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マンション管理関係判例



bR3 
 専有部分性/管理人室


平成 1年10月19日 判時1355-102 東京地判

関連条文 区分所有法2条4条、不動産登記法25条ノ2 4章5節、民法177条


判決要旨
@ マンションの管理室(27.21u)、自家発電室及び電気室等が法定共用部分と認められた事例/A 専有部分としての表示登記及び所有権保存登記が了された建物部分の全部又は一部が法定共用部分に該当する場合の右各登記の訂正方法


判決日・当事者
建物所有権保存登記抹消登記等請求事件、東京地裁昭54(ワ)9036号、平元・10・19民37部判決、一部認容(控訴)
《当事者》
原  告 X1
     〈ほか6名〉
右7名訴訟代理人弁護士
     阿 部 隆 彦
右訴訟復代理人弁護士
     北 沢   豪
被  告 株式会社Y1
Y代表者代表取締役
     〈ほか1名〉
上両名訴訟代理人弁護士
     渡 部 喜十郎
同    谷 口 茂 榮
同    八 戸 孝 彦
同    塩 川 治 郎
上訴訟復代理人弁護士
     石 川 せつ子


【主文】 一 被告株式会社Y1は、原告らに対し、
 1 別紙物件目録(一)の1の物件につき、東京法務局港出張所昭和40年7月28日受付第11338号の所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。
 2 別紙物件目録(一)の2の物件につき、同出張所昭和40年6月19日付表示登記の「床面積」欄に「71.13平方メートル」とあるのを「32.18平方メートル」とする旨の更正登記手続をせよ。
 3 別紙物件目録(一)の3の物件につき、同出張所昭和40年6月19日付表示登記の「床面積」欄に「21.78平方メートル」とあるのを「16.90平方メートル」とする旨の更正登記手続をせよ。
 4 別紙物件目録(一)の7の物件につき、同出張所昭和54年6月13日付表示登記の「構造」欄に「2階建」とあるのを「1階建」とし、「床面積」欄に「地下4階部分 153.10平方メートル」とある部分を削除する旨の更正登記手続をせよ。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、原告らに生じた費用の10分の1と被告株式会社Y1に生じた費用の5分の1を被告株式会社Y1の負担とし、原告らに生じたその余の費用、被告株式会社Y1に生じたその余の費用及び被告株式会社Y2に生じた費用を原告らの負担とする。


【事実】 第一 当事者の求めた裁判
 一 請求の趣旨
(主位的請求)
 1 被告株式会社Y1(以下「被告Y1」という。)は、原告らに対し、
  (一) 別紙1物件目録(以下「物件目録」という。)(一)1ないし4の各物件につき東京法務局港出張所昭和40年6月19日付表示登記及び同年7月28日受付第11338号の所有権保存登記
  (二) 別件目録(一)5の物件につき同出張所同年7月19日付表示登記及び同出張所昭和52年9月16日受付第21068号の所有権保存登記
  (三) 物件目録(一)6ないし8の各物件につき同出張所昭和54年6月13日付表示登記及び同出張所昭和40年7月28日受付第11338号の所有権保存登記の各抹消登記手続をせよ。
 2 被告らは、各自、原告らに対し、物件目録(二)の各建物を明け渡せ。
 3 訴訟費用は被告らの負担とする。
(予備的請求)
 1 被告Y1は、物件目録(一)1ないし8の各物件(以下「本件建物」という。)につき、
  (一) 原告X2に対し、昭和39年9月30日付売買を原因とする持分99,794分の2,463
  (二) 原告X3に対し、昭和41年3月10日付売買を原因とする持分99,794分の3,675
  (三) 原告X4に対し、昭和40年12月26日付売買を原因とする持分99,794分の912
  (四) 原告X5に対し、昭和44年11月30日付交換を原因とする持分99,794分の1,550
  (五) 原告X6に対し、昭和39年8月29日付売買を原因とする持分99,794分の912の各所有権持分一部移転登記手続をせよ。
 2 被告らは、各自、上原告らに対し、物件目録(二)の各建物を明け渡せ。
 3 訴訟費用は被告らの負担とする。
 二 請求の趣旨に対する答弁
(本案前の答弁)
 1 原告らの主位的請求中表示登記の抹消登記手続請求にかかる訴えを却下する。
 2 訴訟費用は原告らの負担とする。
(本案の答弁)
 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の事実主張
 一 請求原因
 1 原告らは、肩書住所地にある物件目録(一)の地上8階地下2階建分譲マンション「A」(以下「A」という。)にそれぞれ区分所有建物を所有している。上区分所有建物取得の時期、原因等は別紙2のとおりである。
 なお、Aは、各階に廊閣があるため不動産登記簿上は地上17階、地下4階とされている。
 2 被告Y1は、昭和39年11月にAの建築工事を完成し、分譲マンションとして売却したが、本件訴訟の目的物件以外の区分建物を一部所有し、現在に至っている。
 当時、被告Y1は、株式会社Y2の商号を使用していたが、昭和52年9月17日に現商号に商号変更した。
 3 被告抹式会社Y2(以下「被告Y2」という。)は、前記旧Y2が商号変更した際、○○区から本店移転し、被告両名の本店所在地が同一となった。
 4 被告Y1は、本件建物について、東京法務局港出張所において別紙3のとおり所有権保存登記及び表示登記を経由し、不動産登記簿上本件建物の区分所有者である。
 5 被告両名は、別紙物件目録(二)の建物を現に占有している。
 6 次のとおり、本件建物のうち、物件目録(一)の1、5、6の各物件は全部が法定共用部分であり、2、3、4、7、8の各物件はそれぞれ一部が法定共用部分であり、その余は約定による共用部分である。
  (一) 物件目録(一)の1の物件
 これは、2階の管理室(室名は通称であり、階層は登記簿上の表示とは異なることがある。以下同様。)であり、警報器、通報施設等が設置され、管理人がここに常駐し、Aの管理、外来者の応接、不審者の発見、郵便物の保管等にあたっている。上管理室に設置された設備はいずれもA全体のために共用されるべきものであり、Aの区分所有者全員の居住等のために必要不可欠のものである。そして、上管理室に立ち入らなければこれらの操作はできず、上設備を他の箇所に移転することは極めて困難である。しかも、Aは住居のみでも94戸に及ぶ大規模なものであり、管理室は不可欠である。したがって、上管理室は法定共用部分にあたる。
  (二) 物件目録(一)の2の物件
 上物件のうち、別紙5の一の部分(地下1階倉庫3室)は約定による共用部分であり、区分所有法上の専有部分にあたるが、その余の部分(自家発電室、バッテリー室)はいずれも法定共用部分である。即ち、緊急時にAに電気を供給するための施設であり、いわゆる機械室、電機室にあたる。この種のものは建物全体の維持管理に必要不可欠のものであり、他の用途に使用することは考えられないため、利用上の独立性が認められず、法定共用部分にあたる。
  (三) 物件目録(一)の3の物件
 上物件のうち、別紙5の二の部分(5階6号倉庫)は約定による共用部分であり、区分所有法上の専有部分にあたるが、その余の部分(5階メーター室)はいずれも法定共用部分である。即ち、狭隘な空間に給水、給湯用のパイプ、バルブ、メーター等が配置された純然たる機械室であって、(二)と同様に法定共用部分にあたる。
  (四) 物件目録(一)の4の物件
 上物件のうち、別紙5の三の部分(1階ゲストルーム5室、茶室)は約定による共用部分であり、区分所有法上の専有部分にあたるが、その余の部分(廊下、階段室)はいずれも法定共用部分である。
  (五) 物件目録(一)の5の物件
 これは、地下1階の駐車場であるが、構造上の独立性、利用上の独立性のいずれをも欠くから、法定共用部分である。
  (1) 本件駐車場は、Aの敷地部分とそのまま連続しており、その間になんら境界が
ない。したがって、駐車場に構造上の独立性に関する「建物の構成部分である隔壁、階層等により、独立した物的支配に適する程度に他の部分と遮断され、その範囲が明確であること」との要件(裁判昭和52年6月18日民集35巻4号798頁)を欠く。
  (2) 本件駐車場には、天井全面に排水管、配電設備が設置されているが、この点検、補修のため、管理者が常時これを監視する必要があるから、本件駐車場へ自由に立ち入ることが、できなければならない。また、本件駐車場の3箇所には消火設備が設置され、(二)の自家発電室、バッテリー室への出入りは本件駐車場を通らなければならないから、これらの設備の利用、管理にも本件駐車場の自由な利用が不可欠である。即ち、Aの区分所有者らに上共用設備の十分な利用、管理を認めようとすれば、本件駐車場の排他的支配は著しく制限され、反面、このような排他的使用がなされると、本件駐車場内のあるいはこれに隣接する共用設備等の保存、利用は著しく影響を受ける。したがって、本件駐車場は利用上の独立性を欠く。
  (六) 物件目録(一)の6の物件
 上物件は1階事務所と機材室であるが、このうち事務所は、(一)の2階管理室と内部の専用階段で結ばれ、一体となったものであり、(一)と同様の機能を有するから、利用上の独立性を欠いており、また、機材室も1階事務所、2階管理室と一体となったものであり、仮にそうでないとしても、A全体のための電話交換器設置のための機械室であり、(二)と同様の理由により法定共用部分である。
  (七) 物件目録(一)の7の物件
 上物件のうち、別紙5の四部分(地下1階トランクルーム)は約定による共用部分であり、区分所有法上の専有部分にあたるが、その余の部分(地下2階電気室、休息室、倉庫2室)はいずれも法定共用部分である。即ち、電気室には、A全体のための変電設備、配電盤が設置されており、いわゆる電機室にあたる。
  (八) 物件目録(一)の8の物件
 上物件のうち、別紙5の五の部分(2階ゲストルーム5室)は約定による共用部分であり、区分所有法上の専有部分にあたるが、その余の部分(1階ロビー、2階ウェイティングルーム、2階大ホール、廊下)はいずれも法定共用部分である。即ち、2階大ホールは、Aの全区分所有者の会合、冠婚葬祭等の用に供するためのものであって、一区分所有者の排他的使用を認めたのではその存在意義が失われるから、利用上の独立性を欠き、法定共用部分にあたる。1階ロビー、2階ウェイティングルームは、いずれも廊下の一種であるから、構造上、利用上の独立性を欠き、法定共用部分にあたる。
 よって、原告らは主位的請求として、被告Y1に対し、本件建物について経由されている表示登記及び保存登記の抹消登記手続を、被告両名に対し、物件目録(二)の各建物の明渡を求める。
 なお、上の表示登記は約定による共用部分については誤りとはいえないが、法定共用部分をも取り込む形で不可分的になされており、そのような場合は表示登記の全部につき抹消登記手続を認めるべきである(これを認容しても、専有部分については改めて所有者らが表示登記手続をすればすむのに対し、これを認めないと、区分所有者が法定共用部分についての表示登記を抹消して共有持分に対する妨害を排除する機会を奪うことになる。)。
 7 仮に、本件建物のすべてが区分所有法上の専有部分に当たるとしても、被告Y1は原告ら(原告X1及び原告X7を除く)に対し、別紙4のとおりの時期に請求の趣旨のとおりの持分割合で本件建物の共有持分を移転する旨約した。
 よって、予備的請求として、上原告らは、被告Y1に対し、上各所有権持分の移転登記手続を、被告両名に対し、物件目録(二)の各建物の明渡を求める。
 二 請求原因に対する認否
 1 請求原因1ないし5は認める。
 2 同6の冒頭の事実は否認する。
  (一) 同(一)の事実中、受付管理室に火災受信機等が設置されていることは認めるが、その余の事実は否認する。上設備は受付管理室のわずかの部分を占めるにすぎず、これらの設備の存在は被告Y1が受付管理室を排他的に使用するのになんらの障害となるものではない。また、上火災受信機等が受付管理室に設置されなければならない必然性はなく、他の共用部分に容易に移設することが可能である。さらに、受付管理室自体が全区分所有者にとって絶対不可欠なものとはいえない。よって、法定共用部分とはいえない。
  (二) 同(二)の事実は否認する。自家発電設備は全区分所有者にとって絶対不可欠の設備とはいえないし、本件自家発電設備は、被告Y1が区分所有者の利便を考慮して設置したものにすぎず、被告Y1が留保したが、スペースを区分所有者の利便のために提供しているにすぎない。よって、自家発電室、バッテリー室は法定共用部分ではない。
  (三) 同(三)の事実は否認する。原告ら主張のメーター等は本件メーター室以外に設置することができないというものではなく、他の共用部分等に容易に移設しうるものであるから、本件メーター室は利用上の独立性を有する。よって、法定共用部分ではない。
  (四) 同(四)の事実は否認する。1階階段室等は法定共用部分ではない。
  (五) 同(五)の事実中、本件駐車場の天井に露出した配管があること、一部の柱に消火設備があること、本件駐車場内に自家発電室、バッテリー室への出入口があることは認めるが、その余は否認する。本件駐車場は構造上、利用上完全に独立している。
  (1) 本件駐車場は北側の一部は柱と柱の間が解放されているが、その余の周囲は全て壁によって遮蔽されており、また上部は、南側の一部に採光のための波型プラスチック板が設置されているほかは全て天井によって画されているから、その範囲は、これら壁、天井、柱等により他の部分と明確に区分されている。
  (2) 原告主張の設備等の存在は被告Y1が本件駐車場を駐車場として使用するについてなんらの障害となるものではなく、かつ、被告Y1が本件駐車場を駐車場として使用することによって他の区分所有者が上設備を利用できなくなることは全くないから本件駐車場が利用上の独立性を有することは明らかである。
  (3) なお、A分譲に際しては、被告Y1が本件駐車場の所有権を留保し、希望者に対して駐車場として賃貸するものであることが明示されていた。したがって、原告らも本件駐車場は被告Y1が所有権を留保した専有部分であることを十分承知しており、上駐車場使用規則に基づいて被告Y1に賃料を支払って本件駐車場を使用してきたのである。
  (六) 同(六)の事実は否認する。1階事務所、機材室は構造上も利用上も完全に独立している。即ち、(一)で述べたとおり2階受付管理室自体が法定共用部分ではない。のみならず、2階受付管理室と1階事務所とは階層も異なるとともにそれぞれ出入口があり、両者を結ぶ階段もごくわずかな部分にすぎず、容易に遮蔽しうるものであって、両者は構造上それぞれに独立性を有するものである。また、本件事務所及び機材室自体当初から被告Y1がAにおける各種の営業活動又は事業活動を行うために使用することを予定され、分譲に際しても被告Y1が所有権を留保した専有部分であることが明示されていたもので、現に被告Y1の事務所として使用してきた。なお、機材室内の電話交換器は当初事務処理の都合上たまたま機材室内に設置したが、その後、各区分所有者は直接受信するようになり、全く使用されなくなり、機材室は事務所とともに被告Y1の事務所として使用されてきた。よって、法定共用部分とはいえない。
  (七) 同(七)の事実は否認する。マンション等の電力供給については各区分所有者が東京電力から直接受電する方法と、サプライ会社がいったん高圧で一般より安価に一括受電した後変圧したうえで各戸に配電する方法とがあるが、Aは後者の場合であり、本件変電設備は被告Y1が通産大臣から工事計画の認可を受けて設置した自家用電気工作物である。上認可に際しては同被告が電気室を所有することが条件とされている。よって、法定共用部分となる余地はない。
  (八) 同(八)の事実は否認する。
  (1) 1階ロビーは、ウェイティングルームに通じる階段及び1階事務所前の廊下に通じる階段を除いて、その他は全て壁、扉及び窓等によって遮蔽されており、その範囲はこれらにより他の部分とは明確に区分されているのであって、完全に構造上の独立性を有する。
  (2) 2階大ホール、ウェイティングルームは、分譲当初から被告Y1がその所有権を留保し、希望者に対して有料で使用させるものであることが明示されていたものである。また、ウェイティングルームは大ホール専用の出入口兼待合室となっているものであり、ロビーとは専用階段で結ばれているものの、その他は全て壁、扉及び窓等によって遮蔽されており、その範囲はこれらにより他の部分とは明確に区分されているから、完全に構造上の独立性を有するものである。
 なお、原告ら自身が法定共用部分でないと認めている部分について表示登記の抹消を請求しえないことはいうまでもない。
 7 同7の事実は争う。
第三 証拠《略》


【理由】 一 請求原因1ないし5については当事者間に争いがない。
 二 原告らは、主位的請求の1について、本件建物のうち物件目録(一)の1、5、6の各物件の全部及び2、3、4、7、8の各物件のそれぞれ一部が法定共用部分であると主張する。
 ところで、一棟の建物のうち構造上他の部分と区分され、それ自体として独立の建物としての用途に供することができるような外形を有する建物部分は、そのうちの一部に他の区分所有者らの共用に供される設備が設置され、そのような共用設備の設置場所としての意味ないし機能を一部帯有しているようなものであっても、上の共用設備が当該建物部分の小部分を占めるにとどまり、その余の部分をもって独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができ、かつ、他の区分所有者らによる上共用設備の利用、管理によって上の排他的使用に格別の制限ないし障害を生ずることがなく、反面、かかる使用によって共用設備の保存及び他の区分所有者らによる利用に影響を及ぼすこともない場合には、なお建物の区分所有等に関する法律にいう建物の専有部分として区分所有権の目的となりうるものと解するのが相当である(最高裁昭和56年6月18日第1小法廷判決・民集35巻4号798頁等参照)。そこで、この観点から原告らの主張について判断することとする。
 《証拠略》を総合すれば、次の各事実を認めることができる。
 1 物件目録(一)の1の物件
 上物件は、2階(登記簿上1階)のいわゆる管理室であるが、四方がコンクリートあるいはガラスの隔壁等で囲まれており、また階層も、床面に1階の事務所との間の内部階段に通じる開口部があるほかは、明確に区分されており、全体として構造上の独立性を有するものということがきる。
 しかしながら、(1)本件物件は、Aの玄関脇に位置し、前面の壁面はガラスでできており、その一部に窓口が設けられていて、外部からAの構内への人や車の出入りないし建物内への人の出入りを監視し、あるいはAへの訪問者の応対をし易い構造となっていること、(2)内玄関側の壁面の一部には郵便物受箱が付設され、室内には火災報知器、ガス警報器、館内放送設備等が設置されていること、(3)床面積は27.21平方メートルにすぎず、全体が居住部分のない事務所の形態をしていることが認められる。以上の位置関係及び構造に照らすと、本件物件は、Aの管理の用に供するために設置されたものであることが明らかである。そして、現にA完成以来一貫して管理事務所として使用されてきたのである。しかも、Aが94戸という多数の住戸を有する大型の集合住宅であることを考慮すれば、本件物件は、受付管理室として全区分所有者にとって不可欠なものということができる。したがって、本件物件は、利用上の独立性を欠き、法定共用部分にあたるものというべきである。
 2 物件目録(一)の2の物件
 上物件は地下1階(登記簿上地下3階)のいわゆる倉庫3室と自家発電室、バッテリー室からなるが、いずれも、四方はドアの開口部を除きコンクリートの隔壁によって囲まれ、階層も明確に区分されているから、構造上の独立性を有することは明らかである。そして、上倉庫3室は収納場所としての性質に照らしても利用上の独立性があることは明らかである。しかし、自家発電室、バッテリー室はいずれも、自家発電装置の設置、保管のためのものであるが、上自家発電装置は緊急時に全区分所有者へ電気を供給するためのものであり、上各室は他の用途に使用することは予測しがたいから、いずれも利用上の独立性を欠くものというべきである。よって、上2室は法定共用部分にあたるというべきである。そうすると、本年物件のうち専有の対象となりうるのは上倉庫3室(床面積は、別紙5の一の1の部分8.325平方メートル、同2の部分13.875平方メートル、同3の部分10.080平方メートル、以上合計32.28平方メートル)のみとなる。
 3 物件目録(一)の3の物件
 上物件は、5階(登記簿上6階)のいわゆる6号倉庫とメーター室とからなるが、いずれも、四方はドアの開口部を除きコンクリートの隔壁によって囲まれ、階層も明確に区分されているから、構造上の独立性を有することは明らかである。そして、6号倉庫については収納場所としての性質上利用上の独立性があることは疑問の余地がない。しかし、メーター室は、狭隘な空間に共用設備である区分所有者らに対する給水、給湯用のパイプ、バルブ、メーター等が固定収納され純然たる機械室の趣を呈し、他の用途に使用することは予測しがたいから、利用上の独立性を欠くものというべきである。よって、上メーター室は法定共用部分にあたるというべきである。そうすると、本件物件のうち専有の対象となりうるのは上6号倉庫(床面積16.90平方メートル)のみとなる。
 4 物件目録(一)の4の物件
 上物件は、1階(登記簿上地下2階)のいわゆるゲストルーム5室、茶室、廊下及び階段室からなるが、これらは一体として四方はドアの開口部を除きコンクリートの隔壁等によって囲まれ、階層も一部階段室部分に開口部があるほかは明確に区分されており、全体として他の部分との区別は明確であるから、構造上の独立性を有するということができる。そして、これらの部分が区分所有者らにとって必要不可欠のものともいえないから(なお、上廊下、階段室は専ら上ゲストルーム、茶室への出入りの用に供される形態となっている。)、利用上の独立性があることも疑問の余地がない。したがって、本件物件は法定共用部分にあたらないというべきである。
 5 物件目録(一)の5の物件
 上物件は、地下1階(登記簿上地下3階)の駐車場であるが、東西に長いほぼ長方形をしており、うち東側と西側は一部ドアの開口部があるほかはコンクリートの隔壁となっている。南側は一部コンクリート隔壁があるほか、建物の躯体となる9本のコンクリート柱が境界を画する形となっており、柱と柱との間は開口部となっている(なお、上柱の南側に幅約3メートルの長方形のコンクリート床の空地があり、これが本件駐車場と一体として使用できる状況になっており、しかも上空地は三方をコンクリートの擁壁で囲まれ、柱と上擁壁との間の上部には波型プラスチック板が設置されている。)。北側も一部コンクリート隔壁があるほか大部分は南側と同様のコンクリート柱で外部との境界を画する形となっている。そして、階層は、コンクリートの天井及び床によって明確に区分されている。上のような状況のもとにおいては、本件駐車場は、全体として構造上の独立性を有するということができる。
  (二) 本件駐車場の天井の一部には共用設備である電力、給排水、給湯、空調等の露出の配管が設置され、一部の柱に消火設備が付設されており、これら設備の点検、補修等の必要性はあるが、しかし、そのために本件駐車場の使用に格別の障害が生じるとはいいがたく、他方、本件駐車場を駐車場として使用することによって区分所有者らが上設備を保存、利用するに格別の支障もないことも明らかである。また、原告らは庭園、ごみ置き場、自家発電室、焼却室に至る通路としての本件駐車場の必要性を主張するが、本件駐車場は構造上開口部の多い形態となっており、仮にこれを駐車場として使用したからといって上通路としての機能が果たせない訳ではなく、しかも、通路として使用することがあったとしても本件駐車場の全体からすれば、それに要する部分はごく一部に過ぎないことが明らかである。したがって、本件駐車場に利用上の独立性がないということはできない。
  (三) 以上のとおりであり、本件駐車場は法定共用部分にあたらないというべきである。
 6 物件目録(一)の6の物件
 上物件は1階(登記簿上地下2階)の事務所と機材室からなるが、四方はドアの開口部を除きコンクリート等の隔壁によって囲まれ、階層も事務所の天井の一部に2階受付管理室との間の開口部があるほかはコンクリートの天井及び床によって明確に区分されており(上開口部はごく一部にすぎない。)、全体としては構造上の独立性を有するものということができる。そして、上事務所が2階受付管理室と一体として使用しなければならない事情は認めがたいし、また、上機材室が区分所有者らに不可欠のものということはできないから(なお、ちなみに、機材室にはもともと電話交換器が設置されていたが、時代の趨勢とともに上交換器は全く使用されなくなった。)、いずれも、利用上の独立性がないとはいえない。したがって、法定共用部分にはあたらないというべきである。
 7 物件目録(一)の7の物件
 上物件は地下1階(登記簿上地下3階)のトランクルームと地下2階(登記簿上地下4階)の電気室、休息室、倉庫2室からなるが、トランク−ムとその余の部分のいずれも、それぞれ四方はドアの開口部等を除きコンクリートの隔壁によって囲まれ、階層も明確に区分されているから、構造上の独立性を有することは明らかである。そして、トランクルームについては共用の施設でなければならない理由はないから、利用上の独立性があることに疑問の余地がない(なお、トランクルーム内には共用設備である電力、消火栓のための配管等があるが、そのためにトランクルームの利用に支障が生じたり、逆にトランクルームの利用により上共用設備の保存等に影響が生じる等の事情は認めがたい。)、しかし、電気室、休息室、倉庫2室は一体として変電設備、ボイラー、空調・排水・揚水用のポンプ、受水槽等を設置、保管するためのものであるが、上設備は全区分所有者へ電気等を供給するためのものであり、上各室は他の用途に使用することは予測しがたいから、いずれも利用上の独立性を欠くものというべきである。なお、被告らは、上変電設備が被告Y1の所有であり、また、変電設備の工事計画の認可を受けるにあたっては同被告が電気室を所有することが条件とされていることを理由に、上電気室等は法定共用部分に当たらない旨主張するが、いずれも上各室が法定共用部分にあたるか否かの判断を左右する事情ということはできず、採用できない。よって、上地下2階の電気室等は一体として法定共用部分にあたるというべきである。
 8 物件目録(一)の8の物件
 上物件は2階(登記簿上1階)のゲストルーム5室、大ホール、廊下、2階(登記簿上2階)のウェイティングルーム及び1階(登記簿上地下1階)のロビーからなり、全体として複雑な形態をしているが、このうち1階ロビーを除く2階部分の四方は、ドアの開口部とウェイティングルーム部分において吹き抜けに向けて開口部があるほかは、全体としてコンクリート等の隔壁、窓等により囲まれ、その範囲は明確であり、階層についても、廊下及びウェイティングルームの床部分に階段の開口部があるほかはコンクリートの天井及び床によって明確に区分されているから、構造上の独立性があるということができる。また、1階ロビー部分も、四方は玄関ホールとの間に開口部があるほかは、コンクリート等の隔壁やガラス窓によって囲まれており、階層もコンクリートの天井及び床によって明確に区分されているから、構造上の独立性があるということができる。
 そこで、利用上の独立性の有無について検討するに、本件物件のうち1階ロビー部分を除くその余の部分(2階部分)には、建物の外部から直接出入りすることもできる構造となっており、その位置関係等からして他の区分所有者らがそれぞれの専有部分若しくは共用部分を使用するについて機能的に格別の支障が生じるわけではない。なお、原告らは大ホールは全区分所有者の会合、冠婚葬祭等の用に供するものであり、利用上の独立性を欠く旨主張するが、上のような会合等の場所が区分所有者らに必要不可欠のものということはできない。
 したがって、上部分について利用上の独立性がないとはいえない。また、1階ロビー部分は、玄関ホールから引き続く位置関係にあり、全区分所有者や来訪者の待合等に適していることは事実であるが、上のようなスペースが全区分所有者にとって不可欠のものということはできないし、しかも、上部分が各区分所有者においてそれぞれの専有部分若しくは共用部分を使用するについて格別の障害となるような状況もないのであるから、この部分についても利用上の独立性がないとはいえない。したがって、本件物件は全体として法定共用部分にあたらないというべきである。
 以上のとおり、本件建物のうち、物件目録(一)の1の2階受付管理室、物件目録(一)の2中の地下1階自家発電室及びバッテリー室、物件目録(一)の3中の5階メーター室、物件目録(一)の7中の地下2階電気室、休息室及び倉庫2室はいずれも法定共用部分というべきであり、この点についての原告らの主張は理由があるが、その余の部分についての主張は失当というべきである。
 ところで、独立の専有部分として表示登記とこれに伴う所有権保存登記がなされた建物部分の全部が法定共用部分にあたる場合、上各登記は抹消されるべきであるが、表示登記の抹消は、通常登記官に対し職権の発動を促すことにより実現可能であるから、保存登記の抹消のほかに表示登記の抹消を命ずる必要はないものと考えられる。しかし、上のような建物部分の一部が法定共用部分にあたる場合は、実体と齟齬する限度において表示登記を更正するのが相当であり、これにより目的を達しうるから保存登記に触れる必要はないこととなる。
 そうすると、原告らの主位的請求の1は、物件目録(一)の1の物件につき所有権保存登記を抹消し、物件目録(一)の2の物件につき表示登記の床面積を専有部分の面積32.28平方メートルに更正し、物件目録(一)の3の物件につき表示登記の床面積を専有部分の面積16.90平方メートルに更正し、物件目録(一)の7の物件につき表示登記の地下4階部分を抹消する旨に更正する限度において理由があり、これを認容すべきであるが(なお、原告らは、法定共用部分と専有部分とが混在する物件についても表示登記及び所有権保存登記の抹消登記手続を求めているが、上のような更正登記手続を求める趣旨をも含むものと解される。)、その余は失当として棄却すべきである。
 三 次に、原告らは、予備的請求の1について、被告Y1が原告らに対し、本件建物について区分所有者らの共有にする旨約したと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
 すなわち、前認定事実に、《証拠略》を総合すれば、次の各事実を認めることができる。
 1 前記争いない事実のとおり、Aは、被告Y1が昭和39年11月に建築を完成した高層集合住宅であり、そのころから本格的に分譲販売を開始し、昭和43年初めころまでに販売を完了したが、その販売の形態は、今日の多くの例のように売り主がその建物の全体を売却し、マンション売却による収益はマンション売却時点で定まるようなものとは異なっていたものである。即ち、被告Y1が建物の建築販売のほか観光事業その他の営業目的をも有する関係上、売り主たる被告Y1は、建物の全体を売却することなく、建物の一部を投資物件として所有権を自己に留保したうえ、それを自らの用に供したり、又は他の共有者らの使用に供して使用料を徴収し、それにより恒久的な収入を図ることを目的としていた。
 しかも、被告Y1は、建築にあたってかなり高級なマンションを建築して、高額所得者を対象として売却する考えであったものであり、現に完成当時、本件マンションは東京都内でも有数の高級マンションとして注目されたのである。
 被告Y1は、上のような目的のもと、分譲後におけるAの管理は被告Y1において営業として担当することとし、管理に必要な設備等は自らその所有権を留保したほか、将来において購入者等の利用により収益を得ることの可能な区分として留保すべき部分を決定し、分譲することにしたものである。
 このようなことから、被告Y1は、本件建物を自己所有建物として留保し、前記のように自己名義に保存登記を経由したものである。
 2 分譲前に購入者らに交付された被告Y1作成のパンフレットの中には、「完璧な設備」とのタイトルのもとに、駐車場、倉庫、茶室等がある旨記載されているものがあるが、しかし、上の記載もエレベーター、ダストシュート、ロビー等明らかに法定共用となるべき施設や逆にレストラン、クリーニング、美容室等明らかに誰かの専有部分となるべき施設と区別することなく並列的になされており、これをもって直ちに上駐車場等の設備を区分所有者らの共有にする旨意思表示したものとみることは困難である。また、被告Y1と原告X5との間に交わされた売買契約書の中には、買主の共用部分として物件目録(一)の1の物件を指すとみられる「守衛室」との記載があるが、しかし、共有との表現を使用しているわけではなく、所有権をも移転する趣旨であったとみることは到底できない。
 もっとも、被告Y1は、本件建物のうち2階受付管理室、地下1階自家発電室及びバッテリー室、物件目録(一)の3中の5階メーター室、地下2階機械設備室、1階ロビーについては分譲当初から区分所有者らの共用に供する意向であり、現に区分所有者らとのその後の折衝の過程においても被告Y1から規約共用にしてもよい旨の意思が表明されていた。しかしながら、それ以上に、被告Y1が自己名義とした物件について、その所有権を移転し、これを区分所有者らの共有にする旨約した事実を認めるに足りる証拠はない。
 3 原告X7、同X3は、被告Y1とAの会との間で昭和51年2月29日に敷地問題に関して成立した協定に至る折衝の過程で、《証拠略》に記載されなかった部分については被告Y1において所有権を主張しなかった事情があるとして、上部分については所有権を区分所有者らに移転する旨約したものであるかのごとく供述するが、しかし、具体的に物件を特定して区分所有者らに所有権を移転するといった趣旨の契約書は作成されなかったというのであるから、これをもって原告らの主張するように被告Y1が本件物件の共有持分を原告らに移転する旨約したと認めることはできない。
 以上のとおりであり、被告Y1が本件建物について区分所有者らの共有にする旨約したことを認めるに足りる証拠はないから、原告らの予備的請求はその理由がないことが明らかである。
 4 原告らは、主位的請求及び予備的請求の各2において物件目録(二)の各建物の明渡をも求めているが、以上の事実によれば、上各物件はいずれも被告Y1の所有に属することが明らかであるから、理由がないというべきである。
 5 よって、原告らの請求は、主位的請求の1のうち前示の限度において理由があるから認容すべきであるが、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法89条、92条、93条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 石垣君雄)


別紙1 物件目録(一)
一棟の建物の表示

所 在 東京都○区○○2丁目34番地2
構 造 鉄筋コンクリート造陸屋根地下4階付17階建
床面積 《略》
上一棟の建物のうち、下記専有部分の登記ある部分
1家屋番号 東京都○区○○2丁目34番2の27
種 類 事務所
構 造 鉄筋コンクリート造1階建
床面積 1階部分 27.21平方メートル
2家屋番号 東京都○区○○2丁目34番2の29
種 類 倉庫
構 造 鉄筋コンクリート造1階建
床面積 地下3階部分 71.13平方メートル
3家屋番号 東京都○区○○2丁目34番2の30
種 類 倉庫
構 造 鉄筋コンクリート造1階建
床面積 6階部分 21.78平方メートル
4家屋番号 東京都○区○○2丁目34番2の31
種 類 店舗
構 造 鉄筋コンクリート造1階建
床面積 地下2階部分 155.63平方メートル
5家屋番号 東京都○区○○2丁目34番2の32
種 類 駐車場
構 造 鉄筋コンクリート造1階建
床面積 地下3階部分 850.23平方メートル
6家屋番号 東京都○区○○2丁目34番2の104
種 類 店舗
構 造 鉄筋コンクリート造1階建
床面積 地下2階部分 122.94平方メートル
7家屋番号 東京都○区○○2丁目34番2の109
種 類 店舗
構 造 鉄筋コンクリート造2階建
床面積 地下3階部分 192.14平方メートル
    地下4階部分 153.10平方メートル
8家屋番号 東京都○区○○2丁目34番2の110
種 類 店舗
構 造 鉄筋コンクリート造地下1階付2階建
床面積 1階部分 324.77平方メートル
    2階部分 42.50平方メートル
    地下1階部分 97.58平方メートル
  物件目録(二)
1棟の建物の表示
物件目録(一)に同じ(現状は地上8階地下2階、下記図面<編注・次頁上上図>のとおり)
上のうち、下記部分
1 地下1階部分の倉庫1室
  10.08平方メートル
  (ただし、別紙図面@の朱線<同・太線>で囲んだ部分)
2 1階部分の
 ゲストルーム3室 48.00平方メートル
 管理室 25.64平方メートル
 器材室 26.68平方メートル
 茶 室 40.10 平方メートル
 (ただし、別紙図面Aの朱線<同太線>で囲んだ部分)
3 2階部分のゲストルーム5室
  76.10平方メートル
 (ただし、別紙図面Bの朱線<同太線>で囲んだ部分)
 別紙 1〜5《略》
   図面1・4〜5・7・9《略》





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