その8

◆ H14.03.28 第一小法廷・判決 平成9(行ツ)159
  建築基準法第59条の2第1項による許可処分等取消請求事件



判例 H14.03.28 第一小法廷・判決 平成9(行ツ)159 建築基準法第59条の2第1項による許可処分等取消請求事件(第56巻3号613頁)


判示事項:
  1 建築基準法(平成4年法律第82号による改正前のもの)59条の2第1項に基づくいわゆる総合設計許可の取消訴訟と同許可に係る建築物の周辺地域に存する建築物に居住する者の原告
適格
  
  2 都市計画道路が完成し供用が開始された場合における建築基準法施行令(平成5年政令第170号による改正前のもの)131条の2第2項に基づく認定処分の取消しを求める訴えの利益の消長


要旨:
  1 建築基準法(平成4年法律第82号による改正前のもの)59条の2第1項に基づくいわゆる総合設計許可に係る建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物に居住する者は,同許可の取消訴訟の原告適格を有する。
2 建築基準法施行令(平成5年政令第170号による改正前のもの)131条の2第2項に基づく認定処分がされた建築物につき同項によりその前面道路とみなされる都市計画道路が完成して供用が開始された場合には,上記処分の取消しを求める訴えの利益は失われる。


参照・法条:
  行政事件訴訟法9条,建築基準法(平成4年法律第82号による改正前のもの)59条の2第1項,建築基準法施行令(平成5年政令第170号による改正前のもの)131条の2第2項,建築基準法施行令(平成5年政令第170号による改正前のもの)135条の3第1項3号


内容:
 件名  建築基準法第59条の2第1項による許可処分等取消請求事件 (最高裁判所 平成9(行ツ)159 第一小法廷・判決 一部破棄自判,一部棄却)
 原審  H09.03.26 東京高等裁判所 (平成8(行コ)110)



主    文
 1 原判決中上告人A,同B,同C,同D及び同Eの建築基準法59条の2第1項に基づく許可処分の取消請求に関する部分を破棄し,第1審判決中同部分を取り消し,同部分につき本件をさいたま地方裁判所に差し戻す。

 2 原判決中上告人A,同B,同C,同D及び同Eの建築基準法施行令131条の2第2項に基づく認定処分の取消請求に関する部分を破棄し,同部分につき同上告人らの控訴を棄却する。
 
 3 その余の上告人らの上告を棄却する。

 4 第2項に関する控訴費用及び上告費用は,同項記載の上告人らの負担とし,前項に関する上
  告費用は,同項記載の上告人らの負担とする。


理    由

 第1 上告代理人難波幸一,同山本政道の上告理由書(一)記載の上告理由について 

 1 本件は,被上告人が,住宅・都市整備公団(以下「公団」という。)に対し平成4年11月13日付けでした建築基準法(平成4年法律第82号による改正前のもの。以下同じ。)59条の2第1項に基づくいわゆる総合設計許可(以下「本件総合設計許可」という。)及び同法施行令(平成5年政令第170号による改正前のもの。以下同じ。)131条の2第2項に基づく認定処分(以下「本件認定処分」という。)について,上告人らが,被上告人に対し,これらが違法であるとして,その取消しを請求する事案である。

 2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1) 公団は,埼玉県桶川市若宮1丁目所在の3785.32uの土地(以下「本件土地」という。)に地上25階建て,高さ75.5mの共同住宅(以下「本件建築物」という。)を建築する計画を立てた。本件土地は,都市計画法(平成4年法律第82号による改正前のもの。以下同じ。)8条1項1号所定の商業地域内にあり,建築基準法52条1項所定の容積率が400%の地域内にある。本件建築物は,容積率が508.55%であり,本件土地に係る容積率の制限を超えるものであった。そこで,公団は,本件建築物について,上記の割合まで容積率制限を緩和する本件総合設計許可を受けた。また,公団は,本件建築物について本件認定処分も受けたので,本件土地の東北側に接する都市計画道路若宮中央通り線(以下「本件都市計画道路」という。)が本件建築物の前面道路とみなされて同法56条1項2号ロ所定のいわゆる隣地斜線制限が緩和されることとなった。公団は,上記各処分により,本件建築物を建築することが可能となった。

 (2) 上告人A,同B,同C及び同Dの各居宅は,本件建築物から北西に150m以上離れており,都市計画法8条1項1号所定の第2種住居専用地域内にある。同Eの居宅は,本件建築物から北東に50m余離れており,同号所定の住居地域内にある。その余の上告人らの居宅は,本件建築物から同Aらの居宅よりも更に遠く離れている。
 本件建築物は,冬至日において,上告人Aの居宅のベランダの中間点において午前7時30分ころから午前8時26分まで日影を生じさせ,同B及び同Cの居宅のベランダの中間点において午前7時30分ころから午前8時27分まで日影を生じさせ,同Dの居宅の南側1階ベランダの中間点において午前8時22分から午前9時32分まで日影を生じさせ,同Eの居宅の南西側の中間点(地盤面)において午後2時5分から午後4時まで日影を生じさせるが,その余の上告人らの各住居の敷地上には,日影を生じさせない。

 3 原審は,上記事実関係の下において,@ 上告人らの被上告人に対する本件総合設計許可の取消しを求める訴えをすべて不適法とし,A 本件認定処分の取消しを求める訴えについては,上告人A,同B,同C,同D及び同E(以下「上告人A外4名」という。)の訴えを適法としたが,その余の上告人らの訴えを不適法とした。原審の判断の概要は,次のとおりである。

 (1) 総合設計許可を定める建築基準法59条の2第1項は,一般的公益の保護を目的としており,住民の個別的利益の保護を目的とする趣旨ではない。また,本件総合設計許可において緩和されることとなった容積率の制限を定める同法52条は,適当な都市空間を確保し市街地の過密化を避け,道路等の都市施設の供給・処理能力と市街地の高度利用の要請との均衡を図ること等を目的とするものであって,近隣居住者の日照,採光,通風等の利益を個別的利益として保護する趣旨ではない。したがって,上告人らは,本件総合設計許可の取消しを求める原告適格を有しない。

 (2) 隣地斜線制限を定める建築基準法56条1項2号は,近隣地の日照,採光,通風を確保することを目的とし,近隣居住者の上記の利益を個別的利益として保護する趣旨である。同法施行令131条の2第2項により特定行政庁が行う認定処分は,同令135条の3第1項3号とあいまって同法56条1項2号の制限を緩和するものであるから,その認定処分により日照等の享受を阻害される近隣住民は,当該認定処分の取消しを求める原告適格を有する。
 前記事実関係によれば,上告人A外4名は,本件建築物により日照の阻害を受ける者として,本件認定処分の取消しを求める原告適格を有する。しかし,その余の上告人らは,その居宅につき日照等の阻害を受けている旨の主張をしておらず,同上告人らの主張する公園利用権の侵害,文化的環境の保護,公園等の利用に支障を生じさせるビル風の発生,交通渋滞,眺望阻害,プライバシーの侵害は,本件認定処分の取消しを求める法律上の利益に当たらないから,同上告人らは,その取消しを求める原告適格を有しない。

 4 原審の上記判断のうち,上告人A外4名以外の上告人らの訴えをいずれも不適法とした判断は,結論において是認することができるが,上告人A外4名につき本件総合設計許可の取消しを求める原告適格を否定してその訴えを不適法とした判断は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,かかる利益も上記の法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして,当該行政法規が,不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは,当該行政法規の趣旨・目的,当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである(最高裁平成元年(行ツ)第130号同4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号571頁,最高裁平成6年(行ツ)第189号同9年1月28日第三小法廷判決・民集51巻1号250頁参照)。

 (2) 上記の見地に立って,上告人らの本件総合設計許可の取消しを求める原告適格について検討する。
 建築基準法は,建築物の敷地,構造等に関する最低の基準を定めて,国民の生命,健康及び財産の保護を図ることなどを目的とするものである(1条)ところ,同法59条の2第1項は,同法52条の容積率制限,同法55条又は56条の高さ制限の特例として,一定規模以上の広さの敷地を有し,かつ,敷地内に一定規模以上の空地を有する場合に限り,安全,防火,衛生等の観点から支障がないと認められることなどの要件の下に,これらの制限を緩和することを認めている。容積率制限や高さ制限の規定の趣旨・目的等をも考慮すれば,同法59条の2第1項の規定は,これらの制限の緩和を認めて大規模な建築物を建築することを可能にする一方で,必要な空間を確保することにより,当該建築物及びその周辺の建築物における日照,通風,採光等を良好に保つなど快適な居住環境を確保することができるようにするとともに,当該建築物が地震,火災等により倒壊,炎上するなど万一の事態が生じた場合に,その周辺の建築物やその居住者に重大な被害が及ぶことのないよう適切な設計がされていることなどを審査し,安全,防火,衛生等の観点から支障がないと認められる場合にのみ許可をすることとしているものと解される(最高裁平成9年(行ツ)第7号同14年1月22日第三小法廷判決・民集56巻1号登載予定参照)。以上のような同項の趣旨・目的,同項が総合設計許可を通して保護しようとしている利益の内容・性質等にかんがみれば,同項は,上記許可に係る建築物の建築が市街地の環境の整備改善に資するようにするとともに,当該建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物に居住する者の健康を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると,【要旨1】総合設計許可に係る建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物の居住者は,総合設計許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である。
 前記事実関係によれば,上告人A外4名は,いずれもその居住する建築物が,本件建築物により日照を阻害されるから,本件総合設計許可の取消しを求める原告適格を有するものというべきである。そうすると,同上告人らにつき本件総合設計許可の取消しを求める原告適格を否定し,その取消しを求める訴えを却下すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をいう限度で理由があり,原判決中同上告人らの本件総合設計許可取消請求に関する部分は破棄を免れない。そして,同部分につき訴えを却下した第1審判決を取り消した上,これをさいたま地方裁判所に差し戻すべきである。
 これに対し,上告人A外4名以外の上告人らは,その居住する建築物が本件建築物により日照等を阻害される旨の主張をしておらず,他に本件総合設計許可の取消しを求める法律上の利益があるというべき根拠は見いだせないから,原判決中同上告人らにつき本件総合設計許可の取消しを求める原告適格を否定し,その取消しを求める訴えを却下すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができる。この点に関する論旨は,採用することができない。

 (3) さらに,本件都市計画道路が完成して供用が開始されたことにより本件認定処分の取消しを求める訴えの利益が失われたことは,後記のとおりであるから,上告人A外4名以外の上告人らの本件認定処分の取消しを求める訴えは不適法である。そうである以上,その訴えを却下すべきものとした原審の判断を論難する論旨は,原判決の結論に影響しない事項の違法をいうものということになるから,この点につき判断するまでもなく,採用することができない。

 第2 職権による検討

 建築基準法施行令131条の2第2項に基づく認定処分は,都市計画道路が完成して供用が開始されるまでの間,所定の要件を満たす建築物につき当該計画道路をその建築物の前面道路とみなし,その計画道路内の隣地境界線がないものとして(同法施行令135条の3第1項3号),当該建築物につき隣地斜線制限の適用を解除するものであるから,【要旨2】当該都市計画道路が完成して供用が開始されれば,上記認定処分の取消しを求める訴えの利益は失われるものと解するのが相当である。
記録によれば,本件都市計画道路は完成して供用が開始されたことが認められるから,上告人らにおいて本件認定処分の取消しを求める訴えの利益は失われたものというべきである。そうすると,原判決中,上告人A外4名の本件認定処分の取消請求を棄却すべきものとした部分には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるから,原判決中同部分は,その余の点について判断するまでもなく破棄を免れない。そして,同請求に係る訴えを却下した第1審判決は,結論において正当であるから,同部分に対する同上告人らの控訴を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 町田 顯 裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子)





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