が不法行為を構成する可能性があることも否定できないところである。
 しかしながら、1(一)(3)で認定した事実関係を踏まえて検討すれば、被告管理組合から管理を委託された被告Y2においても、当時第1事故の発生を予見できたとはいえず、事故発生箇所の清掃に危険を伴うこと等をも勘案すれば、被告Y2としては、月1回程度職員を派遣し清掃に従事させていたことをもって、上ドレーンの清掃等に関し、マンションの管理会社として通常履行すべき管理義務を果たしたというべきであり、被告Y2において更に上以上の管理行為をなすべき義務の存在を認めるに足りる証拠はない。なお原告らは、被告Y2に損害拡大防止義務違反がある旨主張するが、被告Y2が第1事故に関して原告X1び原告X2の損害を事後的に拡大させたことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被告Y2には、第1事故に関し、本件管理委託契約に基づく債務不履行責任を認めることができず、また不法行為を構成するような管理懈怠の存在も認められない。
  (二) 第2ないし第4事故について
 1(二)及び(三)で検討したとおり、第2ないし第4事故については、被告管理組合に上各事故の発生箇所を管理すべき責任は認められないから、被告管理組合から本件管理委託契約により管理を受託した被告Y2にも、これを管理すべき責任はない。したがって、上各事故につき、被告Y2に本件管理委託契約上の債務不履行責任及び管理懈怠による不法行為責任が生じる余地はない。
  (三)被告Y2の責任原因に関するまとめ
 以上によれば、被告Y2には、本件各事故について、いずれも不法行為責任及び債務不履行責任を認めるべき責任原因はない。
  3 被告Y4火災の責任原因について
   (一) 債権者代位権による保険金請求権の行使について
 1(四)のとおり、被告管理組合に本件各事故について責任原因が認められない以上、原告らの被告管理組合に対する不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求権は、認められないといわざるを得ない。したがって、そもそも原告らの被告管理組合に対する債権が認められない以上、原告らは、被告管理組合の被告Y4火災に対する保険金請求権を代位行使できないといわざるを得ない。
   (二) 使用者責任について
 原告らは、第4事故に関する損害賠償請求のうち、被告Y4火災による保険金額を超える部分について、上被告の鑑定人及び被告Y4の過失によって損害が拡大したことを原因として、使用者責任に基づく損害賠償の請求を主張する。しかしながら、被告Y4火災が第4事故に関して派遣を依頼したF鑑定人が被告Y4火災の被用者であることを認めるに足りる証拠はなく(なお、乙ハ19、証人Fに、よれば、上鑑定人は、昭和63年9月以降、有限会社G事務所に勤務していることが認められる。)、また被告Y2が被告Y4火災の被用者であることを認めるに足りる証拠もないから、原告らの主張する使用者責任は、その根拠を欠くものといわざるを得ない。
   (三) 被告Y4火災の責任原因に関するまとめ
 以上によれば、被告Y4火災には、本件各事故に関し、原告らに対する責任原因を認めることができない。
 二 結論
 したがって、その余の争点について判断するまでもなく、原告らの被告らに対する請求は、いずれも理由がない。
(口頭弁論終結の日 平成11年6月21日)
   福岡地方裁判所第3民事部
        裁判官   森   英  明





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