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マンション管理関係判例


bV 外壁、バルコニー/設置した工作物等 


平成 4年 9月22日  判時1468-111  東京地判


判決要旨
バルコニ−が専有部分とされ、バルコニ−の手すり用障壁上にガラス戸を設置したことがバルコニ−の使用方法に違反しないとされた事例

判決日・当事者
工作物撤去等請求事件、東京地裁平3(ワ)12163号、平4.9.22民33部判決、棄却(控訴)
 《当事者》
原  告  X管理組合
上代表者理事長
X2
上訴訟代理人弁護士
佐 瀬 正 俊
同     岡 田   勇
同     増 村 裕 之
被   告 Y
上訴訟代理人弁護士
      森     謙
同     森     達
同     森   重 一

 【主文】 
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。

 【事実及び理由】 
第一 請求
 一 被告は、別紙物件目録のバルコニー(本件バルコニー)の北側の手すり用障壁上に設置したガラス戸の他これをはめこむためのアルミサッシ製の外わく部分を含む工作物(本件工作物)を撤去せよ。
 二 被告は、本件工作物を撤去することを除いて、本件バルコニーを改築してはならない。
 三 被告は、原告に対し、金50万円及びこれに対する平成3年9月22日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、原告(被告居住のマンションの管理組合)が、被告(上マンションの住民の1人)に対し、本件バルコニーが共用部分に属するとして原告の共有持分権に基づき、あるいは、本件バルコニーが専有部分としても集合住宅(マンション)のバルコニーの使用方法上の制約等を理由に、被告が設置した本件工作物の撤去、本件バルコニーの改築の禁止、本訴訟提起のために要した弁護士費用相当損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成3年9月22日から支払済までの遅延損害金の支払を求める事案である。
 一 争いのない事実
 1 原告は、X(本件マンション)分譲住宅の買受人全員を組合員として組織され、X管理規約(本件規約)及び使用細則に定められたところにより選出された役員をもつ権利能力なき社団であり、その目的及び権限は、建物区分所有法、本件規約及び使用細則に定められたところにより、上分譲住宅の敷地及び共用部分等を管理し、かつ、組合員の共同の利益を増進し、良好な住環境を確保するために必要な業務を行うことにある。
 2 平成元年4月27日、原告の臨時総会において、本件規約及び使用細則が可決承認され、本件規約は同日施行され、使用細則は同年7月1日から施行された。本件規約は、その5条によれば、本件マンション分譲住宅を買い受けて住民となった現在及び将来の全員を拘束する自治規則としての性質を有し、63条1項によれば、原告の理事長(管理者)は、区分所有者等の違反行為の是正のため必要な勧告・指示・警告を行い、又は裁判所に提訴することができ、同条3項によれば、その差止め又は排除のため必要な措置をとることができる。また、13条によれば、区分所有者は、敷地及び共用部分等をそれぞれの通常の用法に従って使用しなければならないとされている。
 なお、本件規約及び使用細則が施行されるまでは、本件マンションには、組合規約その他は存在していなかった。
 3 被告は、昭和50年12月ころ(時期については乙第五号証)、本件バルコニーに工事費約8万円で、本件マンション604号室(本件建物)の住居部分から約85センチメートルの箇所に高さ約40センチメートルのブロックを、長さ約510センチメートルに渡って積み、その上に高さ約132センチメートル、幅約85センチメートルのアルミサッシのガラス戸6枚を設置し、上ガラス戸と居室との間に木製の合板を張り、天井部分には、ベニヤ板を張った(本件工作物)。
 二 争点
 1(本件バルコニーが法定共用部分であるか否か。)
 (原告の主張)
 (1) 本件バルコニーは、管理規約の規定の如何を問わず、当然に全組合員の共有に属する法定共用部分である。すなわち、本件バルコニーは、被告の工作物設置前においては、外界との仕切壁は存在せず天井もなく、そのバルコニーの周囲にある壁は外壁となっている部分であることは明らかであるから、そもそも構造上の独立性がない。また、本件バルコニーは、住居等独立して建物としての用途として使えることはないので利用上の独立性もない(建物区分所有法1条、4条1項参照)。したがって、本件バルコニーはその要件を欠き、専有部分ということはできない。そして、本件バルコニーは、その周辺である三方を外壁で囲まれているものであり、建物全体が上階になるほどすぼんだ形となっているため、階下の5階部分の一部の屋上をも兼ねている。
 よって、本件バルコニーは、法定共用部分であり、自由な改築は許されない。
 (2) 本件建物をA株式会社(A)から購入した際に被告の義兄B(B)が昭和五〇年六月ころ取り交わした売買契約書の「物件の表示」においてバルコニーが専有部分として表示されているのは、当時専有部分と共用部分の区別が一般的に明確に区別されていなかったことから、本件バルコニーにつき「専用部分」とすべきところ、専用的に区分所有者が使用できるところを専有部分と表示し、その記載では不自然なためわざわざ住居部分とバルコニー部分を分けて記載したのである。また、そもそも法定共用部分については、専有部分にする方法はないのであるから、契約書に専有部分としての表示があってもそれは問題とならない。
 (被告の反論)
 (1) 前記Bが昭和50年6月ころAから本件建物を買い受け、被告は、昭和61年1月26日、上Bから本件建物を贈与により取得し、贈与を原因とする所有権移転登記を経由した。被告は、本件建物を買い受けた際、本件バルコニーを専有部分として買い受けており、被告には、本件工作物を撤去する義務はない。
 (2) そもそもベランダ又はバルコニーを共用又は共有とする実益は、一般にマンションのベランダやバルコニーの隣接部分の仕切が構造上接合しており、簡易な薄いボードで仕切られていて破りやすく、緊急災害時に共同の避難通路として機能するからである。しかし、本件バルコニーは、隣接との境界は構造上幅約50センチメートルの厚い鉄筋コンクリートの擁壁になっており、緊急災害時の避難通路としては機能しない。したがって、共用又は共有とする実益はない。かえって、本件バルコニーを共用又は共有とする場合、区分所有者が自由に往来できることとなり、被告のプライバシーの侵害ともなる。
 2(本件バルコニーが本件規約及び使用細則によって共用部分となったか。)
 (原告の主張)
 (1) 本件バルコニーは、本件マンションの共用部分に属するものであり(本件規約8条及び別表2第1項)、区分所有者の共有に属し(本件規約9条)その管理は、原告が行うものである。被告には、バルコニーの専用使用権しか与えられておらず(本件規約14条)、被告の本件工作物設置行為は、「共用部分を通常の用法に従って使用しなければならない。」とした本件規約13条に違反する。
 (2) 仮に、本件規約が被告の権利に特別の影響を与えるとしても、原告は、被告に対し、本件規約設定前から、被告の本件工作物設置行為は、区分所有者の共同の利益に反する行為であるとしてその撤去を求めていたから、被告は、本件規約の設定によって自己の権利の受ける影響を十分に認識して平成元年4月27日の臨時総会に出席し、本件規約を承認したといえる。よって、同法31条1項後段の「承諾」があった。
 (被告の反論)
 (1) 法律不遡及の原則
 被告が本件バルコニーに本件工作物を設置した昭和50年9月ころ、上の設置行為を禁止する管理規約及び使用細則は存在せず、本件規約及び使用細則の効力が発生したのは、その13年後の平成元年7月1日であるから、本件規約及び使用細則は、被告に遡及してその既得権を侵害することはできない。
 (2) 原告の本件規約の解釈・適用の誤り
  ア 被告は、本件建物購入時において本件バルコニーを専有部分として買い受けているから、原告主張の「共用部分」でもなければ、「共有部分」でもない。よって、本件規約13条は、適用がない。
  イ また、本件規約8条及び別表2第1項では、専有部分にあたるバルコニーは除外されると解すべきであるから、専有部分である本件バルコニーは除外され、共用部分ではない。
  ウ 本件バルコニーは、上のように共用部分ではないから本件規約9条により区分所有者全員の共有に属さない。
 (3) 前記1の(被告の反論)の(2)において主張したように、本件バルコニーを共用部分ないし区分所有者の共有とする実益が存在しない。
 (4) 建物区分所有法31条1項後段の「承諾」の不存在
 仮に、本件規約が被告に適用されるとしても、原告は、被告に対し、本件規約及び使用細則の制定により被告が本件工作物を撤去しなければならなくなるという事前の説明をせず、また、その点に関する被告の諾否を求めることもしなかった。被告は、平成元年4月27日の臨時総会に出席していないので、本件規約及び使用細則について賛否の意見を述べる機会もなかった。よって、被告は、同法31条1項後段の「承諾」をしていない。
 (5) 権利濫用、信義則違反
 仮に、本件規約及び使用細則上、原告に、被告の設置した本件工作物の撤去請求権が認められるとしても、被告が本件建物を取得後10数年を経過してから突如本件工作物の撤去を求めることは、権利の濫用であり、信義誠実の原則に反する。
 3(被告の本件工作物設置行為は、バルコニーの使用方法上の制約に反するか。)
(原告の主張)
 仮に、本件バルコニーが被告の専有部分であるとしても、被告が本件バルコニーを自由勝手に使用できるものではなく、単にバルコニーとしての機能及び効能を自由に使用できるだけのもので、バルコニー以外には使用しないという使用方法上の制約が存在する。
 すなわち、バルコニーの改築を禁止する第一の理由は、組合員が自由に改築することになれば、マンション全体の統一的な美観を害することにある。本件において、バルコニーの改築をしているのは被告のみであって、他との調和を欠き美観を損なうものである。マンションの美観は、住民が審美的満足を得るという点で重要であるばかりでなく、マンションの価値を維持存続させる点で経済的に多大の影響があり、組合員全体のためその保持を図る必要がある。
 第二の理由として、鉄筋コンクリート造りのバルコニーにおいては、一定限度以上の重量が加わるとバルコニーの存立に危険を及ぼすおそれがあるため改築に伴う加重を防止する必要があることがあげられる。この点、本件バルコニーは、アルミサッシ、ブロック、コンクリート、ガラス戸等で構成され、内部には、書籍で一杯となった本棚、洗濯機、衣類等が置かれ、これらの重さを考えるとバルコニーの存立に危険を及ぼすおそれが十分にある。
 また、第三の理由として、バルコニーを居住者の共用避難通路として確保する必要がある。本件バルコニーは、ある程度の力を加えると突き破れるような仕切板で区切られるという構造にはなっていないが、非常の場合には、隣家から避難してくることは可能な構造であり、全く共用避難通路としての意味をもっていないというわけではないのである。したがって、緊急時における避難通路としての状態をも保持する必要性がある。
 (被告の反論)
 被告の本件工作物設置行為は、建物の外観上美観を損なっておらず、調和を保っている。また、本件バルコニーは、隣室との境界が構造上幅約50センチメートルの厚い鉄筋コンクリートの擁壁になっており、緊急時の避難通路としては機能しない。
 4(本件工作物設置行為は、信義則に反するか。)
 (原告の主張)
 仮に、本件バルコニーが専有部分に属するにしても、その自由な改築が許されないことは明らかであるとともに、本件のようなマンションにおいてはその自己の区分所有に属する住宅自体についても住民全体のためその所有権の行使は、幾多の点において制約され個人の自由は著しく制限されているのであって、自治規則の支配する部分的地域社会に自ら身を投じた以上は当然その拘束を受けるものであって、この拘束を受けないでマンションで生活することは許されないのである。
 本件マンション全体の改修工事の際、その工事費の負担につき被告は、原告が主張している39.15平方メートルという専有部分であることを了解してその部分の割合でのみ工事費を負担している。すなわち、被告は、自己の利害に応じて専有部分を多く主張したり少なく主張したりという矛盾した態度をとっている。このように被告は、共同生活において自分勝手な振る舞いをしており、本件工作物も自分に便利だから壊さないと主張しているに過ぎない。このような被告の工作物設置行為は、マンションという共同生活において許されず、信義則違反というべきである。
 (被告の反論)
 本件バルコニーは、本件マンションの共用部分に属するものであり(本件規約8条及び別表2第1項)、区分所有者の共有に属し(本件規約9条)その管理は、原告が行うものである。被告には、バルコニーの専用使用権しか与えられておらず(本件規約14条)、被告の本件工作物設置行為は、「共用部分を通常の用法に従って使用しなければならない。」とした本件規約13条に違反するとして、平成元年4月27日に作成された、本件規約を根拠に、本件工作物の撤去を求める原告の主張こそ、信義則に反し、権利の濫用というべきである。
第三 争点に対する判断
 一 前記争いのない事実及び《証拠略》によれば、次の事実が認定できる。
 1 Bは、Aから、昭和50年6月14日、本件建物を代金1,380万円で購入した。その際売買契約書の物件の表示には専有部分として、A住居部分、Bバルコニー(本件バルコニー)と記載されていた。他方、本件マンションの販売パンフレットでは、本件バルコニーは専有面積から除かれていた。
 2 昭和50年9月ころ、Bと被告は、本件建物について使用貸借契約を結び、被告が1人で本件建物に居住するようになった。被告は、Bに対し、同年11月ころ、バルコニーのガラス戸から風や音が入り込むこと、また、バルコニーが北側で寒いことから、防風防寒のため工事してくれるように本件マンションの建設業者であるC株式会社(C)に依頼するように頼んだ。しかし、Cは費用がかかるので上依頼に応じることができない旨の回答を被告にした。そこで被告は、昭和50年12月ころ、自分の費用で本件工作物を設置した。
 3 上Bは、被告に対し、昭和60年1月29日、本件建物を贈与し、被告は、同日所有権移転登記を受けた。
 4 平成元年3月23日の理事会において、原告が本件マンションの管理を委託していた株式会社D・管理(D・管理)のEの報告に基づき、共用部分の無断使用の調査を開始し、無断使用者の理解を得て円満に解決していこうと話合いがまとまった。この時点では、被告が本件バルコニーに本件工作物を設置していることは理事会には知られていなかった。
 5 被告は、平成元年4月27日の原告の臨時総会以前に、管理組合(原告)を結成するという事前の通知を受けたことはなかった。被告は、上臨時総会に遅れて出席した。
 6 D・管理は、上4の調査の結果、被告が本件バルコニーに本件工作物を設置していることが判明したので、原告の委託を受けて、被告に対し、平成元年6月16日付の手紙で、本件規約に基づき本件工作物を撤去するよう求めた。それ以後、原告から委託を受けたD・管理は、被告に対し、本件工作物の撤去に関して話合いの機会を持つため再三理事会への出席を要請し、円満に解決しようと努力したが、被告は、忙しいことを口実にしたり、電話番号を変えたり、また、必ず出席すると約束しても理由不明のまま欠席したりしてなかなか話合いに応じなかった。その間、被告は、平成元年8月24日ころ、理事会に対し、本件工作物を取り壊したくないのでできるならば金銭的解決を図りたい、もし、取り壊す場合は原告の方でやってもらいたいという意見を表明した。これに対して理事会では、金銭的解決に応じる考えはなく、あくまで撤去を求める方針を採ることにし、平成2年11月29日、被告に対し、撤去するまでの間本件規約に対する違約金として毎月金5万円を支払ってもらうことを決定した。そして、被告は、平成2年12月13日の理事会に初めて出席し、原告側の本件工作物の撤去の要請に対し、「売るときには上工作物を撤去するが、居住している限りは撤去しない。金銭的解決を図ってもらいたい。」旨の意見を述べるにとどまった。
 7 平成3年2月21日、原告の通常総会において、被告から本件工作物の撤去に関して何ら誠意ある回答を得られない旨の理事会報告がなされ、やむをえず法的措置によって撤去するという方向で総会決議がなされ、同年6月4日、理事会において、正式に裁判所へ提訴することが決定された。
 8 平成3年3月上旬ころ、原告が、被告に対し、バルコニーの使用料として1か月金5万円を支払ってもらうよう原告の理事会で決まったから支払うように、それが大変だったらガラス戸を取り外すように申し入れたところ、被告は、上申入れを拒絶した。さらに同年3月中旬ころ、原告は、被告に対し、同年4月ころまでに本件工作物を撤去することを求める通知書と題する書面を差し出し、バルコニーの使用料として金5万円を支払うように再度求めた。
 9 平成元年秋ころ行われた本件マンション全体の改修工事において、被告は、本件バルコニーを除いた39.15平方メートルの専有面積を基準として工事費用を負担した。
 10 本件バルコニーの両側は、厚さ約50センチメートルの壁で仕切られており、突き破って隣家へ通ずることができない構造になっている。また、本件バルコニーには、コンクリートの床及び天井がある。被告は、本件工作物の居室側の一部に本棚を備え付け、同工作物の内部を物置として利用し、洗濯機、衣類等を置いている。
 二 検討
 1 争点1(本件バルコニーが法定共用部分であるか否か。)について
 (1) 専有部分といえるには、1棟の建物のうちの構造上区分された部分であること(構造上の独立性)と独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものであること(利用上の独立性)が必要である(建物区分所有法1条)ところ、本件バルコニーについて検討するに、被告が物置として利用していることから利用上の独立性の点はともかく、構造上の独立性という点において、今日の考え方からすると専有部分とはいい難い面がある。
 (2) しかし、本件建物が売買された昭和50年当時には、まだ専有部分と共用部分との区別が必ずしも確立しておらず、その区分もあいまいであったといわざるを得ない上、前記一の1認定のとおり、本件マンションの販売パンフレットでは、本件バルコニーは専有面積から除かれているが、売買契約書の物件の表示には専有部分と表示されていたことから、昭和50年6月14日のAとB間の売買契約において、本件バルコニーは、専有部分として売買されたといわざるを得ず、本件バルコニーは専有部分といわざるを得ない。なお、本件バルコニーが本件規約により共用部分となったと解することもできないことは、後記2のとおりである。
 (3) したがって、本件バルコニーが共用部分に属することを前提とし、本件工作物の撤去を求める原告の請求は理由がない。
 2 争点2(本件バルコニーが本件規約及び使用細則によって共用部分となったか。)について
 以上のように、本件バルコニーが専有部分であるとして本件規約によって共用部分となり、被告の本件工作物設置行為は本件規約13条に反するか。
 この点、本件マンションに、平成元年4月27日以前に管理規約等が存在しなかったことは当事者間に争いがないから、法律不遡及の原則により本件規約は被告の本件工作物設置行為には適用されない。
 そこで次に、被告が、建物区分所有法31条1項後段の「承諾」をしたと認められるかを検討するに、前記一の4及び6において認定したとおり、平成元年3月23日まで被告の本件工作物設置行為は理事会に知られていなかったこと、被告に対して正式に撤去が求められたのは同年6月16日であり本件規約が承認された後であることからすると、原告は、被告に対し、本件規約の制定により本件工作物を撤去しなければならなくなることを事前に説明しておらず、法31条1項後段の「承諾」があったとは認められない。
 3 争点3(被告の本件工作物設置行為は、バルコニーの使用方法上の制約に反するか。)について
 前記1のとおり本件バルコニーは、被告の専有部分といわざるを得ないが、集合住宅であるマンションにおいては、その自己の区分所有に属する専有部分についても組合員全員のために所有権の行使は制約されており、バルコニーについては、建物全体の美観、バルコニーの存立の安全確保及び共用避難通路の確保等の点において制約されているというべきである(同法6条参照)ことは、原告主張のとおりである。
 そこで、上の点を検討するに、まず、建物全体の美観の点であるが、原告が主張するようにもともとマンションの美観はそこに住む組合員一人一人が日常生活をする上において審美的満足を得るという点で重要であるばかりでなく、統一美が保持されているか否かは建物の価値を維持存続させる点で経済的に多大の影響を及ぼすものであることを考えると組合員全員のためにその保持を図る必要がある。しかし、各人各様の意見があると思われるが、少なくとも被告の設置した本件工作物は、一見して本件マンションの美観を損ねるとまではいえない。
 次に、バルコニーの存立の安全確保の点であるが、被告の設置した本件工作物は、前記争いのない事案3及び前記一の10のとおりの構造、利用方法であり、上工作物そのものによって、本件バルコニーの存立に直ちに危険を及ぼすと認めるに足りる証拠はない。
 また、共用避難通路の点についてであるが、上一の10において認定したように、本件バルコニーは、軽い力で容易に突き破ることのできる仕切板で区切られるという構造ではなく、隣家からの共用避難通路であることを当初から予想していない。もっとも、被告の設置した本件工作物とバルコニーの障壁との間には空間があるからそれを避難通路として利用できなくはない。
 そして、何よりも、本件に被告が本件工作物を設置したのが昭和50年11月ころであるのに対して、本件マンションの理事会が本件工作物の存在を知ったのが平成元年3月以降でありそれまでは問題とされていなかったこと及び原告が被告に対して初めて撤去を求めたのは同年6月ころであり被告の設置行為から約14年も経っているという前記一の2、4及び6認定の特別の事情が存在する。したがって、上の特別の事情と本項のその他の各事情とを考え併せると、今更、被告に本件工作物を撤去させることはできないといわざるを得ない。
 4 争点4(本件工作物設置行為は、信義則に反するか。)について
 被告が、本件訴訟において本件バルコニーを専有部分として主張し、本件マンションの改修工事費用の負担については本件バルコニーを除いて負担したこと及び被告が原告からの再三の撤去の要求にもかかわらずそれに応じなかったことは、前記一の6ないし9のとおりであって、マンションにおける共同生活という点からみた場合自分勝手で自己中心的な行動と評されても仕方がないが、直ちに信義則違反とまではいえない。
 三 結論
 以上の事実によれば、本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民訴法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 宮ア公男)

 別紙 物件目録
東京都○○○区《番地略》
Xの内6階604号室39.15平方メートルに付設されているバルコニー11.58平方メートル





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