その12

◆判例  平成6(行ツ)第189号 平成9年1月28日 第三小法廷判決



判例  平成6(行ツ)第189号 平成9年1月28日 第三小法廷判決

要旨:

 一  がけ崩れのおそれが多い土地等についてされた開発許可の取消訴訟と開発区域の周辺住民の
   原告適格 
 
 二  開発区域の周辺住民が提起した開発許可取消訴訟における原告の死亡と訴訟承継の成否

内容:

  件 名

開発許可処分取消請求事件(最高裁判所平成六年(行ツ)第一八九号平成九年一月二八日第三小法廷判決、一部破棄差戻一部終了)

  原 審

東京高等裁判所


主    文

原判決中、上告人A、同Bに関する部分を破棄し、同部分につき第一審判決を取り消す。

右上告人両名に関する部分につき、本件を横浜地方裁判所に差し戻す。
本件訴訟のうち上告人Cに関する部分は、平成七年九月二〇日同上告人の死亡により終了した。

理    由

 上告代理人日置雅晴、同松島暁、同黒澤計男の上告理由について



 本件訴えは、平成四年二月二四日に被上告人がD株式会社及び株式会社Eに対し都市計画法(同年法律第八二号による改正前のもの。以下同じ。)二九条に基 づいてした開発許可が違法であるとして、当該許可に係る開発区域に近接する地域に居住する上告人らが、その取消しを求めるというものである。
 行政事件訴訟法九条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属 する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである(最高裁平成元年(行ツ)第一三〇号同四年九月二二日第三小法廷判決・民集四六巻六号五七一頁参照)。



 右の見地に立って、本件訴えについての上告人A、同B(以下「上告人Aら」という。)の原告適格について検討する。


 所論は、上告人Aら個々人の利益を保護する趣旨を含む規定として都市計画法三三条一項一四号を指摘する。しかし、同号が上告人Aらの個別的利益を保護する趣旨の規定であるとは解されない。その理由は、次のとおりである。
 確かに、開発許可の基準を規定している同項のうち一四号は、開発行為をしようとする土地等につき当該開発行為の施行等の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を得ていることを許可基準と定めている。しかし、右規定は、開発許可をしても、許可を受けた者が開発区域等について私法上の権原を取得しない限り開発行為等をすることはできないことから、開発行為の施行等につき相当程度の見込みがあることを許可の要件とすることにより、無意味な結果となる開発許可の申請をあらかじめ制限するために設けられているものと解され、開発許可をすることは、右の権利に何ら影響を及ぼすものではない。したがって、右の規定が右の権利者個々人の権利を保護する趣旨を含むものと解することはできない。


 ところで、原判決の摘示するところによれば、上告人Aらは、本件の開発区域に近接する肩書住所地に居住しており、本件開発許可に基づく開発行為によって起こり得るがけ崩れ等により、その生命、身体等を侵害されるおそれがあると主張しているところ、都市計画法三三条一項七号は、開発区域内の土地が、地盤の軟弱な土地、がけ崩れ又は出水のおそれが多い土地その他これらに類する土地であるときは、地盤の改良、擁壁の設置等安全上必要な措置が講ぜられるように設計が定められていることを開発許可の基準としている。この規定は、右のような土地において安全上必要な措置を講じないままに開発行為を行うときは、その結果、がけ崩れ等の災害が発生して、人の生命、身体の安全等が脅かされるおそれがあることにかんがみ、そのような災害を防止するために、開発許可の段階で、開発行為の設計内容を十分審査し、右の措置が講ぜられるように設計が定められている場合にのみ許可をすることとしているものである。そして、このがけ崩れ等が起きた場合における被害は、開発区域内のみならず開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民に直接的に及ぶことが予想される。また、同条二項は、同条一項七号の基準を適用するについて必要な技術的細目を政令で定めることとしており、その委任に基づき定められた都市計画法施行令二八条、都市計画法施行規則二三条、同規則(平成五年建設省令第八号による改正前のもの)二七条の各規定をみると、同法三三条一項七号は、開発許可に際し、がけ崩れ等を防止するためにがけ面、擁壁等に施すべき措置について具体的かつ詳細に審査すべきこととしているものと解される。以上のような同号の趣旨・目的、同号が開発許可を通して保護しようとしている利益の内容・性質等にかんがみれば、同号は、がけ崩れ等のおそれのない良好な都市環境の保持・形成を図るとともに、がけ崩れ等による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域内外の一定範囲の地域の住民の生命、身体の安全等を、個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると、開発区域内の土地が同号にいうがけ崩れのおそれが多い土地等に当たる場合には、がけ崩れ等による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である。なお、都市計画法の目的を定める同法一条の規定及び都市計画の基本理念を定める同法二条の規定には、開発区域周辺の住民個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むことをうかがわせる文言は見当たらないが、そのことは、同法三三条一項七号に関する以上の解釈を妨げるものではない。
 以上の理解に立って本件をみると、本件開発区域は急傾斜の斜面上にあり、本件開発行為は、六階建ての共同住宅の建築の用に供する目的で、斜面の一部を掘削して整地し、擁壁を設置するなどというものであるところ、上告人Aらは、右斜面の上方又は下方の本件開発区域に近接した土地に居住している者であることが記録上明らかである。そうすると、都市計画法三三条一項七号が開発区域の周辺住民個々人の利益を保護する趣旨を含むものではないという解釈に基づき、本件開発区域内の土地が同号にいうがけ崩れのおそれが多い土地等に当たるかどうか、及び上告人Aらががけ崩れ等による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者であるかどうかについて、何らの検討もすることなく、上告人Aらの原告適格を否定した原判決及び第一審判決は、いずれも法令の解釈適用を誤るものであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである。



 以上によれば、原判決が上告人Aらの原告適格を否定したことを非難する論旨は、右の趣旨をいう点において理由があり、その余の点について判断するまでも なく、原判決中上告人Aらに関する部分は破棄を免れず、同部分につき第一審判決を取り消した上、これを横浜地方裁判所に差し戻すこととする。
 職権をもって調査するに、記録によれば、上告人Cは、本件訴訟が当審に係属した後の平成七年九月二〇日死亡したことが明らかである。同上告人の有していた本件開発許可の取消しを求める法律上の利益は、同上告人の生命、身体の安全等という一身専属的なものであり、相続の対象となるものではないから、本件訴訟のうち同上告人に関する部分は、その死亡により終了したものというべきである。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八八条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男 裁判官 尾崎行信)            




ご相談・ご質問は、トップページのお問合せコーナーよりどうぞ。

戻るアイコン このページの最初へ戻る  建築関係最高裁 判例リストへ戻る  トップページへ戻る





ダイヤ設計のホームページへようこそ。

戻るアイコン トップページへ戻る     建築物訴訟関係へ戻る     建築関係最高裁 判例リストへ戻る



建築関係最高裁 判例その12

トップマーク