その10


判例 平成15年11月07日 第二小法廷判決 平成14(受)458
  損害賠償請求事件



要旨:
 金融機関の従業員が顧客に対し融資を受けて宅地を購入するように勧誘する際に当該宅地が接道要件を具備していないことを説明しなかったことが当該宅地を購入した顧客に対する不法行為を構成するとはいえないとされた事例


内容:  件名 損害賠償請求事件 (最高裁判所 平成14(受)458 平成15年11月07日 第二小法廷判決 破棄自判)
 原審 大阪高等裁判所 (平成13(ネ)2900)


主    文
       原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
       前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
       控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。


理    由

 上告代理人戸倉晴美,同中川朋子,同澤田孝の上告受理申立て理由1について

 1 原審が適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

 (1) 上告人の××支店の従業員であるA(以下「A」という。)は,昭和62年5月ころ,被上告人に対し,上告人から融資を受けて土地を購入するように積極的に勧誘し,宅地造成がされて分譲中の土地の1区画である第1審判決別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)の購入を勧め
た。
 本件土地には,公道に通ずる私道(以下「本件私道」という。)があり,本件私道を構成する複数の土地は,すべて私有地であったが,不動産登記簿上の地目は,当時から,いずれも「公衆用道路」であった。本件土地は,本件私道に面する造成宅地のうちの最も奥の区画であった。
 本件土地はB(以下「B」という。)の所有であり,本件私道の一部である第1審判決別紙物件目録記載2の土地も,当時,同人の所有であり,同土地の一部が本件土地の前面道路部分(以下「本件前面道路部分」という。)であった。

 (2) 被上告人は,Aの積極的な勧誘により本件土地を購入することとし,同年7月7日,Bとの間で,同人から本件土地を代金1180万円で購入する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。その際,被上告人は,上告人との間で,融資契約を締結し,上告人から1200万円の融資を受けた。
 本件売買契約の締結には,被上告人とBのほか,売主側の不動産仲介業者としてC株式会社の担当者らが立ち会った。その際,被上告人は,C株式会社が宅地建物取引業者として記名押印し,宅地建物取引業法35条1項所定の重要事項の説明をする宅地建物取引主任者であるDが署名押印した重要事項説明書の交付を受けた。
その書面には,本件土地が第2種住居専用地域にあり,6m幅の私道に接している旨の記載がある。

 (3) 本件前面道路部分は,本件売買契約が締結された当時,道路位置の指定がされておらず,本件土地は建築基準法43条1項本文所定の接道要件を満たしていなかったが,被上告人は,BやC株式会社の担当者からも,上告人の担当者であるAからも,その旨の説明を受けなかった。

 (4) 本件私道に接する造成宅地の区画には,本件土地を除き,いずれも建物が建築されたが,被上告人は,本件土地購入後も,長年にわたり,本件土地を空き地の状態のままにしていた。その間に,本件前面道路部分は,平成6年5月5日,Bの死亡によりその相続人が相続し,平成8年6月24日には,同日受付,同日付け売買を原因とするC株式会社への所有権移転登記手続が行われた。

 (5) 被上告人は,平成11年ころ,本件土地上に建物を建築しようとしたが,本件土地が接道要件を満たさないものであったため,建築確認を受けられなかった。そこで,被上告人は,C株式会社に対し,本件前面道路部分について道路位置の指定を受けることなどについて協力を求めたが,これを拒否され,かえって,C株式会社から本件前面道路部分を高額で買い取ることを求められた。

 2 被上告人は,上告人に対し,Aは本件土地が接道要件を満たさない土地であることを被上告人に説明すべき義務があったのにこれを怠った旨を主張して,民法715条の規定に基づき,損害の賠償と遅延損害金の支払を求めた。

 3 原審は,前記の事実関係の下で,次のとおり判断して,被上告人の請求を,200万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却すべきものとした。

 (1) 上告人の従業員であるAは,被上告人に対し,上告人から融資を受けて本件土地を購入するように勧め,その結果,被上告人が本件土地の購入を決意したのであり,本件売買契約は,被上告人と上告人との間の融資契約と一体となって,上告人の利益のために,上告人の従業員であるAのあっせんによって行われたものであるから,このような場合には,Aは,被上告人に対し,信義則上,本件売買契約締結に先立って,本件土地が接道要件を満たさないことなどについて説明する義務を負うものと解するのが相当である。
 ところが,Aは,本件売買契約締結当時はもとより,その後も,被上告人に対し,この点についての説明をしなかったのであるから,Aは,上記の説明義務違反の不法行為により被上告人が被った損害を賠償すべき義務を負う。そして,Aによる本件売買契約のあっせんは,上告人の事業の執行につき行われたものと認められるから,上告人は,被上告人に対し,民法715条の規定に基づき損害賠償義務を負うものというべきである。

 (2) 被上告人は,適法に本件土地に建物を建築するためには,C株式会社に対して訴えの提起や交渉を行う必要があり,これに要する費用は,Aの不法行為によって被上告人が被った損害というべきであり,その額は,200万円を下ることはないと認められる。
 したがって,上告人は,被上告人に対し,上記金額の損害賠償責任を負うものというべきである。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記の事実関係によれば,次のことが明らかである。(1) 本件売買契約と被上告人と上告人との間の上記の融資契約とは,当事者を異にする別個の契約であるが,Aは,後者の融資契約を成立させる目的で本件土地の購入にかかわったものである。このような場合に,Aが接道要件が具備していないことを認識していながら,これを被上告人に殊更に知らせなかったり,又は知らせることを怠ったりしたこと,上告人が本件土地の売主や販売業者と業務提携等をし,上告人の従業員が本件土地の売主等の販売活動に深くかかわっており,Aの被上告人に対する本件土地の購入の勧誘も,その一環であることなど,信義則上,Aの被上告人に対する説明義務を肯認する根拠となり得るような特段の事情を原審は認定しておらず,また,そのような事情は,記録上もうかがうことができない。(2) 本件前面道路部分は,本件私道の一部であり,本件売買契約締結当時,本件土地の売主であるBが所有しており,不動産登記簿上の地目も公衆用道路とされていたことから,同人が被上告人に売却した本件土地の接道要件を満たすために本件前面道路部分につき道路位置の指定を受けること等のBの協力が得られることについては,その当時,十分期待することができたのであり,本件土地は,建物を建築するのに法的な支障が生ずる可能性の乏しい物件であった。(3) 本件土地が接道要件を満たしているかどうかという点は,宅地建物取引業法35条1項所定の重要事項として,書面による説明義務がある。本件売買契約においては,売主側の仲介業者であるC株式会社がその説明義務を負っているのであって,Aに同様の義務があるわけではない。
 これらの諸点にかんがみると,前記のとおり,上告人の従業員であるAが,被上告人に対し,上告人から融資を受けて本件土地を購入するように積極的に勧誘し,その結果として,被上告人が本件売買契約を締結するに至ったという事実があったとしても,その際,Aが被上告人に対して本件土地が接道要件を満たしていないことについて説明をしなかったことが,法的義務に違反し,被上告人に対する不法行為を構成するということはできないものというべきである。

 5 そうすると,以上判示したところと異なる見解に立って,Aに説明義務違反があるとして被上告人の請求を一部認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,前記説示によれば,被上告人の請求を棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分につき,被上告人の控訴を棄却することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 梶谷 玄 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 滝井繁男)





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