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マンション管理関係判例


bP0 居住ルール・管理規約/給排水管等の設備 



平成 9年12月25日 札幌高判


判決要旨
地域熱供給システムによって高温水の供給を受ける設備の設置されたマンション内において、一区分所有者だけがその室内設備を取り外し、単独で電気暖房工事を行ったことが、規約及び法6条に違反するとして管理組合のなした機器の撤去および不法行為(不当抗争)としての弁護士費用の請求について、穿孔した隔壁、追加したパイプシャフト内の分岐線が共用部分であることを認定した上で、工事は近隣に影響を及ぼすおそれのあるものを設置する行為であって、共同の利益に反する行為に該当するとして原審を破棄して、区分所有法57条1項に基づき原状回復を命じ、弁護士費用についても支払を命じた事例

判決日・当事者
平成8年(ネ)第265号 共有壁面復旧工事等請求控訴事件、
平成9.12.25(原審・札幌地方裁判所平成5年(ワ)第941号)
○○市○区○○○○町3丁目4番4−904号
 M団地住宅管理組合管理者
 控   訴   人 X1
 上訴訟代理人弁護士 西 川 哲 也
 同         高 橋   智
○○市○○区○○○○30丁目1番8−604号
 被 控 訴 人   Y1
 上訴訟代理人弁護士 五十嵐 義 三


 【主 文】
一1 原判決中金員の支払請求に関する部分を取り消す。
 2 被控訴人は、控訴人に対し、40万7,500円及びこれに対する平成5年11月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 被控訴人は、控訴人に対し、別紙物件目録記載の建物及びこれに隣接するパイプシャフトの隔壁の別紙図面1に甲@、甲A、甲B及び乙と表示してある4個の貫通孔に通してある配管を取り外し、上4個の貫通孔をコンクリートで塞ぐ工事をせよ。
三 被控訴人は、控訴人に対し、別紙物件目録記載の建物の電気パイプシャフトの別紙図面2に赤色で表示された電気配線を取り外せ。
四 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
五 この判決は、主文第一項2に限り、仮に執行することができる。

 【事実及び理由】
第一 当事者の求めた裁判
 一 控訴人
  1 主文第一ないし第四項同旨
  2 仮執行宣言
 二 被控訴人
  1 本件控訴及び当審において変更及び拡張された請求をいずれも棄却する。
  2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
 一 本件は、控訴人が被控訴人に対し、マンションの管理組合規約違反等を理由に、@マンションの一室である別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の電気温水器1基及び蓄熱型電気暖房器1基の各取り外し、A弁護士費用相当額の損害賠償の支払を求めたところ、原審がこれを全部棄却したので、控訴人が控訴した上、当審において、上@については訴えを交換的に変更し、上Aについては請求を拡張した事案である。
 二 争いのない事実並びに控訴人の主張及び被控訴人の反論
 次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」第二の一ないし三に記載のとおりであるから、これを引用する。
  1 原判決3頁7行目の「別紙」から同行の末尾までを「本件建物」に改める。
  2 同6頁5行目の「暖房システム」の次に「(以下「本件暖房システム」ということもある。)」を、6行目の次に行を変えて次のとおりそれぞれ加える。
  「8 被控訴人は、本件暖房システムの設置工事のために必要なものとして、本件建物及びこれに隣接するパイプシャフトとの隔壁(以下「本件隔壁」という。)の別紙図面1に甲@、甲A、甲Bと表示してある場所(以下「甲部分」という。)に貫通孔を開けて配管工事をした。
   9 被控訴人からガス工事を依頼されたガス工事専門業者は、上の工事のために必要なものとして、本件隔壁の別紙図面1に乙と表示してある場所(以下「乙部分」という。)に貫通孔を開けて配管工事をした。」
  3 同7頁7行目の「よれば、」の次に「理事長は、」を加える。
  4 同10頁2行目の冒頭から同15頁2行目の末尾までを次のとおり改める。
  「3 本件隔壁の甲、乙部分及び本件配線の原状回復請求
    (一) 被控訴人は、本件隔壁の甲、乙部分の4か所に貫通孔を開けて配管工事をした。
    (二) 被控訴人は、本件建物の電気パイプシャフトの共用幹線から別紙図面2記載の赤色で表示された電気配線(以下「本件配線」という。)の工事をし、従来の100ボルト20アンペア受電用の分岐線(単相二線式)を100ボルト及び200ボルト双方の受電が可能な単相三線式に変更した。
    (三)(1) 被控訴人が変更を加えた本件隔壁の甲、乙部分及び本件配線を含む分岐線は、法定共用部分である。
     (2) 被控訴人が変更を加えた甲、乙部分及び本件配線(以下「本件変更部分」ということもある。)の工事は、本件修繕等に関する協定4条1項(3)に該当し、事前の承認を得る必要があった(同条1項、5条)にもかかわらず、その承認を得なかった。
     (3) 法6条1項の共同の利益は、単に経済的利益のみならず、区分所有者の共同生活の秩序を念頭に置き、これを維持し、継続することの利益を含むものであるから、被控訴人の本件変更部分の工事は、法6条1項、57条、本件組合規約15条の共同の利益に反する行為に該当し、控訴人は、被控訴人に対し、本件変更部分の原状回復請求権を有する。
    (四) 被控訴人の主張(被控訴人の反論5)はいずれも争う。
     (1) 主張(一)について
       第一審で取り下げた訴えを、再訴することには何らの違法はなく、控訴人は、別訴を申し立てることもできるのであるから、訴訟経済等を考慮し、同一訴訟手続の中で請求を拡張し又は交換的に変更することは可能である。
     (2) 主張(二)について
      @ 被控訴人が、自ら違法な状態を作りながら、控訴人が上の違法状態の解消を求めることを権利濫用であると主張するのは、クリーン・ハンドの原則に反していること、A 本件変更部分の工事は、他の区分所有者に損害を与えるのみならず、団地の基本的な秩序を侵害する行為であること、B 被控訴人の行為が容認される場合、規約の実効性、規約に対する信頼は失われ、被控訴人はもとより他の区分所有者に対する規約違反を誘発し、団地の秩序が根底から崩れるおそれがあることなどからすると、被控訴人の権利の濫用の主張は理由がない。
   4 不法行為による損害賠償請求
    (一) 控訴人は、本件訴えの提起及び追行のため、控訴代理人である弁護士西川及び同高橋に対し、着手金、報酬及び日当として、合計40万7,500円を支払った。
    (二) 上の弁護士費用は、被控訴人が違法な本件変更部分の工事を含む本件暖房システムの設置工事をしたこと、及びその後の本件管理組合の総会及び理事会において、被控訴人に対し、違法な工事の原状回復を求めたにもかかわらず、被控訴人がこれに応じず、本件訴えを提起せざるを得なくなったため、控訴人が負担するに至ったものであるから、被控訴人は、控訴人に対し、上の弁護士費用相当額の損害賠償の支払義務がある。」
  5 同17頁3行目の冒頭から同19頁4行目の末尾までを次のとおり改める。
  「3 控訴人の主張3に対して
    (一)(1) 控訴人の主張3(一)のうち、被控訴人が乙部分に貫通孔を開けて配管工事をしたことは否認する。
 なお、被控訴人は、ガス工事専門業者に工事を依頼したが、工事自体は、業者の判断において行ったものであり、業者に対し、乙部分の穿孔などについて具体的な指示をしたことはない。
      (2) @ 本件隔壁の形状(靱性の強いSFRC)、その本来の用途からすると、建物の構造駆体である外壁(壁柱)などに孔を開けた場合とは全く異なり、建物全体の強度、耐久性に与える影響は皆無であること、A 本件隔壁の穿孔部分は、被控訴人の住戸に配管するためのいわば専用的利用部分であり、他の居住者に不利益な影響を及ぼすおそれはないこと、B 本件隔壁の穿孔部分は、本件暖房システムの導入に伴う給水、給湯及び排水用の配管のためであり、生活必需的な理由によるものであること、以上の事情からすると、本件隔壁の甲、乙部分の穿孔は共同の利益に反する行為とはいえない。
    (二)(1) 控訴人の主張3(二)の事実は否認する。
       なお、被控訴人は、電気工事専門業者に工事を依頼したが、工事自体は、業者の判断において行ったものであり、業者に対し、分岐線の幹線への接続等の工事内容・方法について具体的な指示をしたことはない。
      (2) 本件配線による分岐線は、現在、マンションを含む最近の住宅に広く普及し、電気容量の点でも、また、安全性等の点でも何ら問題のない単相三線200ボルト方式であるから、本件配線の工事が共同の利益に反する行為とはいえない。
    (三) 控訴人の主張3(三)はいずれも争う。
   4 控訴人の主張4に対して
     争う。
   5 被控訴人の主張
    (一) 控訴人は、本訴提起時に、当審における交換的変更による本件変更部分の原状回復請求とほぼ同一内容の請求を求めたが、平成6年1月17日付けで、上訴えを取り下げた。一旦取り下げた請求を、同一訴訟において、再度請求の追加的又は交換的変更により請求することは、訴訟手続上問題がある。
    (二) 仮に、控訴人に原状回復を求める権利が存するとしても、前記3(一)(2)及び(二)(2)の各事情のほか、M団地において、被控訴人のほか2戸の住戸において単相三線式の工事を行っていることからすると、控訴人の本訴請求は、権利の濫用である。」
第三 争点に対する判断
 一 本件管理組合及び本件組合規約等の成立について
   当裁判所も、本件管理組合、本件組合規約、本件修繕等に関する協定及び本件秩序維持に関する協定は、いずれも適法に成立したものと判断する。その理由は、原判決19頁8行目の冒頭から22頁10行目の末尾までに記載のとおりであるから、これを引用する。
 二 控訴人の当事者適格について
   当裁判所も、本件訴えの提起時には、本件管理組合の当時の理事長であった承継前原告X2に原告適格が存し、平成8年5月19日開催の本件管理組合の理事会において、理事長が同人から控訴人に交代したことに伴い、現理事長である控訴人が、本件訴えの訴訟追行権を適法に承継したものと判断する。その理由は、原判決23頁1行目の冒頭から29頁8行目の末尾までに記載のとおりであるから、これを引用する。
 三 本件変更部分の原状回復請求について
  1 交換的変更の手続について
    被控訴人は、控訴人が本訴提起時に当審における交換的変更による本件変更部分の現状回復請求とほぼ同一内容の請求をしたが、平成6年1月17日付けで上訴えを取り下げたことから、同一訴訟において、再度請求の追加的又は交換的変更により本件変更部分の原状回復を求めることは、訴訟手続上問題がある旨主張する。
 しかし、上の訴えの取下げは、本案について終局判決がされる前にされたものであるから、再訴禁止の規定に抵触するものではないし、本件訴訟の進行状況などに照らすと、当審における上の交換的変更による請求が時機に後れたものであり、かつ、そのために訴訟の完結を遅延させるものと認めることはできず、また、訴訟における信義則に反するものであるとまではいえないから、被控訴人の上主張は採用することができない。
  2 請求の当否について
   (一) 前記第二の二の当事者間に争いのない事実及び証拠(甲1、21、40、44ないし46、51の1ないし6、52の1ないし6、53ないし55、原審証人A、原審及び当審証人B、承継前原告X2本人、原審及び当審における被控訴人本人)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
    (1) 被控訴人は、平成3年11月1日ころ、前所有者から、本件建物を買い受けた。
    (2)@ M団地の各建物の住戸に隣接して設置されたパイプシャフトには、各住戸に対する給水、排水、給湯(往管・還管)、ガス供給用の共用縦管が配置されているほか、各住戸の台所、浴室、便所からの排気を強制的に屋上の排気設備に排出するための共用縦管が配置されている。
 上のパイプシャフトと各住戸との間は、縦管から分岐パイプ、分岐ダクトが接続されているが、これらの分岐パイプ、分岐ダクトは、住戸とパイプシャフトとの間の隔壁の貫通孔を通して配管されている。なお、本件隔壁は、軽量コンクリートを使用した厚さ約6.5センチメートル、幅約60センチメートル、高さ約210センチメートルのパネル状となっており、建物の主要構造部ではない。
     A M団地の建物の各階に設置された電気パイプシャフト内には、地下ピットから最上階まで縦に走る幹線と、幹線から各建物に電気を供給する分岐線及び電力量計器などがある。そのうち、幹線は単相三線式であるが、分岐線は100ボルト20アンペア受電用の単相二線式となっている。
 なお、M団地の他の入居者の大半は、電力会社との間で、100ボルト20アンペアの電気供給契約を締結している。
    (3)@ 被控訴人は、本件建物をいわゆるオール電化システムとすることを考え、平成4年1月ころまでに、電気工事専門業者に対し、午後11時から翌朝7時までの深夜電力(200ボルト)を使用する本件暖房システムの設置工事を依頼した。上の工事業者は、そのころまでに、電気温水器の給湯管及び水抜管の設置などのため、本件隔壁の甲部分の3か所に新たに貫通孔を開けて配管工事をした。
     A 上の工事業者は、配管工事に併せて、本件暖房システム用の200ボルトの深夜電力を受電するため、本件建物の電気パイプシャフト内の電気共用幹線にボルト型コネクターを取り付けるなどして、従前の100ボルト20アンペア受電用の分岐線(単相二線式)を100ボルト及び200ボルト双方の受電が可能な単相三線式(本件配線)に変更した。
     B 被控訴人は、本件暖房システムの設置工事の際、当面ガスの供給を受ける予定がなかったことと配管の施工上の理由から、パイプシャフト内の本件建物用の既存のガス管の一部を切断したが、その後1年以上経過してから、本件建物内でガスを使用するため、ガス工事専門業者に対し、ガス供給の工事を依頼した。上の工事業者は、工事に必要なものとして、本件隔壁の乙部分に新たに貫通孔を開けて配管工事をした。
     C 被控訴人は、上の@ないしBの各工事について、いずれも本件管理組合の総会又は理事長の承認を得なかった。なお、被控訴人は、甲部分の配管等の工事の前に、工事により甲部分付近が穿孔されることを知り、また、遅くとも平成5年春ころまでに、電気パイプシャフト内の工事内容を知った。
    (4)@ 昭和62年4月1日に改正、施行された本件組合規約(甲一)は、建物の躯体部分、共用分電盤、共用配線、建物内部の給水管、給水ガス汚水雨水竪管設備、パイプスペース等の専有部分に属さない「建物の部分」(本件組合規約別表第3の1)を本件管理組合が管理する管理共有物と定めており、平成7年5月21日に改正、施行された本件組合規約(甲四〇)では、別表第3の1の「建物部分」の次に「(専有部分に接する隔壁内及び床《気泡軽量コンクリート床及び鉄筋コンクリート床を含む。》面内に設置された配管等は、専有部分に含まれないものとする。)」との文言が追加された。
 また、平成9年1月19日に改正、施行された本件組合規約(甲四六、弁論の全趣旨)は、別表第4「管理共有物と専有部分との境界」と題する規定を新設し、電気共用配線について、管理共有物の範囲を「住戸内分電盤一次側端子接続の配線まで(電力量計器を除く。)」と定めている。
     A 本件組合規約は、「組合員は、円滑な共同生活を維持するため、規約及び協定に定めるもののほか、管理組合が管理上必要な事項を通知又は掲示したときは、これを遵守しなければならない。」(7条)、「組合員は、共同利益を維持するため、住宅の使用、改造、模様替、又は修繕等及び管理共有物の使用に関して別に協定を定めるものとする。」(19条)とし、これに基づき本件修繕等に関する協定が定められている。
     B 平成9年1月19日に改正、施行されるまでの本件修繕等に関する協定(甲一、四〇)は、「建物の主要構造部(建物の構造上不可欠な壁、柱、床及びはりをいう。)の穿穴、切欠きその他主要構造部に影響を及ぼす行為」(3条(4))を禁止し、「(1) 住宅の模様替え、改造及び大規模な修繕(以下「改修」という。)をするとき。(2) 共有部分を改修または塗装するとき。(3) 住宅、共有部分または共有物にアンテナ、小禽舎、その他近隣に影響を及ぼすおそれのあるものを設置するとき。」を理事長の承認事項(ただし、共有部分の改修及び塗装は、総会の決議事項)としていた(4条)が、前記の改正(甲四六、弁論の全趣旨)により、「建物の主要構造部(建物の構造上不可欠な壁、柱、床及びはりをいう。)及び外周壁、パイプシャフト壁、その他管理共有物に接する隔壁等、気泡軽量コンクリート床等の穿孔、切欠きその他主要構造部に影響を及ぼす行為」(3条(4))を禁止し、「電気共用配線、給水管、排水管、ガス管等の管理共有物に諸機械・器具、配線、配管等を新設、付加、除去又はその変更をするとき。」(4条(4))を理事長の承認事項に加えた。
     C 本件組合規約は、「組合員…が建物の保存に有害な行為、その他建物の管理又は使用に関し、組合員の共同の利益に反する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、法第57条から第60条までの規定による必要な措置をとることができる。」(73条)、「組合員…が法令、規約又は協定等に違反したとき…は、理事長は、理事会の議決を経てその組合員等に対し、その是正等のための必要な勧告又は指示若しくは警告を行うことができる。」(74条1項)、「組合員は、…前項の行為を行った場合には、その是正等のため、必要な措置を講じなければならない。」(同条2項)、「組合員が、この規約若しくは協定等に違反したとき又は組合員若しくは組合員以外の第三者が管理共有物において不法行為を行ったときには、理事長は、理事会の決議を経て、その差止め又は排除のための必要な措置をとることができる。」(同条3項)と定めている。
     D 本件修繕等に関する協定は、「理事長は、組合員が次の各号に掲げる一に該当する場合には、総会の議決に基づき、当該組合員に対し警告を行い、又は中止させ若しくは原状回復を求めることができる。」(7条1項)ものとし、「(1) 第3条に規定する禁止事項に違反したとき、(2) 第5条に規定する手続を経ずして、無断で工事等を実施したとき、(3) その他工事等がこの協定に抵触したとき」を掲げている。なお、平成9年1月19日に、本件修繕等に関する協定3条が改正されたことは前記Bに記載したとおりである。
    (5) 被控訴人が本件暖房システムを導入したことにより、他の住戸の受電や建物全体の給電・受電施設に直接影響はないが、将来、他の区分所有者が同様の工事を多数行うことになれば、他の住戸の受電に影響が生じ、また、共用配線等の容量増加工事などのため、本件管理組合又は区分所有者がその費用を負担する必要が生じる。
   (二)(1) 被控訴人は、電気工事及びガス工事の各専門工事業者がそれぞれの判断に基づき、本件配線工事や乙部分の穿孔をしたものにすぎず、上の各工事業者に対し、工事の方法及び内容などについて具体的な指示を行ったことはない旨主張する。
 しかしながら、被控訴人が、上の各工事の方法及び内容などについて、具体的な指示をしなかったとしても、本件建物において、200ボルトの電力ないしはガスの供給を受ける目的で、上の各工事業者に対し、それぞれ必要な工事を依頼したものであるから、各工事業者が必要なものとして行った工事については、被控訴人が行ったものということができるのであって、被控訴人の上主張は採用することができない。
    (2) 証拠(乙194、当審における被控訴人本人)には、M団地の設計段階の電気設計図(乙151)では、住宅幹線配線図の分岐線について旧来の設計を変更し、すべての住戸に単相三線の引込みをする設計となっているとする部分がある。
 しかしながら、証拠(甲54、当審証人B)によれば、平成9年8月、本件管理組合の関係者であるBがM団地の全戸(309戸)分の電気パイプシャフトを調査した結果、分岐線が単相三線式となっているのは、全戸中3戸しかなく、そのうち深夜電力が受電可能なものは本件配線のみに限られていたことが認められるのであって、前記の証拠は、採用することができない。
   (三)(1) 前記(一)に認定した事実によれば、被控訴人が工事をした当時においても、本件隔壁が共用部分に当たることは明らかである。また、分岐線は、特定の区分所有者の専用に供されるが、本件配線は、共用部分である電気パイプシャフト内に設置されているのであって、被控訴人の直接の支配管理下にはなく、また、弁論の全趣旨によれば、建物全体の給電・受電施設の維持管理、機能の保全、安全性という観点からは、電気共用幹線のみならず、分岐線も一体管理する必要があることが認められるから、少なくとも電気パイプシャフト内の分岐線を当該専有部分の区分所有者の専有に属するものとして、これを区分所有者個人の判断又は責任で管理させるのは相当ではないというべきである。したがって、電気パイプシャフト内の本件配線を含む分岐線は、建物全体の給電・受電施設の維持管理、機能の保全、安全性という観点から、専有部分に属しない建物の附属物として、共用部分であると認めるのが相当である(法2条4項)。
    (2) 本件修繕等に関する協定4条1項(3)が、「住宅、共有部分または共有物にアンテナ、小禽舎、その他近隣に影響を及ぼすおそれのあるものの設置」を理事長の承認事項としているが、共用部分の軽微な変更を含む共有部分の管理に関する事項については、規約で別段の定めをした場合を除き、集会において区分所有者及び議決権の各過半数の賛成で決する(法18条1項、39条1項)ものとしていることからすると、上の「近隣に影響を及ぼすおそれのある」とは、現実かつ具体的な影響ないしは被害の発生又はそのおそれがある場合に限定されるものではなく、建物の管理又は使用について支障の生じるおそれがあるという一般的又は抽象的な影響ないし危険が生じるおそれのある場合をも含むものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、本件変更部分の各工事は、本件隔壁を穿孔し、電気パイプシャフト内の分岐線を追加するといった変更を伴うもので、通常の用法に従った使用とはいえない上、パイプシャフト内の隔壁の維持・管理、建物全体の給電・受電体制の維持・管理ないしは各区分所有者の電気使用について、一般的又は抽象的な影響を及ぼすものであるから、本件変更部分の工事は、いずれも近隣に影響を及ぼすおそれのあるものを設置する行為に当たるというべきである。
 なお、平成9年1月19日に改正、施行された本件修繕等に関する協定が、「外周壁、パイプシャフト壁、その他管理共有物に接する隔壁等、気泡軽量コンクリート床等」の穿孔、切欠きをする行為を禁止し、「電気共用配線、給水管、排水管、ガス管等の管理共有物に諸機械・器具、配線、配管等を新設、付加、除去又はその変更」(4条(4))行為を承認事項としたのは、前記の趣旨を確認したにとどまるものと解されるのであって、上の改正を根拠に、上改正前には、上の各行為が個々の区分所有者の自由に委ねられていたものと解することはできない。
    (3) 法6条1項は、一棟の建物全体を良好な状態に維持することにつき区分所有者全員の有する共同の利益に反する行為、すなわち、建物の保存又は管理若しくは使用に障害となるような行為を禁止するものであるから、保存又は管理若しくは使用に現実の障害が発生しているときはもとより、上の障害が現実に発生していなくても、そのおそれがあると認められるときには、法6条1項の共同の利益に反する行為に該当すると認めるのが相当である。そして、本件変更部分の各工事が、共用部分の通常の用法に従った使用とはいえない上、本件修繕等に関する協定4条1項(3)に違反する工事であることは前記のとおりであるから、仮に、建物の保存自体に有害ではないとしても、建物の管理又は使用に障害を発生させるおそれがあるものとして、法6条1項の共同の利益に反する行為に該当するというべきである。
 したがって、控訴人は、被控訴人に対し、法57条1項に基づき、甲、乙部分及び本件配線につき、原状回復請求権を有するというべきである。
    (4)@ 被控訴人は、a 本件隔壁の形状、本来の用途からすると、建物の構造駆体である外壁(壁柱)に孔を開けた場合とは全く異なり、建物全体の強度、耐久性に与える影響は皆無であること、b 本件隔壁の穿孔部分は、被控訴人の住戸に配管するためのいわば専用的利用部分であって、上の穿孔が、他の居住者に不利益な影饗を及ぼすおそれはないこと、c 本件隔壁の穿孔部分は、本件暖房システムの導入に伴う給水、給湯及び排水用の各配管のためであり、生活必需的な理由によるものであること、以上の事実からすると、本件隔壁の甲、乙部分の穿孔が共同の利益に反する行為とはいえない旨主張する。
 しかし、被控訴人の主張するa及びbの事由のみでは、本件変更部分の工事が共同の利益に反するものに当たらないといえないことは、前示のとおりである。また、証拠(原審証人C、同B、原審における被控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば、M団地は、分譲された昭和53年当初から、地暖の地域熱供給システムによる高温水の供給を受ける暖房・給湯システムが全住戸に設置され、平成3年に被控訴人による本件暖房システムの導入の問題が発生するころまで、入居者全員が前記暖房システムを利用してきたものであり、上暖房システムに他の暖房・給湯システムと比較して欠陥があるとはいえないこと、被控訴人は、本件建物の購入前に、M団地では、上暖房システムが導入されていることを知っていたことが認められる。これらの事実に照らすと、規約等で定める所定の手続によらずに、被控訴人個人の自由な判断で、共用部分の変更を伴う本件暖房システムの設置工事をすることができると解することはできず、また、本件建物の居住者にとって、従前の地暖の暖房・給湯システムに代えて本件暖房システムを導入することが必要不可欠であるといった事情も認められないので、cの事由を根拠に、本件隔壁の甲、乙部分の穿孔が共同の利益に反する行為に当たらないものということはできない。
 したがって、被控訴人の前記主張は、いずれも採用することができない。
     A 被控訴人は、本件配線による分岐線は、現在、マンションを含む最近の住宅に広く普及し、電気容量の点でも、安全性等の点でも何ら問題のない単相三線200ボルト方式であるから、本件配線の工事が共同の利益に反する行為とはいえない旨主張する。
 しかし、被控訴人主張の事実が認められるとしても、乙部分を除く本件変更部分の工事は、建物全体の給電・受電体制の維持・管理ないしは各区分所有者の電気使用について、一般的又は抽象的な影響を及ぼすものであり、法6条1項の共同の利益に反する行為というべきであることは前示のとおりであるから、被控訴人の上主張は採用することができない。
    (5) 被控訴人は、本訴請求が権利の濫用である旨主張するが、既に認定説示したところに照らし、上主張は採用することができない。
 なお、本件管理組合が平成9年8月に調査した結果、M団地には、本件建物以外に2戸の住戸において分岐線の単相三線式の工事をしていることが判明したことは、前記のとおりであるが、このことによって、被控訴人の本件変更部分の工事が正当化されるものではなく、また、M団地の全戸数(309戸)のうち単相三線式の工事をしているのは、全部で3戸しかないこと、しかも、控訴人は、上の事実を最近調査して知ったものであることなどからすると、前記の事実があるからといって、控訴人の本訴請求が権利の濫用であるということはできない。
 四 不法行為による損害賠償請求について
   被控訴人の前記行為はM団地住宅管理組合に対する不法行為に当たるというべきところ、証拠(甲34、48)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、平成8年10月23日までに、本件訴えの提起及び追行のため、控訴代理人である弁護士両名に対し、着手金報酬及び日当などとして、合計40万7,500円を支払ったことが認められる。
 そして、本件訴えの内容、本訴提起に至る経緯、被控訴人の応訴状況等、その他諸般の事情を考慮すると、上の控訴人が支払った費用は、被控訴人の不法行為と相当因果関係のある損害というべきである。
 五 結論
   以上によれば、控訴人の被控訴人に対する本件変更部分の原状回復請求並びに40万7,500円及びこれに対する控訴人作成の平成5年11月5日付け準備書面送達の日の翌日であることが記録上明らかな同月6日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は、すべて理由があるので認容すべきである。
 よって、上と異なる原判決中金員の支払請求に関する部分は相当でないから、これを取り消した上、控訴人の金員の支払請求(当審において拡張した請求を含む。)を認容し、また、控訴人が当審において交換的に変更した請求は、いずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法96条、89条を、仮執行の宣言(主文第一項2以外は相当でないから付さない。)につき同法196条を各適用して、主文のとおり判決する。
 札幌高等裁判所第三民事部
  裁判長裁判官 瀬 戸 正 義
     裁判官 小 野 博 道
     裁判官 土 屋 靖 之

別紙

物 件 目 録
(一棟の建物の表示)
所   在 ○○市○区○○○○町3丁目1番地34
建物の番号 M団地4号棟
構   造 鉄筋コンクリート造陸屋根11階建
床 面 積 1階  26.93平方メートル
      2階 588.67平方メートル
      3階 588.67平方メートル
      4階 588.67平方メートル
      5階 588.67平方メートル
      6階 588.67平方メートル
      7階 588.67平方メートル
      8階 588.67平方メートル
      9階 588.67平方メートル
      10階 588.67平方メートル
      11階 588.67平方メートル
(敷地権の目的たる土地の表示)
土地の符号  一
所在及び地番 ○○市○区○○○○町3丁目1番地34
地    目 宅地
地    積 1万8,519.35平方メートル
(専有部分の建物の表示)
家屋番号   ○○○○町3丁目1番34の284
建物の番号  4-905号
種    類 居宅
構    造 鉄筋コンクリート造1階建
床 面 積  81.72平方メートル(9階部分)

別紙図面〈別添画像〉
別紙図面2〈別添画像〉





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